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門の守護者
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この世界は一本の大樹に支えられている。その大樹を中心に世界が構築され、ありとあらゆる物が、その大樹に依存している。天は神々の住む場所であり、地は死者の国である。その間に挟まれた中つ国に人々は住み、日々の生活を送っている。
その周りには大いなる水を湛え、一匹の大蛇が大樹を中心に輪を作り、自身の尾を咥えている。それぞれの世界は繋がっているが、容易に行き来出来るものではない。
天と中つ国には虹の橋が掛かるが、この橋は普通の者ではまず渡れない。何も考えず渡ろうものなら、その体は真っ逆さまに落下するだろう。そうして、愚かしい行いをした者は死者の国に囚われる。
中つ国と地の間にも道はあるが、天の道とは違い容易に人々が通り抜ける事が出来た。それを防ぐために一つの門が設置されている。この門は何時も現れているという訳ではない。太陽の陽が最も短い時に突如現れるのだ。
当然、中つ国の人間達は近付く事はない。何故なら有りとあらゆる死者の国からの招かれざる客が門を狙って通り抜けようと集まってくるからだ。それに、その門を使うのは生身の者だけであり、肉の衣を脱ぎ捨てた者は見えない門を潜る事が出来るからだ。
「ひと時の休息だな」
『ふざけた事を。一日の苦労だけだろう』
緑溢れる門の前に二つの影が見える。一つは赤褐色の鎧をまとった戦士だ。そして、もう一つは戦士の足元に悠々と横たわる大きな獣が一匹。
「一日とは言うが、その一日で溢れ出た魔物をこの場所に閉じ込め全ての息の根を止めるんだぞ」
『お前一人では無理だろうな』
馬鹿にしたような言葉を投げかけられた戦士だが、全く気にしてはいないようだ。つまり、一人と一匹の何時もの戯言なのだろう。
『女神も何時まで我々にこの門を護らせるつもりだ』
「知るかよ。何せ、俺とお前が初めてこの門を潜ったから選ばれただけだしな」
この一人と一匹はこの世界が構築され、ありとあらゆる理が決められた後、初めてこの世界で死んだ魂なのである。つまり、元は敵同士だったのだ。片や村を守っていた男。片やその村を襲おうとした獣。互いに死闘を繰り広げ、同時に命を落とした。それを何の因果が、出来たばかりの門の門番に天の女神から指名され今日に至っている。幾つもの時が過ぎ、一人と一匹に課せられた、死者の国からの溢れ出る魔物の討伐。
それもたった一日門が出現するために、地の国から這い上がって来る。そう、そのたった一日が一人と一匹がほぼ一年をかけて戦う相手なのだ。命を失うような怪我をしても、決して死ぬことはない。戦士は女神から授かった剣を振るい、獣は戦闘時、体内の力を放出するために体毛が赤味を帯びた金色に変化する。変化することで闇の者を滅する事が出来るのだ。それが女神が獣に与えた力だった。
「この世界の理を根本から変えないと無理だろう」
戦士はそう言うと体を伸ばした。門の奥に見えるのは綺麗な水を湛えた泉だ。太陽の光を反射している。三つの泉に囲まれたこの場所は決して誰も入り込めない。一日門が開く日以外は。
『今回は少し早めに片がついた。次はこうはいかないだろう。休める時に休むんだな』
「はいはい。分かってるけど。目の前にこう、グロテスクなものが転がっていたら無理だろう? 違うか?」
獣は戦士が視線を向ける先に視線を軽く向ける。確かにそこには赤黒い肉の塊が山のように積み上がっている。
『視界に入れなきゃいい事だ』
「確かにな」
門に視線を向ければ清々しい景色が広がっている。だが、背後には戦いの名残が凄惨に広がっているのだ。
『貴重な休息だ。無駄にするな』
獣の一言に戦士は肩を竦め、剣を腰の剣帯から外し腰を下ろした。その剣を柔らかな草の上に置き、獣同様横になる。
『明日は一日の陽が一番短い。また、門が開く』
「分かってるって」
『ふん。ならば、体を休める事だ』
獣はそう言うと目を閉じる。それを見届けた戦士もまた、目を閉じた。
終わり。
その周りには大いなる水を湛え、一匹の大蛇が大樹を中心に輪を作り、自身の尾を咥えている。それぞれの世界は繋がっているが、容易に行き来出来るものではない。
天と中つ国には虹の橋が掛かるが、この橋は普通の者ではまず渡れない。何も考えず渡ろうものなら、その体は真っ逆さまに落下するだろう。そうして、愚かしい行いをした者は死者の国に囚われる。
中つ国と地の間にも道はあるが、天の道とは違い容易に人々が通り抜ける事が出来た。それを防ぐために一つの門が設置されている。この門は何時も現れているという訳ではない。太陽の陽が最も短い時に突如現れるのだ。
当然、中つ国の人間達は近付く事はない。何故なら有りとあらゆる死者の国からの招かれざる客が門を狙って通り抜けようと集まってくるからだ。それに、その門を使うのは生身の者だけであり、肉の衣を脱ぎ捨てた者は見えない門を潜る事が出来るからだ。
「ひと時の休息だな」
『ふざけた事を。一日の苦労だけだろう』
緑溢れる門の前に二つの影が見える。一つは赤褐色の鎧をまとった戦士だ。そして、もう一つは戦士の足元に悠々と横たわる大きな獣が一匹。
「一日とは言うが、その一日で溢れ出た魔物をこの場所に閉じ込め全ての息の根を止めるんだぞ」
『お前一人では無理だろうな』
馬鹿にしたような言葉を投げかけられた戦士だが、全く気にしてはいないようだ。つまり、一人と一匹の何時もの戯言なのだろう。
『女神も何時まで我々にこの門を護らせるつもりだ』
「知るかよ。何せ、俺とお前が初めてこの門を潜ったから選ばれただけだしな」
この一人と一匹はこの世界が構築され、ありとあらゆる理が決められた後、初めてこの世界で死んだ魂なのである。つまり、元は敵同士だったのだ。片や村を守っていた男。片やその村を襲おうとした獣。互いに死闘を繰り広げ、同時に命を落とした。それを何の因果が、出来たばかりの門の門番に天の女神から指名され今日に至っている。幾つもの時が過ぎ、一人と一匹に課せられた、死者の国からの溢れ出る魔物の討伐。
それもたった一日門が出現するために、地の国から這い上がって来る。そう、そのたった一日が一人と一匹がほぼ一年をかけて戦う相手なのだ。命を失うような怪我をしても、決して死ぬことはない。戦士は女神から授かった剣を振るい、獣は戦闘時、体内の力を放出するために体毛が赤味を帯びた金色に変化する。変化することで闇の者を滅する事が出来るのだ。それが女神が獣に与えた力だった。
「この世界の理を根本から変えないと無理だろう」
戦士はそう言うと体を伸ばした。門の奥に見えるのは綺麗な水を湛えた泉だ。太陽の光を反射している。三つの泉に囲まれたこの場所は決して誰も入り込めない。一日門が開く日以外は。
『今回は少し早めに片がついた。次はこうはいかないだろう。休める時に休むんだな』
「はいはい。分かってるけど。目の前にこう、グロテスクなものが転がっていたら無理だろう? 違うか?」
獣は戦士が視線を向ける先に視線を軽く向ける。確かにそこには赤黒い肉の塊が山のように積み上がっている。
『視界に入れなきゃいい事だ』
「確かにな」
門に視線を向ければ清々しい景色が広がっている。だが、背後には戦いの名残が凄惨に広がっているのだ。
『貴重な休息だ。無駄にするな』
獣の一言に戦士は肩を竦め、剣を腰の剣帯から外し腰を下ろした。その剣を柔らかな草の上に置き、獣同様横になる。
『明日は一日の陽が一番短い。また、門が開く』
「分かってるって」
『ふん。ならば、体を休める事だ』
獣はそう言うと目を閉じる。それを見届けた戦士もまた、目を閉じた。
終わり。
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