浅い夜・薔薇編

善奈美

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Ⅶ 眠らない月

11 SS01 蜜月

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「置いてくるから」

 エンヴィはそうルビィに言いおくと、少し大き目の皿を持って部屋を出て行った。

 皿には薄く水をはり、そこにルビィの頭を飾っていた薔薇を浸している。

 一人部屋に残され、ルビィは考えた。皆を見送るとき、不安を吐露していた。エンヴィはもしかしたら抱いてくれないかもしれない。

 その言葉に躊躇うことなく答えたのがジゼルだった。その言葉に勿論ルビィだけでなく、皆が固まった。

「本当に相手が欲しかったら、待っていては駄目よ」

 はっきりと言い切られた。

 エンヴィは皿を仕事部屋に置いた後、部屋に戻るために踵をかえした。

 今日のために仕事を切り詰め区切りをつけていた。

 部屋の前まで来ると、自然と足が止まる。アレンの言葉が耳に残っており、変に意識していることが判った。

 荒んでいたときなら、正気でなかったときなら、平気で行えていた行為は、自覚してしまった今は変に恥ずかしさが生まれた。

 何時までもそうしているわけにもいかず、小さな溜め息と共に部屋に入るために扉を開く。

 すると、いきなり腕を掴まれ、ベッドの上に放り投げられた。

 混乱し、扉の閉まる音を聞きながら、エンヴィは完全に困惑した。

 体にのし掛かり、見下ろしているルビィに息をのむ。

 長い髪を流し、華奢な体が纏っているの薄い夜着だけだ。髪がエンヴィの体の上に散っていた。

「……ルビィっ」

 いきなり首筋を生温かい舌が舐め上げた。

「しよ」

 耳元で囁かれ、顔が熱を持ったことが嫌でも判った。

 ルビィは更に大胆にエンヴィの服に手をかけ、シャツのボタンを外していく。下肢に手が向かったことに気が付き、慌てて腕を掴んだ。

 今までのルビィなら、こんなに積極的ではなかった。

「一体、どうして……」

 上擦った声のエンヴィにルビィは顔を上げた。

「みんなに相談したら、ジゼルさんがエンヴィを襲えって」

 エンヴィは完全に思考が停止した。

「だって、今日、抱いてくれるつもり無かったでしょう」

 首を傾げルビィは囁いた。図星だったのでエンヴィは口を噤む。

「僕、待ちすぎて干上がりそうなんだけど」

 ルビィは言うなりエンヴィの唇を自分のそれで塞いだ。

 最初、固まっていたエンヴィだったが、基本的に襲われる趣味はなかった。ルビィが唇を放した瞬間、体を入れ替える。

 いきなり変わった視界にルビィは驚いたように目を見開いた。

 やはり男のときと比べると、力が弱い。

「襲われる趣味はねぇ」
「襲わないと、抱いて貰えないでしょう」

 間髪入れずに切り返してきた。一体、どんな情報を仕入れてきたのか、やたらに強気だ。

「滅茶苦茶にして欲しいんだけど。エンヴィだけのものだって」

 ルビィはエンヴィを見上げ微笑んだ。

「男の僕はエンヴィのものだけど、女の僕はまだ、誰のものでもないんだよ」

 ルビィは見下ろしているエンヴィの両頬を両手で包み込んだ。

「だから、エンヴィだけのものにして」

 その言葉はエンヴィの中の何かを崩した。一気に理性が崩壊した。

 ルビィの唇に噛みつくような口付けをし、咥内を蹂躙する。ルビィはその激しさを素直に受け入れた。

 首に腕を回し、更にエンヴィを求めた。息すらも奪われるような激しさだった。名残惜しそうに離された唇から透明な糸が伝った。

「……一度始めたら止まらねぇぞ……」

 ルビィはその言葉に微笑んだ。

「それが望みだから。僕にエンヴィを頂戴」

 エンヴィは切なげに目を細めた。今までと違う。互いに求め合う行為に凄く興奮していた。

 エンヴィはゆっくりとルビィの首筋に顔を埋めた。敏感な部分に愛撫を施し、息が上がる様に更に興奮した。

 耳に届く嬌声がエンヴィを刺激する。

「ルビィ」

 上擦った声で名前を呼ぶと、潤んだ瞳が見詰めてきた。熱を帯び、頬が上気している。

 十分に舌と指を使い花弁を柔らかく解していく。ルビィは恥ずかしさに顔を背け、唇を咬んでいた。

「……もっ……そこばっかりっ」

 ルビィはエンヴィが必要に舌を這わせる場所に羞恥しか生まれなかった。だが、興奮しているのか、体の奥から何かが溢れてくる。

「……ちゃんとしないと、辛いのはルビィだろ」
「……っ、わかっ……でも、恥ずかしっ」

 エンヴィはルビィの様子を見ながら、指を埋めてきた。体が異物を関知すると、びくりと震えた。浅い場所の内部を撫で上げると、激しい反応を示した。

「……ぁ……っ」

 目を見開き、敷布を強く握り締める。

「痛くないか」

 確認してくる言葉にルビィは頷いた。痛くはないのだが、変な感じがした。

「中が……変っ」
「どんな風に」

 ルビィは恥ずかしさに頬を赤く染めた。

「痺れて……何かが……溢れてくる」

 荒い息を吐き出しながら、必死で訴えた。

「ルビィ、ほら、凄い蜜だ」

 エンヴィはわざと今まで差し入れていた指をルビィに見せた。そこには指に絡みついた愛液が微かな光を浴びて光っていた。

「……そんなの、見せないで……」

 恥ずかしさに涙が出てくる。

「どうしてだ。感じてる証拠だろ」

 また、戻された指が水音をたてながらルビィを狂わせる。

「……やぁ……ぁ……」

 エンヴィは体を震わせ、快楽をやり過ごそうとしているルビィを見詰めた。今まで、こんなに焦がれた気持ちになったことはなかった。

 もっと、ルビィの痴態を見ていたかったが、時間が許してくれなかった。徐に指を引き抜くと、ルビィに覆い被さる。

 いきなり目の前にきた顔にルビィは荒い息を吐き出しながら見詰めた。

「少し、我慢してくれ」

 ルビィは頷いた。何を言われているのか理解していた。初めて受け入れるのだ。破瓜の痛みがどれほどのものかは判らない。

 女の部分に熱いものが押し当てられ、ルビィは息をのんだ。エンヴィにすがりつき、来るであろう痛みに身構える。

 エンヴィは最初、少し躊躇い、様子を見ていたが、一気に中に押し入る。

 ルビィは背をたわませ、目を見開き浅い息を吐き出した。覚悟はしていたが、初めて味わう痛みに涙が溢れ出す。

 エンヴィはルビィを宥めるように、頬に口付けを落とした。

 エンヴィはそのまま動かなかった。ただ、ルビィの中に馴染むのを待った。

 ルビィは不思議そうにエンヴィを見上げ、何故、動かないのかと疑問を持った。すると、体が変化を始める。呑み込んだ熱塊を包み込むように蠢き始める。

「……ぁ……」

 エンヴィは動いていないのに、体が快楽を求め始めた。初めての筈であるのに、満月の魔力の影響なのか、動いてくれないもどかしさで蜜壺が収縮を始める。

 その変化を待っていたエンヴィはいきなり動き始めた。最初は確認するように、浅く突き上げる。

「……ゃあ……」

 体をたわませ、たった一度の突き上げに、頭の中が白く霞んだ。

「痛くないか」

 涙目になりながら、激しく頷いた。痛みより快楽の方が大きい。こんなのはおかしいと思うのに、体は貪欲に刺激を求め始めた。

「……ぁ……っ、体がっ……」

 徐々に速くなり激しくなっていく律動に、意識が飛んでしまうかと思うほど、気持ち良すぎた。甘い痺れが体中を駆け巡り、足先から頭の先まで快楽を伝えていた。

 ルビィは恥ずかしいと思いながらも、声を抑えられなかった。

「ルビィ」

 エンヴィはルビィの耳元でかすれた、上擦った声で何度も名前を呼ぶ。それは熱で浮かされたように繰り返され、ルビィの耳から脳に染み渡り、更に興奮を煽っていた。

「……もぅ……だぁ……っ」

 ルビィは堪えられなかった。一際激しい突き上げに喉を仰け反らせ、震えながら女の体で初めて達した。体の奥底から何かが溢れ出す。

 ルビィは無意識にエンヴィを締め上げていた。男の体とは違う、絡み付くような蜜と熱に眉を顰めた。

 そして少し後に、ルビィの中に白い蜜を弾けさせた。
 
 
      †††


 エンヴィは意識を飛ばしたルビィに覆い被さり、二人に言われたことを実行した。激しい絡まりのときに、ルビィの中に集中し初めてそれを見た。

『ルビィを大切に思うなら、絶対に実行しろ』

 ゼロスは真剣な表情でエンヴィに告げた。

『ただ、これは誰にも言うな。お前を信用して言うんだ』

 アレンも真剣な面持ちで言った。

『ルビィの中に扉がある。干渉しろ。触れるだけでいい』

 ゼロスはそう言った。だから、見付けたとき、触れた。

 触れた部分から波紋の様に扉が揺らめく。何かが絡み付くように、扉は少し身悶え、沈黙した。

『ルビィには言うな』
『干渉した後から、お前はルビィの変化時に与えられる痛みを半分受け持つことになる』

 聞いたとき、正直に驚いた。一人、痛みに耐える姿は見るだけで胸を締め付けたからだ。

『半信半疑か』

 アレンにそう問われ、素直に頷いた。

『本来は妊娠期間を安全にするための処置だ』

 ゼロスは説明を始めた。このことに関して、アレンよりも詳しかったからだ。

『銀狼族は誰でも妻となった者の扉に干渉する。吸血族は何故かその知識を持っていなかった』

 扉とは魔力の源だ。魔族の魔力はその扉から得ているものなのだが、知っている者は少ない。

 変化時の痛みは二人が干渉し、初めて女性に変化したときに気が付いた。勿論、シオンとカイファスは知らない。

『痛みを分かちあえるわけだ。嬉しいだろ』

 アレンに言われ、正直に嬉しかったのを覚えている。

 エンヴィの下で行為後の色っぽさを体に宿したルビィが僅かに身じろぎした。

 小さく息を吐き出し、睫毛が震える。

「大丈夫か」

 エンヴィは小さな声で問い掛けた。ゆっくりと開かれた鴇色の瞳が、僅かに細められる。

「……また、居なくなってるかと思った……」

 溜め息のようにルビィは言った。エンヴィはその様子に華奢な体を強く抱き締めた。

「もう、何処にも行かないから」
「うん……」

 ルビィはエンヴィの背に腕をまわした。少し力を込め、胸に顔を埋める。

 その日、二人は初めて心が触れ合い、本当の意味で抱き締めあった。
 
 
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