1 / 1
首長竜の子と猫
しおりを挟む
首長竜の子はお母さんに言われていました。
「地下と地上は水脈で繋がっているけれど、絶対に地上に行ってはいけないよ。地上には人間という恐ろしい種族が支配しているからね」
首長竜の子はそんなお母さんの言葉がよく分かりません。何故なら、首長竜の子の世界は地下に広がる原初の森だからです。その森には澄んだ大きな湖があり、森があり、多くの古代の生き物がのんびりと暮らしています。危険な赤い河や湖もあるけれど、近付かなければ問題ありません。
それは首長竜の子のちょっとした好奇心でした。お母さんの目を盗み、水脈を辿り、地上にある湖に行ってしまったのです。初めて見た青い空と白い雲。そよ吹く風。地上の湖は地下とは比べ物にならない程大きなものでした。
地下世界より大きな木々が湖を取り囲んでいます。首長竜の子は楽しくなりました。頭の上から降り注ぐ強い光は、首長竜の子には初めての経験です。水中を泳ぐ魚達も、地下世界の子達より大きくはないけれど、気持ち良さそうに泳いでいます。でもね、気を付けて。
「早く地下にお帰り。人間に捕まってしまうよ」
そう言ってきたのは、首長竜の子の隣を泳ぐ綺麗な銀の色の魚です。首長竜の子は首を傾げます。お母さんも言っていたけれど、人間とはそれ程大きくて、恐ろしい存在なのでしょうか。
「人間は君より小さいけれど、たくさんの道具を持っているんだ」
首長竜の子はそんな魚達の忠告も聞かず、スイスイと泳いで行ってしまいます。見るもの全てが新鮮です。楽しくなり、陸地に近付いた首長竜の子は小さな生き物に目を止めます。頭には三角の耳。全身を毛に覆われたしなやかには歩いている生き物です。
「君達は何?」
興味深々に首長竜の子は問い掛けます。いきなり声を掛けられ飛び上がったのは猫達です。声の方に顔を向けた猫達は驚きます。何故なら居てはならない首長竜がいるのですから。
「人間に見付かったら大変だよ」
「そうだよ」
猫達にまで同じことを言われた首長竜の子は首を傾げます。
「地上を見て見たかったんだ」
「人間は地下の世界を知らないんだ。見付かったらお母さんにも会えなくなるよ」
猫の言葉に首長竜の子は驚きます。お母さんにも会えなくなるなんて考えたこともなかったのです。
「だから、人間に見付かる前に地下に帰った方がいいよ」
魚も猫達も同じ事を言うのです。嘘は言っていないでしょう。でも、首長竜の子はもう少し遊びたいのです。それを察した猫達は首長竜の子の背中に飛び乗ります。
「湖の真ん中まで連れて行って」
猫達が背中に乗ってくれた事に首長竜の子は嬉しくなりました。猫達を背に乗せたまま湖の真ん中まで泳いで行きます。湖の中では魚達が首長竜の子に付き従うように泳いでいます。楽しい時間を過ごしていましたが、日が傾き始めていました。青空は茜色に染まっていたのです。
「あれほど地上に出てはいけないと注意していたのに悪い子ね」
聞き慣れた声に顔を向ければ、そこには首長竜のお母さんがいました。猫達は首長竜のお母さんの背に跳び移ると、一匹が頭によじ登ります。
「人間には見付かっていないから大丈夫だよ」
猫達は人間に見付からないように首長竜の子を湖の真ん中に誘ったのです。
「でも、もう地上に出て来てはいけないよ」
「今日は運が良かっただけだよ」
「お母さんの言う事は聞かないと」
猫達に次々と諭され首長竜の子はシュンとします。危険だとは感じなかったからです。
「この子達の言う通りよ。さあ、帰りましょう」
首長竜の子はどうしても納得できません。けれど、みんなの言うことが間違えているとも思っていません。
「もう、会えないの」
首長竜の子は猫達に問い掛けます。
「今日が特別で奇跡だったんだよ」
一匹の猫がそう言いました。そうすると、みんなが頷きます。首長竜の子はお母さんを見上げます。お母さんは小さく頷きました。首長竜の子は少し躊躇うと素直に頷きました。首長竜の子とお母さんは猫達を岸辺で下ろすとお礼を言います。首長竜の子は大きな宝物を胸に秘め、沢山の友達に見送られながら地下の世界帰って行きました。
終わり。
「地下と地上は水脈で繋がっているけれど、絶対に地上に行ってはいけないよ。地上には人間という恐ろしい種族が支配しているからね」
首長竜の子はそんなお母さんの言葉がよく分かりません。何故なら、首長竜の子の世界は地下に広がる原初の森だからです。その森には澄んだ大きな湖があり、森があり、多くの古代の生き物がのんびりと暮らしています。危険な赤い河や湖もあるけれど、近付かなければ問題ありません。
それは首長竜の子のちょっとした好奇心でした。お母さんの目を盗み、水脈を辿り、地上にある湖に行ってしまったのです。初めて見た青い空と白い雲。そよ吹く風。地上の湖は地下とは比べ物にならない程大きなものでした。
地下世界より大きな木々が湖を取り囲んでいます。首長竜の子は楽しくなりました。頭の上から降り注ぐ強い光は、首長竜の子には初めての経験です。水中を泳ぐ魚達も、地下世界の子達より大きくはないけれど、気持ち良さそうに泳いでいます。でもね、気を付けて。
「早く地下にお帰り。人間に捕まってしまうよ」
そう言ってきたのは、首長竜の子の隣を泳ぐ綺麗な銀の色の魚です。首長竜の子は首を傾げます。お母さんも言っていたけれど、人間とはそれ程大きくて、恐ろしい存在なのでしょうか。
「人間は君より小さいけれど、たくさんの道具を持っているんだ」
首長竜の子はそんな魚達の忠告も聞かず、スイスイと泳いで行ってしまいます。見るもの全てが新鮮です。楽しくなり、陸地に近付いた首長竜の子は小さな生き物に目を止めます。頭には三角の耳。全身を毛に覆われたしなやかには歩いている生き物です。
「君達は何?」
興味深々に首長竜の子は問い掛けます。いきなり声を掛けられ飛び上がったのは猫達です。声の方に顔を向けた猫達は驚きます。何故なら居てはならない首長竜がいるのですから。
「人間に見付かったら大変だよ」
「そうだよ」
猫達にまで同じことを言われた首長竜の子は首を傾げます。
「地上を見て見たかったんだ」
「人間は地下の世界を知らないんだ。見付かったらお母さんにも会えなくなるよ」
猫の言葉に首長竜の子は驚きます。お母さんにも会えなくなるなんて考えたこともなかったのです。
「だから、人間に見付かる前に地下に帰った方がいいよ」
魚も猫達も同じ事を言うのです。嘘は言っていないでしょう。でも、首長竜の子はもう少し遊びたいのです。それを察した猫達は首長竜の子の背中に飛び乗ります。
「湖の真ん中まで連れて行って」
猫達が背中に乗ってくれた事に首長竜の子は嬉しくなりました。猫達を背に乗せたまま湖の真ん中まで泳いで行きます。湖の中では魚達が首長竜の子に付き従うように泳いでいます。楽しい時間を過ごしていましたが、日が傾き始めていました。青空は茜色に染まっていたのです。
「あれほど地上に出てはいけないと注意していたのに悪い子ね」
聞き慣れた声に顔を向ければ、そこには首長竜のお母さんがいました。猫達は首長竜のお母さんの背に跳び移ると、一匹が頭によじ登ります。
「人間には見付かっていないから大丈夫だよ」
猫達は人間に見付からないように首長竜の子を湖の真ん中に誘ったのです。
「でも、もう地上に出て来てはいけないよ」
「今日は運が良かっただけだよ」
「お母さんの言う事は聞かないと」
猫達に次々と諭され首長竜の子はシュンとします。危険だとは感じなかったからです。
「この子達の言う通りよ。さあ、帰りましょう」
首長竜の子はどうしても納得できません。けれど、みんなの言うことが間違えているとも思っていません。
「もう、会えないの」
首長竜の子は猫達に問い掛けます。
「今日が特別で奇跡だったんだよ」
一匹の猫がそう言いました。そうすると、みんなが頷きます。首長竜の子はお母さんを見上げます。お母さんは小さく頷きました。首長竜の子は少し躊躇うと素直に頷きました。首長竜の子とお母さんは猫達を岸辺で下ろすとお礼を言います。首長竜の子は大きな宝物を胸に秘め、沢山の友達に見送られながら地下の世界帰って行きました。
終わり。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さな歌姫と大きな騎士さまのねがいごと
石河 翠
児童書・童話
むかしむかしとある国で、戦いに疲れた騎士がいました。政争に敗れた彼は王都を離れ、辺境のとりでを守っています。そこで彼は、心優しい小さな歌姫に出会いました。
歌姫は彼の心を癒し、生きる意味を教えてくれました。彼らはお互いをかけがえのないものとしてみなすようになります。ところがある日、隣の国が攻めこんできたという知らせが届くのです。
大切な歌姫が傷つくことを恐れ、歌姫に急ぎ逃げるように告げる騎士。実は高貴な身分である彼は、ともに逃げることも叶わず、そのまま戦場へ向かいます。一方で、彼のことを諦められない歌姫は騎士の後を追いかけます。しかし、すでに騎士は敵に囲まれ、絶対絶命の危機に陥っていました。
愛するひとを傷つけさせたりはしない。騎士を救うべく、歌姫は命を賭けてある決断を下すのです。戦場に美しい花があふれたそのとき、騎士が目にしたものとは……。
恋した騎士にすべてを捧げた小さな歌姫と、彼女のことを最後まで待ちつづけた不器用な騎士の物語。
扉絵は、あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
25匹の魚と猫と
ねこ沢ふたよ
児童書・童話
コメディです。
短編です。
暴虐無人の猫に一泡吹かせようと、水槽のメダカとグッピーが考えます。
何も考えずに笑って下さい
※クラムボンは笑いません
25周年おめでとうございます。
Copyright©︎
ハロウィーンは嫌い?
青空一夏
児童書・童話
陽葵はハロウィーンの衣装をママに作ってもらったけれど、芽依ちゃんのようなお姫様じゃないじゃないことにがっかりしていた。一緒にお姫様の衣装にしようと約束していた芽依ちゃんにも変な服と笑われて‥‥でも大好きな海翔君の言葉で一変した。
緑色の友達
石河 翠
児童書・童話
むかしむかしあるところに、大きな森に囲まれた小さな村がありました。そこに住む女の子ララは、祭りの前日に不思議な男の子に出会います。ところが男の子にはある秘密があったのです……。
こちらは小説家になろうにも投稿しております。
表紙は、貴様 二太郎様に描いて頂きました。
青色のマグカップ
紅夢
児童書・童話
毎月の第一日曜日に開かれる蚤の市――“カーブーツセール”を練り歩くのが趣味の『私』は毎月必ずマグカップだけを見て歩く老人と知り合う。
彼はある思い出のマグカップを探していると話すが……
薄れていく“思い出”という宝物のお話。
魔女は小鳥を慈しむ
石河 翠
児童書・童話
母親に「あなたのことが大好きだよ」と言ってもらいたい少女は、森の魔女を訪ねます。
本当の気持ちを知るために、魔法をかけて欲しいと願ったからです。
当たり前の普通の幸せが欲しかったのなら、魔法なんて使うべきではなかったのに。
こちらの作品は、小説家になろうとエブリスタにも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる