1 / 114
暁×雪兎編
01 置き去りの恋■(雪兎視点)
しおりを挟む
『恋人さんが戻ってくるまでで良いので、付き合って下さい』
確かにそう言ったのは僕だった。
僕が好きになったのは同性の同級生で、その彼の恋人は、何故か、平気で浮気してて、別れる度に彼の元に戻ってくる。
その恋人が僕と同じクラスで、嫌でも状況がわかってしまう。
僕が告白したのはバレンタインデーの前。そして、彼の本命が彼の元に戻ってきたのはホワイトデーの前。
約束は恋人が戻るまで。
だから、僕は彼の前から消えたんだ。同じ学校だし、限界はあるけど、授業が終わったら教室から抜け出して、授業が始まる前に戻って来て、その繰り返し。
告白前には見ることができた姿も見れなくなって、少し後悔してるんだ。
男子校だから、当然、男ばっかりで、でも、こういった行事にはみんな敏感。本当だったら僕も……。
「お前さ、こんなとこで弁当食ってたら、風邪引くんじゃね」
いきなり、背後からかけられた声にビクつく。ゆっくり顔を向けると、そこに居たのは幼馴染みの響也。確かに、裏庭の影になる場所にあるベンチで、三月だと寒いけど。
「……大丈夫だし」
「うんなわけあるか。鼻真っ赤になってるだろうが」
言われなくてもわかってるけど、教室にはいられないから、仕方ないじゃないか。
「あれか、彼奴が戻ったからか」
キョウの言葉に言い返す気力もない。
「……そういう約束だったし、迷惑かけたくなかったし」
「で、お前は風邪を引くつもりだったと」
違うと、言いたかったが、くしゃみが出てしまっては、説得力もない。
「本人に確認したのかよ」
「する必要はないよ。僕が言い出したことだし……」
自分で言ったのに、ツキりと胸に痛みが走った。
「お袋さんは?」
「父さんのところ」
「だったらさ、尚更、風邪引くような行動は控えるべきじゃねぇの」
言ってることが正論すぎて、反論出来ない。キョウのくせに。キッと睨みつけたら、苦笑いされた。
「もう、面倒だからさ、此奴なんとかしてくれないか」
キョウがいきなり振り返り、誰かに声掛けてた。僕は首を捻る。
「お前もな、諦めいいっていうか、少しはズルくなれよな」
キョウは僕の頭をひと撫でして、離れて行ったんだけど、キョウが居なくなって初めて気が付いた。そこに居たのは、僕がずっと避け続けていた人。
少し困ったように眉尻が下がっている。
「案内したんだから、分かってるだろうな」
「分かってるよ」
僕は体が固まった。寒いからとかじゃなくて。ゆっくりと近付いてくる姿に、逃げなきゃいけないのに。
「……返事、してないよね」
僕は首を強く横に振った。答えなんて聞く必要はないから。分かってるから。事実は変わらない。
「誤解……、してるんじゃないかと思って」
誤解、の言葉に困惑した。
「忍はね。俺をダシにして相手の気持ちを確認しているだけなんだよ。昔からで、否定するのも面倒だったし、俺に特定の相手もいなかったしね」
言っている意味がわからなくて、別の意味で固まった。
「キョウの幼馴染みだって知ってたから、それとなく、訊いておいたんだ」
僕はポカンと間抜けな顔をしていると思う。だってさ、言ってることが理解出来ないんだ。
「はい」
そう言って渡されたのは、少し大きめの紙袋。咄嗟に受け取って、ちょっと中身に視線を向けた。
「何味が好きなのかわからなかったから、手当たり次第に作ってみたんだけど」
紙袋の中は、たくさんのクッキー。手作りと聞いて更に驚いた。
「バレンタインデーのお返し」
お返し、の言葉に吃驚した。お返しと言うにはすごい量。作ったっていうけど、普通に違和感のないクッキー。マジマジと困った顔を凝視しちゃってる。
「俺の趣味なんだ。お菓子作るの。将来そっちの道に進みたいしね」
サラリとすごいこと言った。
「ユキ君は俺に作ったお弁当、キョウに渡しちゃったんだよね」
あの日、と言われ俯いた。うん、僕、キョウに渡した。だってさ、滑稽だと思って。キョウなら、前まで作ってあげてたし、違和感なかったし。
あ、恋人とかじゃなくて、僕のお弁当、勝手に食べちゃうからだ。クラス違うのに、なんでかお弁当強奪が楽しかったみたいで。
「僕、約束してたし。ウザいって思われたくなかったし」
「うん。キョウも言ってたから。絶対、離れてくぞって」
キョウのくせに、何言ってるんだよ。
「学年トップなのにね」
からかうように言われ、黙り込むしかない。勉強の頭がいいからって、何でも出来るとか思うのは、おかしいって思う。それが表情に出ていたみたいで、思いっきり苦笑いされた。別の意味で面白くない。キョウだったら、蹴ってやるのに!
「暁君だって、何時も……」
そこまで言って、噤んでしまう。うん、僕がトップだから、彼は何時も二位だ。
「何時も負けちゃうよね」
なんとも穏やかに言ってくるから、いたたまれなくなって更に俯く。
「でも、手放す気はないから、覚悟して」
言われたことがわからなくて、弾かれたように顔を上げて、彼を凝視しちゃった。視線が反らせない!
「今日、忍にははっきり言ったよ。面倒だから自分の尻拭いは自分でやってって」
面倒なのは嫌いなんだよね、って爽やかに言い切った!
「それで、何処に行ってやろうか」
やるってなに?!
僕がワタワタしているのを、楽しそうに笑って見てる。もしかして、僕、罠に嵌ったの?
■おまけ■(響也視点)
「アカは俺のだったのに」
ボヤいてるのはアカの幼馴染みの忍だ。で、何で、俺の隣で二人を覗いてるのかね。ま、俺は心配だったからなんだけど。
「いい加減、アカ離れしたら」
キッと、俺を睨んできたんだけどさ、見た目ワンコじゃ、全く凄みないから。
「お前に何がわかるの!」
「わっかんねぇけど、彼奴、面倒臭がりだろう。お前、マジ、面倒だし」
事実をスパッと言ってやったら、口噤みやがった。
「……やっぱり、面倒に見えるか」
「アカの気を引きたかったんだろうけど、逆効果。まあ、スッパリ諦めるんだな」
俺には関係ないしな。言うのはタダだし。
「じゃあ、お前、責任とれ!」
「はあ!? なんだよそれ!」
「お前の幼馴染みだろう! だからだ!」
右手の人差し指を人に突きつけるな。親に教わらなかったのかよ。
「俺、莫迦は嫌いだから」
「俺が莫迦だっていうのかよ!」
「おう、万年ドンベ」
アカは学年二位なのに、何でかね。ちなみに俺はあの二人ほどじゃないけど、十番以内だ。
「……」
お、黙ったぞ。
「その口、絶対、黙らせてやる!」
捨て台詞を吐いて、走って行きやがった。ま、関係ないしな。
確かにそう言ったのは僕だった。
僕が好きになったのは同性の同級生で、その彼の恋人は、何故か、平気で浮気してて、別れる度に彼の元に戻ってくる。
その恋人が僕と同じクラスで、嫌でも状況がわかってしまう。
僕が告白したのはバレンタインデーの前。そして、彼の本命が彼の元に戻ってきたのはホワイトデーの前。
約束は恋人が戻るまで。
だから、僕は彼の前から消えたんだ。同じ学校だし、限界はあるけど、授業が終わったら教室から抜け出して、授業が始まる前に戻って来て、その繰り返し。
告白前には見ることができた姿も見れなくなって、少し後悔してるんだ。
男子校だから、当然、男ばっかりで、でも、こういった行事にはみんな敏感。本当だったら僕も……。
「お前さ、こんなとこで弁当食ってたら、風邪引くんじゃね」
いきなり、背後からかけられた声にビクつく。ゆっくり顔を向けると、そこに居たのは幼馴染みの響也。確かに、裏庭の影になる場所にあるベンチで、三月だと寒いけど。
「……大丈夫だし」
「うんなわけあるか。鼻真っ赤になってるだろうが」
言われなくてもわかってるけど、教室にはいられないから、仕方ないじゃないか。
「あれか、彼奴が戻ったからか」
キョウの言葉に言い返す気力もない。
「……そういう約束だったし、迷惑かけたくなかったし」
「で、お前は風邪を引くつもりだったと」
違うと、言いたかったが、くしゃみが出てしまっては、説得力もない。
「本人に確認したのかよ」
「する必要はないよ。僕が言い出したことだし……」
自分で言ったのに、ツキりと胸に痛みが走った。
「お袋さんは?」
「父さんのところ」
「だったらさ、尚更、風邪引くような行動は控えるべきじゃねぇの」
言ってることが正論すぎて、反論出来ない。キョウのくせに。キッと睨みつけたら、苦笑いされた。
「もう、面倒だからさ、此奴なんとかしてくれないか」
キョウがいきなり振り返り、誰かに声掛けてた。僕は首を捻る。
「お前もな、諦めいいっていうか、少しはズルくなれよな」
キョウは僕の頭をひと撫でして、離れて行ったんだけど、キョウが居なくなって初めて気が付いた。そこに居たのは、僕がずっと避け続けていた人。
少し困ったように眉尻が下がっている。
「案内したんだから、分かってるだろうな」
「分かってるよ」
僕は体が固まった。寒いからとかじゃなくて。ゆっくりと近付いてくる姿に、逃げなきゃいけないのに。
「……返事、してないよね」
僕は首を強く横に振った。答えなんて聞く必要はないから。分かってるから。事実は変わらない。
「誤解……、してるんじゃないかと思って」
誤解、の言葉に困惑した。
「忍はね。俺をダシにして相手の気持ちを確認しているだけなんだよ。昔からで、否定するのも面倒だったし、俺に特定の相手もいなかったしね」
言っている意味がわからなくて、別の意味で固まった。
「キョウの幼馴染みだって知ってたから、それとなく、訊いておいたんだ」
僕はポカンと間抜けな顔をしていると思う。だってさ、言ってることが理解出来ないんだ。
「はい」
そう言って渡されたのは、少し大きめの紙袋。咄嗟に受け取って、ちょっと中身に視線を向けた。
「何味が好きなのかわからなかったから、手当たり次第に作ってみたんだけど」
紙袋の中は、たくさんのクッキー。手作りと聞いて更に驚いた。
「バレンタインデーのお返し」
お返し、の言葉に吃驚した。お返しと言うにはすごい量。作ったっていうけど、普通に違和感のないクッキー。マジマジと困った顔を凝視しちゃってる。
「俺の趣味なんだ。お菓子作るの。将来そっちの道に進みたいしね」
サラリとすごいこと言った。
「ユキ君は俺に作ったお弁当、キョウに渡しちゃったんだよね」
あの日、と言われ俯いた。うん、僕、キョウに渡した。だってさ、滑稽だと思って。キョウなら、前まで作ってあげてたし、違和感なかったし。
あ、恋人とかじゃなくて、僕のお弁当、勝手に食べちゃうからだ。クラス違うのに、なんでかお弁当強奪が楽しかったみたいで。
「僕、約束してたし。ウザいって思われたくなかったし」
「うん。キョウも言ってたから。絶対、離れてくぞって」
キョウのくせに、何言ってるんだよ。
「学年トップなのにね」
からかうように言われ、黙り込むしかない。勉強の頭がいいからって、何でも出来るとか思うのは、おかしいって思う。それが表情に出ていたみたいで、思いっきり苦笑いされた。別の意味で面白くない。キョウだったら、蹴ってやるのに!
「暁君だって、何時も……」
そこまで言って、噤んでしまう。うん、僕がトップだから、彼は何時も二位だ。
「何時も負けちゃうよね」
なんとも穏やかに言ってくるから、いたたまれなくなって更に俯く。
「でも、手放す気はないから、覚悟して」
言われたことがわからなくて、弾かれたように顔を上げて、彼を凝視しちゃった。視線が反らせない!
「今日、忍にははっきり言ったよ。面倒だから自分の尻拭いは自分でやってって」
面倒なのは嫌いなんだよね、って爽やかに言い切った!
「それで、何処に行ってやろうか」
やるってなに?!
僕がワタワタしているのを、楽しそうに笑って見てる。もしかして、僕、罠に嵌ったの?
■おまけ■(響也視点)
「アカは俺のだったのに」
ボヤいてるのはアカの幼馴染みの忍だ。で、何で、俺の隣で二人を覗いてるのかね。ま、俺は心配だったからなんだけど。
「いい加減、アカ離れしたら」
キッと、俺を睨んできたんだけどさ、見た目ワンコじゃ、全く凄みないから。
「お前に何がわかるの!」
「わっかんねぇけど、彼奴、面倒臭がりだろう。お前、マジ、面倒だし」
事実をスパッと言ってやったら、口噤みやがった。
「……やっぱり、面倒に見えるか」
「アカの気を引きたかったんだろうけど、逆効果。まあ、スッパリ諦めるんだな」
俺には関係ないしな。言うのはタダだし。
「じゃあ、お前、責任とれ!」
「はあ!? なんだよそれ!」
「お前の幼馴染みだろう! だからだ!」
右手の人差し指を人に突きつけるな。親に教わらなかったのかよ。
「俺、莫迦は嫌いだから」
「俺が莫迦だっていうのかよ!」
「おう、万年ドンベ」
アカは学年二位なのに、何でかね。ちなみに俺はあの二人ほどじゃないけど、十番以内だ。
「……」
お、黙ったぞ。
「その口、絶対、黙らせてやる!」
捨て台詞を吐いて、走って行きやがった。ま、関係ないしな。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる