置き去りの恋

善奈美

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12 腐海の森(貴羅視点)

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 最近気が付いたことなんだけどね。店の中がやけに腐ってるんだよね。俺の店って、基本的に食事しか提供してないの。それなのに、如何見ても女子高生が増えてんだよね。それも、同じ制服。それと同じくらい、暁と同じ制服を着た男子高生。
 
「高校生にウケる食べ物なんてあるのか? 確かに美味いけど」
「俺的には流行る要素は考えられないね。暁がパティシエになって、この店を手伝ってくれるなら、それもありかもしれないけど」
 
 紫綺が言ってることは間違えてないよね。其処へもう数人来店。何故か真っ直ぐこちらに向かってくる、誰かに似た顔立ち。あれ? 見たことある? ような気がする?
 
「弟がお世話になってます。貴羅さん?」
 
 弟……。あっ!
 
「響也のお姉さん?」
「空音です。それでですね。もう、何時、響也喰べてくれます?」
 
 えっと……。この子は何が言いたいんだ?
 
「腐女子会、腐男子会のメンバーで、あれはまだだってことになりまして、私が代表で訊くことに決まりまして」
 
 隣の女子校にもあったんだね。腐ったクラブ。俺の時代からあったから、まあ、消えてはいないと思ってたけどね。
 
「それとですね。ついでなので。紫綺さんでお間違えないですか?」
 
 紫綺も吃驚して頷いてるね。
 
「春名君を何時、完食してくれます? 中途半端とか萌えが少ないので」
 
 はっきり言うね。これが家庭内でも通常なら、響也が嫌がるわ。どうりで、普通に拘ってたわけだ。
 
「貴羅。この子達って何者だ?」
「響也的な表現だと、腐った奴等。多分、最近、来店してくる高校生はこの部類に分類されるんだろうね」
 
 なるほどね。俺の料理ではなくて、男同士の恋愛話のネタにされてたんだね。まあ、俺は高校生の時にも、そっちのネタにされてたっぽいんだけどね。
 
「その情報はどこから仕入れたの?」
 
 あくまで穏やかに訊いて、目は鋭く。相変わらず、俺って器用だよね。
 
「それは企業秘密です」
 
 お? 俺の目だけの睨みに屈しないとは。中々の心臓をお持ちで。流石、響也の姉だな。それに、勘付いてるね。俺の本性。で、周りに仲間がいるし、下手に手を出してこないことも計算済みみたいだね。侮れない。
 
「でも、情報元が響也と雪兎じゃないのははっきり言えますよ」
 
 昔と同じなら、かなりのネットワーク網がある筈だわ。俺の時代の奴等とも繋がってる可能性があるよね。
 
「俺、大人しくないよ」
 
 含みをもたせて言ってみた。
 
「過去の逸話ですよね。知ってますよ。でも、今は義務を課せられた社会人で、猫被ってる以上、そういう意味では手を出せませんよね?」
 
 脱帽だわ。響也も頭がいいけど、この子もかなりのもんだわ。下手に突かないに限るね。
 
「その内、美味しく頂くから、心配しないでくれる?」
「そんなことは知ってます。手放す気なんて更々ないでしょう? あの子はお買い得だから」
 
 腕を組んで仁王立ち。俺、女性の認識、少し変えたほうがいい気がしてきた。この子限定ぽいけど。
 
「見た目はまあ、普通の上だけど、あの独特の雰囲気だけで、学校内で人気なんだから。私とお母さんのせいで、男子校に行ったにもかかわらず、逃げてた響也を捕まえたんだから、最後まで致してくれないと、本当に困るんです!」
 
 ……別の意味で凄い迫力。紫綺が目を見開いて、何も言えない顔してるし。
 
「……善処するよ」
「そうしてください! で、フルーツのサンドイッチとコーヒーで!」
 
 ……唯一、俺がまともに作れる、スイーツっぽいものを頼んだね。きっと、響也に聞いたんだね。あの子が義姉か……。微妙だね。
 
「今の女子高生って、ああなのか?」
「彼処の女子校、学力がないと入れないから。頭はいいと思うよ」
 
 まあ、オーダー受けたし、作りますかね。早く暁がパティシエになってくれないかな? 真剣にそう思うよ。だって、あの子達が頼むの、フルーツのサンドイッチだけだもんね。
 
 
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