天地天命【本編完結・外伝作成中】

アマリリス

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第九章 勿忘草

不思議な友情

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 志瑞也が玄枝に引き取られ七年が経ったある日、小学校から帰ってきた志瑞也は「ドタバタ」足音を立て慌ただしく居間に駆け込む。
「ばぁちゃんっ、ばぁちゃんっ、今日花絵はなえちゃんていう転入生が来たんだ! 笑顔がとっても可愛いいんだよアハハ」
 十二になる志瑞也も、そろそろ色気付く頃だ。一枝は志瑞也の顔を見れば、花絵をどう思っているのか直ぐに分かる。
「志瑞也はその子が気になるのかい?」
「べっ、別に気になってないよっ はただかっ可愛いって言っただけだよっ、何言ってるんだよばぁちゃんっ」
 志瑞也は顔を赤くして慌てふためく。これで誤魔化しているつもりなのだろうか、一枝は微笑んで言う。
「女の子には優しくしてあげるんだよ」
「わっ、わかってるよへへ」
 志瑞也は隠し事があまり上手ではない、そういう所は未来に似ている。やはり学校から帰ると、日々花絵の話すようになった。志瑞也の顔立ちは未来に似て、小さい頃は女子によく間違えられていた。そのせいか〝僕〟ではなく〝俺〟とかっこつけて言う姿も、一枝には微笑ましく見える。優しいところや気遣うところ、特に時折見せる男気は望にそっくりだ。花絵もそんな志瑞也が好きなのか、学校でも帰り道もよく一緒にいるようだった。友ができにくいことを気にかけていたが、楽しそうに話す志瑞也を見て一枝は安堵していた。だが暫くして、志瑞也は花絵の話をしなくなった。

 一枝が台所で夕飯の用意をしていると、志瑞也が学校から帰って来た。
「志瑞也、最近花絵ちゃんとはあまり遊んでないのかい?」
「うん…」
 志瑞也は顔を曇らせる。
 一枝は「トントン」食材を切りながら尋ねる。
「何かあったのかい?」
「ちょっとね… 怖いって… 言われたんだ…」
 トン…
 一枝は一瞬手が止まったがまた直ぐに動かす。
「そうかい… お前が悪い訳じゃない、誰も悪くないからね」
「ば…ばぁちゃん… ありがとう…」
 志瑞也は一枝の背中に抱きつき顔を埋める。一枝の背中には、志瑞也の体温が熱く広がった。

 小学校最後の思い出作りとして、志瑞也は修学旅行で天門城に来ていた。両親が亡くなってから、一枝に一度連れてきてもらったことがあるが、その時は霊の多さに怯えて直ぐに帰ってしまったのだ。今では見えても怯えるどころか、むしろ志瑞也の方から話したり驚かしたりしている。
「今から自由行動だ、皆怪我をしないよう気をつけるんだぞ!」
 生徒達は騒ぎ出し友と仲良く散って行く。その中に花絵もいるが、志瑞也と目を合わすことはない。
「志瑞也、お前は…」
「先生、俺なら大丈夫だよ」
 志瑞也が微笑むと、担任は気まずそうに頭を掻きながら言う。
「…わかった、先生達は向こうにいるから」
「はい」
 独りで辺りを散歩すると、やはりここは霊がうようよ歩いている。一体やたらとじろじろ見てくるのがいるが、志瑞也は気にせず先へと進んだ。龍神池に辿り着き、縁廻りを歩きながら池を覗いてみる。
(ふーん、大きい鯉が沢山いるな…)
 暫く水面を見ていると、志瑞也の側に石の塊のような者が一匹、二匹と忍び寄る。見えないと思っているからか、水面を一緒に覗き込みギョロギョロ志瑞也を見て、クンクン匂いを嗅ぎだした。様々な妖怪を見慣れている志瑞也にとって、二匹はこれといって驚くような存在ではない。気づいていると悟られないよう、水面を見ながらにんまりとする。
 三、二、一、
「わあっ!」
「なっ、何じゃお主っ、あてッ」
「何じゃお主っ、あてッ」
 妖怪達が驚きひっくり返る。
「アハハハハ! びっくりしたか?」
「無礼な奴めっ」
「無礼な奴めっ」
(こいつら鈍臭いな、クククッ)
 二匹は自力で起き上がれないのか、ジタバタと仰向けで喚いている。志瑞也は二匹の手を掴み、笑いながら起き上がらせた。
「アハハハごめんごめん、お前達は石の妖怪か? 名前はあるのか?」
「わしはモモンじゃ」
「わしもモモンじゃ」
「…どっちもモモンじゃ、ややこしいなぁ」
 どう見分ければよいのか、睨みつけてくる二匹の顔や声、髭の長さも全て同じで、見比べても純粋に困ってしまう。
「お主名は何と申すか?」
「俺は天堂志瑞也だ」
 二匹は志瑞也をまじまじと見つめる。
「お前達甘い物好きか?」
「お主っ、わしらを餌で釣る気かっ」
「わしを餌で釣る気かっ」
 なるほど、この二匹を区別できそうな気がしてきた。志瑞也は腕を組み片方の口角を上げ「ふっ」鼻で笑う。鞄の中から餌を摘み取り、屈んで二匹に手の平を見せる。
「これはキャラメルってお菓子だ、俺が一番好きなお菓子だよ」
 二匹は警戒しながらキャラメルの匂いを嗅ぐ。
「甘い匂いがするだろ? 食べるか?」
 既に二匹は涎を垂らしている。
「ほら、やるよ」
 いきなり差し出されたキャラメルをガシッと掴み取り、二匹はお礼も言わずそそくさと茂みに走って行く。
「あっ、何だよあいつら…」
 妖怪は直ぐには懐かない、仕方がないと志瑞也はまた歩きだした。ふと後ろから気配を感じ、ばっと振り返ると先程のモモンが一匹だけいた。
「わしはキャラメルまだもろうてない」
「え? 三匹目がいたのか?」
 志瑞也は再び鞄に手を突っ込む。
「お主はさっき食べたではないかっ!」
 茂みからぴょんと、もう一匹のモモンが飛び出してきた。
 志瑞也は片眉を上げて言う。
「お前達、本当は何匹なんだ?」
「わしらは二匹じゃ! くれるというなら貰うぞ」
 そう言って、短い手を広げた。
「ぷっアハハハハ」
 流石キャラメルの力は偉大だ。もう一つずつあげると、二匹は今度は逃げずにその場でキャラメルを食べた。一匹のモモンが指差し「あいつはなんじゃ?」ずっと後を付いてきた浮遊霊がもじもじしながら加わる。だが一言も話さず、やたらと志瑞也の腕を小突いてくる。「俺に取り憑くなよ」きっと睨んで言うと「わわ私はは、とと取り憑くことはは、ででできませんっ」かなり重症な気がして、志瑞也は顔を引き攣らせた。

 翌日家に帰り、早速、人間ではない友ができたと一枝に笑いながら話をした。一枝は微笑みながら聞いていたが、浮遊霊に関しては、同じく顔を引き攣らせ首を傾げた。
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