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【BL・オメガバース】婚約破棄の後は冒険者
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婚約破棄。彼は両親からそう言われた。彼は確かに男だがΩで、子供を産むのに問題はない。問題は双子のΩだという事だ。双子の妹もΩだが、性別は女である。つまり、相手も男のΩより、女のΩの方が良かったという事だ。
ただ、ここで大きな問題がある。彼の両親は男のΩを嫌っている点だ。まず、定期的に来る発情期のせいで跡取りとはなり得ない。今はかなり優秀な抑制剤があるらしいが、それはかなりお高いのである。出費が嵩む事になり、彼の両親はそんな物を彼に与える筈がない。結果、今の彼の境遇である。
目の前に広がる森。アヒールの森。別名、魔の森。そう、魔物が生息する森である。役に立たないなら立たないなりの身の振り方をしなくてはならない。いくらΩでも、爵位持ちの嫡男。変なαに目を付けられ、手篭めにでもされたら目も当てられない。魔の森に捨て置かれたと言う事は、死ねと言われているも同然なのである。
「最初から、リーフィが欲しいって言えばよかったんじゃないかと思う」
彼は独りごちした。妹の名前はリーフィ。彼の名前はリンドだ。リンドはただ、溜め息を吐くしかない。
「それに僕。魔物に食べられるほど弱くないんだよね。あの人達は知らなかったし、教えなかったけど」
目の前に現れた大型の魔物。リンドの頭目掛けて大きな口を開いたのだが、魔物が口に出来たのは極大の魔法だった。口の中に入り込み、体内で暴れる魔法。
「痛そう」
何とも無様な最後である。魔法で体内を切り刻まれ、数分後には塵のように霧散する。足元に転がる魔石はかなり純度が高い。そして、魔物はその他に一枚の布切れを落とした。
「これで街に行ける!」
幻覚作用のあるマントだ。魔石を売ればお金が手に入る。マントを手に取り、幾らも立たないうちに背後に気配がある。魔物ではないのでのんびりと魔石を拾った。
「無事だったのか?!」
彼は緩慢な動作で振り返り、声の主を視界に収める。
「セイファ様?」
何故、彼が此処に居るのか。彼、セイファは伯爵家の次男で、リンドの元婚約者だ。リンドの両親が婚約破棄をしてきたと言っていなかったか。
「婚約破棄をされたのではないですか?」
「するわけないだろう?! リーフィ嬢が婚約者に代わったと聞かされた時の私の気持ちが分かるか?!」
よくよく話を聞けば、リーフィが我が儘を言っていたようだ。リーフィは伯爵家の更に上、侯爵家に嫁ぐ筈ではなかったか。そして、リンドはセイファと婚姻し、伯爵家のリンドの家の婿養子の予定だった。
「はあ、もしかして、向こうが婚約破棄してきましたか? 我が儘放題に育てるから」
「違うだろう。あれは育て方云々じゃないぞ。性質が我が儘なんだ。あんな女と結婚なんぞしたら、俺の身が持たない!」
セイファは幼少の頃から出入りしていたので、実害が半端ないのである。
「父には婚約者を変える気はないときっぱり伝えた。父もあり得ないといっている。それで、リンドがどこかに連れて行かれたと聞いて」
「捕まえたんですね。僕を置き去りにした者達を」
「そうだ。聞いて肝が冷えたぞ。魔の森に連れて行くなど正気の沙汰じゃない!」
普通の人なら問題だろうがリンドは違う。セイファも知っている筈だ。
「僕なら平気ですよ。こうなるかと思って、鍛えに鍛えてます」
特に魔法をリンドは鍛えていた。Ωだと、如何しても体力面が不安なのだ。
「知っている。父もほとぼりが冷めるまで二人で冒険者でもしておけと」
リンドとセイファは冒険者登録はしている。階級はまだまだ低いが、何とかなるだろう。
「この森で少し稼ぎませんか? 結構いいアイテムが手に入りますよ」
魔物は強ければ強いほど、レアなアイテムを落として行く。今倒した猛獣の巨大魔物も、幻覚作用のあるマントと高純度の魔石を落とした。リンドはそれをセイファに見せる。
「この魔石ならかなりの金額だが」
「ええ、Ωだと足元見られてしまうので」
「それは俺が何とかする」
「期待してます」
リンドとセイファは魔の森でかなり魔物を狩り、近くの大きな街で使えるアイテム以外は換金した。魔石も加工して防具や武器に付与できる物以外は売り払う。冒険者ギルドでかなり驚かれたので、手に入れた場所を素直に話した。最初は信じてもらえなかったが、昇給試験で実力を遺憾なく発揮した結果、見学者の顔がおかしな事になった。最低ランクであった二人だが、特例で一気にAランクになった。本来なら許されないが、魔の森は管轄外である。その森に入っていく者など本来いない。それで素直に何故いく事になったのかを話したのである。なんて事はない。厄介払いの為に置き去りになり、婚約者が助けに現れただけだと言えば、冒険者ギルドにいた冒険者は驚きに目を見開いた。
「そりゃ、犯罪だろう」
ギルドマスターは顔を顰める。
「僕としてはあの家から出れたので、問題ないかと」
リンドが微笑みを向ければ、複雑な表情をギルドマスターは見せ、セイファも同様だった。
「リンド、私は心配で押しつぶされそうだったんだぞ」
「ほら、魔法には自信があるし、何より肝は据わってるつもりですよ」
「いや、あの大型魔物を前にして、平気で大口開けた魔物に魔法ぶっ放すのは見たから肝は据わってるって分かってるよ」
セイファは疲れたように脱力する。ギルドマスターは同情したようにセイファに視線を向けた。
「冒険者ギルドとしては、リンドの実家の依頼は一切受けない方向に決まった。結構な頻度で利用していたようだが、流石に人道に反している。リンドを運んだ冒険者はギルド資格の剥奪だ。ギルドを通しての依頼じゃなかったからな」
リンドはそうだったのかと改めて事実を知った。セイファが駆けつけたのが、置き去りにされて直ぐだったからだ。
「それ以前に、貴族としての身分を剥奪だと通達されたようだ。まあ、目に余る行動も多かったからな」
セイファは遠い目をする。
「それに私としてもこのまま冒険者でもいいかと思っているし」
「そうしてもらえると有難いな。二人にはこれからも魔の森で魔物を狩ってもらいたい。狩れる者がいないんで、周辺の村や町が結構な被害にあっている。二人が魔の森に入った後、その被害がグッと減った。申し訳ないと思うが、この辺りの領主からの依頼になる。かなり破格でな。だが、流石に魔の森に入っていける冒険者は限られていて、他の地域の魔の森で手一杯なんだ」
この世界に魔の森は点在していて、その規模は様々だ。二人が入った魔の森は中程度で、魔物の強さもかなりのものになる。時々、知能のある魔物が集落を作っているが、そこにさえ手を出さなければ問題ない。友好関係を結ぶ事が出来れば、休憩場所に使える。残念なことに、リンドとセイファはあの森で魔物の集落に出くわしていないので、ない可能性が高い。
「リンドはそれでいいかい?」
「問題ないよ。でも、一つだけいいかな?」
リンドはギルドマスターに一つ聞きたい事があった。
「僕はΩですけど、問題ないですか?」
ギルドマスターは一度目を見開き、その後、大笑いを始めた。
「問題ないぞ。それどころか、その辺りのβより強いだろう。文句ある奴がいたら魔法でもぶっ放しとけ」
ギルドマスターは豪快に笑い飛ばし、物騒な事を宣った。
「え? いいの? さっき、そこにいた奴に馬鹿にされたんだけど」
リンドは後ろを振り返り、入り口近くを指差した。指差された冒険者は青い顔になり、そそくさと逃げていった。リンドは残念、と顔に出す。セイファは更なる脱力に見舞われた。
「頼むから、少しは大人しくしてくれ」
「ええー、やだよ。そのせいで捨てられたんだし」
リンドの態度にギルドマスターは更に大笑いだ。
その後、リンドの実家は爵位を剥奪。妹のリーフィはセイファが現れないことに癇癪を起こし、セイファの実家に乗り込んだのだが、逆に取り押さえられ厳格な修道院に送られた。最後まで何かを喚いていたようだが、誰も取り合わなかったようだ。いくら優秀なαを生み出せるΩでも、性格に難ありでは誰にも相手にされないだろう。リンドの両親だが、平民に落とされた後、何処に行ったのか行方不明だ。もしかしたら、魔物にでも食べられたのかもしれない。
「今日も元気に魔物を狩るぞ!」
「いや、もう少しペースを落とそう」
暴走するリンドをセイファが宥める。その光景が冒険者ギルドでは名物になる程、日常的に繰り広げられることになるなど、セイファは想像もしていなかった。
終わり。
ただ、ここで大きな問題がある。彼の両親は男のΩを嫌っている点だ。まず、定期的に来る発情期のせいで跡取りとはなり得ない。今はかなり優秀な抑制剤があるらしいが、それはかなりお高いのである。出費が嵩む事になり、彼の両親はそんな物を彼に与える筈がない。結果、今の彼の境遇である。
目の前に広がる森。アヒールの森。別名、魔の森。そう、魔物が生息する森である。役に立たないなら立たないなりの身の振り方をしなくてはならない。いくらΩでも、爵位持ちの嫡男。変なαに目を付けられ、手篭めにでもされたら目も当てられない。魔の森に捨て置かれたと言う事は、死ねと言われているも同然なのである。
「最初から、リーフィが欲しいって言えばよかったんじゃないかと思う」
彼は独りごちした。妹の名前はリーフィ。彼の名前はリンドだ。リンドはただ、溜め息を吐くしかない。
「それに僕。魔物に食べられるほど弱くないんだよね。あの人達は知らなかったし、教えなかったけど」
目の前に現れた大型の魔物。リンドの頭目掛けて大きな口を開いたのだが、魔物が口に出来たのは極大の魔法だった。口の中に入り込み、体内で暴れる魔法。
「痛そう」
何とも無様な最後である。魔法で体内を切り刻まれ、数分後には塵のように霧散する。足元に転がる魔石はかなり純度が高い。そして、魔物はその他に一枚の布切れを落とした。
「これで街に行ける!」
幻覚作用のあるマントだ。魔石を売ればお金が手に入る。マントを手に取り、幾らも立たないうちに背後に気配がある。魔物ではないのでのんびりと魔石を拾った。
「無事だったのか?!」
彼は緩慢な動作で振り返り、声の主を視界に収める。
「セイファ様?」
何故、彼が此処に居るのか。彼、セイファは伯爵家の次男で、リンドの元婚約者だ。リンドの両親が婚約破棄をしてきたと言っていなかったか。
「婚約破棄をされたのではないですか?」
「するわけないだろう?! リーフィ嬢が婚約者に代わったと聞かされた時の私の気持ちが分かるか?!」
よくよく話を聞けば、リーフィが我が儘を言っていたようだ。リーフィは伯爵家の更に上、侯爵家に嫁ぐ筈ではなかったか。そして、リンドはセイファと婚姻し、伯爵家のリンドの家の婿養子の予定だった。
「はあ、もしかして、向こうが婚約破棄してきましたか? 我が儘放題に育てるから」
「違うだろう。あれは育て方云々じゃないぞ。性質が我が儘なんだ。あんな女と結婚なんぞしたら、俺の身が持たない!」
セイファは幼少の頃から出入りしていたので、実害が半端ないのである。
「父には婚約者を変える気はないときっぱり伝えた。父もあり得ないといっている。それで、リンドがどこかに連れて行かれたと聞いて」
「捕まえたんですね。僕を置き去りにした者達を」
「そうだ。聞いて肝が冷えたぞ。魔の森に連れて行くなど正気の沙汰じゃない!」
普通の人なら問題だろうがリンドは違う。セイファも知っている筈だ。
「僕なら平気ですよ。こうなるかと思って、鍛えに鍛えてます」
特に魔法をリンドは鍛えていた。Ωだと、如何しても体力面が不安なのだ。
「知っている。父もほとぼりが冷めるまで二人で冒険者でもしておけと」
リンドとセイファは冒険者登録はしている。階級はまだまだ低いが、何とかなるだろう。
「この森で少し稼ぎませんか? 結構いいアイテムが手に入りますよ」
魔物は強ければ強いほど、レアなアイテムを落として行く。今倒した猛獣の巨大魔物も、幻覚作用のあるマントと高純度の魔石を落とした。リンドはそれをセイファに見せる。
「この魔石ならかなりの金額だが」
「ええ、Ωだと足元見られてしまうので」
「それは俺が何とかする」
「期待してます」
リンドとセイファは魔の森でかなり魔物を狩り、近くの大きな街で使えるアイテム以外は換金した。魔石も加工して防具や武器に付与できる物以外は売り払う。冒険者ギルドでかなり驚かれたので、手に入れた場所を素直に話した。最初は信じてもらえなかったが、昇給試験で実力を遺憾なく発揮した結果、見学者の顔がおかしな事になった。最低ランクであった二人だが、特例で一気にAランクになった。本来なら許されないが、魔の森は管轄外である。その森に入っていく者など本来いない。それで素直に何故いく事になったのかを話したのである。なんて事はない。厄介払いの為に置き去りになり、婚約者が助けに現れただけだと言えば、冒険者ギルドにいた冒険者は驚きに目を見開いた。
「そりゃ、犯罪だろう」
ギルドマスターは顔を顰める。
「僕としてはあの家から出れたので、問題ないかと」
リンドが微笑みを向ければ、複雑な表情をギルドマスターは見せ、セイファも同様だった。
「リンド、私は心配で押しつぶされそうだったんだぞ」
「ほら、魔法には自信があるし、何より肝は据わってるつもりですよ」
「いや、あの大型魔物を前にして、平気で大口開けた魔物に魔法ぶっ放すのは見たから肝は据わってるって分かってるよ」
セイファは疲れたように脱力する。ギルドマスターは同情したようにセイファに視線を向けた。
「冒険者ギルドとしては、リンドの実家の依頼は一切受けない方向に決まった。結構な頻度で利用していたようだが、流石に人道に反している。リンドを運んだ冒険者はギルド資格の剥奪だ。ギルドを通しての依頼じゃなかったからな」
リンドはそうだったのかと改めて事実を知った。セイファが駆けつけたのが、置き去りにされて直ぐだったからだ。
「それ以前に、貴族としての身分を剥奪だと通達されたようだ。まあ、目に余る行動も多かったからな」
セイファは遠い目をする。
「それに私としてもこのまま冒険者でもいいかと思っているし」
「そうしてもらえると有難いな。二人にはこれからも魔の森で魔物を狩ってもらいたい。狩れる者がいないんで、周辺の村や町が結構な被害にあっている。二人が魔の森に入った後、その被害がグッと減った。申し訳ないと思うが、この辺りの領主からの依頼になる。かなり破格でな。だが、流石に魔の森に入っていける冒険者は限られていて、他の地域の魔の森で手一杯なんだ」
この世界に魔の森は点在していて、その規模は様々だ。二人が入った魔の森は中程度で、魔物の強さもかなりのものになる。時々、知能のある魔物が集落を作っているが、そこにさえ手を出さなければ問題ない。友好関係を結ぶ事が出来れば、休憩場所に使える。残念なことに、リンドとセイファはあの森で魔物の集落に出くわしていないので、ない可能性が高い。
「リンドはそれでいいかい?」
「問題ないよ。でも、一つだけいいかな?」
リンドはギルドマスターに一つ聞きたい事があった。
「僕はΩですけど、問題ないですか?」
ギルドマスターは一度目を見開き、その後、大笑いを始めた。
「問題ないぞ。それどころか、その辺りのβより強いだろう。文句ある奴がいたら魔法でもぶっ放しとけ」
ギルドマスターは豪快に笑い飛ばし、物騒な事を宣った。
「え? いいの? さっき、そこにいた奴に馬鹿にされたんだけど」
リンドは後ろを振り返り、入り口近くを指差した。指差された冒険者は青い顔になり、そそくさと逃げていった。リンドは残念、と顔に出す。セイファは更なる脱力に見舞われた。
「頼むから、少しは大人しくしてくれ」
「ええー、やだよ。そのせいで捨てられたんだし」
リンドの態度にギルドマスターは更に大笑いだ。
その後、リンドの実家は爵位を剥奪。妹のリーフィはセイファが現れないことに癇癪を起こし、セイファの実家に乗り込んだのだが、逆に取り押さえられ厳格な修道院に送られた。最後まで何かを喚いていたようだが、誰も取り合わなかったようだ。いくら優秀なαを生み出せるΩでも、性格に難ありでは誰にも相手にされないだろう。リンドの両親だが、平民に落とされた後、何処に行ったのか行方不明だ。もしかしたら、魔物にでも食べられたのかもしれない。
「今日も元気に魔物を狩るぞ!」
「いや、もう少しペースを落とそう」
暴走するリンドをセイファが宥める。その光景が冒険者ギルドでは名物になる程、日常的に繰り広げられることになるなど、セイファは想像もしていなかった。
終わり。
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