銀の鳥籠

善奈美

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銀の鳥籠Ⅰ ルイ&サクヤ編

152 当たり前だ

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「私達が契約するのは根源の精霊王ユグドラシルです」
 
 魔法大臣が小さく息を飲むのが分かった。
 
「代々、卵の魔法使いを務めていた一族が契約していたのが四大精霊王だと聞きました」
「そうだ。あの一族は最終的には身を滅ぼした」
「知っていたんですね」
「そうだな。ごく一部の魔法使いしか知らん。あれの屋敷を鍵付きの結界で囲ったのはな、後悔から命を絶ったのにも関わらず、入り込んだものを取り殺す。放っておけなかったからだ」
「あの人の出生についても?」
「正確な記録は失われたが、魔法大臣を務める者には直接口伝で伝えられていた」
 
 この、おっさんは知ってたんだな。だから、ルイを隔離したのか。
 
「そんな話を訊きたかったのか?」
「違いますよ。ユグドラシルが魔法使いの卵を作るのに条件を提示してきました」
「それはなんだ?」
「父が正確な精霊王の名を上げなかったのが、その条件のせいです。ユグドラシルは私とサクヤを求めてきました」
 
 魔法大臣の眉間に皺が寄った。
 
「条件は?」
「ユグドラシルの種を私とサクヤの身に宿すことが条件です」
「なに?!」
「つまり、私とサクヤの血筋がユグドラシルの種の守護を担うんです。もし、マナの樹に大事があったときのための保険でしょうね」
 
 魔法大臣が脱力したようにソファーの背凭れに体を預けた。右手を額に当て、天を仰ぎ見る。
 
「クレハが言葉を濁すはずだ……。研究機関のみならず、探究心の強い魔法使いの餌食になる」
「精霊王が私達にそれを求めたのは、卒業後、直ぐではないにしても、隔離された場所で生活するようになるためだと思います。種とはいえ、大きな力を持ってることは確かです。それに、私とサクヤは魔力だけは他の魔法使いに負けないほど強いですから」
 
 魔法大臣は身を起こすと、オレとルイを凝視した。
 
「なぜ、話す気になった?」
「黙っていることは確かに安全に繋がりますが、立場のある人物には伝えておいたほうがいいという判断です。マナは魔法使いにとって大切な力の源です。それを失えば、魔法使いはただの人と変わらない存在になります。それに精霊王としても、魔法使いが消えることを良しとは考えていません。生み出されるマナは消費されずにいると滞るのだと思います。精霊が存在するのに必要な力とはいえ、多すぎる力は歪みしか生みませんから」
 
 よく、こんなにスラスラ言えるよな。オレだったら、要領得ないまま終わりそうだよな。
 
「それと、もう一つ」
「なんだ?」
「私とサクヤが種を宿し、卵を作ることになるのは、流れで仕方ないと思います。ですが、種を宿していない魔法使いが卵を作ると、精霊達は怒ると思うんです」
 
 どう言うことだよ?
 
「そう言うことか」
「ええ。ただ、種の保管場所に指定されたのではないと思うんです。つまり、印を付けるつもりなんですよ。勝手ができないように」
 
 大きく息を吐き出した魔法大臣は、諦めたように苦笑いを浮かべる。
 
「また、無理を強いることになるんだな……」
「諦めていますから。今回のことは、使い魔が動いたようなものなので」
「使い魔?」
「サイヤの頭の上と、足元に二匹転がっているでしょう。あとは寮の部屋で休んでます」
 
 ルイの言い方が、かなりぞんざい。分からなくもないけどさ。
 
「言い出したのは使い魔だと?」
「そうです。そうじゃなきゃ、こんなことに首を突っ込んだりしませんよ」
 
 確かにそうだよな。
 
「ただ、これだけは言わせてもらいますが、これ以上の仕事は願い下げです。身が持ちませんので」
 
 きっぱり言い切ったルイに、魔法大臣は「当たり前だ」と、そう言ってくれた。
 
 
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