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第八章 莢迷

結合

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 黄怜達が黄龍殿に着くと、既に神家第一、第ニ宗主が門前広場に集まっていた。その中に女子は、朱音だけが来ていた。友である玄枝のことを思い、参加したのだろう。黄怜はそう思った。
「黄怜、私は父上と一緒に中に入るよ」
「わかったわ黄虎、叔母上は?」
 黄虎は眉間に皺を寄せ、顔を軽く横に振りながら言う。
「父上が、これ以上は祖母上に関わるなと、自殿で待つよう言ったのだ…」
「そう…叔母上も苦しめてしまったわね」
「黄怜っ、母上のこと…」
 言葉を詰まらせた黄虎を、黄怜はそっと抱きしめて言う。
「叔母上も、誰も悪くないわ」
「ありがとう、黄怜…」
 そう言って、一度黄怜を抱きしめた後、黄理の元へ行く。
「黄怜、私も祖父上達へ挨拶に行ってくるよ」
「わかったわ柊虎」
 朱翔は黙って出て来たことで父朱能と目が合うと、苦笑いしながら祖父晟朱といる二人の元へ駆けて行き、蒼万も祖父蒼明達の元へ行った。
「母上、私も話したい友がいるので」
「わかったわ」

 黄怜はその集団から少し離れた所にいる、一人の男子に歩み寄り声をかける。
「玄弥」
「し志瑞也ぁ、そっその格好はどうしたのだ?」
「玄弥、私は黄怜よ」
「……そ、そっか…ほっ本当だったのだな、しかも女だったなんて、驚いたよ…」
 玄弥は戸惑いを見せる。
 同年代で一番仲が良く、一番共に笑い合い、玄弥のような素直な人になりたいと、黄怜はずっと思っていた。
「隠していて…ごめんね」
「そっそれでもっ、黄怜は私の大切な友だ!」
 あの頃のように、玄弥が黄怜の肩を組む。
「玄弥、ありがとう」
 黄怜も玄弥の肩を組み返し、大声で笑い合いたい気持ちを抑え二人は微笑み合う。
「黄怜、し志瑞也ぁは?」
 黄怜は胸に手をあてて言う。
「志瑞也は今、ここで眠っているわ」
「眠っている?」
「そう…」
 黄怜は目で頷く。
 玄弥が黄怜を優しく抱きしめ、黄怜は玄弥の背中を摩りながら言う。
「ありがとう玄弥、葵を大切にしてね」
「葵ちゃんは… ずっと柊虎さんが好きだ… そんな葵ちゃんが私は好きなのだ… 知っているだろ…ハハハ」
 初めてまともに話した玄弥の声は、わずかに震えていた。
「えぇ、私はそんな玄弥に、ずっと救われていたわ… 大好きよ玄弥」
「私もだ… 黄怜…」
 目の縁を赤く染める玄弥に黄怜は言う。
「玄弥には笑顔が似合うわアハハ」
「お前もな黄怜ハハ」
 二人は小声で笑い合う。
 朱翔が眉間に皺を寄せて近付いてきた。
「お前達っ何ずっと抱き合っているんだよっ、見ているこっちが恥ずかしいじゃないかっ」
「私達は昔からこうよ、ねえ玄弥」
「そうですよ朱翔さん、あっ、もしかして朱翔さんも、本当は私達とこうしたかったのですか?」
「ばっ、お前っ頭大丈夫か? うわっ」
 玄弥が朱翔に抱きつく。
「おまっ、やめろよっ」
「朱翔も大好きよ」
 そう言って、黄怜も朱翔に抱きつく。
 朱翔は慌てふためいていたが、自分の性分も大概お節介焼きだと、諦めて二人の頭をなでる。
「朱翔は本当は情に厚いの私知っているのよ、黄虎のことありがとう。あなたの笛がまた聞きたいわ」
「お前達っ、ったく…面倒な妹は朱夏だけでも十分なのに、更にやっかいな弟と妹が二人も増えた気分だよ、しかも一人はどっちか分からないしな」
 三人は「クスクス」笑い合う。
 そこに、更に険しい顔をした磨虎がやってきた。
「お前達っ、男同士で何抱き合っているのだっ、気持ち悪いっ」
 そう言いながら、片眉を上げて黄怜を見る。
「お前はあの無礼な奴か?」
「磨虎久し振り、相変わらずね」
「…まさかっ、きっ、黄怜なのか?」
「えぇ、あなたにも会いたかったわ」
 そう言って、今度は磨虎に抱きつく。
 流石に玄弥も朱翔も驚いたが、目を見開いて一番驚いていたのは磨虎だった。大の女好きで、男子と抱き合うなど弟の柊虎とすらしない。黄怜は格好や話し方は女子でも、声や体は男子だ。しかも、南宮で一度志瑞也と揉めてもいる。磨虎は顔面蒼白になり、戸惑い立ち尽くす。
「磨虎? 鳥肌が立っているけど大丈夫?」
 黄怜が磨虎の顔を覗き込む。
 磨虎に触れた黄怜の腕や胸は、女子の様に柔らかくはない。明らかに男子だと分かっていても、ふわっと香る白粉の匂いに艶やかな金の羽織、ほんのりと唇に塗られた紅に、衿元から見える首筋、磨虎は思わず生唾を飲んで腰に手を回す。自分とは違う細めの体に、磨虎の男の性が騒ぎだした。
 食い入るように黄怜の目を見て言う。
「黄怜…お前、女だよな?」
「うん、隠していてごめっ」
 磨虎が急に黄怜を力強く抱きしめる。だが、明らかに磨虎の手付きはおかしい。腰や背中をなで回し、お尻を触りだした。「きゃっ」初めての感触に黄怜は身の危険を感じるも、磨虎の手は止まらない。
「ちょっ磨虎っ! 何処触ってっ」
 磨虎は黄怜の首筋に顔を埋め鼻息を立てる。
「やめっ」
「黄怜っ、お前いい匂いがするぞっ」
 今度は黄怜が青褪めて鳥肌を立てる。
 朱翔は怪しげな笑みを浮かべ、玄弥は口を手で塞いで吹き出す笑を堪えていた。
「ちょっ朱翔っ、玄弥っ、見てないで磨虎を止めてよっ!」
「ゔゔッ…」
 いきなり、磨虎が唸り声を上げて膝から崩れ落ちる。黄怜はすかさずばっと磨虎から離れると、磨虎の後ろで光る金色の瞳に睨まれた。
「だッ、誰だっ…」
 磨虎は脇腹を押さえ苦しそうに振り向く。
「蒼万っ」
「盛るのは自分の女だけにしろ、頭の悪い奴め」
「なっ… くッ…お前ッ しっ、しかも力を使っただろっ くそッ…今までずっと隠しやがってッ」
 いつもの磨虎なら胸ぐらを掴んでいきそうだが、呼吸が乱れ動けないでいた。恐らく蒼万が脇腹を殴った際に、神力も同時に打ち込んだのだ。
「蒼万っ、あっありがとう」
「お前もだ、誰構わず抱きつくな」
 そう言って、蒼万は蒼明と蒼凰の元へ戻ると、横から柊虎が兄磨虎の体を支え呆れたように言う。
「今のは兄上が悪いです」
「くッ…こういう時はっ、お前が止めに来いよっ 何であいつが来るのだッ」
 磨虎は盛虎から蒼万の神力を聞かされ、もしや自分よりも強いかもしれないと思い、今は下手に喧嘩を売れないでいるのだろう。それに今回は、そのために集まった訳ではない。少しは考えているのだと柊虎は安堵した。
「私が止める前に、蒼万がもう動いていたので」
 そう言って、柊虎は少し笑う。
 見物していた朱翔と玄弥は蒼万の行動に驚くも、珍しいものが見れたと更に笑いを堪えていた。黄怜だけは首筋とお尻を押さえながら、あの時女子だと打ち明けなくて良かったと、初めて思ってしまった。
 朱翔が怪しげに笑いながら柊虎に言う。
「お前が止めるのは分かるが、何で蒼万があんなに怒るんだ?」
「それは…」
 黄怜は腕を組み片眉を上げて磨虎に言う。
「蒼万は品がないのは嫌いなのよっ、ねえ柊虎アハハ」
「……」
 柊虎は何とも言えず苦笑いを浮かべる。
「黄怜っ、私に品がないというのかっ、女を女として扱って何が悪いっ」
 ……。
「磨虎さん…よく朱里さんと婚約できましたね」
「え? 磨虎はあの朱里さんと婚約しているの?」
 玄弥は真顔で黄怜を見て頷く。
「磨虎、今日のことは姉上には黙っておくから、黄怜に変なことはするなよ」
「朱翔っ…わ、わかった」
 朱翔が釘を刺し磨虎は大人しくなった。蒼万が戻り磨虎はきっと睨むも、蒼万は横目でじろっと見るだけで相手にしなかった。「玄枝様がいらした」柊虎が視線を向ける。皆で見合わせて頷き、玄枝の元へと歩きだす。

 玄枝は宗主達と軽く挨拶を交わし、玄七が黄龍殿の扉を開け、宗主達を殿内へと案内し始める。
 玄枝が黄怜達に言う。
「あなた達は今回特別に参加を許可しました。下手なことはしないように、分かりましたか?」
 全員が頷く。
「黄怜、玄華達と一緒の席に座りますか?」
「いいえ祖母上、友と一緒におります」
「そう…分かりました(良い友を持ちましたね)」
 そう言って、微笑んで黄怜の頬をなでた。

 玄枝が中に入った後、最後に黄怜達も殿内に入った。初めて入る集会室は、大きな円卓の周りに椅子が十二席あるが、全員は座れない。恐らく、この人数が入ることは、今までなかったのだろう。そもそも、これを予測して造られてはいない。扉に向かって一番奥に玄枝が腰掛け、左周りに黄龍家、玄武家、蒼龍家、朱雀家、白虎家、と囲って座り、玄七と千玄は、黄龍家の後ろで壁沿いに立っていた。五神家の宗主達が揃って席に座ると、見ているだけでも異様な緊張感が漂う。吉報ならまだしも、凶報で集めれられたのだから無理もない。妙な静けさの中、黄怜は玄枝と玄華に視線を合わせ微笑んで頷く。
「皆さん、急な呼び出しに応じていただき、ありがとうございます」
 玄枝の声で集会が始まった。
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