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月の箱庭
31 漆黒の大地
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アシャンティは一瞬、自分が何処にいるのか理解出来なかった。何故なら、そこはどう見ても外の風景を映し、風さえも爽やかだった。柔らかな陽射しが降り注ぎ、緑が光を透かしている。
だが、注意してみてみればそこが外ではないことがはっきりと判った。天井に光取りの窓はなく、壁がはっきりと見て取れる。淡い光が魔術により創られているのも、しっかりと感じることが出来た。
移動陣から足を踏み出し、ゆっくりと女神像に近付く。女神像が持つ二つの水晶は紅の村にあるものと酷似していた。
ただ、あれには魔術文字が踊っていたが、目の前のものには違う力が宿っていることが判った。一つは月の力を宿し、一つは何も宿してはいない。
グウェンティアに渡された深紅の核を握り締め、更に辺りを見渡す。緑と魔術文字が踊る壁。天井に見える模様は魔術陣を映し、魔力に満ちた空間を維持していた。
改めて手の中の核に視線を向ける。赤く輝き、何かを訴えているように見えた。何より、核から感じる気配をアシャンティは知っているような気がした。核は四凶が宿していたものだ。二つは知らないが一つは確実に知っている。
『その核を緑に委ねよ』
唐突に聞こえてきた声にアシャンティは当惑した。この場所は特殊な場所であり、普通の人は入れない筈である。
『驚くこともないだろうに』
笑いを含んだ声は、唐突に姿を見せ始める。
アシャンティは辺りを見渡した後、不意に女神像に視線を向けた。それは無意識であったが、気配は確かに女神像から感じられた。
女神像そのものに変化があるわけではない。ただ、半透明の腕が女神像の胸から突き出ている。ゆっくりとした動作で、その人物は抜け出てきた。
最初に見えたのは短めの金茶髪。見慣れた色合いの髪がアシャンティに告げる。
「漆黒の三日月」
抜け出てきた人物はアシャンティの声に顔を上げ微笑んだ。
『正解』
男はしっかりと地に足を付け立っていた。アシャンティに視線を向けたまま、手に握られていたものを示した。
『これが何か判るか』
その問いにアシャンティは男の手の中の物に視線を落とす。手の中にあった物。それは涙型の水晶だった。その水晶には何一つ力はない。見た瞬間、それだけは読みとることが出来た。
だが、それだけだ。
小さく首を横に振る。知り得ないことを知ったような気になるのは間違っている。
『正直だな。まあ、その年で計算高かったらげんなりするが』
男は水晶を光にかざす。透明な石は光を反射し輝いていた。
『核を緑に委ねよ。そして、姿を与えん』
「どういうことですか」
『核は番人になり、森を見守り続ける。そのために託され、そして今ここにある』
アシャンティは核に視線を向けた。核は静かに息づきアシャンティの手の中にある。
アシャンティは核を一番緑の濃い場所に投げた。核は空を切り、緑は核を絡めとるように蔓を伸ばし受け止めた。蔓は核を取り巻くように絡みつき大きな球体を作り上げた。
『体が再生されるまで間がある。一つ訊きたい』
男はアシャンティを見据えた。その瞳は大地の色を映していた。魔力は瞳に宿る。額にある漆黒の三日月が男が何者であるかを語っている。
『過去は思い出したのか』
その問いにアシャンティは困惑した。思い出すべき過去などあっただろうか。アシャンティの表情に男は顔を曇らせる。
『それすらも判っていないのだな』
溜め息混じりの言葉にアシャンティは判らなくなった。幼いときから神殿にいた。それ以上の過去など彼女の中にはなかったのである。
そして、一つの疑問が生まれる。
神殿に入る前、自分は何処にいたのか。両親はどうしてしまったのか。何故、神殿に行くことになったのか。自分が置かれた状況が全てにおいて矛盾していた。
額に漆黒の三日月を刻まれ誕生した事実は覆せない。それ以外で大切な何かが欠落している。忘れてはいけない何かを忘れ去っている。
だが、ただ忘れているなら思い出せるかもしれないが、アシャンティのそれは完全に切り離されている状態に近かった。
「私は、忘れてる」
両手で頬を抑え必死で思い出そうとした。だが、思い出せない。がっちりと蓋をされ鍵を何重にもかけられたような感覚があった。
『いくら思い出そうとしても無駄ですよ』
聞き覚えのある声が背後からした。反射的に振り返りアシャンティは驚きに目を見開いた。
『レウディア』
男は納得したように呟いた。
『そう言うことか』
『そう言うことです。心を守るためグウェンティアがしたこと。違和感のないように何重にも蓋をし鍵をかけました』
レウディアはゆっくりとアシャンティの前まで移動してきた。
『鍵は紫。それ以外の者に開けることは出来ない』
レウディアは言い終わるとアシャンティの額の三日月に触れた。
「鍵」
アシャンティは疑問を口にした。何故そこでグウェンティアが出てくる。何故、昔から知っていたように、当たり前のようにグウェンティアのことが話題に上る。
「私はグウェンティアさんを……」
『知っている筈ですよ。今ではなく過去に。今、蓋を開けましょう。そのために私は来たのだから』
レウディアは目を細めた。
アシャンティはいきなり額に鋭い痛みと熱を感じた。そして、訪れた感覚。情報は一気に彼女の中に溢れた。
神殿に預けられた自分。そこから時間が巻き戻される。緊迫した空気が肌を刺す。馬に乗せられ一人の男の手で神殿に預けられた。
その理由。そして、見覚えのある幼い少女。鋭い夜の瞳と額の紫の三日月。
「グウェンティアさん。否、お姉ちゃん」
瞳から一粒涙が零れ落ちた。両の手で口を抑え、嗚咽が漏れそうになるのを必死で抑えた。
『何故、封じられたのか、今の貴女なら判る筈』
アシャンティは小さく頷いた。
蘇った情景。
それは血に濡れ、鮮烈なまでに残酷だった。男達の怒号が響き、ただ震えていた幼い自分。両親はアシャンティを守るために盾となり果てた。それは、彼女が漆黒である事実を隠し通すためだった。
クローゼットに押し込められ、なされるままにその場で凍りついていた。次いで聞こえてきた音にびくつき、ただ震えた。何かを言っている声が二つ、聞こえてきたが動けなかった。クローゼットの扉が開いたとき、最後の時だと覚悟した。
まだ、十歳にもならない時、生活していた場所が襲撃された事実は、クローゼットを開けた人物によって明らかになった。
「アシャン、無事ね」
その幼い声。幼い姿。けれど、今ならはっきりと誰であるか認識出来る。血に濡れ現れた二人の人物。グウェンティアとその母親。姿とは裏腹に二人の視線は何処までも優しかった。
「アシャンを安全な場所に連れていってあげる。でも、危険な記憶は消してしまうね」
「お姉ちゃん。お父さんは。お母さんは」
涙声で必死に問い掛けた。だが、答えは容易に得られた。視線をグウェンティアの背後に向けた瞬間、いくら幼くとも理解は出来た。溢れ出した涙が頬を伝う。グウェンティアが涙を優しく拭ってくれたことも昨日のことのように思い出せた。
「私のせいなの。貴女のせいじゃない。貴女の存在は知られていないから」
グウェンティアはそう言うと血に塗れた指先をアシャンティの額の三日月に置いた。
脳裏に蘇る。あのとき、アシャンティは記憶の封印を拒んだ。幼くとも三日月を有して生まれた以上、誰よりも魔力のことを判っている。紫が誰よりも強い魔力を持ち、封印されれば解くことが出来るのは紫の魔力を持つ者だけだ。
封じられもし出会うことが叶わなければ、一生思い出すことは叶わない。
「記憶は危険を呼び寄せる。判るよね」
アシャンティは涙が溢れて止まらなかった。襲撃された以上、男爵家縁の者が生き残る可能性は低い。だが、記憶が無ければ、あったとしても紫の魔力で封印してしまえば、誰にも記憶の蓋を開くことは出来ない。
「お姉ちゃん」
最後に抵抗を表した声をグウェンティアは聞き入れなかった。アシャンティの意識はそこから途絶え、あるのは神殿での生活からだけだった。疑わず疑問を持たず、アシャンティは今まで生きてきたのである。それはグウェンティアがもたらした安全に他ならなかった。
『思い出しましたか』
レウディアの言葉にアシャンティは頷いた。
最も大切な記憶。定住する事が出来なかった家族の初めての安住の地だった。男爵との出会いがアシャンティの生活を変えたのである。
自分以外の生まれながらの三日月の存在は、彼女を安心させるのに十分な力を持っていた。
『あのとき、グウェンティアはそうしなければならなかった。生まれたときから命を狙われ続けていた彼女にとって、貴女は護るべき命だった』
レウディアは表情を変えずに淡々と語る。
『今の王は、違いますね、前王は生まれたときから、否、生まれる前から操られていました。貴女が幸運だったのは知られていなかったこと』
レウディアは男に視線を向け、次いで核に視線を向けた。
『記憶を封じたのは貴女を護るため、私が記憶を戻したのは結界と封印のため、そして、グウェンティアの願い』
アシャンティに視線を戻し、レウディアは言った。
「どうして、お姉ちゃんが封印を解いてくれなかったの」
『解くことは出来なかった。解いてしまえば貴女が一時的に混乱するから』
アシャンティは唇を噛み締めた。グウェンティアは何も話してはくれなかった。だが、一度だけ、グウェンティアは皆から離れ彼女の祖父と大神官に何かを話していた。長い時間ではない。そのときに、もしアシャンティのことを話していたとしたら。
『賢い子。その通りよ。大神官に話をした。私は全ての情報を知ることが出来る。だからこそ、要と言える』
アシャンティは沈黙した。グウェンティアは全てを抱え込んでいた。
『彼女は自分で抱え込むことを選んだ。紅であるゼディスにすら、これからのことを語らなかった』
アシャンティは嫌な予感がした。これからのこと、とは何にたいしてなのか。結界と封印が正常に機能し、これから世界を立て直すことを意味するのか。それとも、別の意味を含んでいるのか。
『グウェンティアは消える』
レウディアの言葉にアシャンティは目を見開いた。流れる涙はそのままに、必死に今の言葉を探ろうとした。
『彼女は標になる。兄の魔力を導くために』
レウディアは苦痛に顔を歪めた。
『核が変化したようですね』
今の話題を無理矢理変え、レウディアは核を見た。核は人の姿を模していた。胎児のように膝を抱え緑の中で淡く光を放っていた。
青銀色の短髪。その髪から捻れたような光沢のある二本の角が見えた。肌の色は褐色。唇からちらりと牙が覗いている。その姿にアシャンティは見覚えがあった。思わず後退る。
男とレウディアは目を細めた。アシャンティの反応に納得しながらも、支配してもらわないことには復活させた意味がない。
アシャンティは判っていたつもりだった。核は四凶のものだ。一つは破壊し、二つは見たことがない。
必然的に一つは襲ってきた四凶のものだ。そして、渡された核は偶然ではなく、在るべきところに必ず訪れる。強い魔力を持ち、手強かった相手。その魔物がアシャンティの手の中にきた。既に変化し目覚めれば、赤い瞳がアシャンティを射る。
唇を噛み締め、彼女は考えた。グウェンティアは命を守るために必要だと言った。ならば、何かをしなくてはならない。そこで思い出したのが先、男がアシャンティに見せた水晶だ。あれは見ただけではただの水晶で魔力はない。
完全なる器として存在している。ならば、その水晶が何らかの関わりを持ち、そして作用するのではないか。
「さっきの水晶は何ですか。まさか、魔物と私の間に必要な物なのですか」
アシャンティの問いに男は頷いた。
『その通り』
男は微笑むと魔物の元に歩み寄る。
『その水晶は道です。核は自由でなくてはいけませんが、この森からは出られない』
レウディアは呟くように言った。
『けれど、意志があり心がある以上、好奇心は押さえることは出来ない』
「つまり……」
アシャンティは考えてみた。水晶は道だと言った。魔術で道と言えば、互いが干渉しあい共有することを意味する。
互いの見聞きした情報を共有すると言うことだ。
『これは契約です。核の創造主は兄ですが、支配するのは貴女です。支配するために名を手に入れ、かわりに外の情報を提供する』
アシャンティは理解した。漆黒の三日月としての知識が囁いていた。
『自由でいられるのはこの森の中だけです。だからこそ、外の世界が気になる』
「私が言うことを聞くと思っているのか」
地を這うような声が響いた。二人は声の主に視線を向ける。
『お前が再生された場所を考えてみるんだな』
男はせせら笑うように言った。
魔物は改めて辺りを見渡す。淡い光に満ちた空間に、鮮やかな緑達。感じる魔力は元凶の狂気に満ちたものではなく、穏やかなものだった。
元凶が邪なら、この場所は聖の魔力に満ちている。そして、今居る場所はその中にあって更に聖の魔力が強い場所だった。再生される前ならば苦痛に満ちた場所であったに違いない。だが、今は心地がよいと感じていた。
何より、元凶に与えられた絶望と痛みは計り知れない。絶対的な存在であり、自身の存在理由であった元凶が最後に下した審判は死の一文字だった。瀕死の体から激痛を伴い核が取り出されたとき、絶望が心を支配した。
「私は新たな体を手に入れたのだな」
溜め息と共に魔物は呟いた。愚かではない魔物は瞬時に状況を把握した。それは、今まで破壊しなければいけなかった場所を見護ることになった現実。
聞かなくとも理解出来た。
『これが判るか』
男は魔物の目の前に水晶をかざした。魔物は目を細め水晶を見詰める。
「知ったかぶりをするつもりはない」
男とレウディアは魔物が愚かでないことを確認した。
『この水晶は道だ。名を与えた者と繋がりを持つためのな』
男は更に魔物に近付いた。
『核の創造主ではない者が繋がりを持つための手段だ』
男は魔物の額に右手の人差し指を軽く当てる。はっきりとした実体がないにもかかわらず、魔物はその存在をはっきりと認識した。
『額にある第三の目。お前にあったもう一つの目のかわりがこの水晶だ』
魔物はこのとき初めて額にあった第三の目がないことに気が付いた。アシャンティも額の存在が消えていた事実を言われて初めて認識した。
『額に埋め込まれた水晶は名を持つ者の左手と繋がり情報を交換することが出来るようになる』
アシャンティは自身の左手を無意識に庇う。魔物と繋がることで何が起こるのだろうか。
『異存はないな』
男は確認した。拒絶されたとしても問題はないが、名を渡さない可能性がある。それでは困るのだ。アシャンティの命を護るために必要なことだった。
日月の魔力は絡み合っている。絡み合うことで均衡を保っている。
「拒絶したところで利はなさそうだな」
憂いに満ちた瞳が男を見、次いでアシャンティに向けられる。アシャンティは赤い瞳に見詰められ体が竦んだ。
「私はガイだ」
魔物、ガイはすんなりと名を明かした。
『簡単だな』
「私は主が既に狂気に呑まれていることを知っていた。だが、私自身も同じだったのだ」
ガイは淡々と語る。
元凶の魔力に染まり、汚染されありとあらゆる感覚が鈍くなっていく。命を奪うことも厭わず、欲望のままに狩りをしていた。だからといってその行為が間違いである事実に気が付かないほど愚かではない。
判っていても、毒に等しい元凶の魔力は精神すらも侵し罪悪感を削ぎ取っていった。
「命が奪われ、初めて自覚した。体は痛みを伴い心が砕けていく。私達が行っていたことは何時か自身に返ってくる」
ガイはただ、事実のみを口にした。元凶が求めていたものは、彼等が求めていたものと差が存在していたのだ。
元凶が求めたのは純粋な破壊だった。逆に四凶が求めたのは存在意義だった。生命として他の種族とは違う誕生をした彼等は、ある意味、劣等感を持っていた。その劣等感を払拭するために破壊し命を奪い、同時に自分自身すら傷付けていた。
「話から私は森から出られないようだが、垣間見ることは出来るのだな」
『その通りだ。森の中でのみの自由だが、束縛はされない』
「だが、名を与えたのだ。支配しようと考えはしないのか」
ガイは疑問を口にした。
「そんなことはしません」
アシャンティはきっぱりと否定した。支配するのもされるのも彼女の中では罪悪感に近い。ましてや、森で結界と封印の番人になる存在を無碍に扱うつもりはない。
完全に再生が成されるまで森と共に生き続けなくてはならないのだ。それが償いの一環であったとしても、永い時を生き続けなくてはならない。
「私は支配するつもりも干渉するつもりもありません。外の世界が知りたくて私を媒介に覗き見るのも必要なことだと思います」
アシャンティはガイの赤い瞳を見詰めた。
「たとえ出会いがどうであれ、これからのことが肝心であると感じています」
ガイは真顔でアシャンティを見詰める。そして、男に向き直った。
「今の状況は望んだものではないが、一つの選択で現実だ。受け入れる」
赤い瞳を細め、ガイは意志を告げた。男は頷くとガイの額に涙型の水晶を押し当てる。瞬間、彼を襲ったのは貫くような鋭い痛みだった。
目の前が赤く染まる。
男が手を離すと額を庇うようにうずくまった。荒い息を吐き出し、なんとか痛みをやり過ごす。
『此方へ』
アシャンティに手を差し伸べ、男は来るように促した。彼女は喉を鳴らし心を落ち着けようと努力する。ゆっくりとした足取りで近付き、言われた通りに左手の甲をガイの額の水晶に当てた。
一瞬感じた堅く冷たい感触の後、鋭い痛みが襲い掛かる。悲鳴を上げそうになり、慌てて唇を噛んだ。唇が切れたのか口腔内に鉄の味が広がる。痛みが消えたのを確認し左手を庇うように握り締めた。
手の甲には堅い感触があり、もう一つの心臓が有るかのように脈打っていた。
『目を閉じてみろ』
男はガイに告げた。ガイは一瞬躊躇したが従うように瞼を閉じた。最初見えたのは薄い闇。その闇が徐々に解かれぼんやりとした映像を映し出す。
見えるのは今居る場所だ。違うのは見える角度で視線の高さもかなり違う。目線が彼のものよりかなり低い。
その視界に、その感じに、ガイは覗き見るの意味を知った。だが、ガイはそこで目を開けた。アシャンティは干渉も支配もしないと言ったのだ。見る以外の行為は自身を陥れる結果になる。名を渡した以上、有利なのはアシャンティであり彼ではない。
『時間がないわ』
レウディアは呟く。架空に視線を走らせ、何かを感じているようだった。
『私は戻ります』
レウディアの言葉にアシャンティは振り返り、目を見開いた。まだ、グウェンティアのことを聞いていない。
『待っています。グウェンティアのことは貴女だけではなく二人も知らなくてはならない。私が此処に来たのは記憶の蓋を開けるため。それが必要であり、グウェンティアの願いでもありましたから』
レウディアは微笑むと霧散した。アシャンティは諦めたように息を吐き出し、男に向き直る。
『左手を女神の水晶に』
アシャンティは頷いた。意を決し女神に歩み寄り左手を水晶に乗せる。ガイは目を二度閉じ、何かを待つように身構えた。
だが、注意してみてみればそこが外ではないことがはっきりと判った。天井に光取りの窓はなく、壁がはっきりと見て取れる。淡い光が魔術により創られているのも、しっかりと感じることが出来た。
移動陣から足を踏み出し、ゆっくりと女神像に近付く。女神像が持つ二つの水晶は紅の村にあるものと酷似していた。
ただ、あれには魔術文字が踊っていたが、目の前のものには違う力が宿っていることが判った。一つは月の力を宿し、一つは何も宿してはいない。
グウェンティアに渡された深紅の核を握り締め、更に辺りを見渡す。緑と魔術文字が踊る壁。天井に見える模様は魔術陣を映し、魔力に満ちた空間を維持していた。
改めて手の中の核に視線を向ける。赤く輝き、何かを訴えているように見えた。何より、核から感じる気配をアシャンティは知っているような気がした。核は四凶が宿していたものだ。二つは知らないが一つは確実に知っている。
『その核を緑に委ねよ』
唐突に聞こえてきた声にアシャンティは当惑した。この場所は特殊な場所であり、普通の人は入れない筈である。
『驚くこともないだろうに』
笑いを含んだ声は、唐突に姿を見せ始める。
アシャンティは辺りを見渡した後、不意に女神像に視線を向けた。それは無意識であったが、気配は確かに女神像から感じられた。
女神像そのものに変化があるわけではない。ただ、半透明の腕が女神像の胸から突き出ている。ゆっくりとした動作で、その人物は抜け出てきた。
最初に見えたのは短めの金茶髪。見慣れた色合いの髪がアシャンティに告げる。
「漆黒の三日月」
抜け出てきた人物はアシャンティの声に顔を上げ微笑んだ。
『正解』
男はしっかりと地に足を付け立っていた。アシャンティに視線を向けたまま、手に握られていたものを示した。
『これが何か判るか』
その問いにアシャンティは男の手の中の物に視線を落とす。手の中にあった物。それは涙型の水晶だった。その水晶には何一つ力はない。見た瞬間、それだけは読みとることが出来た。
だが、それだけだ。
小さく首を横に振る。知り得ないことを知ったような気になるのは間違っている。
『正直だな。まあ、その年で計算高かったらげんなりするが』
男は水晶を光にかざす。透明な石は光を反射し輝いていた。
『核を緑に委ねよ。そして、姿を与えん』
「どういうことですか」
『核は番人になり、森を見守り続ける。そのために託され、そして今ここにある』
アシャンティは核に視線を向けた。核は静かに息づきアシャンティの手の中にある。
アシャンティは核を一番緑の濃い場所に投げた。核は空を切り、緑は核を絡めとるように蔓を伸ばし受け止めた。蔓は核を取り巻くように絡みつき大きな球体を作り上げた。
『体が再生されるまで間がある。一つ訊きたい』
男はアシャンティを見据えた。その瞳は大地の色を映していた。魔力は瞳に宿る。額にある漆黒の三日月が男が何者であるかを語っている。
『過去は思い出したのか』
その問いにアシャンティは困惑した。思い出すべき過去などあっただろうか。アシャンティの表情に男は顔を曇らせる。
『それすらも判っていないのだな』
溜め息混じりの言葉にアシャンティは判らなくなった。幼いときから神殿にいた。それ以上の過去など彼女の中にはなかったのである。
そして、一つの疑問が生まれる。
神殿に入る前、自分は何処にいたのか。両親はどうしてしまったのか。何故、神殿に行くことになったのか。自分が置かれた状況が全てにおいて矛盾していた。
額に漆黒の三日月を刻まれ誕生した事実は覆せない。それ以外で大切な何かが欠落している。忘れてはいけない何かを忘れ去っている。
だが、ただ忘れているなら思い出せるかもしれないが、アシャンティのそれは完全に切り離されている状態に近かった。
「私は、忘れてる」
両手で頬を抑え必死で思い出そうとした。だが、思い出せない。がっちりと蓋をされ鍵を何重にもかけられたような感覚があった。
『いくら思い出そうとしても無駄ですよ』
聞き覚えのある声が背後からした。反射的に振り返りアシャンティは驚きに目を見開いた。
『レウディア』
男は納得したように呟いた。
『そう言うことか』
『そう言うことです。心を守るためグウェンティアがしたこと。違和感のないように何重にも蓋をし鍵をかけました』
レウディアはゆっくりとアシャンティの前まで移動してきた。
『鍵は紫。それ以外の者に開けることは出来ない』
レウディアは言い終わるとアシャンティの額の三日月に触れた。
「鍵」
アシャンティは疑問を口にした。何故そこでグウェンティアが出てくる。何故、昔から知っていたように、当たり前のようにグウェンティアのことが話題に上る。
「私はグウェンティアさんを……」
『知っている筈ですよ。今ではなく過去に。今、蓋を開けましょう。そのために私は来たのだから』
レウディアは目を細めた。
アシャンティはいきなり額に鋭い痛みと熱を感じた。そして、訪れた感覚。情報は一気に彼女の中に溢れた。
神殿に預けられた自分。そこから時間が巻き戻される。緊迫した空気が肌を刺す。馬に乗せられ一人の男の手で神殿に預けられた。
その理由。そして、見覚えのある幼い少女。鋭い夜の瞳と額の紫の三日月。
「グウェンティアさん。否、お姉ちゃん」
瞳から一粒涙が零れ落ちた。両の手で口を抑え、嗚咽が漏れそうになるのを必死で抑えた。
『何故、封じられたのか、今の貴女なら判る筈』
アシャンティは小さく頷いた。
蘇った情景。
それは血に濡れ、鮮烈なまでに残酷だった。男達の怒号が響き、ただ震えていた幼い自分。両親はアシャンティを守るために盾となり果てた。それは、彼女が漆黒である事実を隠し通すためだった。
クローゼットに押し込められ、なされるままにその場で凍りついていた。次いで聞こえてきた音にびくつき、ただ震えた。何かを言っている声が二つ、聞こえてきたが動けなかった。クローゼットの扉が開いたとき、最後の時だと覚悟した。
まだ、十歳にもならない時、生活していた場所が襲撃された事実は、クローゼットを開けた人物によって明らかになった。
「アシャン、無事ね」
その幼い声。幼い姿。けれど、今ならはっきりと誰であるか認識出来る。血に濡れ現れた二人の人物。グウェンティアとその母親。姿とは裏腹に二人の視線は何処までも優しかった。
「アシャンを安全な場所に連れていってあげる。でも、危険な記憶は消してしまうね」
「お姉ちゃん。お父さんは。お母さんは」
涙声で必死に問い掛けた。だが、答えは容易に得られた。視線をグウェンティアの背後に向けた瞬間、いくら幼くとも理解は出来た。溢れ出した涙が頬を伝う。グウェンティアが涙を優しく拭ってくれたことも昨日のことのように思い出せた。
「私のせいなの。貴女のせいじゃない。貴女の存在は知られていないから」
グウェンティアはそう言うと血に塗れた指先をアシャンティの額の三日月に置いた。
脳裏に蘇る。あのとき、アシャンティは記憶の封印を拒んだ。幼くとも三日月を有して生まれた以上、誰よりも魔力のことを判っている。紫が誰よりも強い魔力を持ち、封印されれば解くことが出来るのは紫の魔力を持つ者だけだ。
封じられもし出会うことが叶わなければ、一生思い出すことは叶わない。
「記憶は危険を呼び寄せる。判るよね」
アシャンティは涙が溢れて止まらなかった。襲撃された以上、男爵家縁の者が生き残る可能性は低い。だが、記憶が無ければ、あったとしても紫の魔力で封印してしまえば、誰にも記憶の蓋を開くことは出来ない。
「お姉ちゃん」
最後に抵抗を表した声をグウェンティアは聞き入れなかった。アシャンティの意識はそこから途絶え、あるのは神殿での生活からだけだった。疑わず疑問を持たず、アシャンティは今まで生きてきたのである。それはグウェンティアがもたらした安全に他ならなかった。
『思い出しましたか』
レウディアの言葉にアシャンティは頷いた。
最も大切な記憶。定住する事が出来なかった家族の初めての安住の地だった。男爵との出会いがアシャンティの生活を変えたのである。
自分以外の生まれながらの三日月の存在は、彼女を安心させるのに十分な力を持っていた。
『あのとき、グウェンティアはそうしなければならなかった。生まれたときから命を狙われ続けていた彼女にとって、貴女は護るべき命だった』
レウディアは表情を変えずに淡々と語る。
『今の王は、違いますね、前王は生まれたときから、否、生まれる前から操られていました。貴女が幸運だったのは知られていなかったこと』
レウディアは男に視線を向け、次いで核に視線を向けた。
『記憶を封じたのは貴女を護るため、私が記憶を戻したのは結界と封印のため、そして、グウェンティアの願い』
アシャンティに視線を戻し、レウディアは言った。
「どうして、お姉ちゃんが封印を解いてくれなかったの」
『解くことは出来なかった。解いてしまえば貴女が一時的に混乱するから』
アシャンティは唇を噛み締めた。グウェンティアは何も話してはくれなかった。だが、一度だけ、グウェンティアは皆から離れ彼女の祖父と大神官に何かを話していた。長い時間ではない。そのときに、もしアシャンティのことを話していたとしたら。
『賢い子。その通りよ。大神官に話をした。私は全ての情報を知ることが出来る。だからこそ、要と言える』
アシャンティは沈黙した。グウェンティアは全てを抱え込んでいた。
『彼女は自分で抱え込むことを選んだ。紅であるゼディスにすら、これからのことを語らなかった』
アシャンティは嫌な予感がした。これからのこと、とは何にたいしてなのか。結界と封印が正常に機能し、これから世界を立て直すことを意味するのか。それとも、別の意味を含んでいるのか。
『グウェンティアは消える』
レウディアの言葉にアシャンティは目を見開いた。流れる涙はそのままに、必死に今の言葉を探ろうとした。
『彼女は標になる。兄の魔力を導くために』
レウディアは苦痛に顔を歪めた。
『核が変化したようですね』
今の話題を無理矢理変え、レウディアは核を見た。核は人の姿を模していた。胎児のように膝を抱え緑の中で淡く光を放っていた。
青銀色の短髪。その髪から捻れたような光沢のある二本の角が見えた。肌の色は褐色。唇からちらりと牙が覗いている。その姿にアシャンティは見覚えがあった。思わず後退る。
男とレウディアは目を細めた。アシャンティの反応に納得しながらも、支配してもらわないことには復活させた意味がない。
アシャンティは判っていたつもりだった。核は四凶のものだ。一つは破壊し、二つは見たことがない。
必然的に一つは襲ってきた四凶のものだ。そして、渡された核は偶然ではなく、在るべきところに必ず訪れる。強い魔力を持ち、手強かった相手。その魔物がアシャンティの手の中にきた。既に変化し目覚めれば、赤い瞳がアシャンティを射る。
唇を噛み締め、彼女は考えた。グウェンティアは命を守るために必要だと言った。ならば、何かをしなくてはならない。そこで思い出したのが先、男がアシャンティに見せた水晶だ。あれは見ただけではただの水晶で魔力はない。
完全なる器として存在している。ならば、その水晶が何らかの関わりを持ち、そして作用するのではないか。
「さっきの水晶は何ですか。まさか、魔物と私の間に必要な物なのですか」
アシャンティの問いに男は頷いた。
『その通り』
男は微笑むと魔物の元に歩み寄る。
『その水晶は道です。核は自由でなくてはいけませんが、この森からは出られない』
レウディアは呟くように言った。
『けれど、意志があり心がある以上、好奇心は押さえることは出来ない』
「つまり……」
アシャンティは考えてみた。水晶は道だと言った。魔術で道と言えば、互いが干渉しあい共有することを意味する。
互いの見聞きした情報を共有すると言うことだ。
『これは契約です。核の創造主は兄ですが、支配するのは貴女です。支配するために名を手に入れ、かわりに外の情報を提供する』
アシャンティは理解した。漆黒の三日月としての知識が囁いていた。
『自由でいられるのはこの森の中だけです。だからこそ、外の世界が気になる』
「私が言うことを聞くと思っているのか」
地を這うような声が響いた。二人は声の主に視線を向ける。
『お前が再生された場所を考えてみるんだな』
男はせせら笑うように言った。
魔物は改めて辺りを見渡す。淡い光に満ちた空間に、鮮やかな緑達。感じる魔力は元凶の狂気に満ちたものではなく、穏やかなものだった。
元凶が邪なら、この場所は聖の魔力に満ちている。そして、今居る場所はその中にあって更に聖の魔力が強い場所だった。再生される前ならば苦痛に満ちた場所であったに違いない。だが、今は心地がよいと感じていた。
何より、元凶に与えられた絶望と痛みは計り知れない。絶対的な存在であり、自身の存在理由であった元凶が最後に下した審判は死の一文字だった。瀕死の体から激痛を伴い核が取り出されたとき、絶望が心を支配した。
「私は新たな体を手に入れたのだな」
溜め息と共に魔物は呟いた。愚かではない魔物は瞬時に状況を把握した。それは、今まで破壊しなければいけなかった場所を見護ることになった現実。
聞かなくとも理解出来た。
『これが判るか』
男は魔物の目の前に水晶をかざした。魔物は目を細め水晶を見詰める。
「知ったかぶりをするつもりはない」
男とレウディアは魔物が愚かでないことを確認した。
『この水晶は道だ。名を与えた者と繋がりを持つためのな』
男は更に魔物に近付いた。
『核の創造主ではない者が繋がりを持つための手段だ』
男は魔物の額に右手の人差し指を軽く当てる。はっきりとした実体がないにもかかわらず、魔物はその存在をはっきりと認識した。
『額にある第三の目。お前にあったもう一つの目のかわりがこの水晶だ』
魔物はこのとき初めて額にあった第三の目がないことに気が付いた。アシャンティも額の存在が消えていた事実を言われて初めて認識した。
『額に埋め込まれた水晶は名を持つ者の左手と繋がり情報を交換することが出来るようになる』
アシャンティは自身の左手を無意識に庇う。魔物と繋がることで何が起こるのだろうか。
『異存はないな』
男は確認した。拒絶されたとしても問題はないが、名を渡さない可能性がある。それでは困るのだ。アシャンティの命を護るために必要なことだった。
日月の魔力は絡み合っている。絡み合うことで均衡を保っている。
「拒絶したところで利はなさそうだな」
憂いに満ちた瞳が男を見、次いでアシャンティに向けられる。アシャンティは赤い瞳に見詰められ体が竦んだ。
「私はガイだ」
魔物、ガイはすんなりと名を明かした。
『簡単だな』
「私は主が既に狂気に呑まれていることを知っていた。だが、私自身も同じだったのだ」
ガイは淡々と語る。
元凶の魔力に染まり、汚染されありとあらゆる感覚が鈍くなっていく。命を奪うことも厭わず、欲望のままに狩りをしていた。だからといってその行為が間違いである事実に気が付かないほど愚かではない。
判っていても、毒に等しい元凶の魔力は精神すらも侵し罪悪感を削ぎ取っていった。
「命が奪われ、初めて自覚した。体は痛みを伴い心が砕けていく。私達が行っていたことは何時か自身に返ってくる」
ガイはただ、事実のみを口にした。元凶が求めていたものは、彼等が求めていたものと差が存在していたのだ。
元凶が求めたのは純粋な破壊だった。逆に四凶が求めたのは存在意義だった。生命として他の種族とは違う誕生をした彼等は、ある意味、劣等感を持っていた。その劣等感を払拭するために破壊し命を奪い、同時に自分自身すら傷付けていた。
「話から私は森から出られないようだが、垣間見ることは出来るのだな」
『その通りだ。森の中でのみの自由だが、束縛はされない』
「だが、名を与えたのだ。支配しようと考えはしないのか」
ガイは疑問を口にした。
「そんなことはしません」
アシャンティはきっぱりと否定した。支配するのもされるのも彼女の中では罪悪感に近い。ましてや、森で結界と封印の番人になる存在を無碍に扱うつもりはない。
完全に再生が成されるまで森と共に生き続けなくてはならないのだ。それが償いの一環であったとしても、永い時を生き続けなくてはならない。
「私は支配するつもりも干渉するつもりもありません。外の世界が知りたくて私を媒介に覗き見るのも必要なことだと思います」
アシャンティはガイの赤い瞳を見詰めた。
「たとえ出会いがどうであれ、これからのことが肝心であると感じています」
ガイは真顔でアシャンティを見詰める。そして、男に向き直った。
「今の状況は望んだものではないが、一つの選択で現実だ。受け入れる」
赤い瞳を細め、ガイは意志を告げた。男は頷くとガイの額に涙型の水晶を押し当てる。瞬間、彼を襲ったのは貫くような鋭い痛みだった。
目の前が赤く染まる。
男が手を離すと額を庇うようにうずくまった。荒い息を吐き出し、なんとか痛みをやり過ごす。
『此方へ』
アシャンティに手を差し伸べ、男は来るように促した。彼女は喉を鳴らし心を落ち着けようと努力する。ゆっくりとした足取りで近付き、言われた通りに左手の甲をガイの額の水晶に当てた。
一瞬感じた堅く冷たい感触の後、鋭い痛みが襲い掛かる。悲鳴を上げそうになり、慌てて唇を噛んだ。唇が切れたのか口腔内に鉄の味が広がる。痛みが消えたのを確認し左手を庇うように握り締めた。
手の甲には堅い感触があり、もう一つの心臓が有るかのように脈打っていた。
『目を閉じてみろ』
男はガイに告げた。ガイは一瞬躊躇したが従うように瞼を閉じた。最初見えたのは薄い闇。その闇が徐々に解かれぼんやりとした映像を映し出す。
見えるのは今居る場所だ。違うのは見える角度で視線の高さもかなり違う。目線が彼のものよりかなり低い。
その視界に、その感じに、ガイは覗き見るの意味を知った。だが、ガイはそこで目を開けた。アシャンティは干渉も支配もしないと言ったのだ。見る以外の行為は自身を陥れる結果になる。名を渡した以上、有利なのはアシャンティであり彼ではない。
『時間がないわ』
レウディアは呟く。架空に視線を走らせ、何かを感じているようだった。
『私は戻ります』
レウディアの言葉にアシャンティは振り返り、目を見開いた。まだ、グウェンティアのことを聞いていない。
『待っています。グウェンティアのことは貴女だけではなく二人も知らなくてはならない。私が此処に来たのは記憶の蓋を開けるため。それが必要であり、グウェンティアの願いでもありましたから』
レウディアは微笑むと霧散した。アシャンティは諦めたように息を吐き出し、男に向き直る。
『左手を女神の水晶に』
アシャンティは頷いた。意を決し女神に歩み寄り左手を水晶に乗せる。ガイは目を二度閉じ、何かを待つように身構えた。
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