浅い夜・薔薇編

善奈美

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Ⅲ 薔薇の呪縛

06 SS02 夜下がり

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 ある日のジゼルとファジールの会話。
 アレンとシオンの思い出のお話し。


 ある日の事。ファジールは本を読み、ジゼルは編み物をしていた。そんなとき、ジゼルがいきなり笑い出した。驚いたのはファジールだ。

「どうかしたのか」

 そう問うファジールにジゼルは笑いながら言った。

「ちょっと、思い出しちゃって」

 ジゼルは話し出した。

 それはシオンが治療に訪れ、ある程度、痕が目立たなくなった頃だった。その当時、アレンは女装に近い姿をしていたのだ。勿論、ジゼルの趣味だった。

 女の子の姿で、完全に男の子の遊びをしていたアレンに、幼いシオンが言ったのだ。

「女の子なのに、危ないよ」

 少し泣きそうな顔でそう言ったシオンに、アレンは指を突き付けた。

「女の子扱いするな。俺は男だ。お前こそ、そんな生っちょろい体で男とか言うなよ」

 男言葉のアレンにシオンは豆鉄砲をくらった鳩の如く、目を見開いたのだ。

「えっ」

 シオンは完全に固まった。見た目は完全に女の子なのに、態度が完全に男の子だったせいだ。

「もう、それを見たとき、可笑しくって」

 ジゼルは笑い続けた。ファジールはその現場を見ていない。気が付けば、二人は仲良く遊んでいたことしか知らなかった。

「互いに信じられなかったみたいで、どうしたと思う」

 ジゼルはファジールにそう、問い掛けた。

「スカートを捲り上げたのよ」

 ジゼルは更に大笑いだ。

 シオンは驚いていたのだが、自分と同じものを目の当たりにし納得しているように見えた。

 納得しなかったのはアレンだったのだ。シオンは確かに男の子の服を着ていたのだが、あまりに可愛すぎた。

 金の巻き髪に、澄んだ琥珀の大きな瞳。黙っていれば美少女だった。

 シオンはアレンに促され、渋々ズボンを下ろした。

「確認し合ったのか」

 ファジールは呆れてしまった。二人の出会いはある意味、笑い話だったのだ。

「二人は覚えていないでしょうね」

 ファジールはそんなジゼルの様子に小さく首を振った。

「どうかした」

 ファジールの様子に、ジゼルは首を傾げる。

「黙って見ていたのか」
「当たり前じゃない。親が出て行ってどうするのよ」

 ジゼルは悪びれた様子もなく言い切った。

「その後、仲良く遊んでいたもの。問題ないでしょう」

 確かにその通りだが、見られていた当人達はたまったものではないだろう。

「からかう材料にするなよ」

 ファジールに釘を差されジゼルは仕方なく頷いた。

「やっと上手くいったんだ。暫くはそっとしておいた方がいい」

 ファジールは再び本に視線を向けた。ジゼルは少し拗ねたように表情を変えたが、また、笑い出した。

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