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Ⅸ 満ちる月に白き淡雪
18 朝月夜
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トゥーイは今、身に着けているアンダードレスに喘いでいた。理由は、体を思い切り締め付けられているからだ。
「こんなに、締め付けないと駄目なの」
母親に思わず文句を言う。
「本当に。ドレス姿を綺麗に見せるためよ。お前の場合、一生に一度何だから、我慢しなさい」
ビシッと言い切られ、渋々、口を閉じた。まさか、紐でキツく縛り上げるとは思っていなかったトゥーイは、既に地獄を味わっていた。
そんなやり取りの中、扉をノックする音がする。
母親が静かに扉を開くと、視界に飛び込んできたのは独特の金の巻き髪。
「まだ、用意の途中なんですよ」
母親がそう告げると、シオンは瞳を輝かせた。その表情に、母親は首を傾げた。
「誰か来たのか」
トゥーイは苦しさに椅子に腰掛ける。これから更にオーバードレスを身に着けるのかと思うと、げんなりする。
「丁度いいね」
母親の脇から顔を出したシオンに、トゥーイは目を瞬いた。
シオンはその姿に合わせたような、可愛らしいデザインのドレスを身に着け、髪も綺麗に結い上げていた。
よく見れば、その後ろに居るのはカイファスとルビィ。二人共、シオン同様、ドレス姿だった。
シオンは母親に、少し大きめの包みを手渡す。
「母からです。渡せば判るって言われたみたい何だけど」
シオンは首を傾げた。
「本当に用意して下さったの」
母親は驚いていたが、嬉しそうな笑みを見せた。カイファスとルビィもその包みに興味津々だ。
「中に入ってもいいかな」
シオンは母親を見上げた。母親は頷くと、三人を中に導いた。
シオンは小走りでトゥーイに近付く。そして、満面の笑みで、手に持っている小瓶の蓋を開けた。ふわり、と舞い上がる香りに、トゥーイばかりか母親も驚きに目を見開いた。
「エンヴィ特製の香水だよ。初夜のお化粧もしないとね」
シオンの言葉に、トゥーイは完全に思考が停止した。言われたことが理解出来なかった。
「……初夜って……」
「そのまんま。フィネイには是非ともトゥーイを襲って貰いたいし、その手助け」
シオンは放心しているトゥーイの胸元に、指先で香水を塗り付けた。
シオンが言った、手助け、の言葉に、トゥーイは完全に固まってしまった。
「だってさ。僕達と違って、襲えないでしょ」
シオンは右手の人差し指を顔の前で立て、確信したようにきっぱりと言い切った。カイファスとルビィは顔を見合わせ、母親はトゥーイ同様、固まっている。
「どうしてそう、言い切れるんだ」
カイファスの問いに、シオンは振り返る。
「簡単。トゥーイにとってフィネイが夫になっても、兄として見てしまう部分があるんだよ。最近まで兄って呼んでてさ、直ぐ変われるわけないじゃない」
シオンは当たり前だと言わんばかりに口にする。
「ほら、御両親だって、早く孫の顔を見たいでしょ」
香水の小瓶を両手で握り、頬に擦り寄せ、可愛らしく首を傾げる。その瞳は楽し気に輝いていた。
「シオンって……」
ルビィは流石に脱力した。
「早く準備しよ。香水も付けたしさ」
トゥーイはその言葉に、我に返る。
「シオンさんっ」
トゥーイが呼んだ、さん付けにシオンは振り返り、眉間に皺を寄せた。
「さんは要らないって、何度も言った」
明らかに不機嫌になったのは判ったが、そんなことを気にしている暇はなかった。
「その香水って、何か秘密でもあるのかっ」
シオンは少し目を瞬いて、満面の笑みを向けた。
「判らないかなぁ」
胸元から香る甘い薔薇の香り。何かが記憶を刺激する。
「……この香りって……」
「知ってるよね。自分の体臭の匂いに近いでしょ」
トゥーイはある意味、自分の放つ薔薇の香りに対して羞恥心しか抱いていなかった。初めて意識したのが、フィネイに触れたときだ。それは、あまりに濃厚な香りを放っていた。
「準備しよ」
シオンは母親に手伝うよ、と言って駆け寄っていった。
「一杯一杯って顔だな」
カイファスは苦笑混じりにトゥーイに歩み寄る。
「シオンさんって、何か逆らえない感じなんだよな」
トゥーイは肩を落とす。
「勝てる人はジゼルさんくらいだろう。私達だって、振り回されてるんだ」
カイファスはシオンに視線を向けた。母親に婚礼衣装を見せて貰っている姿が、とても二児の母には見えない。ルビィも一緒になって楽しんでいる。
「まあ、ああなるまでが、大変だったと言えば、大変だったんだけどな」
カイファスはしみじみと呟いた。
トゥーイはカイファスを見上げた。
「育ち方が違うって、どう言うことだ」
トゥーイは黒の長が言っていた言葉を思い出す。
「両親に疎まれてる話しは聞いたのか」
トゥーイは頷いた。その事実はルビィから聞いたのだ。
「シオンは二人姉弟なんだが、両親は何故かシオンを嫌っていて、今でも疎遠のままだ」
トゥーイは驚きを隠せなかった。
「今でもうなされるくらいに、深い傷を負ってる」
カイファスはトゥーイに視線を戻した。その瞳に同情を写す色はない。
「同情は禁物だぞ」
カイファスは微笑んだ。
「確かに、両親はシオンを嫌っているかもしれないが、今の家族がシオンを愛している」
トゥーイは最初に見た、シオンとジゼルの姿を思い出す。あのとき、羨ましいと感じるほど、ジゼルはシオンを慈しんでいた。
「うん……、それは判る」
「取り敢えず、トゥーイは今の試練を乗り越えるだな」
カイファスは三人が手にしている婚礼衣装を見、トゥーイの強ばっていく顔を眺めていた。
トゥーイのための婚礼衣装は誰が見ても、かなりの重さがあるのが判る。
「全面、刺繍が刺してあるんだ」
トゥーイはぐったりとしていた。
「あれは重いだろうな」
「だろ。試着したんだけどさ、完全に拘束具なんだ」
母親は娘がいたら、婚礼衣装に刺繍をするのが夢だったらしい。それを聞くと、流石のトゥーイも重くて嫌だとは口に出来なかった。しかも、三ヶ月という短期間で仕上げたのだから、かなりの無理をしたに違いない。それを考えると、耐えるしかないのだと、呪文のように繰り返す。
数時間我慢すれば解放される。そう、言い聞かせても、目の前の高い山に目眩を覚える。
「白薔薇だから、衣装が白いのは当たり前なんだろうが、私には新鮮だな」
カイファスの呟きに、トゥーイは顔を上げた。
「まあ、赤い婚礼衣装は目にしたことがあるが、他部族の色は違和感が強い」
トゥーイはカイファスの呟きに、何かが引っかかった。何故、赤い婚礼衣装を見たことがあるのか。
「シオンが着た婚礼衣装は赤だったんだ」
トゥーイの疑問に、カイファスはさらりと答えた。どうやら、表情に出ていたようだ。
「でも、シオンさんって黒薔薇だよな」
トゥーイの疑問は尤もだった。
「まあ、な。でも、ジゼルさんは紅薔薇の出身なのを知っているか」
カイファスはからかうように、笑いを浮かべた表情を見せる。
「シオンがルビィとエンヴィに誘拐された話しは聞いたんだろう」
トゥーイは頷いた。
「そのときに、黒の婚礼衣装は使い物にならなくなったんだ。急遽、ジゼルさんの婚礼衣装をシオンは使用した。二部族長の許可の元に」
今でこそ、笑い話になるが、当時は皆が一杯一杯だった。アリスが現れたことで、更に事態は混乱したのである。
「でも、可愛かったんだぞ」
カイファスは当時のシオンを思い出す。本人は着慣れない色で、落ち着かない様子だったが、黒よりも明らかに似合っていた。
「俺も見たかったなぁ」
トゥーイは残念そうに呟いた。カイファスは小さく笑う。
「あの衣装はもう、着ることは出来ないからな。普通なら、一生に一度だ」
カイファスは再び三人に視線を向けたのだが、その三人が衣装を手に近付いてくる。
「始まるみたいだな」
トゥーイはびくりと体を震わせ、恐々とカイファスの視線の先を見た。
カイファスはその光景を、大人しく見ていた。シオンから香水瓶を渡され、座っているようにと、言われたからだ。
「アレンに怒られるからカイファスは座っててね」
極上の微笑みを向けたシオンは、嬉々としてトゥーイの着替えを手伝っている。トゥーイはまさに、借りてきた猫状態で成されるがままだ。
髪を左耳の下で一つに束ね、白薔薇で飾り付ける。そこまでの間に、トゥーイは完全に疲れ切っていた。顔に淡い化粧を施す頃には、口を開く元気すら削ぎ落とされていた。
母親は両手を腰に当て、満足気に頷くと、手渡された包みに手を掛ける。中から出て来たのは、繊細な作りのレース。
「見事なアンティークレースだな」
カイファスは感嘆した。しかし、それを見た母親は固まった。
「何かレイチェルさんと楽しそうに話してたのって、これなのかなぁ」
シオンは最近頻繁に現れていたレイチェルに、実は首を傾げていた。
「そいえば、ルビィのお母さんも来てたし」
ルビィは驚いたようにシオンを見た。
「知らなかったの」
ルビィの様子に、どうやら、黙って来ていたようだ。
「で、このレースの使い道って」
カイファスはレースを指差し、首を傾げた。包みの大きさから、かなりの大きさであることが判る。畳まれた感じから、一枚のレースであることは判るのだが、使い道などテーブルクロスなどの家具に飾り付けるのが、吸血族では普通だった。
母親はカイファスの言葉に我に返り、このレースの経緯を話してくれた。
衣装を作るために、一度、ドレスを持って母親は検査中のトゥーイの元を訪れた。そこで、ジゼルと話をし、人間の世界では花嫁は純白の花嫁衣装に、頭にはベールを被るのだと言う話しを聞いた。
それを聞いたシオンとルビィの瞳が輝いた。
「広げてみようよ」
シオンは嬉しそうに言った。ルビィは頷くと、二人でレースを広げた。畳まれていたときはかなりの重さを感じたのに、そのレースは編むときに使われた糸が細いのか、思いのほか軽かった。
そして、二人は躊躇うことなくトゥーイの頭にベールを被せる。トゥーイはいきなりきた何かを被せる感覚に、驚いたように顔を上げた。どうやら、周りの会話が耳に入っていなかったようだ。
「薔薇だけより、華やかだな」
カイファスは少し離れた位置から見たトゥーイの姿に、そう感想を漏らした。
吸血族の女性の婚礼衣装にベールを使うことはない。頭を飾るのは、部族を象徴する色の薔薇が使われる。だが、白というのは他の色と違い、くどさがない。だからなのか、その存在は確かに花嫁を華やかに彩っていた。
呆然となったのは母親だ。広げたレースの感じから、高級品であると認識するのは容易だった。
「……こんな高価なものを……」
ジゼルは嬉々として、ベールを用意させてほしいと申し出てくれた。最初断ったのだが、強引に押し切られた形だった。だから、目の前の品に動揺を隠せなかった。
シオンは母親の呟きに、ベールに視線を向けた。確かにかなりの高級品なのは一目で判る。だが、これくらいの品物では、ファジールの懐は少しも痛まない。
「気にする必要ないよ。お父さんだったら、これくらいの品物なんて高級品のうちに入らないってば」
シオンはあっけらかんと言ってのける。
「それにレイチェルさんが入った時点で、高くなるのなんて当たり前だし、お父さんは逆らえないから」
ジゼルとレイチェルに掛かれば、ファジールなど軽くあしらわれるに決まっている。
「それに、多分だけど、みんなの御祝い品だと思うよ」
母親は驚きを顔に貼り付ける。
「そうなるか」
カイファスはレイチェルがアジルにおねだりしている現場を見ていた。ルビィも母親が珍しくエンヴィに頼み事をしているところを見ていたのだ。
「僕達のときって御祝いとかの雰囲気じゃなかったしさ。ルビィのときだって、エンヴィが忙しすぎて、それを二人が手伝っていたり、周りも慌ただしかったからさ」
ある意味、一番、御祝いの雰囲気が強いのだ。確かに期間は短かったが、周りは儀式を楽しみにしていた。
シオンは部屋の中を見渡し、部屋の隅に置いてある姿見の鏡を引っ張ってくる。ルビィもそれを手伝い、トゥーイの前に運んでくる。
「トゥーイ、見て。綺麗だよ」
「うん。白って他の色と違って、何か良いね」
「本人が白いから、衣装は少し色が入ってるんだな」
衣装だけ見れば確かに白いのだが、トゥーイが身に着けると、少しクリーム色がかっていることが判る。
「この子が白すぎるんで、純白にはしなかったんですよ」
母親は苦笑いを浮かべる。普通なら、真っ白な生地で衣装を作るのが白薔薇では当たり前だった。
トゥーイの場合、それをすると真っ白になってしまう。
「良いと思う」
シオンはうっとりとトゥーイを見入る。
「早くフィネイに御披露目しないとね」
ルビィも嬉々として胸の前で両手を組み合わせ、うっとりとしていた。
当の本人はそれどころではない。重いわ、締め付けられるわ、何より女性用の品物を全身に身に着ける羽目になり、落ち着かない。それは下着から何から何まで全てなのだ。
普段、これほど拘束されているような衣服は身に着けない。息苦しさに喘いでしまう。
「トゥーイ、慣れないと後で大変だぞ」
カイファスが苦笑混じりにそんなことを言った。トゥーイは何のことだろうとカイファスに視線を向け、首を傾げた。
「招待状が沢山届くんだろう。言っておくが、私達が招待を受けるときはもれなく満月だ。つまり、此処まで凄くなくても、ドレスを身に着けて出席することになる」
トゥーイは目を見開き、今の言葉に固まった。
「フィネイの妻として同伴するんだ。当たり前だろう」
にっこり、と笑みを向けられ、こめかみがひくついた。
「……じゃあ、今もみんなこの苦しい感じを体験中なのか」
トゥーイは恐る恐る問い掛ける。シオンとルビィが普通にはしゃいでいる姿を見ると、とても信じられない。
「私は妊娠中だから、締め付けてはいないが、二人はちゃんと補正下着を身に着けている筈だぞ」
これで、と言わんばかりの情けない表情で、トゥーイは訴える。
「慣れだろうな。女性はつくづく、凄い存在なんだって認識出来るだろう」
トゥーイは力無く頷いた。女性になって初めて気が付いたことは多いが、一言で言うと、面倒臭いが素直な感想だった。
†††
トゥーイは朦朧とした意識で目が覚めた。辺りを見渡し、今、居る場所を確認する。ベッドの上であるのだと認識した。
身を起こし、無意識にシーツで体を包み込んだ。そして、鮮明に思い出したのは、昨日の出来事。
「……俺……」
そこでようやく、隣にフィネイが居ないことに気が付いた。
微かに聞こえてきた扉が開く音に、自然と体が動いた。音が聞こえたのは、バスルームへと続く扉だった。頭を拭きながら、バスローブ姿で現れたのはフィネイだった。
微かな衣擦れの音に、フィネイは顔を上げる。ベッドの上でシーツに身を包み、トゥーイが座り込んでいた。
「目が覚めたのか」
ゆっくりとした歩調でベッドまで歩み寄り、トゥーイを覗き込む。
「体は大丈夫か」
フィネイの問いに、トゥーイは小さく頷いた。確かに怠いし、腰の辺りに違和感はあるが、耐えられないというわけではない。
「一応、洗ってやったんだが、気持ち悪いか」
何を言われたのか、トゥーイは判らなかった。
「そんなことをしなくても、夜着を着ているだろう」
笑いを含んだ声に、トゥーイはゆっくりと自分の体に視線を向けた。
体は何時も休むときに着ている夜着に包まれていた。頬に張り付く髪がしっとりと湿っている。引き寄せたシーツは真新しいのか、触り心地が良かった。
「あのままじゃあ、気持ち悪いだろう」
昨日のことを鮮明に思い出し、トゥーイは真っ赤に頬を染めた。
初めて女性の体でフィネイに抱かれた。月が隠れ元の体に戻ったのだが、その姿でも抱かれたのだ。
もう無理だと、泣きながら懇願した記憶がある。その後、意識を手放し、目が覚めるまで、トゥーイは全く気が付かなかったのだ。
トゥーイは顔を染めたまま、覗き込んでくるフィネイを上目使いで睨み付けた。少しは手加減をして欲しかったと、恨みがましい思いが浮かび上がる。
「……獣」
トゥーイの呟きに、フィネイはにやりと笑った。
「お前限定だ」
「……そんなこと言われても、嬉しくない」
トゥーイは少し拗ねたようにそっぽを向く。
「……身が保たないだろう……」
フィネイは破顔した。
「昨日はお前が悪い」
いきなり降ってきた言葉に、トゥーイは目を見開いた。
「儀式の最中から、あんな香りをさせてたら、理性が持たないだろう」
トゥーイはひくりと、顔が引きつった。シオンが嬉々として胸元に落とした香水。フィネイの理性を崩壊させ、トゥーイを襲うようにと張った罠だった。
フィネイはまんまとシオンの策略に嵌ったのである。黙り込んだトゥーイに、フィネイは首を傾げた。
「……あれ、俺の体臭じゃないから」
フィネイは目を瞬いた。意味が判らなかった。大体、重く、拘束される婚礼衣装を身に着け、フィネイを誘う香りを自分から放つのは無理ではないか。
昨日、着替えの最中にあったことを、トゥーイはフィネイに語った。
「香水だって」
「そう。エンヴィさんが、お祝いにって作ってくれたって、ルビィさんに聞いたんだけど、そのベースの薔薇が俺の体臭に近い香りなんだってさ」
儀式に向かう途中、申し訳無さそうにルビィは香水のことを話してくれた。シオンとルビィはトゥーイの放つ薔薇の香りを、はっきりとした状態で嗅いでいる。
薔薇同士で感じる薔薇の香りは微かなものだが、濃厚に匂い立つ香りは余程でなければ嗅ぐことは出来ない。
「で、その香水は」
フィネイの問いに、トゥーイは首を傾げる。香水の存在は知っていても、今現在の所在は判らない。
「知らない」
「知らないってっ」
フィネイは動揺した。いきなり着替え始めると、部屋を出て行った。判らないのはトゥーイだ。
「ちょっ」
立ち上がろうとした瞬間、力が抜けた。正確には、下肢に力が入らなかった。ベッドに突っ伏し、だが、気を取り直して立ち上がり、身支度を整えると、フィネイの後を追った。
フィネイは何に動揺したのだろうか。
トゥーイがフィネイに追い付いたのは、エントランスの前だった。そこには三組の薔薇の夫婦とベンジャミンの姿があった。
フィネイはシオンと対峙していたのだが、シオンの顔に張り付いたのは意味ありげな微笑み。逆にフィネイは表情が引きつっていた。
「僕の勝ち」
シオンは腕を組み、邪気のない笑みをフィネイに向けた。その光景を見詰めている六人は複雑な表情をしている。アレンに至っては、溜め息すら漏らしていた。
「来月、楽しみにしてるから」
シオンはトゥーイの姿を目聡く見つけると、近付いてくる。
「手出して」
トゥーイは言われたことに上手く反応出来なかったが、素直に右手を差し出す。その掌の上に乗せられたのは、昨日見た小さな小瓶。
「これはトゥーイに渡すね。フィネイを誘惑したいときに使ってね」
その言葉にトゥーイとフィネイは顔を引きつらせ、固まった。
「二人共、凄い色香だし、上手くいったみたいだし」
シオンは嬉々としている。それに脱力したのはフィネイだ。アレンとゼロス、エンヴィは同時に溜め息を吐いた。ゼロスはフィネイに歩み寄り、右肩に手を乗せた。
「諦めろ。彼奴に勝てる奴は居ないんだ」
ゼロスの諦めを促す言葉に顔を上げ、男性陣に視線を向けたフィネイは、更に脱力した。言葉だけではなく、その様子からも察することは容易だった。
「すまない。彼奴は一旦暴走すると、止まらないんだ」
本当なら二人が起きて来る前に帰るつもりだったのだ。そのつもりだったのだが、シオンが確かめたいとただをこねた。
そして、皆が皆、シオンに対して恐ろしく甘いのだ。アレンが宥め賺しても、ガンとして譲らなかった。
アレンは小さく首を振ると、大股でシオンに近付き、体を持ち上げ、担ぎ上げた。流石にこれ以上の迷惑は掛けられない。
「アレンっ」
「確認しただろうが。帰るぞ」
シオンは不満そうに唇を尖らせる。
「その香水はその小瓶の中だけだそうだ。まあ、薔薇そのものが少ないからな。エンヴィもお前が必要ない限り、もう、調香しないそうだ」
アレンはトゥーイにそう一言告げ、有無を言わさず、外へと足を向ける。
「僕はまだ訊きたいことがあるんだってば」
シオンはアレンの背中を力任せに叩く。
「訊いてどうするんだ。これ以上、引っ掻き回すのはやめろ」
アレンはベンジャミンを促し、外へと誘う。
「先に帰る」
ゼロスとエンヴィにそう告げた。
「エンヴィはルビィを一人で行かせるなよ。妊婦が空を翔るのは本当にごめんだからな」
エンヴィは小さく頷く。それを見届けると、アレンはシオンを肩に担いだまま、ベンジャミンと共に帰って行った。
「何時もながら、嵐だな」
ゼロスは脱力する。
「ある意味、アレンが最強じゃねぇか」
エンヴィはそう言葉を漏らした。
「アレンの莫迦っ」
外からシオンの叫び声が聞こえ、小さくなっていった。どうやら、館を離れたようだ。
「何時ものことだけど、シオンって凄いよね」
ルビィは呆然と呟く。
「凄いって言うか、今まで大人しくさせられてた腹いせじゃないか」
カイファスはルビィに視線を向けた。トゥーイは少し躊躇い、二人に歩み寄る。
「……あのさ」
遠慮がちに声をかける。
「どうかしたのか」
カイファスは微笑みかける。
「これ、どうすれば……」
手の上にある小瓶をどうしていいのか判らず、トゥーイは戸惑いを浮かべる。
「それはトゥーイの物だ。好きにしたらいい」
トゥーイは小さく頭を揺らし、考えを巡らせる。
「ほとぼりが冷めたら、使えるかな」
その言葉にカイファスとルビィは顔を見合わせる。
「……俺、みんなみたいに襲えないし」
シオンにはっきりきっぱり言い切られたが、それは間違いではないとトゥーイは思った。襲われることはあると思うが、襲うことは不可能だ。それと同じくらい、自分から誘うことも絶対に無理だった。
「時間をあければ大丈夫だろう」
カイファスが小声で囁いた。
「使うの」
ルビィも小声で問い掛ける。
「俺だって、欲しいと思うときあるしさ……」
顔を真っ赤に染めながら、小さく答える。
「エンヴィに頼んどこうか。あの薔薇ってあんまり育たないみたいだから、一年に一回くらいだと思うけど」
ルビィの言葉にトゥーイは小さく頷いた。
「……出来れば、兄さんにばれないように」
三人で頭を突き合わせ、小声で話す。
「トゥーイはいい加減、兄さん、を卒業した方がいいぞ」
カイファスは苦笑混じりに忠告する。
「判ってるんだけど、癖が抜けないんだよな」
意識していれば名前で言えるのだが、無意識だと兄と言ってしまう。これは、慣れるまで仕方がないのだと、トゥーイは俯いた。
「私達の前では問題ないが、他は違うぞ。恥をかくのはフィネイなんだ。早く慣れないとな」
カイファスに言い切られ、トゥーイは小さく頷いた。
「まあ、仕事はしなくなるだろうし、遊びに来たらいい。シオンなら何時でも大歓迎してくれるぞ」
カイファスは笑いを含んだ声で、そんなことを言った。
カイファスの仕事をしない、の言葉にトゥーイは顔を上げる。その表情に二人は苦笑いを浮かべた。
「ここに命が宿って、仕事なんてしてたら、アレンが怖いよ」
ルビィがトゥーイのお腹を指差し、おどけたように言った。
「旦那より、アレンだよな。ファジールさんもだけどね」
カイファスもおどけたように肩を竦める。
「僕はなかなか宿らないけど、トゥーイはどうなんだろ」
ルビィは目を細めた。トゥーイは改めてルビィに視線を向けた。シオンは男性の姿だったのに、二人は昨日と同じ女性の姿のままだった。
「ルビィさん、おめでた」
疑問を素直に口にした。
「うん。やっとかな。ルーのときもなかなか宿ってくれなくて、二人が羨ましかったんだ」
「まあ、他の吸血族の女性に比べれば、妊娠確率は高いけどな」
「じゃあ、アレンさんがエンヴィさんに言ってたのって」
アレンが去り際、エンヴィにがっつり言いおいていった言葉を思い出す。
「アレンは妊婦が飛んで移動するのを異常に嫌うんだ。不測の事態になったらどうするんだって、何時も言ってるからな」
そのせいで、カイファスはシオンが出産したとき、ゼロスが戻るまで会いに行けなかったのだ。
「おい。帰るぞ」
ゼロスが二人に帰る意志を伝えた。二人は振り返ると、返事をする。
「来月、楽しみにしてるね」
「来月って……」
トゥーイは判っていないのか、首を傾げる。
「私達の仲間になってるかもしれないだろう」
カイファスは意味深な言葉を放ち、ゼロスの元に足を向けた。
「じゃあね」
ルビィはトゥーイの両手を一度握ると、右手を振りエンヴィの元に歩いていく。
外に出ると二人は当たり前のように旦那に抱き上げられ、空に消えていった。
二人で姿が見えなくなるまで見上げていたのだが、トゥーイがいきなり声を上げた。フィネイは何事かと目を見開き、トゥーイを見やる。
「俺、お祝い言ってないっ」
ルビィにお祝いを言っていなかったことに思い当たり、今更ながらに、自分の鈍感さに嫌気がさす。
フィネイは小さく笑い声を上げた。その声に、トゥーイはフィネイを見上げる。
「改めて挨拶に行くんだ。そのときに言えばいいだろう」
「そうだけどさ、こう言うのってタイミングだろう」
トゥーイは小さくうなだれる。
フィネイはその姿に笑みしか浮かばなかった。結局、変化する体になっても、本質は変わらない。トゥーイはトゥーイのまま、フィネイの隣に居続ける。
「判ってくれてるさ」
あの迷惑を掛けた期間、彼等はトゥーイの事など見抜いている筈だ。特にシオンの洞察力は群を抜いている。トゥーイに抜けたところがあることなど、とっくに判っているだろう。
「お前はお前だ。そのままで居て欲しいよ」
「莫迦にしてるのか」
トゥーイは不貞腐れたように、上目遣いでフィネイを睨み付けた。
「違うよ。変わって欲しくないだけだ」
フィネイは架空に視線を向けた。自分の中に居たもう一人に思いを馳せ、そして、トゥーイの中に居た者のことを思う。
同じ姿の双子であった白薔薇。彼等は今の二人を見て、喜んでくれるだろうか。得られなかったものを、二人が得ることに憤りを感じたりはしないのだろうか。
いきなり考え込んだフィネイに、トゥーイは怪訝な表情を見せる。
「どうかしたのか」
フィネイは小さく首を横に振る。何でもないのだと、柔らかい笑みを見せた。
館の中から声が聞こえる。どうやら、母親がトゥーイを探しているようだった。トゥーイは慌てて返事をし、声の方へと駆けていく。
フィネイはその姿を見送り、ただ、消えてしまった存在を思い描いた。白い髪と薄い紅の瞳。辛い現実の中で生き、散っていった。全てを奪われ、全てに絶望し、消えることで安らぎを得ようとしていた。
フィネイは小さく首を振り、静かに玄関の扉を閉めた。そして、トゥーイが走っていった方角に、足を向けた。
「こんなに、締め付けないと駄目なの」
母親に思わず文句を言う。
「本当に。ドレス姿を綺麗に見せるためよ。お前の場合、一生に一度何だから、我慢しなさい」
ビシッと言い切られ、渋々、口を閉じた。まさか、紐でキツく縛り上げるとは思っていなかったトゥーイは、既に地獄を味わっていた。
そんなやり取りの中、扉をノックする音がする。
母親が静かに扉を開くと、視界に飛び込んできたのは独特の金の巻き髪。
「まだ、用意の途中なんですよ」
母親がそう告げると、シオンは瞳を輝かせた。その表情に、母親は首を傾げた。
「誰か来たのか」
トゥーイは苦しさに椅子に腰掛ける。これから更にオーバードレスを身に着けるのかと思うと、げんなりする。
「丁度いいね」
母親の脇から顔を出したシオンに、トゥーイは目を瞬いた。
シオンはその姿に合わせたような、可愛らしいデザインのドレスを身に着け、髪も綺麗に結い上げていた。
よく見れば、その後ろに居るのはカイファスとルビィ。二人共、シオン同様、ドレス姿だった。
シオンは母親に、少し大きめの包みを手渡す。
「母からです。渡せば判るって言われたみたい何だけど」
シオンは首を傾げた。
「本当に用意して下さったの」
母親は驚いていたが、嬉しそうな笑みを見せた。カイファスとルビィもその包みに興味津々だ。
「中に入ってもいいかな」
シオンは母親を見上げた。母親は頷くと、三人を中に導いた。
シオンは小走りでトゥーイに近付く。そして、満面の笑みで、手に持っている小瓶の蓋を開けた。ふわり、と舞い上がる香りに、トゥーイばかりか母親も驚きに目を見開いた。
「エンヴィ特製の香水だよ。初夜のお化粧もしないとね」
シオンの言葉に、トゥーイは完全に思考が停止した。言われたことが理解出来なかった。
「……初夜って……」
「そのまんま。フィネイには是非ともトゥーイを襲って貰いたいし、その手助け」
シオンは放心しているトゥーイの胸元に、指先で香水を塗り付けた。
シオンが言った、手助け、の言葉に、トゥーイは完全に固まってしまった。
「だってさ。僕達と違って、襲えないでしょ」
シオンは右手の人差し指を顔の前で立て、確信したようにきっぱりと言い切った。カイファスとルビィは顔を見合わせ、母親はトゥーイ同様、固まっている。
「どうしてそう、言い切れるんだ」
カイファスの問いに、シオンは振り返る。
「簡単。トゥーイにとってフィネイが夫になっても、兄として見てしまう部分があるんだよ。最近まで兄って呼んでてさ、直ぐ変われるわけないじゃない」
シオンは当たり前だと言わんばかりに口にする。
「ほら、御両親だって、早く孫の顔を見たいでしょ」
香水の小瓶を両手で握り、頬に擦り寄せ、可愛らしく首を傾げる。その瞳は楽し気に輝いていた。
「シオンって……」
ルビィは流石に脱力した。
「早く準備しよ。香水も付けたしさ」
トゥーイはその言葉に、我に返る。
「シオンさんっ」
トゥーイが呼んだ、さん付けにシオンは振り返り、眉間に皺を寄せた。
「さんは要らないって、何度も言った」
明らかに不機嫌になったのは判ったが、そんなことを気にしている暇はなかった。
「その香水って、何か秘密でもあるのかっ」
シオンは少し目を瞬いて、満面の笑みを向けた。
「判らないかなぁ」
胸元から香る甘い薔薇の香り。何かが記憶を刺激する。
「……この香りって……」
「知ってるよね。自分の体臭の匂いに近いでしょ」
トゥーイはある意味、自分の放つ薔薇の香りに対して羞恥心しか抱いていなかった。初めて意識したのが、フィネイに触れたときだ。それは、あまりに濃厚な香りを放っていた。
「準備しよ」
シオンは母親に手伝うよ、と言って駆け寄っていった。
「一杯一杯って顔だな」
カイファスは苦笑混じりにトゥーイに歩み寄る。
「シオンさんって、何か逆らえない感じなんだよな」
トゥーイは肩を落とす。
「勝てる人はジゼルさんくらいだろう。私達だって、振り回されてるんだ」
カイファスはシオンに視線を向けた。母親に婚礼衣装を見せて貰っている姿が、とても二児の母には見えない。ルビィも一緒になって楽しんでいる。
「まあ、ああなるまでが、大変だったと言えば、大変だったんだけどな」
カイファスはしみじみと呟いた。
トゥーイはカイファスを見上げた。
「育ち方が違うって、どう言うことだ」
トゥーイは黒の長が言っていた言葉を思い出す。
「両親に疎まれてる話しは聞いたのか」
トゥーイは頷いた。その事実はルビィから聞いたのだ。
「シオンは二人姉弟なんだが、両親は何故かシオンを嫌っていて、今でも疎遠のままだ」
トゥーイは驚きを隠せなかった。
「今でもうなされるくらいに、深い傷を負ってる」
カイファスはトゥーイに視線を戻した。その瞳に同情を写す色はない。
「同情は禁物だぞ」
カイファスは微笑んだ。
「確かに、両親はシオンを嫌っているかもしれないが、今の家族がシオンを愛している」
トゥーイは最初に見た、シオンとジゼルの姿を思い出す。あのとき、羨ましいと感じるほど、ジゼルはシオンを慈しんでいた。
「うん……、それは判る」
「取り敢えず、トゥーイは今の試練を乗り越えるだな」
カイファスは三人が手にしている婚礼衣装を見、トゥーイの強ばっていく顔を眺めていた。
トゥーイのための婚礼衣装は誰が見ても、かなりの重さがあるのが判る。
「全面、刺繍が刺してあるんだ」
トゥーイはぐったりとしていた。
「あれは重いだろうな」
「だろ。試着したんだけどさ、完全に拘束具なんだ」
母親は娘がいたら、婚礼衣装に刺繍をするのが夢だったらしい。それを聞くと、流石のトゥーイも重くて嫌だとは口に出来なかった。しかも、三ヶ月という短期間で仕上げたのだから、かなりの無理をしたに違いない。それを考えると、耐えるしかないのだと、呪文のように繰り返す。
数時間我慢すれば解放される。そう、言い聞かせても、目の前の高い山に目眩を覚える。
「白薔薇だから、衣装が白いのは当たり前なんだろうが、私には新鮮だな」
カイファスの呟きに、トゥーイは顔を上げた。
「まあ、赤い婚礼衣装は目にしたことがあるが、他部族の色は違和感が強い」
トゥーイはカイファスの呟きに、何かが引っかかった。何故、赤い婚礼衣装を見たことがあるのか。
「シオンが着た婚礼衣装は赤だったんだ」
トゥーイの疑問に、カイファスはさらりと答えた。どうやら、表情に出ていたようだ。
「でも、シオンさんって黒薔薇だよな」
トゥーイの疑問は尤もだった。
「まあ、な。でも、ジゼルさんは紅薔薇の出身なのを知っているか」
カイファスはからかうように、笑いを浮かべた表情を見せる。
「シオンがルビィとエンヴィに誘拐された話しは聞いたんだろう」
トゥーイは頷いた。
「そのときに、黒の婚礼衣装は使い物にならなくなったんだ。急遽、ジゼルさんの婚礼衣装をシオンは使用した。二部族長の許可の元に」
今でこそ、笑い話になるが、当時は皆が一杯一杯だった。アリスが現れたことで、更に事態は混乱したのである。
「でも、可愛かったんだぞ」
カイファスは当時のシオンを思い出す。本人は着慣れない色で、落ち着かない様子だったが、黒よりも明らかに似合っていた。
「俺も見たかったなぁ」
トゥーイは残念そうに呟いた。カイファスは小さく笑う。
「あの衣装はもう、着ることは出来ないからな。普通なら、一生に一度だ」
カイファスは再び三人に視線を向けたのだが、その三人が衣装を手に近付いてくる。
「始まるみたいだな」
トゥーイはびくりと体を震わせ、恐々とカイファスの視線の先を見た。
カイファスはその光景を、大人しく見ていた。シオンから香水瓶を渡され、座っているようにと、言われたからだ。
「アレンに怒られるからカイファスは座っててね」
極上の微笑みを向けたシオンは、嬉々としてトゥーイの着替えを手伝っている。トゥーイはまさに、借りてきた猫状態で成されるがままだ。
髪を左耳の下で一つに束ね、白薔薇で飾り付ける。そこまでの間に、トゥーイは完全に疲れ切っていた。顔に淡い化粧を施す頃には、口を開く元気すら削ぎ落とされていた。
母親は両手を腰に当て、満足気に頷くと、手渡された包みに手を掛ける。中から出て来たのは、繊細な作りのレース。
「見事なアンティークレースだな」
カイファスは感嘆した。しかし、それを見た母親は固まった。
「何かレイチェルさんと楽しそうに話してたのって、これなのかなぁ」
シオンは最近頻繁に現れていたレイチェルに、実は首を傾げていた。
「そいえば、ルビィのお母さんも来てたし」
ルビィは驚いたようにシオンを見た。
「知らなかったの」
ルビィの様子に、どうやら、黙って来ていたようだ。
「で、このレースの使い道って」
カイファスはレースを指差し、首を傾げた。包みの大きさから、かなりの大きさであることが判る。畳まれた感じから、一枚のレースであることは判るのだが、使い道などテーブルクロスなどの家具に飾り付けるのが、吸血族では普通だった。
母親はカイファスの言葉に我に返り、このレースの経緯を話してくれた。
衣装を作るために、一度、ドレスを持って母親は検査中のトゥーイの元を訪れた。そこで、ジゼルと話をし、人間の世界では花嫁は純白の花嫁衣装に、頭にはベールを被るのだと言う話しを聞いた。
それを聞いたシオンとルビィの瞳が輝いた。
「広げてみようよ」
シオンは嬉しそうに言った。ルビィは頷くと、二人でレースを広げた。畳まれていたときはかなりの重さを感じたのに、そのレースは編むときに使われた糸が細いのか、思いのほか軽かった。
そして、二人は躊躇うことなくトゥーイの頭にベールを被せる。トゥーイはいきなりきた何かを被せる感覚に、驚いたように顔を上げた。どうやら、周りの会話が耳に入っていなかったようだ。
「薔薇だけより、華やかだな」
カイファスは少し離れた位置から見たトゥーイの姿に、そう感想を漏らした。
吸血族の女性の婚礼衣装にベールを使うことはない。頭を飾るのは、部族を象徴する色の薔薇が使われる。だが、白というのは他の色と違い、くどさがない。だからなのか、その存在は確かに花嫁を華やかに彩っていた。
呆然となったのは母親だ。広げたレースの感じから、高級品であると認識するのは容易だった。
「……こんな高価なものを……」
ジゼルは嬉々として、ベールを用意させてほしいと申し出てくれた。最初断ったのだが、強引に押し切られた形だった。だから、目の前の品に動揺を隠せなかった。
シオンは母親の呟きに、ベールに視線を向けた。確かにかなりの高級品なのは一目で判る。だが、これくらいの品物では、ファジールの懐は少しも痛まない。
「気にする必要ないよ。お父さんだったら、これくらいの品物なんて高級品のうちに入らないってば」
シオンはあっけらかんと言ってのける。
「それにレイチェルさんが入った時点で、高くなるのなんて当たり前だし、お父さんは逆らえないから」
ジゼルとレイチェルに掛かれば、ファジールなど軽くあしらわれるに決まっている。
「それに、多分だけど、みんなの御祝い品だと思うよ」
母親は驚きを顔に貼り付ける。
「そうなるか」
カイファスはレイチェルがアジルにおねだりしている現場を見ていた。ルビィも母親が珍しくエンヴィに頼み事をしているところを見ていたのだ。
「僕達のときって御祝いとかの雰囲気じゃなかったしさ。ルビィのときだって、エンヴィが忙しすぎて、それを二人が手伝っていたり、周りも慌ただしかったからさ」
ある意味、一番、御祝いの雰囲気が強いのだ。確かに期間は短かったが、周りは儀式を楽しみにしていた。
シオンは部屋の中を見渡し、部屋の隅に置いてある姿見の鏡を引っ張ってくる。ルビィもそれを手伝い、トゥーイの前に運んでくる。
「トゥーイ、見て。綺麗だよ」
「うん。白って他の色と違って、何か良いね」
「本人が白いから、衣装は少し色が入ってるんだな」
衣装だけ見れば確かに白いのだが、トゥーイが身に着けると、少しクリーム色がかっていることが判る。
「この子が白すぎるんで、純白にはしなかったんですよ」
母親は苦笑いを浮かべる。普通なら、真っ白な生地で衣装を作るのが白薔薇では当たり前だった。
トゥーイの場合、それをすると真っ白になってしまう。
「良いと思う」
シオンはうっとりとトゥーイを見入る。
「早くフィネイに御披露目しないとね」
ルビィも嬉々として胸の前で両手を組み合わせ、うっとりとしていた。
当の本人はそれどころではない。重いわ、締め付けられるわ、何より女性用の品物を全身に身に着ける羽目になり、落ち着かない。それは下着から何から何まで全てなのだ。
普段、これほど拘束されているような衣服は身に着けない。息苦しさに喘いでしまう。
「トゥーイ、慣れないと後で大変だぞ」
カイファスが苦笑混じりにそんなことを言った。トゥーイは何のことだろうとカイファスに視線を向け、首を傾げた。
「招待状が沢山届くんだろう。言っておくが、私達が招待を受けるときはもれなく満月だ。つまり、此処まで凄くなくても、ドレスを身に着けて出席することになる」
トゥーイは目を見開き、今の言葉に固まった。
「フィネイの妻として同伴するんだ。当たり前だろう」
にっこり、と笑みを向けられ、こめかみがひくついた。
「……じゃあ、今もみんなこの苦しい感じを体験中なのか」
トゥーイは恐る恐る問い掛ける。シオンとルビィが普通にはしゃいでいる姿を見ると、とても信じられない。
「私は妊娠中だから、締め付けてはいないが、二人はちゃんと補正下着を身に着けている筈だぞ」
これで、と言わんばかりの情けない表情で、トゥーイは訴える。
「慣れだろうな。女性はつくづく、凄い存在なんだって認識出来るだろう」
トゥーイは力無く頷いた。女性になって初めて気が付いたことは多いが、一言で言うと、面倒臭いが素直な感想だった。
†††
トゥーイは朦朧とした意識で目が覚めた。辺りを見渡し、今、居る場所を確認する。ベッドの上であるのだと認識した。
身を起こし、無意識にシーツで体を包み込んだ。そして、鮮明に思い出したのは、昨日の出来事。
「……俺……」
そこでようやく、隣にフィネイが居ないことに気が付いた。
微かに聞こえてきた扉が開く音に、自然と体が動いた。音が聞こえたのは、バスルームへと続く扉だった。頭を拭きながら、バスローブ姿で現れたのはフィネイだった。
微かな衣擦れの音に、フィネイは顔を上げる。ベッドの上でシーツに身を包み、トゥーイが座り込んでいた。
「目が覚めたのか」
ゆっくりとした歩調でベッドまで歩み寄り、トゥーイを覗き込む。
「体は大丈夫か」
フィネイの問いに、トゥーイは小さく頷いた。確かに怠いし、腰の辺りに違和感はあるが、耐えられないというわけではない。
「一応、洗ってやったんだが、気持ち悪いか」
何を言われたのか、トゥーイは判らなかった。
「そんなことをしなくても、夜着を着ているだろう」
笑いを含んだ声に、トゥーイはゆっくりと自分の体に視線を向けた。
体は何時も休むときに着ている夜着に包まれていた。頬に張り付く髪がしっとりと湿っている。引き寄せたシーツは真新しいのか、触り心地が良かった。
「あのままじゃあ、気持ち悪いだろう」
昨日のことを鮮明に思い出し、トゥーイは真っ赤に頬を染めた。
初めて女性の体でフィネイに抱かれた。月が隠れ元の体に戻ったのだが、その姿でも抱かれたのだ。
もう無理だと、泣きながら懇願した記憶がある。その後、意識を手放し、目が覚めるまで、トゥーイは全く気が付かなかったのだ。
トゥーイは顔を染めたまま、覗き込んでくるフィネイを上目使いで睨み付けた。少しは手加減をして欲しかったと、恨みがましい思いが浮かび上がる。
「……獣」
トゥーイの呟きに、フィネイはにやりと笑った。
「お前限定だ」
「……そんなこと言われても、嬉しくない」
トゥーイは少し拗ねたようにそっぽを向く。
「……身が保たないだろう……」
フィネイは破顔した。
「昨日はお前が悪い」
いきなり降ってきた言葉に、トゥーイは目を見開いた。
「儀式の最中から、あんな香りをさせてたら、理性が持たないだろう」
トゥーイはひくりと、顔が引きつった。シオンが嬉々として胸元に落とした香水。フィネイの理性を崩壊させ、トゥーイを襲うようにと張った罠だった。
フィネイはまんまとシオンの策略に嵌ったのである。黙り込んだトゥーイに、フィネイは首を傾げた。
「……あれ、俺の体臭じゃないから」
フィネイは目を瞬いた。意味が判らなかった。大体、重く、拘束される婚礼衣装を身に着け、フィネイを誘う香りを自分から放つのは無理ではないか。
昨日、着替えの最中にあったことを、トゥーイはフィネイに語った。
「香水だって」
「そう。エンヴィさんが、お祝いにって作ってくれたって、ルビィさんに聞いたんだけど、そのベースの薔薇が俺の体臭に近い香りなんだってさ」
儀式に向かう途中、申し訳無さそうにルビィは香水のことを話してくれた。シオンとルビィはトゥーイの放つ薔薇の香りを、はっきりとした状態で嗅いでいる。
薔薇同士で感じる薔薇の香りは微かなものだが、濃厚に匂い立つ香りは余程でなければ嗅ぐことは出来ない。
「で、その香水は」
フィネイの問いに、トゥーイは首を傾げる。香水の存在は知っていても、今現在の所在は判らない。
「知らない」
「知らないってっ」
フィネイは動揺した。いきなり着替え始めると、部屋を出て行った。判らないのはトゥーイだ。
「ちょっ」
立ち上がろうとした瞬間、力が抜けた。正確には、下肢に力が入らなかった。ベッドに突っ伏し、だが、気を取り直して立ち上がり、身支度を整えると、フィネイの後を追った。
フィネイは何に動揺したのだろうか。
トゥーイがフィネイに追い付いたのは、エントランスの前だった。そこには三組の薔薇の夫婦とベンジャミンの姿があった。
フィネイはシオンと対峙していたのだが、シオンの顔に張り付いたのは意味ありげな微笑み。逆にフィネイは表情が引きつっていた。
「僕の勝ち」
シオンは腕を組み、邪気のない笑みをフィネイに向けた。その光景を見詰めている六人は複雑な表情をしている。アレンに至っては、溜め息すら漏らしていた。
「来月、楽しみにしてるから」
シオンはトゥーイの姿を目聡く見つけると、近付いてくる。
「手出して」
トゥーイは言われたことに上手く反応出来なかったが、素直に右手を差し出す。その掌の上に乗せられたのは、昨日見た小さな小瓶。
「これはトゥーイに渡すね。フィネイを誘惑したいときに使ってね」
その言葉にトゥーイとフィネイは顔を引きつらせ、固まった。
「二人共、凄い色香だし、上手くいったみたいだし」
シオンは嬉々としている。それに脱力したのはフィネイだ。アレンとゼロス、エンヴィは同時に溜め息を吐いた。ゼロスはフィネイに歩み寄り、右肩に手を乗せた。
「諦めろ。彼奴に勝てる奴は居ないんだ」
ゼロスの諦めを促す言葉に顔を上げ、男性陣に視線を向けたフィネイは、更に脱力した。言葉だけではなく、その様子からも察することは容易だった。
「すまない。彼奴は一旦暴走すると、止まらないんだ」
本当なら二人が起きて来る前に帰るつもりだったのだ。そのつもりだったのだが、シオンが確かめたいとただをこねた。
そして、皆が皆、シオンに対して恐ろしく甘いのだ。アレンが宥め賺しても、ガンとして譲らなかった。
アレンは小さく首を振ると、大股でシオンに近付き、体を持ち上げ、担ぎ上げた。流石にこれ以上の迷惑は掛けられない。
「アレンっ」
「確認しただろうが。帰るぞ」
シオンは不満そうに唇を尖らせる。
「その香水はその小瓶の中だけだそうだ。まあ、薔薇そのものが少ないからな。エンヴィもお前が必要ない限り、もう、調香しないそうだ」
アレンはトゥーイにそう一言告げ、有無を言わさず、外へと足を向ける。
「僕はまだ訊きたいことがあるんだってば」
シオンはアレンの背中を力任せに叩く。
「訊いてどうするんだ。これ以上、引っ掻き回すのはやめろ」
アレンはベンジャミンを促し、外へと誘う。
「先に帰る」
ゼロスとエンヴィにそう告げた。
「エンヴィはルビィを一人で行かせるなよ。妊婦が空を翔るのは本当にごめんだからな」
エンヴィは小さく頷く。それを見届けると、アレンはシオンを肩に担いだまま、ベンジャミンと共に帰って行った。
「何時もながら、嵐だな」
ゼロスは脱力する。
「ある意味、アレンが最強じゃねぇか」
エンヴィはそう言葉を漏らした。
「アレンの莫迦っ」
外からシオンの叫び声が聞こえ、小さくなっていった。どうやら、館を離れたようだ。
「何時ものことだけど、シオンって凄いよね」
ルビィは呆然と呟く。
「凄いって言うか、今まで大人しくさせられてた腹いせじゃないか」
カイファスはルビィに視線を向けた。トゥーイは少し躊躇い、二人に歩み寄る。
「……あのさ」
遠慮がちに声をかける。
「どうかしたのか」
カイファスは微笑みかける。
「これ、どうすれば……」
手の上にある小瓶をどうしていいのか判らず、トゥーイは戸惑いを浮かべる。
「それはトゥーイの物だ。好きにしたらいい」
トゥーイは小さく頭を揺らし、考えを巡らせる。
「ほとぼりが冷めたら、使えるかな」
その言葉にカイファスとルビィは顔を見合わせる。
「……俺、みんなみたいに襲えないし」
シオンにはっきりきっぱり言い切られたが、それは間違いではないとトゥーイは思った。襲われることはあると思うが、襲うことは不可能だ。それと同じくらい、自分から誘うことも絶対に無理だった。
「時間をあければ大丈夫だろう」
カイファスが小声で囁いた。
「使うの」
ルビィも小声で問い掛ける。
「俺だって、欲しいと思うときあるしさ……」
顔を真っ赤に染めながら、小さく答える。
「エンヴィに頼んどこうか。あの薔薇ってあんまり育たないみたいだから、一年に一回くらいだと思うけど」
ルビィの言葉にトゥーイは小さく頷いた。
「……出来れば、兄さんにばれないように」
三人で頭を突き合わせ、小声で話す。
「トゥーイはいい加減、兄さん、を卒業した方がいいぞ」
カイファスは苦笑混じりに忠告する。
「判ってるんだけど、癖が抜けないんだよな」
意識していれば名前で言えるのだが、無意識だと兄と言ってしまう。これは、慣れるまで仕方がないのだと、トゥーイは俯いた。
「私達の前では問題ないが、他は違うぞ。恥をかくのはフィネイなんだ。早く慣れないとな」
カイファスに言い切られ、トゥーイは小さく頷いた。
「まあ、仕事はしなくなるだろうし、遊びに来たらいい。シオンなら何時でも大歓迎してくれるぞ」
カイファスは笑いを含んだ声で、そんなことを言った。
カイファスの仕事をしない、の言葉にトゥーイは顔を上げる。その表情に二人は苦笑いを浮かべた。
「ここに命が宿って、仕事なんてしてたら、アレンが怖いよ」
ルビィがトゥーイのお腹を指差し、おどけたように言った。
「旦那より、アレンだよな。ファジールさんもだけどね」
カイファスもおどけたように肩を竦める。
「僕はなかなか宿らないけど、トゥーイはどうなんだろ」
ルビィは目を細めた。トゥーイは改めてルビィに視線を向けた。シオンは男性の姿だったのに、二人は昨日と同じ女性の姿のままだった。
「ルビィさん、おめでた」
疑問を素直に口にした。
「うん。やっとかな。ルーのときもなかなか宿ってくれなくて、二人が羨ましかったんだ」
「まあ、他の吸血族の女性に比べれば、妊娠確率は高いけどな」
「じゃあ、アレンさんがエンヴィさんに言ってたのって」
アレンが去り際、エンヴィにがっつり言いおいていった言葉を思い出す。
「アレンは妊婦が飛んで移動するのを異常に嫌うんだ。不測の事態になったらどうするんだって、何時も言ってるからな」
そのせいで、カイファスはシオンが出産したとき、ゼロスが戻るまで会いに行けなかったのだ。
「おい。帰るぞ」
ゼロスが二人に帰る意志を伝えた。二人は振り返ると、返事をする。
「来月、楽しみにしてるね」
「来月って……」
トゥーイは判っていないのか、首を傾げる。
「私達の仲間になってるかもしれないだろう」
カイファスは意味深な言葉を放ち、ゼロスの元に足を向けた。
「じゃあね」
ルビィはトゥーイの両手を一度握ると、右手を振りエンヴィの元に歩いていく。
外に出ると二人は当たり前のように旦那に抱き上げられ、空に消えていった。
二人で姿が見えなくなるまで見上げていたのだが、トゥーイがいきなり声を上げた。フィネイは何事かと目を見開き、トゥーイを見やる。
「俺、お祝い言ってないっ」
ルビィにお祝いを言っていなかったことに思い当たり、今更ながらに、自分の鈍感さに嫌気がさす。
フィネイは小さく笑い声を上げた。その声に、トゥーイはフィネイを見上げる。
「改めて挨拶に行くんだ。そのときに言えばいいだろう」
「そうだけどさ、こう言うのってタイミングだろう」
トゥーイは小さくうなだれる。
フィネイはその姿に笑みしか浮かばなかった。結局、変化する体になっても、本質は変わらない。トゥーイはトゥーイのまま、フィネイの隣に居続ける。
「判ってくれてるさ」
あの迷惑を掛けた期間、彼等はトゥーイの事など見抜いている筈だ。特にシオンの洞察力は群を抜いている。トゥーイに抜けたところがあることなど、とっくに判っているだろう。
「お前はお前だ。そのままで居て欲しいよ」
「莫迦にしてるのか」
トゥーイは不貞腐れたように、上目遣いでフィネイを睨み付けた。
「違うよ。変わって欲しくないだけだ」
フィネイは架空に視線を向けた。自分の中に居たもう一人に思いを馳せ、そして、トゥーイの中に居た者のことを思う。
同じ姿の双子であった白薔薇。彼等は今の二人を見て、喜んでくれるだろうか。得られなかったものを、二人が得ることに憤りを感じたりはしないのだろうか。
いきなり考え込んだフィネイに、トゥーイは怪訝な表情を見せる。
「どうかしたのか」
フィネイは小さく首を横に振る。何でもないのだと、柔らかい笑みを見せた。
館の中から声が聞こえる。どうやら、母親がトゥーイを探しているようだった。トゥーイは慌てて返事をし、声の方へと駆けていく。
フィネイはその姿を見送り、ただ、消えてしまった存在を思い描いた。白い髪と薄い紅の瞳。辛い現実の中で生き、散っていった。全てを奪われ、全てに絶望し、消えることで安らぎを得ようとしていた。
フィネイは小さく首を振り、静かに玄関の扉を閉めた。そして、トゥーイが走っていった方角に、足を向けた。
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