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最終章 吾亦紅
里帰り
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─ 三ヶ月後 ─
黄龍殿では黄虎と虎春の婚儀のため、五神家から招かれた客で賑わっていた。玄枝と九虎の告別式から日も浅いと黄理は思っていたが、盛虎から「わしら同家の者達は九虎の件で、責任を感じて他神家へ顔向が出来ないでおるのだ、民への不安も取り除く為にも、婚儀を早めてくれぬか?」とお願いされた。黄虎に虎春との婚姻に迷いがなく、それならと、告別式からわずか三ヶ月後の式となった。
お陰で中央宮に休む暇などなく、宮内は準備に追われていた。四ヶ月前に起きた悲劇を誰も忘れてはいない、忘れられるはずがない。だが、暗く沈んでいるよりは残された者達のためにも、明るい事で動き回っていた方が良かったのだ。
儀式が始まり、壇上で黄理の前に黄虎と虎春が立ち並ぶ。虎春は黄龍家女子特有の装束金の羽織を纏い、いつものおさげの髪型は頭上で束ね花型を作り、金の簪と髪飾りを着け、眉目麗しい花嫁姿だ。黄虎は金龍の刺繍入りの婚儀の装束に、髪を頭上に結い上げ婚姻した男子の髪型になり、第二宗主としての風格が表れていた。
黄虎はしゃがんで片膝を突き、黄理が黄龍家の金の冠を髪に被せ金の簪で固定する。続いて龍の細工が入った剣を横に両手で受渡し、黄虎が剣を頭上に掲げ黄理に頭を下げると、参列者から二人へ祝福の拍手が送られた。弟夫婦の晴れ姿を見て、志瑞也は目元を滲ませ胸元を握る。
(黄怜、黄虎が今日虎春ちゃんと結婚したよ、きっと幸せになれるよ…)
鼓動の揺れが、黄怜が喜んで飛び跳ねているように感じた。
儀式が終わっても黄虎は五神家の挨拶回りに、第二宗主としての心構えや誓いやらで話す間などなく、夜の宴の席かここに居る間に話ができればと、遠目から目配せして手を振る。手を振り返す黄虎は、男らしくしっかりとした顔付きになっていた。
(黄虎かっこ良くなったなぁ… 子供ができたら、俺伯父さんになるんだなアハハハ)
今日より、黄虎と虎春は共に銀白龍殿へ移り住む。そこは黄怜がニ年間、父黄一と母玄華と共に暮らし、黄一から金の羽織を貰った場所でもある。黄虎達が暮らすことで、切ない思い出が、明るい思い出に変わることを志瑞也は願った。
三ヶ月前の告別式の際、麒麟が出現したと思いきや、志瑞也と蒼万は辰瑞と共にそのまま東宮へ帰ってしまった。中央宮から戻った葵から「志瑞也さん、これ玄華様からお預かりしてきました」大事な飾箱を受け取る。「ありがとう葵ちゃん、ただいま」そう言うと「お帰りなさい」葵は泣きながら抱きついた。モモ爺達も一緒に連れて帰ってきてくれたが、玄華が寂しがったに違いない。葵が柊虎のことを聞いてくることはなかったが、恐らく告別式で話し合ったのだろう。後日、婚約を葵の方から解消した。
案の定、蒼龍家の家族会議に呼ばれ、出立の時と同様に全員の視線は志瑞也に向いていたが、蒼万は堂々と志瑞也の手を握っていた。「お主は本来、黄龍家の者じゃが…」蒼明は二人の握り合う手を見る。「まぁよい、ここを自分の家だと思いなさい」蒼明はにこやかに微笑んだ。志瑞也は朱子に「朱子ばぁちゃん、て呼んでもいいですか…?」と聞くと「ばぁちゃんで良いのよ、ふふふ」柔らかく微笑む。志瑞也の堪えきれない涙を朱子が拭って「孫が増えたわ」頭をなでる。思わず朱子に抱きついて泣いていると、葵ももらい泣きをし、意外なことに愛藍も泣いていた。むしろ愛藍は「蒼万の暴走を止めてくれてありがとう」と志瑞也の手まで握った。蒼万の家族は皆温かく、優しい。
辰瑞を皆に会わせるとやはり驚き、蒼明は「まさか麒麟とは… あの時目を疑ったが、生きて出逢えるとは思わなかったのう」涙ぐんだ。「志瑞也、神獣は己の心に共鳴するのだよ、己を大切にすれば辰瑞も喜ぶぞ」蒼凰は微笑んで言い、誰も二人を責めることはなかった。東宮が新たな志瑞也の広い家となり、蒼万殿には沙羅達や傘寿も戻り、蒼万との濃厚な日々が嘘のように日常を取り戻した。
今回、中央宮へモモ爺達と傘寿も連れて行くことにした志瑞也は、先に銀龍殿に行き「お母さん、ただいま」家出をしたわけではないが、分が悪そうにはにかむ。玄華は直ぐに飛びついて顔や体をべたべた触り「何処も悪くない? あれから大丈夫だったの⁉︎」泣きながら心配していた。その温もりに玄一や母未来が重なり、とても懐かしく幸せを感じた。
千玄と玄七とも抱擁を交わし、無事を確かめ合う。嫁いだ人は皆こうして、家族に会いに里帰りをするのだろう。待っていてくれる者達がいる。三人に会うと、玄一の存在が近くに感じられた。三人に辰瑞を会わせると「黄怜はずっと神獣を欲しがっていたわ、こんな素敵な神獣が付くなんて…」玄華は辰瑞をなでながら声を震わせた。
滞在中、玄華にモモ爺達と傘寿をお願いすると「モモちゃん達相変わらず可愛いっ、会いたかったわ!」呼び名が変わっていた。銀龍殿は玄枝の元の殿でもあり、一号がちょこんと静かに庭園を見つめる姿に、志瑞也は胸が締め付けられた。辰瑞の存在で知った事、神獣と主は産まれた時から一心同体、本来死ぬ時も共に消える。切り離したとはいえ、半身を失い残された者が、どれほど辛い事か良くわかる。二号はそれを知ってか、黙って一号の側にちょこんと付いた。二匹の後姿に、志瑞也はどうにもならない感情を込み上げた。
傘寿を紹介すると「あなたが傘寿さん? 志瑞也を見守っていてくれてありがとう」傘寿には一度も守られた事はない、勘違いしている玄華は微笑んで傘寿の手を取る。「ここっこれからもぉ、おお守りしますす」肯定し、調子良くもじもじした。傘寿だけは、元の所から何一つ変わらない。千玄は「玄華様、庭園に玄七様が作ったキャラメルをお待ちします!」楽しそうに騒ぐ。玄七からキャラメルを沢山貰い、皆にあげた後志瑞也も一つそれを食べてみる。同じ味ではないが、懐かしい甘味が目頭を熱くさせた。玄七は同じ味が出せないことを悔やんでいたが「玄七さんの想いの味がするよ、ありがとう」気を落とさせないよう励ましたつもりだったが、杞憂に終わる。「より一層近付けるよう精進いたしますっ」拳を握り張り切って意気込みを見せた。大城だった時の玄七が、やたらと清掃に凝っていたのを志瑞也は思い出した。
黄理は黄怜殿を残すだけでなく、客室も整え、更には一部改装して大部屋まで造っていた。黄怜や黄一へのせめてもの罪滅ぼしなのか「自分の殿だと思い使いなさい」そう言って微笑む黄理の顔は、夢で最初に見た黄一に似ていた。「黄理叔父さんの目は、黄一お父さんにそっくりですね」そう言うと「よく言われるよ、ありがとう」声を震わせ目頭を摘んだ。急に大きな殿を貰って志瑞也は戸惑ったが、黄理や美虎の胸中を汲み取ることで、二人の心が楽になるのなら。そして、黄怜の存在を残せるのなら、それが皆の願いなのだ。
早速、志瑞也と蒼万は黄龍殿の客室ではなく、黄怜殿に泊まることにした。だが、黄理はこの事態を予想していたのだろうか。黄龍殿より客室が広く気が楽だと、朱翔に続き柊虎に磨虎に玄弥と、全員が黄怜殿に泊まると言い出したのだ。断る理由もなく、その事を蒼万に伝えると「…何故」と一言。予想通り、とても不機嫌になってしまった。そんな蒼万に「お前、皆居るの分かっているよな?」朱翔は釘を刺す。志瑞也は嫌な予感しかしなかった。
黄龍殿では黄虎と虎春の婚儀のため、五神家から招かれた客で賑わっていた。玄枝と九虎の告別式から日も浅いと黄理は思っていたが、盛虎から「わしら同家の者達は九虎の件で、責任を感じて他神家へ顔向が出来ないでおるのだ、民への不安も取り除く為にも、婚儀を早めてくれぬか?」とお願いされた。黄虎に虎春との婚姻に迷いがなく、それならと、告別式からわずか三ヶ月後の式となった。
お陰で中央宮に休む暇などなく、宮内は準備に追われていた。四ヶ月前に起きた悲劇を誰も忘れてはいない、忘れられるはずがない。だが、暗く沈んでいるよりは残された者達のためにも、明るい事で動き回っていた方が良かったのだ。
儀式が始まり、壇上で黄理の前に黄虎と虎春が立ち並ぶ。虎春は黄龍家女子特有の装束金の羽織を纏い、いつものおさげの髪型は頭上で束ね花型を作り、金の簪と髪飾りを着け、眉目麗しい花嫁姿だ。黄虎は金龍の刺繍入りの婚儀の装束に、髪を頭上に結い上げ婚姻した男子の髪型になり、第二宗主としての風格が表れていた。
黄虎はしゃがんで片膝を突き、黄理が黄龍家の金の冠を髪に被せ金の簪で固定する。続いて龍の細工が入った剣を横に両手で受渡し、黄虎が剣を頭上に掲げ黄理に頭を下げると、参列者から二人へ祝福の拍手が送られた。弟夫婦の晴れ姿を見て、志瑞也は目元を滲ませ胸元を握る。
(黄怜、黄虎が今日虎春ちゃんと結婚したよ、きっと幸せになれるよ…)
鼓動の揺れが、黄怜が喜んで飛び跳ねているように感じた。
儀式が終わっても黄虎は五神家の挨拶回りに、第二宗主としての心構えや誓いやらで話す間などなく、夜の宴の席かここに居る間に話ができればと、遠目から目配せして手を振る。手を振り返す黄虎は、男らしくしっかりとした顔付きになっていた。
(黄虎かっこ良くなったなぁ… 子供ができたら、俺伯父さんになるんだなアハハハ)
今日より、黄虎と虎春は共に銀白龍殿へ移り住む。そこは黄怜がニ年間、父黄一と母玄華と共に暮らし、黄一から金の羽織を貰った場所でもある。黄虎達が暮らすことで、切ない思い出が、明るい思い出に変わることを志瑞也は願った。
三ヶ月前の告別式の際、麒麟が出現したと思いきや、志瑞也と蒼万は辰瑞と共にそのまま東宮へ帰ってしまった。中央宮から戻った葵から「志瑞也さん、これ玄華様からお預かりしてきました」大事な飾箱を受け取る。「ありがとう葵ちゃん、ただいま」そう言うと「お帰りなさい」葵は泣きながら抱きついた。モモ爺達も一緒に連れて帰ってきてくれたが、玄華が寂しがったに違いない。葵が柊虎のことを聞いてくることはなかったが、恐らく告別式で話し合ったのだろう。後日、婚約を葵の方から解消した。
案の定、蒼龍家の家族会議に呼ばれ、出立の時と同様に全員の視線は志瑞也に向いていたが、蒼万は堂々と志瑞也の手を握っていた。「お主は本来、黄龍家の者じゃが…」蒼明は二人の握り合う手を見る。「まぁよい、ここを自分の家だと思いなさい」蒼明はにこやかに微笑んだ。志瑞也は朱子に「朱子ばぁちゃん、て呼んでもいいですか…?」と聞くと「ばぁちゃんで良いのよ、ふふふ」柔らかく微笑む。志瑞也の堪えきれない涙を朱子が拭って「孫が増えたわ」頭をなでる。思わず朱子に抱きついて泣いていると、葵ももらい泣きをし、意外なことに愛藍も泣いていた。むしろ愛藍は「蒼万の暴走を止めてくれてありがとう」と志瑞也の手まで握った。蒼万の家族は皆温かく、優しい。
辰瑞を皆に会わせるとやはり驚き、蒼明は「まさか麒麟とは… あの時目を疑ったが、生きて出逢えるとは思わなかったのう」涙ぐんだ。「志瑞也、神獣は己の心に共鳴するのだよ、己を大切にすれば辰瑞も喜ぶぞ」蒼凰は微笑んで言い、誰も二人を責めることはなかった。東宮が新たな志瑞也の広い家となり、蒼万殿には沙羅達や傘寿も戻り、蒼万との濃厚な日々が嘘のように日常を取り戻した。
今回、中央宮へモモ爺達と傘寿も連れて行くことにした志瑞也は、先に銀龍殿に行き「お母さん、ただいま」家出をしたわけではないが、分が悪そうにはにかむ。玄華は直ぐに飛びついて顔や体をべたべた触り「何処も悪くない? あれから大丈夫だったの⁉︎」泣きながら心配していた。その温もりに玄一や母未来が重なり、とても懐かしく幸せを感じた。
千玄と玄七とも抱擁を交わし、無事を確かめ合う。嫁いだ人は皆こうして、家族に会いに里帰りをするのだろう。待っていてくれる者達がいる。三人に会うと、玄一の存在が近くに感じられた。三人に辰瑞を会わせると「黄怜はずっと神獣を欲しがっていたわ、こんな素敵な神獣が付くなんて…」玄華は辰瑞をなでながら声を震わせた。
滞在中、玄華にモモ爺達と傘寿をお願いすると「モモちゃん達相変わらず可愛いっ、会いたかったわ!」呼び名が変わっていた。銀龍殿は玄枝の元の殿でもあり、一号がちょこんと静かに庭園を見つめる姿に、志瑞也は胸が締め付けられた。辰瑞の存在で知った事、神獣と主は産まれた時から一心同体、本来死ぬ時も共に消える。切り離したとはいえ、半身を失い残された者が、どれほど辛い事か良くわかる。二号はそれを知ってか、黙って一号の側にちょこんと付いた。二匹の後姿に、志瑞也はどうにもならない感情を込み上げた。
傘寿を紹介すると「あなたが傘寿さん? 志瑞也を見守っていてくれてありがとう」傘寿には一度も守られた事はない、勘違いしている玄華は微笑んで傘寿の手を取る。「ここっこれからもぉ、おお守りしますす」肯定し、調子良くもじもじした。傘寿だけは、元の所から何一つ変わらない。千玄は「玄華様、庭園に玄七様が作ったキャラメルをお待ちします!」楽しそうに騒ぐ。玄七からキャラメルを沢山貰い、皆にあげた後志瑞也も一つそれを食べてみる。同じ味ではないが、懐かしい甘味が目頭を熱くさせた。玄七は同じ味が出せないことを悔やんでいたが「玄七さんの想いの味がするよ、ありがとう」気を落とさせないよう励ましたつもりだったが、杞憂に終わる。「より一層近付けるよう精進いたしますっ」拳を握り張り切って意気込みを見せた。大城だった時の玄七が、やたらと清掃に凝っていたのを志瑞也は思い出した。
黄理は黄怜殿を残すだけでなく、客室も整え、更には一部改装して大部屋まで造っていた。黄怜や黄一へのせめてもの罪滅ぼしなのか「自分の殿だと思い使いなさい」そう言って微笑む黄理の顔は、夢で最初に見た黄一に似ていた。「黄理叔父さんの目は、黄一お父さんにそっくりですね」そう言うと「よく言われるよ、ありがとう」声を震わせ目頭を摘んだ。急に大きな殿を貰って志瑞也は戸惑ったが、黄理や美虎の胸中を汲み取ることで、二人の心が楽になるのなら。そして、黄怜の存在を残せるのなら、それが皆の願いなのだ。
早速、志瑞也と蒼万は黄龍殿の客室ではなく、黄怜殿に泊まることにした。だが、黄理はこの事態を予想していたのだろうか。黄龍殿より客室が広く気が楽だと、朱翔に続き柊虎に磨虎に玄弥と、全員が黄怜殿に泊まると言い出したのだ。断る理由もなく、その事を蒼万に伝えると「…何故」と一言。予想通り、とても不機嫌になってしまった。そんな蒼万に「お前、皆居るの分かっているよな?」朱翔は釘を刺す。志瑞也は嫌な予感しかしなかった。
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