銀の鳥籠

善奈美

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銀の鳥籠Ⅰ ルイ&サクヤ編

112 命の価値

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「今に始まったことじゃないからな」
 
 どういうことだよ……?
 
「今回はたまたま、カエデだったが、俺が生死を彷徨ったこともある」
 
 ルイの顔を盗み見れば、完全に顔に色がなかった。そうだよな。たとえ、苦手意識があったとしてもさ、親に変わりはねぇんだし。
 
 オレはキッと二人を睨み付けた。
 
「その職業やめろ! 即刻やめろ!」
 
 オレの叫びに二人は固まる。ここは絶対に引かねぇからな!
 
「そういうわけにはいかないよ」
 
 カエデさんが慌て出す。
 
「その仕事に命かけてまで依存する必要があるのかよ!」
「依存?」
「依存だろう?! 狩人の一族だからって、必ずなる必要があったのかよ?!」
「いや、それは……」
 
 ないよな。それって刷り込みだよな。刷り込まれたまま、その歳まできたんじゃねぇの?!
 
「ルイのためを思うなら絶対に辞めろよ!」
 
 クレハさんとカエデさんが若干、へこんだように見えた。だいたいさ。命かけてまで捕獲しないといけないのかよ?!
 
「……一応、国家資格なんだが」
「それがなんだよ。血族三人で、もし何かあったらルイが一人になるってことだろう?! そこんとこ、よく考えてくれよな!」
 
 二人が息を呑むのが分かった。確かに、魔法省にルイは奪われてただろう。でもさ、これから、いくらだって関係を築いていけるんだ。それなのに、命を粗末にするような仕事をしてるなんて、ありえねぇだろう? 普通に生活してたって、危険はつきものなんだ。あえて危険に飛び込むようなまね、するんじゃねぇ!
 
「考えたこともなかったね」
「そうだな。失敗すれば、気を抜けば命がなくなるのが当たり前すぎて、気にもしなかった」
「だから、シロガネとクチバは辞めたんだね。命を粗末にしないために」
 
 シロガネさんとクチバさんも狩人だったのか?
 
「二人も同じだったのか?」
「そうだ。卵を渡されたあと、いくらもしないうちに、今の店を始めたんだ」
「だから、しつこかったんだね。さっさと魔法省なんか辞めてしまえって」
 
 シロガネさんとクチバさんは気が付いたんだな。命の大切さに。
 
「考えてみるよ。でも、絶対に辞めるとは言えない」
「そうだな。人手不足でもあるからな」
 
 二人の話で狩人は魔力の強い魔法使いじゃないと駄目なんだな。闇の魔法使いの魔力が強いから。
 
「ルイ?」
 
 全く口を開かないルイに改めて視線を向けた。真っ青な顔でキツく両手を握り締めていた。
 
「どうしたんだよ?」
 
 ルイの両肩を掴んで揺すってみた。やっと気が付いたようにルイがオレに焦点を合わせる。
 
「……サク……」
「怖いのか?」
 
 ルイは顔を歪めてオレに抱きついてきた。そう、それが普通だよな。今までのルイがおかしかったんだ。育ちきってなかった感情が、全てを鈍らせてたんだから。
 
「……怖いか、分からな……。グチャグチャで」
「それが怖いんだよ。どうなるかなんて、分からないんだから」
 
 喪って初めて気がつくことも多いんだ。でもさ、喪ってからじゃ、意味なんかないんだ。特にルイはきちんとした親子関係を築いてないんだからさ。
 
「頼むから、前向きに考えてくんね? 駄目だって言われたら、息子を奪っておいて勝手なことばっかり言うなって、言えばいいんだよ」
 
 ルイの幼少期の全てを縛って、命まで牛耳られてるなんて理不尽だろう。あいつはもういねぇし、闇の魔法使いも当分はおとなしくしてるはずだろう。だから、離れるなら今なんだ。
 
「分かった……」
 
 クレハさんが静かな声で、そう言った。
 
 
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