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暁×雪兎編
10 躊躇い(雪兎視点)
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僕は貴羅さんのお店の前に立ってた。でも、なかなか、入る切っ掛けを掴めない。何だろう。店から拒絶されてるように感じたんだ。
でも、アカがいなくなるのは嫌だし、関わりを絶たれるのも絶対嫌! やっと、側に居られるようになったのに、その場所を失うのは耐えられないから。
そっと、扉に手を掛けて、開けたんだ。閉まってるかな? とか、お店やってるのかな? そう思ったんだけど、お店は静かで、でも、扉はカギが掛かってなかった。微かに聞こえてくるのは話し声。
「……そう。頼みたいことがあるんだよね。……、そんなとこかな。暮らし始めて、今までなかったしね。……、わかってはいるんだけどね。原因は俺だって自覚はあるんだよ」
声は貴羅さん。誰かと話しているのは分かるけど、相手の声が聞こえないから、電話を掛けてるんだってわかる。
電話を終えた貴羅さんが僕に気が付いて、少し目を見開いた。アカとよく似た容姿をしてるって、改めて、思ったんだ。
「どうかしたの? 今日は帰ってって……」
僕は首を横へ振ったんだ。キョウから聞いた話もだけど、春名君から聞いた話で、はっきりわかったんだ。このまま、ちゃんと話さないで帰っちゃったら、アカは僕の隣からいなくなる。
「雪兎君?」
「言いたいことはわかってます。でも、嫌なの。過去がアカを奪っていくなんて、絶対、認めたくないの」
近付いて来た貴羅さんは驚いたように僕を見下ろしたんだ。僕、結構身長あるのに、貴羅さんは更に身長があるんだって、そんなことを思った。
「だから、アカに会わせてください」
貴羅さんをしっかり見詰めて僕は言った。浮ついた気持ちなんかじゃないって、分かってもらいたかったから。貴羅さんは小さく溜め息をついたんだ。仕方ないって感じで。
「俺は良いんだけどね。問題は暁だよ。あの子、結構頑固でね。こうと決めたら、曲げないんだよ」
うん。僕もそれは知ってる。結構、頑固なんだ。でもさ、それに屈しちゃったら、それまででしょう?
「君も結構、頑固っぽいよね。普段はホワホワしてそうだけど」
何気に見破られてる!
「あ、暁が言ってたんだよ。自分も頑固なくせしてね」
貴羅さんは少し考える仕草をしてたんだ。
「俺、これから出掛けるから。暁の部屋は分かってるよね。それに、暁は友達だって俺に言ってたけど、違うよね。響也君は友達って感じだけど」
そこで何故か笑い出したんだ。僕、おかしなことは言ってない、と思う。困惑してると、違うから、と言われたんだ。更に分からないし。
「彼、面白いよね。うん、気に入ったよ」
何だろう。背中がゾワッてした。貴羅さんの瞳が、怪しく光った気がした。僕、キョウ程、察しがいいわけじゃないんだけど、なんか、危険な感じがする。僕がじゃなくて、キョウが!
「じゃあ、出掛けるからね」
ヒラヒラ手を振ってるんだけど、僕はあることに気が付いたんだ。
「お店はどうするんですか?」
僕の叫びに、何言ってるんだって、顔して振り返ったんだ。
「今日はお休みなんですか?」
僕が言っていることが分かったのか、小さく頷いたんだ。
「今日は臨時休業なんだ。暁の友達に会いたかったからね」
それだけのために、店をお休みしちゃったの?
「うーん、罪滅ぼし? 俺的にはね。鍵は閉めて行くから、安心してよ」
そう言いながら、貴羅さんは出て行ったんだ。僕は見送ることしか出来なかった。そして、階段を下から見上げる場所に移動したんだ。僕が決めたんだから、絶対、離れないって。
ゆっくり階段を上がって、部屋の前に立った。小さく息を吐き出して、扉をノックするために、右手を上げた。
でも、アカがいなくなるのは嫌だし、関わりを絶たれるのも絶対嫌! やっと、側に居られるようになったのに、その場所を失うのは耐えられないから。
そっと、扉に手を掛けて、開けたんだ。閉まってるかな? とか、お店やってるのかな? そう思ったんだけど、お店は静かで、でも、扉はカギが掛かってなかった。微かに聞こえてくるのは話し声。
「……そう。頼みたいことがあるんだよね。……、そんなとこかな。暮らし始めて、今までなかったしね。……、わかってはいるんだけどね。原因は俺だって自覚はあるんだよ」
声は貴羅さん。誰かと話しているのは分かるけど、相手の声が聞こえないから、電話を掛けてるんだってわかる。
電話を終えた貴羅さんが僕に気が付いて、少し目を見開いた。アカとよく似た容姿をしてるって、改めて、思ったんだ。
「どうかしたの? 今日は帰ってって……」
僕は首を横へ振ったんだ。キョウから聞いた話もだけど、春名君から聞いた話で、はっきりわかったんだ。このまま、ちゃんと話さないで帰っちゃったら、アカは僕の隣からいなくなる。
「雪兎君?」
「言いたいことはわかってます。でも、嫌なの。過去がアカを奪っていくなんて、絶対、認めたくないの」
近付いて来た貴羅さんは驚いたように僕を見下ろしたんだ。僕、結構身長あるのに、貴羅さんは更に身長があるんだって、そんなことを思った。
「だから、アカに会わせてください」
貴羅さんをしっかり見詰めて僕は言った。浮ついた気持ちなんかじゃないって、分かってもらいたかったから。貴羅さんは小さく溜め息をついたんだ。仕方ないって感じで。
「俺は良いんだけどね。問題は暁だよ。あの子、結構頑固でね。こうと決めたら、曲げないんだよ」
うん。僕もそれは知ってる。結構、頑固なんだ。でもさ、それに屈しちゃったら、それまででしょう?
「君も結構、頑固っぽいよね。普段はホワホワしてそうだけど」
何気に見破られてる!
「あ、暁が言ってたんだよ。自分も頑固なくせしてね」
貴羅さんは少し考える仕草をしてたんだ。
「俺、これから出掛けるから。暁の部屋は分かってるよね。それに、暁は友達だって俺に言ってたけど、違うよね。響也君は友達って感じだけど」
そこで何故か笑い出したんだ。僕、おかしなことは言ってない、と思う。困惑してると、違うから、と言われたんだ。更に分からないし。
「彼、面白いよね。うん、気に入ったよ」
何だろう。背中がゾワッてした。貴羅さんの瞳が、怪しく光った気がした。僕、キョウ程、察しがいいわけじゃないんだけど、なんか、危険な感じがする。僕がじゃなくて、キョウが!
「じゃあ、出掛けるからね」
ヒラヒラ手を振ってるんだけど、僕はあることに気が付いたんだ。
「お店はどうするんですか?」
僕の叫びに、何言ってるんだって、顔して振り返ったんだ。
「今日はお休みなんですか?」
僕が言っていることが分かったのか、小さく頷いたんだ。
「今日は臨時休業なんだ。暁の友達に会いたかったからね」
それだけのために、店をお休みしちゃったの?
「うーん、罪滅ぼし? 俺的にはね。鍵は閉めて行くから、安心してよ」
そう言いながら、貴羅さんは出て行ったんだ。僕は見送ることしか出来なかった。そして、階段を下から見上げる場所に移動したんだ。僕が決めたんだから、絶対、離れないって。
ゆっくり階段を上がって、部屋の前に立った。小さく息を吐き出して、扉をノックするために、右手を上げた。
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