浅い夜・薔薇編

善奈美

文字の大きさ
上 下
35 / 111
Ⅶ 眠らない月

01 日記

しおりを挟む
 偶然、 物置の中から見つけたのは古い日記だった。ほんの少し興味を持っただけだった。数ページ読み進めあることに気が付く。

「これ……」

 普通の日記ではなかった。綴られていたの苦痛の日々。書いたのは苦痛を与えられた者ではなく、待ち続けた者。

 文字は幼く、けれど、憎しみを刻みつけたような書き殴ったような感じがした。両親を奪われ、置き去りにされた孤独の言葉を書き連ねている。

 体が震えた。

 そこに書かれていた事実に驚愕した。

 思い出すのは友人のシオンだった。満月の光で女性となり、次の満月の日に婚礼の儀を迎える。

 相手は男性。黒薔薇の主治医の後継者だ。

 日記を綴っているのは満月で女性となった者の子供。最後まで両親と暮らすことなく、その両親はこの世から消えた。

「……これが真実だったら……」

 恐ろしい現実だ。日記を持つ手が震えた。そのまま日記は落下し、埃が舞い上がる。拾い上げる勇気がわかなかった。

 もし、シオンやカイファスが知ったらどうなるだろうか。

 相手が知ったらどうなるだろうか。何よりおぞましかった。

 吸血族は呪われた種族だ。少なくともルビィはそう思った。何かが狂い、何かが知らない内に決まっていく。

 日記の主はおそらくルビィの祖先だ。吸血族に流れる犠牲となった者達の血。その中でルビィの祖先は本当に愛し合った者達の間に生まれ、苦痛と憎しみを育んだ。

「シオン……」

 シオンに知らせるべきか悩み、だが、無理であると思い直す。準備に忙しい筈だ。この話しは幸せに水を差すことになる。

 だが、一人で抱えるには重すぎる。押しつぶされそうになる。しかし、誰かに語るのは危険すぎた。

 では、黒の長に知らせるべきか。ルビィは悩み、決断することが出来なかった。

 一日が過ぎ、二日が過ぎ、心は沈んでいく一方だった。シオンから招待状が届くと更に心が沈んだ。祝福したいのに、何かが邪魔をする。

 ルビィはそんな中で最大の罪を犯してしまった。友人のエンヴィに漏らしてしまった。無意識だったと言えば嘘になる。

 楽になりたかったのだと、心の片隅で呟く者がいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【R18】散らされて

月島れいわ
恋愛
風邪を引いて寝ていた夜。 いきなり黒い袋を頭に被せられ四肢を拘束された。 抵抗する間もなく躰を開かされた鞠花。 絶望の果てに待っていたのは更なる絶望だった……

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

彼女の母は蜜の味

緋山悠希
恋愛
ある日、彼女の深雪からお母さんを買い物に連れて行ってあげて欲しいと頼まれる。密かに綺麗なお母さんとの2人の時間に期待を抱きながら「別にいいよ」と優しい彼氏を演じる健二。そんな健二に待っていたのは大人の女性の洗礼だった…

処理中です...