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秘匿の宝石(オメガバース)
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その国の王はα性である。当然、国の重鎮達もα性の者が多い。そして、王の番となるΩを重鎮達は必死で探すのだ。しかし、このΩ性が厄介だった。王が王太子の頃から探しているのだが、見付からないのである。
理由はΩがβ性の人々に差別扱いを受けたことにある。βにはないαとΩの絆はどんなにβが妬んでも手に入れられない。何よりΩにある数ヶ月に一度の発情期が更なる問題を浮き彫りにしていた。一週間程続く発情期に、Ωはまともな職に就けないのである。
国が保護すれば良いのではという話も出るが、そんなに簡単なことではない。結果、Ωはβに紛れる進化を遂げてしまったのだ。つまり、αが近づかなければΩとしての性が発現しない。これに王は参ってしまったのである。
「報告を聞こう」
王は執務室で顔に憂いを浮かべ宰相に問う。薄い色合いの金髪とアイスブルーの瞳。褐色の肌の王は気怠げだった。王の問いに宰相はただ、首を振るばかりだ。探そうにも困難なのだ。何より、宰相自身もαである。一族としても番となるΩは必須だ。αが近付けば確かにΩは発現するのだが、更なる問題は番となるαでなくては発現しない点だ。
王は大きく息を吐き出すと、次の話を進めるよう態度で示す。宰相は気を取り直し、手に持つ書類に視線を落とす。
「兼ねてから予定に組まれていた、近衛騎士団の入団式に参加予定です」
王の身辺を警護する近衛騎士は身元のしっかりした者から選ばれる。この国は身分で選ばず、その者の能力を買い選んでいた。国を守る騎士も同様である。親兄弟、祖先に至るまで調べ上げ、資質もしっかり吟味される。
「今年は一名の入団が決まっています」
「少ないな」
「そうですね。入団希望者は多いのですが、最終試験まで進めるのはごく僅かです」
一名の為に用意される入団式だ。それでも、身元がはっきりとしており、本人の能力も疑われないレベルにあるのだろう。王は腰を上げると宰相を伴い執務室を出る。扉の左右には近衛騎士が四名控えていた。王を守るように前後左右を固めると歩き出す。
長い廊下を歩き王の間に到着し、王は玉座に腰を落ち着けた。宰相はその左隣の一歩後ろに控える。
近衛騎士団長が名前を読み上げる。この国の辺境地の村に住む、今年成人した少年が王の前に緊張をした面持ちで進み出る。茶の髪と茶の瞳、白い肌の少年は平凡な容姿だった。華奢な体付きから、よく試験に受かったものだと王は少し驚いた様子を見せた。
何より、王は感覚がざわつくのを感じた。今までに感じたことのない感覚だ。どうやら、進み出た少年もそうだったようだ。王の視線を気にしながらも、しきりに首を傾げている。
二人の視線が交わった時、少年は体の中がざわつくのを感じた。そして、少し後に、α性の重鎮達も少年の変化に気が付く。
一瞬にして放たれるΩの芳香。その香りを誰よりも強く感じているのは王だ。王は腰を上げると眩暈を起こしたようにふらつく。少年はそこでようやく自身に起こった変化に気が付いた。
Ωの発現である。
少年の家系には確かにΩ性の者がいた。しかし、その事実を一族はひた隠しにしたのである。迫害を受ける事は火を見るより明らかだからだ。少年は立っていられなくなり、その場に蹲った。体が熱を持ち、思考すら危うかった。だが、このままこの場にはいられないと、動かない体にムチを打つつもりで立ち上がる。玉座の間から離れなくてはと本能が訴えていた。
しかし、その体が拘束される。後ろから抱き込まれ、少年は驚いたように振り返った。そこにある顔は玉座にいた王、その人である。王は少年を担ぎ上げ、足早に玉座の間から出ようと動き出す。少年は動揺し体が動かなかった。
「誰も寝所に近づけるな!」
王は誰に言うでもなく叫ぶと身辺警護を任されている近衛騎士達ですら呆然と見送る結果となった。
「……どうやら、近衛騎士の入団式ではなく、花嫁との顔合わせになったようですね」
宰相はいち早く立ち直ると、のんびりと言葉を紡ぐ。
「呆けている場合ではないですよ。陛下の警護に戻りなさい」
宰相の言葉に警護を任されている近衛騎士達が慌てたように王の後を追った。
「さて、陛下の婚礼の用意をしなくてはなりませんね。彼の方のご家族に手紙を出さなくてはなりません。忙しくなりますね」
宰相は思いがけず現れた王の番に安堵の息を吐き出す。のんびりとした足取りで玉座の間を離れた宰相は、一番の憂いが払拭されたと笑みを浮かべる。王のあの様子では、少年の抵抗など物ともせず番としてしまうだろう。αである宰相にも少年がΩに変化した事は分かったが、王程、少年の香りに当てられていない。つまり、運命の番、と言う可能性もあるのだ。
「無茶をしなければ良いのですけどね」
王の猪突猛進ぶりを目の当たりにし、宰相が心配したのは少年の身だった。
終わり。
理由はΩがβ性の人々に差別扱いを受けたことにある。βにはないαとΩの絆はどんなにβが妬んでも手に入れられない。何よりΩにある数ヶ月に一度の発情期が更なる問題を浮き彫りにしていた。一週間程続く発情期に、Ωはまともな職に就けないのである。
国が保護すれば良いのではという話も出るが、そんなに簡単なことではない。結果、Ωはβに紛れる進化を遂げてしまったのだ。つまり、αが近づかなければΩとしての性が発現しない。これに王は参ってしまったのである。
「報告を聞こう」
王は執務室で顔に憂いを浮かべ宰相に問う。薄い色合いの金髪とアイスブルーの瞳。褐色の肌の王は気怠げだった。王の問いに宰相はただ、首を振るばかりだ。探そうにも困難なのだ。何より、宰相自身もαである。一族としても番となるΩは必須だ。αが近付けば確かにΩは発現するのだが、更なる問題は番となるαでなくては発現しない点だ。
王は大きく息を吐き出すと、次の話を進めるよう態度で示す。宰相は気を取り直し、手に持つ書類に視線を落とす。
「兼ねてから予定に組まれていた、近衛騎士団の入団式に参加予定です」
王の身辺を警護する近衛騎士は身元のしっかりした者から選ばれる。この国は身分で選ばず、その者の能力を買い選んでいた。国を守る騎士も同様である。親兄弟、祖先に至るまで調べ上げ、資質もしっかり吟味される。
「今年は一名の入団が決まっています」
「少ないな」
「そうですね。入団希望者は多いのですが、最終試験まで進めるのはごく僅かです」
一名の為に用意される入団式だ。それでも、身元がはっきりとしており、本人の能力も疑われないレベルにあるのだろう。王は腰を上げると宰相を伴い執務室を出る。扉の左右には近衛騎士が四名控えていた。王を守るように前後左右を固めると歩き出す。
長い廊下を歩き王の間に到着し、王は玉座に腰を落ち着けた。宰相はその左隣の一歩後ろに控える。
近衛騎士団長が名前を読み上げる。この国の辺境地の村に住む、今年成人した少年が王の前に緊張をした面持ちで進み出る。茶の髪と茶の瞳、白い肌の少年は平凡な容姿だった。華奢な体付きから、よく試験に受かったものだと王は少し驚いた様子を見せた。
何より、王は感覚がざわつくのを感じた。今までに感じたことのない感覚だ。どうやら、進み出た少年もそうだったようだ。王の視線を気にしながらも、しきりに首を傾げている。
二人の視線が交わった時、少年は体の中がざわつくのを感じた。そして、少し後に、α性の重鎮達も少年の変化に気が付く。
一瞬にして放たれるΩの芳香。その香りを誰よりも強く感じているのは王だ。王は腰を上げると眩暈を起こしたようにふらつく。少年はそこでようやく自身に起こった変化に気が付いた。
Ωの発現である。
少年の家系には確かにΩ性の者がいた。しかし、その事実を一族はひた隠しにしたのである。迫害を受ける事は火を見るより明らかだからだ。少年は立っていられなくなり、その場に蹲った。体が熱を持ち、思考すら危うかった。だが、このままこの場にはいられないと、動かない体にムチを打つつもりで立ち上がる。玉座の間から離れなくてはと本能が訴えていた。
しかし、その体が拘束される。後ろから抱き込まれ、少年は驚いたように振り返った。そこにある顔は玉座にいた王、その人である。王は少年を担ぎ上げ、足早に玉座の間から出ようと動き出す。少年は動揺し体が動かなかった。
「誰も寝所に近づけるな!」
王は誰に言うでもなく叫ぶと身辺警護を任されている近衛騎士達ですら呆然と見送る結果となった。
「……どうやら、近衛騎士の入団式ではなく、花嫁との顔合わせになったようですね」
宰相はいち早く立ち直ると、のんびりと言葉を紡ぐ。
「呆けている場合ではないですよ。陛下の警護に戻りなさい」
宰相の言葉に警護を任されている近衛騎士達が慌てたように王の後を追った。
「さて、陛下の婚礼の用意をしなくてはなりませんね。彼の方のご家族に手紙を出さなくてはなりません。忙しくなりますね」
宰相は思いがけず現れた王の番に安堵の息を吐き出す。のんびりとした足取りで玉座の間を離れた宰相は、一番の憂いが払拭されたと笑みを浮かべる。王のあの様子では、少年の抵抗など物ともせず番としてしまうだろう。αである宰相にも少年がΩに変化した事は分かったが、王程、少年の香りに当てられていない。つまり、運命の番、と言う可能性もあるのだ。
「無茶をしなければ良いのですけどね」
王の猪突猛進ぶりを目の当たりにし、宰相が心配したのは少年の身だった。
終わり。
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