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Ⅲ 月鏡蝶
三章
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セルジュが意識を失ったまま、一週間が過ぎていた。苦しそうな息遣いは変わらず、ただ、その様子を見守っているだけの日々。セルジュが何故、変化を始めたのかの疑問は、尽きてはいなかった。
アレンは頑なに一つの考えに固執しているアンジュを、呆れた目で見ていた。いくら、呆れられたとしても、アンジュの中では、自分という存在が障害になっていたからだと、その答えしか得られなかった。
確かに、セルジュ本人から、答えを得たわけではなかったが、どんなに考えても、それ以上の答えは見出せない。
シオンにも言われたが、それでも、考えが変わる訳ではなった。両親の馴れ初めは聞いている。幼馴染みで、母親は《太陽の審判》を選択した。
頑なになった心はそう簡単に、柔らかくなるものではない。
少しずつ変わっていくセルジュの姿。それすらも、今のアンジュには苦痛だった。決して、向けられることがない心。目覚め、最初にアンジュの姿が目に映ったら、どんな反応を見せるのだろうか。
その反応に恐怖を心は覚えている。それなのに、アレンはアンジュにセルジュの世話を言い渡したのだ。時々、セルジュの様子を診に来るのだが、その際も、付いているようにとしか言っていかない。
アンジュが不安な様子を見せても。見ていない振りで、帰っていってしまう。シオンも来ているようなのだが、姿すら見せてはくれない。不安で心が押し潰れそうになる。
「ねえ」
ルビィは目の前で紅茶を飲んでいるシオンに語りかけた。
「なぁに」
「会いにいかないの」
シオンは右手の人差し指を顎に持っていく。
「アレンが言うには、逃げ道を作ったら駄目なんだって」
アレンはシオンに対しても言っていたのだから、当然、娘にも同じ対応をするとは判っていた。だからといって、放置は酷いではないか。
ルビィの姿に、シオンは苦笑を漏らす。
「ルビィの言っていることも判るんだけど、アンとセルって、本心を明かしたことがないんじゃない」
シオンは頬杖を突きながら、紅茶を一口含む。ルビィは首を傾げた。
「人のことは言えないんだけど、こう、大人になると言葉って必要でしょ」
子供のときならば、言葉がなくとも関係ないが、知恵がつき、子供のときとは違う感覚を持つ大人では、感じ方が変わってしまう。
「僕達の目から見たら、二人は両想いなのかもしれないけど、本人達は違うと思うんだよね」
「どう言うこと」
ルビィは首を傾げた。
「特殊な環境で育ったって言うのもあるんだろうけど、近くに居過ぎると、判らなくなっちゃうものでしょ」
シオンはルビィを凝視する。
「僕達だって、今じゃ、普通に夫婦をしてるけど、最初は違ったでしょ。本人に面と向かって言えば、解決も早かったりするんだけど、不安の方が大きかったし」
本人に本心を語ったとして、受け入れてくれるとは限らない。拒絶されることも考えた上で、言わなくてはいけないのだ。特に、二人は幼馴染みで、物心つく頃には、恋愛感情が芽生えていたのではないだろうか。ただ、セルジュは性別を確定してはおらず、感情を顕わにしたとしても、本当の意味で、添い遂げられるか判らない。セルジュの性別が全てを決めるのだ。
「よく、判らないんだけど」
ルビィはこてんと、首を傾げた。
「セルはアンを好きだと思うんだけど」
シオンもそれについては、疑っていない。問題はセルジュが成人に達しても、性別を確定出来なかったことなのだ。
「セルはアンが離れていくなんて、考えてなかったんだろうね。まあ、ルビィとエンヴィの子じゃ、のんびりなんだろうし」
「聞き捨てならないんだけど……」
ルビィは不貞腐れたように、言葉を吐き捨てる。
「簡単に言うと、窮地に立たないと、気が付かないんだよね」
アンジュが行動を起こしたことで、セルジュは漸く、気が付いたのだ。
「僕としては、自分の子供達にお見合いさせようとは考えていないからさ」
アンジュが決めた背景には、セルジュが深く関わっている。何時も、会いに行くのはアンジュで、セルジュからということは稀だったのだ。
「そうだね。お見合いって、本人同士が本当の意味で納得してるんだったら問題ないけど、アンは違うもんね」
ルビィは眉間に皺を寄せた。アンジュはどう考えても、吹っ切れてお見合いをするのじゃない。ただ、セルジュのため、そして、結婚した後に会わないようにするために、他部族の男性の元に嫁ごうとしているのだ。
「どう考えても、不幸になるって判るしさ」
シオンはカップの縁を指でなぞった。
セルジュの側に居させるのも、考えがあってのことだ。ただ、側に居るだけの時間は、嫌でも考える時間になる。当然、アンジュの目の前で、セルジュは少しずつ変化していくのだ。
そうなれば、嫌でも良くない方向に考えが及ぶ。その考えに固執していては、神経がもたないことは、アレンが知ってるのだ。
では、どうして、側に居させるのか。
「アレンとしては、アンジュに考えてもらいたいと思ってるんだよね」
「何について」
ルビィは更に困惑を顔に貼り付ける。
「ほら、物心つくころには、何時も側に居たわけじゃない」
ルビィは頷く。
「でも、幼馴染みは、二人だけじゃなくって、他にもいたわけだし」
つまり、アンジュはその中から、セルジュを選んだのだ。どうして選んだのかは、本人でさえ判っていないだろう。それは、本能に近いからだ。
「吸血族って、基本的に保守的でしょ。子供を欲しがっているわりには、自分達で動かないんだよね」
沢山の見合い話も、蓋を開ければ、本人ではなく、親が申し込んでいる場合がほとんどだ。
「大切に育てられすぎて、意思がないって言うか」
ルビィは目を見開く。確かに、そうだったと、エンヴィは言っていた。
「うちは五人姉妹だし、アレンが結構容赦なく、ビシバシ育てた感じだからさ」
「それは、シオンもでしょう」
ルビィの言葉に、シオンはおどけたように舌を出した。
「だってさ。五人も居たら、そうなっちゃうでしょ」
ルビィは脱力する。確かに、五人娘の他にベンジャミンも居たのだ。その他に、薔薇達の子供まで集まり、かなり異様な光景だったに違いない。人間で言うところの、託児所みたいな場所になっていたのだ。
「だから、結構、強引だし。だからって、聞き訳が良くないかと言えば、違うし」
難しいんだよ、とシオンはぼやいた。
それぞれに個性があるのは当たり前なのだが、強引なのは完全に環境のせいだろう。
「セルも、結構、エンヴィはビシバシ育てたよ」
「それは否定しないけど、ルビィは違うでしょ」
ルビィは口を噤んだ。基本的に、ルビィとエンヴィの子供は大人しい。ルーチェンにしても、シオンにしてみれば、大人しい部類だ。
「まあ、おっとりしすぎて、アンは痺れを切らしちゃったんだよね」
本当なら、会いに行きたいんだよ、とシオンは呟いた。だが、アレンに止められているので、行けないのだと零す。ルビィは息を吐き出した。
「僕としては、セル待ちなんだよね」
結局のところ、意識を手放している、セルジュの変化が終わらないことには、前には進めないのだ。判っているだけに、じれったいのも事実だ。だが、こればかりは、どうしようもない。
「セルはどっちになるんだろうね」
シオンはポツリと呟いた。どっちの性別になるにしろ、二人は話さなくてはならない。それは、前に進むためだ。
「アンもだけど、アーダもセイラも何か、上手くいってないみたいだし、僕達だって大変なんだから」
シオンはルビィに愚痴を零す。
「でも、まだ、欲しいってアレンに言ったんでしょう」
シオンは当たり前だと頷いた。
「まだまだ欲しいの。だって、僕は前の存在のために、アレンの赤ちゃんが沢山欲しいんだから」
シオンは微笑を浮かべる。そうすることは、大切なことなのだ。そのために、シオンは存在している。
「僕は……」
「やっぱり、怖いんだ」
ルビィは小さく頷く。子供は欲しいが、次に生まれてくる子まで、特殊だったらと、踏み出せないでいる。エンヴィはといえば、二人だけで十分だと言っているのだが、ルビィとしては、もう一人くらい欲しいのだ。
「そんなに心配しなくっても、いいと思うよ」
シオンはただ、微笑を浮かべた。
†††
アレンは静かにセルジュの部屋へ足を踏み入れた。室内は静まり返っている。ゆっくりとした足取りで、ベッドに近付くと、アンジュがベッドにもたれ掛かり、小さな寝息を立てていた。その様子に苦笑いが浮かぶ。
変化を始めてから、一週間が過ぎていた。視線をアンジュからセルジュに移すと、明らかに様子が変わっていた。浅かった息が落ち着いたものに変わっている。
アンジュを起こさないように、セルジュを診た。顔は見慣れたそれだったが、首から下は確実に変化をとげていた。どちらとも言えなかった肌の感じが、男性のそれに変わっていたのだ。
ゆっくりと頭に手を伸ばす。触れた掌に、セルジュの変化が終わっていることが判った。薬を使い意識を奪ったために、自力で目覚めることが出来ないのだろう。
アレンは持参していた薬を水と共に口に含むと、口移しでセルジュに飲ませた。ゆっくりと喉を通っていったことを確認すると、来たときと同様、静かに部屋を出て行った。
後は二人次第だ。
いくら親とはいえ、口出しすることは出来ない。部屋の外には、ルビィとエンヴィ、一緒に来たシオンの姿があった。心配そうに、アレンに視線を向けている。
「セルは」
両手を組み、ルビィは祈るように問い掛けた。
「変化は終わっていた」
アレンは簡潔に答えた。更に問いたげな三人に、小さく息を吐き出す。気になっているのは性別だろう。変化が終わるまで、アレンはアンジュ以外の入室を禁止していたためだ。
「男になったよ」
知りたいのは、それだろうと、呆れたように言葉を吐き出した。
「じゃあ……」
シオンはアレンを凝視する。
「後は二人の問題だ。俺達が口を挟む問題じゃあない」
確かにそうなのだが、心配なのだ。
そして、アレンは難しい顔をした。本当ならば、目覚めるまで側にいたいのだが、そうもいかない。セルジュよりも、深刻な状況になっている者達がいる。
「すまないが、何かあったら、連絡をくれないか」
「どうかしたのか」
エンヴィが何時になく焦った様子のアレンに、首を傾げた。
「アーダとファーがな……」
ルビィとエンヴィは顔を見合わせる。トゥーイとフィネイの息子も、二人の子同様、特殊な存在として誕生したことは知っている。
「何かあったの」
ルビィはアレンに問い掛けた。
アーダを危険に晒すと、最初渋っていたファーダだったのだが、それは、アーダが幸せになる道を選ぶと確信出来たときの話だった。ファーダが拒絶したことで、アーダが《永遠の眠り》に就くとフィネイが告げたことから、話は一気に進んだのだ。
「今、鍵の受け渡しの真っ最中だ」
二人は事情を知っているため、アレンは素直に真実を告げた。
「シオンを連れてきたのは、置いていくためだ。何かあったら、シオンに言ってくれ」
シオンとアレンは繋がっているため、連絡が容易に出来るのだ。
「シオンはいいの」
ルビィは心配気にシオンに視線を向けた。
「本当は側に居たいんだけど、役に立たないから。お父さんとお母さんが居れば、二人は安心だし」
それに、セイラにはルーチェンが側に居てくれている。
「ある意味、二人は甘えただからな。何かあったら、俺と親父で精神に潜ることになってるんだ」
その間、ベンジャミンが二人の体を護ることになる。
今日、此処に来たのはセルジュの変化が終わるような予感がしていたからだ。もし、変化が終わっていて、放置しておくことは、危険を引き寄せる結果になる。アーダとファーダが大事になる前に、セルジュの変化が終わっていてくれている方が、都合が良かったのだ。
「本来なら、責任を持って対応したいんだが、そうも言っていられないんだ」
エンヴィはアレンの焦りようで、緊迫した状態であることは、容易に想像出来た。
「どんな状態なんだ」
「今のところは大丈夫だが、受け渡しの間、アーダは睡眠が取れないんだ」
ルビィとエンヴィは目を見開く。詳しくは話せないとアレンは言ったのだが、ファーダは鍵の受け渡しのために、意識が混濁する。その間、アーダがファーダの全てを引き受ける結果になるのだ。
「大丈夫なのか」
エンヴィは心配気に問い掛ける。どういった方法を取るのかは判らないが、危険なのだろう。
「月華は放置出来ない。放置すれば、周りの全てを巻き込む」
アレンは唸るように言うと、そのまま、館を後にした。その姿を三人は見送る。
「シオンは本当にいいの」
ルビィは尚も訊いてきた。
「僕は信じてるから。アーダは強い娘だし、それに僕とアレンの子だよ」
大丈夫だと、微笑みながら言い切った。
「それに、今心配なのは、姉さんに預けてきたシンシーのことかな」
シオンは何時ものように、右手の人差し指を顎に持っていった。
「ジゼルさんがみてるんじゃないの」
「お母さんはアーダに付きっ切り。他を気遣う余裕はないの」
シオンは肩を竦めた。
「どうして、すんなりいかないんだろうね」
シオンが尤もらしく溜め息を吐いたが、エンヴィは呆れたようにシオンを凝視した。それに気が付いた二人が、エンヴィに視線を向ける。
「何か言いたいの」
「お前達二人の娘達じゃねぇか」
エンヴィの物言いに、ルビィは首を傾げる。
「すんなりいく方が、おかしいんじゃねぇか」
シオンはエンヴィの言葉に固まった。
†††
セルジュはゆっくりと瞼を開いた。微かに感じる光は蝋燭の炎だろう。それすらも、今のセルジュには強烈だった。それでも、何度か瞬きを繰り返し、瞳を光に慣らす。
意識を失う前の状況は覚えている。薬を服用したことも記憶にあったが、混濁した意識が覚えているのは、そんな、些細なことだけだった。
どうして体が変化したのかも、覚えているし、理解もしている。自分の体に起こった変化が、どちらの性別を選び取ったのかも、漠然とだが判っていた。ゆっくりと両手を挙げると、目に飛び込んできたのは、筋張った指先だった。
目に映る両手を握り締め、アンジュのことを思った。もう少し、早く状況を理解していれば、失うことはなかったのかもしれない。それでも、安穏とただ、甘えていた自分のせいであったことも、十二分に理解している。
本当に失ってしまったとしても、会ってくれなかったとしても、気持ちだけは伝えたかった。どんな方法をとっても、それだけは、どうしても、アンジュ本人に伝えるべきだ。
そして、思ったこと。
セルジュはアンジュ以外の女性を伴侶にするつもりはなかった。幼いときから側にいるのが当たり前で、気持ちは伝えていなかったが、唯一の存在は、アンジュ一人だけなのだ。だから、両親にはアンジュ以外とは結婚しないと伝えるつもりだ。
それは、血筋が絶える危険をはらんでいたが、セルジュの正直な気持ちだった。
一度、目を閉じゆっくりと、再び瞼を開く。そして、顔を横へ向けた。最初、目に入ったものが理解出来なかった。視界に飛び込んできたモノ。淡い金色の巻き髪。セルジュは慌てたように、体を起こした。体は軋んだ様に悲鳴を上げたが、そんなことにはかまっていられなかった。
「……アン」
それは信じられない事だった。何故なら、アンジュは見合いはすると言っていたからだ。母親であるルビィが、本人の口から聞いたと言っていた。それなのに、何故、セルジュのベッドの端で眠りこけているのだろうか。
セルジュは震える右手で、アンジュの髪に触れた。記憶にある柔らかい髪。緩やかに波立つ髪は、セルジュの指先に絡みついた。
たったそれだけのことなのに、こみ上げてくるものは何なのだろうか。失い、決して、触れることが叶わなくなったと、そう、考えていた存在が、目の前に居る在り得ない現実。
だが、それは確かな存在感で、セルジュの感覚を刺激していた。微かにアンジュの体が動く。セルジュは慌てたように、右手を引っ込めた。
アンジュは緩慢な動作で、セルジュに視線を向けた。ぼんやりしているのだろう。セルジュが身を起こしていることを、理解していないような表情をしている。
ゆっくりと脳が今の状況を理解し始めたのだろう。明らかに、表情が変わった。慌てた様に立ち上がったのだが、それを、セルジュがアンジュの腕を掴むことで、引き止めた。
「……離してっ」
アンジュは腕を振り払おうとするのだが、上手くいかず、驚いたようにセルジュに視線を向けた。何時もなら、簡単に振り払えたからだ。
「どうして此処に」
セルジュの質問に、アンジュは強く首を横へ振った。言いたくないというのだ。本当なら、この場所に来るつもりなどなかった。別の者を想い、変化していく姿を、見ていたくはなかったからだ。だが、両親がそれを許さなかった。
「お見合いをすると、両親から聞いた」
アンジュの表情が歪む。確かに自分で決めたことだが、セルジュの口から発せられた言葉が、アンジュの心を抉った。
「……今からするわっ。だから、離してっ」
その叫びに、セルジュは更に強く、アンジュの腕を掴み、引き寄せた。アンジュは抵抗する暇もなく、ベッドに倒れこんだ。思いもよらない力に驚きながら、それでも、離れようともがく。セルジュは暴れるアンジュを背中から抱き込んだ。
「まだ、誰のモノでもないんだな」
耳元で確認するように囁かれた声に、アンジュの動きが止まった。セルジュは何が言いたいのだろうか。
強くアンジュを抱きしめているのは、一体誰なのだろうか。今までと体の大きさが違う。声も前より低くなっている。何より、アンジュをいとも簡単に拘束した。その力が、今までのセルジュのものとは違っている。
「好きでもない奴の元に、嫁ぐつもりなのか」
落ち着いた声が、アンジュに問い掛けた。好き好んで、好きでもない者の元に嫁ぐのではない。全てはセルジュのためだった。アンジュが側にいることで、セルジュの変化を止めていると確信したからだ。そうでなければ、側を離れようとは考えなかった。
「今、この場所で、首筋に噛み付きたいって言ったら、どうする」
いきなり言われたことに、アンジュは混乱した。
そして、固まった。セルジュの言っていることが、理解出来なかったからだ。
「この場所に、俺を刻んで良いか」
セルジュはそう言うと、アンジュの首筋に唇を押し当てた。触れてきた柔らかい感触に、アンジュは体を捻った。セルジュの行動の真意が判らなかったからだ。
「待ってっ」
セルジュは後ろから、アンジュの顔を覗き込んだ。混乱を顕わにしているアンジュに、小さく溜め息を吐く。
「何を言っているのか判らないわっ。セルは別の人を好いているのではないのっ」
アンジュの言葉に、セルジュは脱力した。
勘違いされているとは思っていたが、現実にそうだと、悲しくなるのは何故だろうか。とは言え、セルジュはアンジュに気持ちどころが、態度すら表してはいなかった。勘違いされていたとしても、文句は言えない。
「どうして、そんな考えになるんだ」
溜め息のように、アンジュの耳元で囁いた。
「だって、セルは、私が離れたから、変化したんじゃない」
確かにそうだが、別の誰かを好きになるほど、他の者達と接触はしていない。ましてや、別の幼馴染み達に、アンジュに抱いているような、感情を持ったこともない。同じ調香師仲間に抱いていたのは、完全なライバル意識だ。
セルジュが変化する切っ掛けを作ったのは、確かにアンジュだ。だが、アンジュが考えているような理由で変化したのじゃない。
「今までの俺では、駄目だと思ったからだ」
どっちつかずのセルジュでは、アンジュの行動を止める力がなかったのだ。性別を持たないままでは、引き止めることすら出来なかった。それが判らないほど、愚かではないつもりだ。
「アンがお見合いをすると聞いたとき、自分ではどうすることも出来ないと、そう思ったんだ」
引き止めるなら、それに見合う、性別を持っていなくてはならなかった。両性でも無性でもない。ただ、性別が確定していないだけの存在だ。
性別を確定させるためには、自分の意志が必要だと、アレンに散々言われていた。しかし、セルジュには危機感が全くなかったのだ。
「離れて行く可能性を、完全に失念していたんだ」
だから、投げつけられた石自体は小さかったのだろうが、それが作り出した波紋は大きく広がった。セルジュに初めて、焦りが産まれたのだ。
「今更だと言われても仕方ないと思っている。それでも、本当の気持ちだけは伝えようと思った」
もし、アンジュが他の誰かのモノとなっていたとしても、気持ちだけは伝えるつもりだった。それは、セルジュのけじめでもあったのだ。
「本当の気持ち……」
アンジュは小さく息を呑んだ。セルジュの今までの行動は、何を意味しているのだろうか。いいほうに捕らえようとしている心を、必死で叱咤する。期待をして、傷付きたくなかった。セルジュが変化する姿を、見続けている間、心に鋭い棘が突き刺さり続けていた。
「アン以外は妻にしない」
「え……」
アンジュは思わず振り返っていた。
「アンが離れていったら、一人で生きていく。両親にはそう伝えるつもりだ」
セルジュは都合よく考えようとする気持ちを、無理矢理押さえつけ、そう、口にした。
「どうして……。そんなこと、許される筈がないわ」
セルジュは男性に変化したが、薔薇の血族だ。そんな勝手は、黒の長が許さないだろう。薔薇の血筋は、子孫を残す義務を負うのだ。
「黒の長様だろう」
アンジュが言いたいことは判っているが、罰せられたとしても、貫くつもりだ。それに、心に沿わない婚姻は、不幸を招く。そのことを、黒の長は誰よりも理解しているだろう。それと同じくらい、両親も判ってくれる筈である。
「俺は男になったし、女性人口はいまだに男性人口に追いついていない。だから、そう言ったとしても、許されるだろうし、理解してくれると思う」
アンジュを抱き締めたまま、セルジュは瞳を伏せた。
アンジュを手に入れたいのが正直な気持ちだが、無理を強いたいとは思っていない。もしかしたら、アンジュはもう、セルジュに気持ちを向けてくれていないのかもしれない。アレンに言われて、この場所に留まっていた可能性もあるのだ。
「……セルが幸せになると思って、私は離れる選択をしたのよ。どうして、そんなことを言うの」
アンジュは泣きそうになりながら、問い掛けた。
「アンの幸せが、俺の幸せだよ。だから、気持ちだけは伝えるつもりだった。性別を手に入れて、それから、伝えたかったんだ」
あの苦しい時間を乗り切れたのは、アンジュに対する、気持ちだけだったのだ。
「セルも幸せにならないと、意味ないじゃないっ」
アンジュは涙を止めることが出来なかった。父親の言った言葉が蘇る。アレンは言っていたのだ。一つの考えに固執したアンジュに、別の可能性をどうして、考えないのかと。
「私はセルのために離れるって決めたの。セルの体が大変なことになるって聞いて。それなのに、男の人になれたのに、私が離れたら一人で生きていくって、そんなの酷いわっ」
「だったら、側にいてくれるの」
その言葉に、アンジュの動きが止まった。言われた言葉が素直に浸透していかない。今のは幻の言葉だと、誰かが囁きかける。アンジュに触れているのはセルジュなのに、今までと違う感覚が、何もかもを否定する。
「それとも、男になった俺じゃ、駄目だって言うのか」
アンジュは首を強く横へ振った。そんなことはない。
「……私は卑怯だわ」
「どうして」
「セルに、自分の言葉で告げなかったのよ」
セルジュは目を細めた。もし、セルジュがアンジュの立場だったとして、本人を目の前に、告げることが出来ただろうか。
その答えは、否、だ。
本当の意味で、気持ちに区切りをつけ、告げる決心をしたのなら、面と向かって言えるだろう。告げることが出来なかったということは、少なくとも、アンジュはセルジュを嫌いになったわけではない。セルジュの気持ちを知らなかったからこそ、不安だったのだ。
二人は語るということをしていなかったのだ。それは、他の幼馴染み達にも言える事なのではないだろうか。だから、アンジュ一人の責ではない。
「俺も同じなんじゃないか」
セルジュは静かに言った。
「側にいるのが当たり前で、それは、変わらず続くと思ってたんだ」
アンジュが起こした行動は、セルジュに変化を与える切っ掛けそのものだったのだ。確かに、変化したての体は違和感が強い。微妙に重い上に、体の大きさが変わったからなのか、感覚が完全に変わってしまっている。
何より困りモノなのが、力だ。
アンジュを引き止めるためにとった腕に、必要以上の力を込めてしまった。
アンジュはそんなセルジュの言葉を耳にし、ぎゅっと、抱き付いた。強い力の、変わった全てに驚きはしたが、セルジュはセルジュだった。何も、変わっていない。
「側にいさせて」
アンジュは小さな声で呟くように言った。セルジュはアンジュの髪に、優しくキスを落とす。失ったと思っていた者が腕の中にいる。それは、当たり前ではなく、奇跡に近いことなのかもしれない。
「アンは俺が生まれたときから、俺のものだしね」
セルジュはくすくす笑いながら、アンジュを抱きしめ、首筋に顔を埋めた。その言葉にかちん、ときたのだが、拘束されていては、反論も出来ない。
首筋に感じた熱と、濡れた感触に、アンジュは目を見開く。今、噛み付かれたら、大変なことになる。いくら、薔薇の血族には寛容な黒の長でも、血液の摂取は許可がなくては許されない。
アンジュはセルジュの背中を力の限り叩いた。セルジュは判っているのだろう。アンジュの反応を楽しんでいるようだった。わざと軽く首筋に牙を立てる。
「それだけは、絶対に駄目っ」
アンジュの絶叫は、部屋の外だけではなく、シオンの耳にも届いたのだが、当の母親は面っしていた。逆に慌てたのはルビィとエンヴィだったのだが、シオンは何時ものごとく、幸せだったらいいじゃない、と、満面の笑みを向けた。何があったのか、全く判らないルビィと、何となく察している節のエンヴィの様子に、シオンは苦笑いを浮かべた。
アレンは頑なに一つの考えに固執しているアンジュを、呆れた目で見ていた。いくら、呆れられたとしても、アンジュの中では、自分という存在が障害になっていたからだと、その答えしか得られなかった。
確かに、セルジュ本人から、答えを得たわけではなかったが、どんなに考えても、それ以上の答えは見出せない。
シオンにも言われたが、それでも、考えが変わる訳ではなった。両親の馴れ初めは聞いている。幼馴染みで、母親は《太陽の審判》を選択した。
頑なになった心はそう簡単に、柔らかくなるものではない。
少しずつ変わっていくセルジュの姿。それすらも、今のアンジュには苦痛だった。決して、向けられることがない心。目覚め、最初にアンジュの姿が目に映ったら、どんな反応を見せるのだろうか。
その反応に恐怖を心は覚えている。それなのに、アレンはアンジュにセルジュの世話を言い渡したのだ。時々、セルジュの様子を診に来るのだが、その際も、付いているようにとしか言っていかない。
アンジュが不安な様子を見せても。見ていない振りで、帰っていってしまう。シオンも来ているようなのだが、姿すら見せてはくれない。不安で心が押し潰れそうになる。
「ねえ」
ルビィは目の前で紅茶を飲んでいるシオンに語りかけた。
「なぁに」
「会いにいかないの」
シオンは右手の人差し指を顎に持っていく。
「アレンが言うには、逃げ道を作ったら駄目なんだって」
アレンはシオンに対しても言っていたのだから、当然、娘にも同じ対応をするとは判っていた。だからといって、放置は酷いではないか。
ルビィの姿に、シオンは苦笑を漏らす。
「ルビィの言っていることも判るんだけど、アンとセルって、本心を明かしたことがないんじゃない」
シオンは頬杖を突きながら、紅茶を一口含む。ルビィは首を傾げた。
「人のことは言えないんだけど、こう、大人になると言葉って必要でしょ」
子供のときならば、言葉がなくとも関係ないが、知恵がつき、子供のときとは違う感覚を持つ大人では、感じ方が変わってしまう。
「僕達の目から見たら、二人は両想いなのかもしれないけど、本人達は違うと思うんだよね」
「どう言うこと」
ルビィは首を傾げた。
「特殊な環境で育ったって言うのもあるんだろうけど、近くに居過ぎると、判らなくなっちゃうものでしょ」
シオンはルビィを凝視する。
「僕達だって、今じゃ、普通に夫婦をしてるけど、最初は違ったでしょ。本人に面と向かって言えば、解決も早かったりするんだけど、不安の方が大きかったし」
本人に本心を語ったとして、受け入れてくれるとは限らない。拒絶されることも考えた上で、言わなくてはいけないのだ。特に、二人は幼馴染みで、物心つく頃には、恋愛感情が芽生えていたのではないだろうか。ただ、セルジュは性別を確定してはおらず、感情を顕わにしたとしても、本当の意味で、添い遂げられるか判らない。セルジュの性別が全てを決めるのだ。
「よく、判らないんだけど」
ルビィはこてんと、首を傾げた。
「セルはアンを好きだと思うんだけど」
シオンもそれについては、疑っていない。問題はセルジュが成人に達しても、性別を確定出来なかったことなのだ。
「セルはアンが離れていくなんて、考えてなかったんだろうね。まあ、ルビィとエンヴィの子じゃ、のんびりなんだろうし」
「聞き捨てならないんだけど……」
ルビィは不貞腐れたように、言葉を吐き捨てる。
「簡単に言うと、窮地に立たないと、気が付かないんだよね」
アンジュが行動を起こしたことで、セルジュは漸く、気が付いたのだ。
「僕としては、自分の子供達にお見合いさせようとは考えていないからさ」
アンジュが決めた背景には、セルジュが深く関わっている。何時も、会いに行くのはアンジュで、セルジュからということは稀だったのだ。
「そうだね。お見合いって、本人同士が本当の意味で納得してるんだったら問題ないけど、アンは違うもんね」
ルビィは眉間に皺を寄せた。アンジュはどう考えても、吹っ切れてお見合いをするのじゃない。ただ、セルジュのため、そして、結婚した後に会わないようにするために、他部族の男性の元に嫁ごうとしているのだ。
「どう考えても、不幸になるって判るしさ」
シオンはカップの縁を指でなぞった。
セルジュの側に居させるのも、考えがあってのことだ。ただ、側に居るだけの時間は、嫌でも考える時間になる。当然、アンジュの目の前で、セルジュは少しずつ変化していくのだ。
そうなれば、嫌でも良くない方向に考えが及ぶ。その考えに固執していては、神経がもたないことは、アレンが知ってるのだ。
では、どうして、側に居させるのか。
「アレンとしては、アンジュに考えてもらいたいと思ってるんだよね」
「何について」
ルビィは更に困惑を顔に貼り付ける。
「ほら、物心つくころには、何時も側に居たわけじゃない」
ルビィは頷く。
「でも、幼馴染みは、二人だけじゃなくって、他にもいたわけだし」
つまり、アンジュはその中から、セルジュを選んだのだ。どうして選んだのかは、本人でさえ判っていないだろう。それは、本能に近いからだ。
「吸血族って、基本的に保守的でしょ。子供を欲しがっているわりには、自分達で動かないんだよね」
沢山の見合い話も、蓋を開ければ、本人ではなく、親が申し込んでいる場合がほとんどだ。
「大切に育てられすぎて、意思がないって言うか」
ルビィは目を見開く。確かに、そうだったと、エンヴィは言っていた。
「うちは五人姉妹だし、アレンが結構容赦なく、ビシバシ育てた感じだからさ」
「それは、シオンもでしょう」
ルビィの言葉に、シオンはおどけたように舌を出した。
「だってさ。五人も居たら、そうなっちゃうでしょ」
ルビィは脱力する。確かに、五人娘の他にベンジャミンも居たのだ。その他に、薔薇達の子供まで集まり、かなり異様な光景だったに違いない。人間で言うところの、託児所みたいな場所になっていたのだ。
「だから、結構、強引だし。だからって、聞き訳が良くないかと言えば、違うし」
難しいんだよ、とシオンはぼやいた。
それぞれに個性があるのは当たり前なのだが、強引なのは完全に環境のせいだろう。
「セルも、結構、エンヴィはビシバシ育てたよ」
「それは否定しないけど、ルビィは違うでしょ」
ルビィは口を噤んだ。基本的に、ルビィとエンヴィの子供は大人しい。ルーチェンにしても、シオンにしてみれば、大人しい部類だ。
「まあ、おっとりしすぎて、アンは痺れを切らしちゃったんだよね」
本当なら、会いに行きたいんだよ、とシオンは呟いた。だが、アレンに止められているので、行けないのだと零す。ルビィは息を吐き出した。
「僕としては、セル待ちなんだよね」
結局のところ、意識を手放している、セルジュの変化が終わらないことには、前には進めないのだ。判っているだけに、じれったいのも事実だ。だが、こればかりは、どうしようもない。
「セルはどっちになるんだろうね」
シオンはポツリと呟いた。どっちの性別になるにしろ、二人は話さなくてはならない。それは、前に進むためだ。
「アンもだけど、アーダもセイラも何か、上手くいってないみたいだし、僕達だって大変なんだから」
シオンはルビィに愚痴を零す。
「でも、まだ、欲しいってアレンに言ったんでしょう」
シオンは当たり前だと頷いた。
「まだまだ欲しいの。だって、僕は前の存在のために、アレンの赤ちゃんが沢山欲しいんだから」
シオンは微笑を浮かべる。そうすることは、大切なことなのだ。そのために、シオンは存在している。
「僕は……」
「やっぱり、怖いんだ」
ルビィは小さく頷く。子供は欲しいが、次に生まれてくる子まで、特殊だったらと、踏み出せないでいる。エンヴィはといえば、二人だけで十分だと言っているのだが、ルビィとしては、もう一人くらい欲しいのだ。
「そんなに心配しなくっても、いいと思うよ」
シオンはただ、微笑を浮かべた。
†††
アレンは静かにセルジュの部屋へ足を踏み入れた。室内は静まり返っている。ゆっくりとした足取りで、ベッドに近付くと、アンジュがベッドにもたれ掛かり、小さな寝息を立てていた。その様子に苦笑いが浮かぶ。
変化を始めてから、一週間が過ぎていた。視線をアンジュからセルジュに移すと、明らかに様子が変わっていた。浅かった息が落ち着いたものに変わっている。
アンジュを起こさないように、セルジュを診た。顔は見慣れたそれだったが、首から下は確実に変化をとげていた。どちらとも言えなかった肌の感じが、男性のそれに変わっていたのだ。
ゆっくりと頭に手を伸ばす。触れた掌に、セルジュの変化が終わっていることが判った。薬を使い意識を奪ったために、自力で目覚めることが出来ないのだろう。
アレンは持参していた薬を水と共に口に含むと、口移しでセルジュに飲ませた。ゆっくりと喉を通っていったことを確認すると、来たときと同様、静かに部屋を出て行った。
後は二人次第だ。
いくら親とはいえ、口出しすることは出来ない。部屋の外には、ルビィとエンヴィ、一緒に来たシオンの姿があった。心配そうに、アレンに視線を向けている。
「セルは」
両手を組み、ルビィは祈るように問い掛けた。
「変化は終わっていた」
アレンは簡潔に答えた。更に問いたげな三人に、小さく息を吐き出す。気になっているのは性別だろう。変化が終わるまで、アレンはアンジュ以外の入室を禁止していたためだ。
「男になったよ」
知りたいのは、それだろうと、呆れたように言葉を吐き出した。
「じゃあ……」
シオンはアレンを凝視する。
「後は二人の問題だ。俺達が口を挟む問題じゃあない」
確かにそうなのだが、心配なのだ。
そして、アレンは難しい顔をした。本当ならば、目覚めるまで側にいたいのだが、そうもいかない。セルジュよりも、深刻な状況になっている者達がいる。
「すまないが、何かあったら、連絡をくれないか」
「どうかしたのか」
エンヴィが何時になく焦った様子のアレンに、首を傾げた。
「アーダとファーがな……」
ルビィとエンヴィは顔を見合わせる。トゥーイとフィネイの息子も、二人の子同様、特殊な存在として誕生したことは知っている。
「何かあったの」
ルビィはアレンに問い掛けた。
アーダを危険に晒すと、最初渋っていたファーダだったのだが、それは、アーダが幸せになる道を選ぶと確信出来たときの話だった。ファーダが拒絶したことで、アーダが《永遠の眠り》に就くとフィネイが告げたことから、話は一気に進んだのだ。
「今、鍵の受け渡しの真っ最中だ」
二人は事情を知っているため、アレンは素直に真実を告げた。
「シオンを連れてきたのは、置いていくためだ。何かあったら、シオンに言ってくれ」
シオンとアレンは繋がっているため、連絡が容易に出来るのだ。
「シオンはいいの」
ルビィは心配気にシオンに視線を向けた。
「本当は側に居たいんだけど、役に立たないから。お父さんとお母さんが居れば、二人は安心だし」
それに、セイラにはルーチェンが側に居てくれている。
「ある意味、二人は甘えただからな。何かあったら、俺と親父で精神に潜ることになってるんだ」
その間、ベンジャミンが二人の体を護ることになる。
今日、此処に来たのはセルジュの変化が終わるような予感がしていたからだ。もし、変化が終わっていて、放置しておくことは、危険を引き寄せる結果になる。アーダとファーダが大事になる前に、セルジュの変化が終わっていてくれている方が、都合が良かったのだ。
「本来なら、責任を持って対応したいんだが、そうも言っていられないんだ」
エンヴィはアレンの焦りようで、緊迫した状態であることは、容易に想像出来た。
「どんな状態なんだ」
「今のところは大丈夫だが、受け渡しの間、アーダは睡眠が取れないんだ」
ルビィとエンヴィは目を見開く。詳しくは話せないとアレンは言ったのだが、ファーダは鍵の受け渡しのために、意識が混濁する。その間、アーダがファーダの全てを引き受ける結果になるのだ。
「大丈夫なのか」
エンヴィは心配気に問い掛ける。どういった方法を取るのかは判らないが、危険なのだろう。
「月華は放置出来ない。放置すれば、周りの全てを巻き込む」
アレンは唸るように言うと、そのまま、館を後にした。その姿を三人は見送る。
「シオンは本当にいいの」
ルビィは尚も訊いてきた。
「僕は信じてるから。アーダは強い娘だし、それに僕とアレンの子だよ」
大丈夫だと、微笑みながら言い切った。
「それに、今心配なのは、姉さんに預けてきたシンシーのことかな」
シオンは何時ものように、右手の人差し指を顎に持っていった。
「ジゼルさんがみてるんじゃないの」
「お母さんはアーダに付きっ切り。他を気遣う余裕はないの」
シオンは肩を竦めた。
「どうして、すんなりいかないんだろうね」
シオンが尤もらしく溜め息を吐いたが、エンヴィは呆れたようにシオンを凝視した。それに気が付いた二人が、エンヴィに視線を向ける。
「何か言いたいの」
「お前達二人の娘達じゃねぇか」
エンヴィの物言いに、ルビィは首を傾げる。
「すんなりいく方が、おかしいんじゃねぇか」
シオンはエンヴィの言葉に固まった。
†††
セルジュはゆっくりと瞼を開いた。微かに感じる光は蝋燭の炎だろう。それすらも、今のセルジュには強烈だった。それでも、何度か瞬きを繰り返し、瞳を光に慣らす。
意識を失う前の状況は覚えている。薬を服用したことも記憶にあったが、混濁した意識が覚えているのは、そんな、些細なことだけだった。
どうして体が変化したのかも、覚えているし、理解もしている。自分の体に起こった変化が、どちらの性別を選び取ったのかも、漠然とだが判っていた。ゆっくりと両手を挙げると、目に飛び込んできたのは、筋張った指先だった。
目に映る両手を握り締め、アンジュのことを思った。もう少し、早く状況を理解していれば、失うことはなかったのかもしれない。それでも、安穏とただ、甘えていた自分のせいであったことも、十二分に理解している。
本当に失ってしまったとしても、会ってくれなかったとしても、気持ちだけは伝えたかった。どんな方法をとっても、それだけは、どうしても、アンジュ本人に伝えるべきだ。
そして、思ったこと。
セルジュはアンジュ以外の女性を伴侶にするつもりはなかった。幼いときから側にいるのが当たり前で、気持ちは伝えていなかったが、唯一の存在は、アンジュ一人だけなのだ。だから、両親にはアンジュ以外とは結婚しないと伝えるつもりだ。
それは、血筋が絶える危険をはらんでいたが、セルジュの正直な気持ちだった。
一度、目を閉じゆっくりと、再び瞼を開く。そして、顔を横へ向けた。最初、目に入ったものが理解出来なかった。視界に飛び込んできたモノ。淡い金色の巻き髪。セルジュは慌てたように、体を起こした。体は軋んだ様に悲鳴を上げたが、そんなことにはかまっていられなかった。
「……アン」
それは信じられない事だった。何故なら、アンジュは見合いはすると言っていたからだ。母親であるルビィが、本人の口から聞いたと言っていた。それなのに、何故、セルジュのベッドの端で眠りこけているのだろうか。
セルジュは震える右手で、アンジュの髪に触れた。記憶にある柔らかい髪。緩やかに波立つ髪は、セルジュの指先に絡みついた。
たったそれだけのことなのに、こみ上げてくるものは何なのだろうか。失い、決して、触れることが叶わなくなったと、そう、考えていた存在が、目の前に居る在り得ない現実。
だが、それは確かな存在感で、セルジュの感覚を刺激していた。微かにアンジュの体が動く。セルジュは慌てたように、右手を引っ込めた。
アンジュは緩慢な動作で、セルジュに視線を向けた。ぼんやりしているのだろう。セルジュが身を起こしていることを、理解していないような表情をしている。
ゆっくりと脳が今の状況を理解し始めたのだろう。明らかに、表情が変わった。慌てた様に立ち上がったのだが、それを、セルジュがアンジュの腕を掴むことで、引き止めた。
「……離してっ」
アンジュは腕を振り払おうとするのだが、上手くいかず、驚いたようにセルジュに視線を向けた。何時もなら、簡単に振り払えたからだ。
「どうして此処に」
セルジュの質問に、アンジュは強く首を横へ振った。言いたくないというのだ。本当なら、この場所に来るつもりなどなかった。別の者を想い、変化していく姿を、見ていたくはなかったからだ。だが、両親がそれを許さなかった。
「お見合いをすると、両親から聞いた」
アンジュの表情が歪む。確かに自分で決めたことだが、セルジュの口から発せられた言葉が、アンジュの心を抉った。
「……今からするわっ。だから、離してっ」
その叫びに、セルジュは更に強く、アンジュの腕を掴み、引き寄せた。アンジュは抵抗する暇もなく、ベッドに倒れこんだ。思いもよらない力に驚きながら、それでも、離れようともがく。セルジュは暴れるアンジュを背中から抱き込んだ。
「まだ、誰のモノでもないんだな」
耳元で確認するように囁かれた声に、アンジュの動きが止まった。セルジュは何が言いたいのだろうか。
強くアンジュを抱きしめているのは、一体誰なのだろうか。今までと体の大きさが違う。声も前より低くなっている。何より、アンジュをいとも簡単に拘束した。その力が、今までのセルジュのものとは違っている。
「好きでもない奴の元に、嫁ぐつもりなのか」
落ち着いた声が、アンジュに問い掛けた。好き好んで、好きでもない者の元に嫁ぐのではない。全てはセルジュのためだった。アンジュが側にいることで、セルジュの変化を止めていると確信したからだ。そうでなければ、側を離れようとは考えなかった。
「今、この場所で、首筋に噛み付きたいって言ったら、どうする」
いきなり言われたことに、アンジュは混乱した。
そして、固まった。セルジュの言っていることが、理解出来なかったからだ。
「この場所に、俺を刻んで良いか」
セルジュはそう言うと、アンジュの首筋に唇を押し当てた。触れてきた柔らかい感触に、アンジュは体を捻った。セルジュの行動の真意が判らなかったからだ。
「待ってっ」
セルジュは後ろから、アンジュの顔を覗き込んだ。混乱を顕わにしているアンジュに、小さく溜め息を吐く。
「何を言っているのか判らないわっ。セルは別の人を好いているのではないのっ」
アンジュの言葉に、セルジュは脱力した。
勘違いされているとは思っていたが、現実にそうだと、悲しくなるのは何故だろうか。とは言え、セルジュはアンジュに気持ちどころが、態度すら表してはいなかった。勘違いされていたとしても、文句は言えない。
「どうして、そんな考えになるんだ」
溜め息のように、アンジュの耳元で囁いた。
「だって、セルは、私が離れたから、変化したんじゃない」
確かにそうだが、別の誰かを好きになるほど、他の者達と接触はしていない。ましてや、別の幼馴染み達に、アンジュに抱いているような、感情を持ったこともない。同じ調香師仲間に抱いていたのは、完全なライバル意識だ。
セルジュが変化する切っ掛けを作ったのは、確かにアンジュだ。だが、アンジュが考えているような理由で変化したのじゃない。
「今までの俺では、駄目だと思ったからだ」
どっちつかずのセルジュでは、アンジュの行動を止める力がなかったのだ。性別を持たないままでは、引き止めることすら出来なかった。それが判らないほど、愚かではないつもりだ。
「アンがお見合いをすると聞いたとき、自分ではどうすることも出来ないと、そう思ったんだ」
引き止めるなら、それに見合う、性別を持っていなくてはならなかった。両性でも無性でもない。ただ、性別が確定していないだけの存在だ。
性別を確定させるためには、自分の意志が必要だと、アレンに散々言われていた。しかし、セルジュには危機感が全くなかったのだ。
「離れて行く可能性を、完全に失念していたんだ」
だから、投げつけられた石自体は小さかったのだろうが、それが作り出した波紋は大きく広がった。セルジュに初めて、焦りが産まれたのだ。
「今更だと言われても仕方ないと思っている。それでも、本当の気持ちだけは伝えようと思った」
もし、アンジュが他の誰かのモノとなっていたとしても、気持ちだけは伝えるつもりだった。それは、セルジュのけじめでもあったのだ。
「本当の気持ち……」
アンジュは小さく息を呑んだ。セルジュの今までの行動は、何を意味しているのだろうか。いいほうに捕らえようとしている心を、必死で叱咤する。期待をして、傷付きたくなかった。セルジュが変化する姿を、見続けている間、心に鋭い棘が突き刺さり続けていた。
「アン以外は妻にしない」
「え……」
アンジュは思わず振り返っていた。
「アンが離れていったら、一人で生きていく。両親にはそう伝えるつもりだ」
セルジュは都合よく考えようとする気持ちを、無理矢理押さえつけ、そう、口にした。
「どうして……。そんなこと、許される筈がないわ」
セルジュは男性に変化したが、薔薇の血族だ。そんな勝手は、黒の長が許さないだろう。薔薇の血筋は、子孫を残す義務を負うのだ。
「黒の長様だろう」
アンジュが言いたいことは判っているが、罰せられたとしても、貫くつもりだ。それに、心に沿わない婚姻は、不幸を招く。そのことを、黒の長は誰よりも理解しているだろう。それと同じくらい、両親も判ってくれる筈である。
「俺は男になったし、女性人口はいまだに男性人口に追いついていない。だから、そう言ったとしても、許されるだろうし、理解してくれると思う」
アンジュを抱き締めたまま、セルジュは瞳を伏せた。
アンジュを手に入れたいのが正直な気持ちだが、無理を強いたいとは思っていない。もしかしたら、アンジュはもう、セルジュに気持ちを向けてくれていないのかもしれない。アレンに言われて、この場所に留まっていた可能性もあるのだ。
「……セルが幸せになると思って、私は離れる選択をしたのよ。どうして、そんなことを言うの」
アンジュは泣きそうになりながら、問い掛けた。
「アンの幸せが、俺の幸せだよ。だから、気持ちだけは伝えるつもりだった。性別を手に入れて、それから、伝えたかったんだ」
あの苦しい時間を乗り切れたのは、アンジュに対する、気持ちだけだったのだ。
「セルも幸せにならないと、意味ないじゃないっ」
アンジュは涙を止めることが出来なかった。父親の言った言葉が蘇る。アレンは言っていたのだ。一つの考えに固執したアンジュに、別の可能性をどうして、考えないのかと。
「私はセルのために離れるって決めたの。セルの体が大変なことになるって聞いて。それなのに、男の人になれたのに、私が離れたら一人で生きていくって、そんなの酷いわっ」
「だったら、側にいてくれるの」
その言葉に、アンジュの動きが止まった。言われた言葉が素直に浸透していかない。今のは幻の言葉だと、誰かが囁きかける。アンジュに触れているのはセルジュなのに、今までと違う感覚が、何もかもを否定する。
「それとも、男になった俺じゃ、駄目だって言うのか」
アンジュは首を強く横へ振った。そんなことはない。
「……私は卑怯だわ」
「どうして」
「セルに、自分の言葉で告げなかったのよ」
セルジュは目を細めた。もし、セルジュがアンジュの立場だったとして、本人を目の前に、告げることが出来ただろうか。
その答えは、否、だ。
本当の意味で、気持ちに区切りをつけ、告げる決心をしたのなら、面と向かって言えるだろう。告げることが出来なかったということは、少なくとも、アンジュはセルジュを嫌いになったわけではない。セルジュの気持ちを知らなかったからこそ、不安だったのだ。
二人は語るということをしていなかったのだ。それは、他の幼馴染み達にも言える事なのではないだろうか。だから、アンジュ一人の責ではない。
「俺も同じなんじゃないか」
セルジュは静かに言った。
「側にいるのが当たり前で、それは、変わらず続くと思ってたんだ」
アンジュが起こした行動は、セルジュに変化を与える切っ掛けそのものだったのだ。確かに、変化したての体は違和感が強い。微妙に重い上に、体の大きさが変わったからなのか、感覚が完全に変わってしまっている。
何より困りモノなのが、力だ。
アンジュを引き止めるためにとった腕に、必要以上の力を込めてしまった。
アンジュはそんなセルジュの言葉を耳にし、ぎゅっと、抱き付いた。強い力の、変わった全てに驚きはしたが、セルジュはセルジュだった。何も、変わっていない。
「側にいさせて」
アンジュは小さな声で呟くように言った。セルジュはアンジュの髪に、優しくキスを落とす。失ったと思っていた者が腕の中にいる。それは、当たり前ではなく、奇跡に近いことなのかもしれない。
「アンは俺が生まれたときから、俺のものだしね」
セルジュはくすくす笑いながら、アンジュを抱きしめ、首筋に顔を埋めた。その言葉にかちん、ときたのだが、拘束されていては、反論も出来ない。
首筋に感じた熱と、濡れた感触に、アンジュは目を見開く。今、噛み付かれたら、大変なことになる。いくら、薔薇の血族には寛容な黒の長でも、血液の摂取は許可がなくては許されない。
アンジュはセルジュの背中を力の限り叩いた。セルジュは判っているのだろう。アンジュの反応を楽しんでいるようだった。わざと軽く首筋に牙を立てる。
「それだけは、絶対に駄目っ」
アンジュの絶叫は、部屋の外だけではなく、シオンの耳にも届いたのだが、当の母親は面っしていた。逆に慌てたのはルビィとエンヴィだったのだが、シオンは何時ものごとく、幸せだったらいいじゃない、と、満面の笑みを向けた。何があったのか、全く判らないルビィと、何となく察している節のエンヴィの様子に、シオンは苦笑いを浮かべた。
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