天地天命【本編完結・外伝作成中】

アマリリス

文字の大きさ
104 / 164
第七章 百日草

いつまでも変わらない心

しおりを挟む
 黄一の死後、夫を亡くした者は大殿にはいれず、玄華は銀白龍殿から玄龍殿げんりゅうでんへ移り、黄理と美虎が赤龍殿せきりゅうでんから銀白龍殿へと移った。黄理が第三宗主となり、黄羊は早々に黄怜殿の隣に黄虎殿を建てた。

 中央宮での暮らしにも慣れた四年後、黄怜は十二になり、二回目の神家合同講習会が開催された。今回は九つから成人前の十七迄と決まっている。期間は七日間だが、講習会というよりお祭りのようなものだ。五日間の間に座学・実技の試験を行い、座学は上位者を貼り出し、実技は上位者を選抜する。残り二日間は神族や民を招いて、実技で選抜された者達が余興として披露する、天命懇神義となっている。〝天の命により民を尊い者とし、神族は民に忠義を尽くす〟日頃、宮に訪れる機会のない民にとっては楽しみでしかない。
 天命懇神義は黄龍家の安泰を意味し、五神家の調和を表している。争いの絶えない時代の後、民への忠義と安心のため執り行われ始めた。民の純粋な信仰心は神族の力の源、民無くして神族は生きられないのだ。神族への接待よりも、民へのお持て成しの準備が中心となり、本家も分家も総動員で駆け付け、いつになく宮全体が騒がしかった。
「黄怜っ、黄虎っ」
「柊虎っ、磨虎っ、久し振りだな…この子は?」
 柊虎の側に白虎模様の衣に、長い前髪を中央から二つに分け、後ろ髪をおさげに結んだ女子がいた。
「私達の妹の虎春だ」
「虎春と申します、以後お見知り置きを」
 虎春が軽く頭を下げる。
 目尻にかけてまつ毛が長く、笑うとまつ毛がくるんと動く。
「かっ…可愛い」
 黄虎が呟く。
「私は黄怜だ、こっちがっ」
「わっ私は黄虎だっ! こっ虎春はここは初めてだろ? 私が案内するよっ」
「……」
 黄怜は黄虎の積極さに驚く。
「柊虎兄上、黄虎と行ってきても宜しいですか?」
 柊虎は頷きながら言う。
「黄虎、虎春を頼む」
「わっわかった、こっ虎春行こう!」
「はい」
 黄虎が虎春に手を差し伸べると、虎春は手を取り、二人は少し恥ずかしそうに歩いて行く。
 柊虎が二人の後姿を見て言う。
「黄虎の奴、しばらく会わない間に色気付いたなハハハハ」
 磨虎が柊虎の右肩に肘を置いて言う。
「ってか虎春の奴っ、何で私ではなくてお前だけに言うのだ?」
「……」
 柊虎が呆れた顔で磨虎を見る。
「アハハハハ、二人共相変わらずだな」
 黄怜は大声で笑う。
 十五になる二人の帯には家紋の刺繍が入り、背丈も高く黄怜を見下ろしていた。
 磨虎が言う。
「黄怜お前っ、縮んだか?ハハハハ」
「まだ十二だっ、これから伸びるよっ」
「それに…」
「どうした?」
 磨虎が黄怜を上から下まで眺めて言う。
「お前…男にしとくには勿体無いぐらい美人だぞっ、その顔じゃあ女は目劣りしそうで寄って来ないぞっ、なあ柊虎っハハハ」
「……」
「私は母上に似たから…仕方ないよ」
 黄怜は苦笑いした。そこまで褒められるとは思っていなかったが、それなりのことを言われるのは予想していた。成長するにつれ、五つの時よりも身体付きが男子と違うのは分かっていた。誤魔化しきれなくなる時が来ることに、黄怜自身が一番不安を抱えていた。
 磨虎が柊虎に言う。
「おいっ、さっきからお前っ、黙ったままでどうした?」
「柊虎どうしたんだ?」
 黄怜は下から柊虎の顔を覗き込む。
「なっ何でもないっ」
 柊虎は少し後退る。
「ぷっ、お前も色々と色気付いているからなハハハハ」
 磨虎が笑いながら柊虎の右腕を小突く。
「そうなのか柊虎?」
「ちっ違うっ 黄怜っそれは兄上の方だっ」
「そうなのか磨虎?」
「おまっ、絶対言うなよっ」
 磨虎が焦りだす。
「何を言うなだって? 私には教えてくれるんだろ? 二人共久し振りだなハハハ」
 双子の後ろから間に割って入り顔をだす。
「朱翔っ!」三人は同時に言った。
 柊虎が磨虎を見ながら怪しげに微笑んで言う。
「朱翔、お前の姉上は今回来ないのか?」
「姉上? 何でだ?」
「柊虎黙れっ」
「姉上は年齢が対象じゃないから参加はしないが、最終日には観に来るって言っていたぞ、何でそんなこと聞くんだ?」
 柊虎が片眉を上げて言う。
「ふっ、だそうですよ兄上」
 磨虎が朱翔に詰め寄る。
朱里じゅりが来るのかっ? 本当か朱翔っ、嘘だったら許さんぞっ」
 朱翔は磨虎から少し離れて言う。
「柊虎…こいつ、大丈夫か?」
「いいや、色気付いただけだ」
「柊虎黙れっ!」
「アハハハハ、皆変わってなくて安心した」
「おっお前黄怜か? だっ、誰かと思った…」
「朱翔、元気だったか?」
「おっおう…」
 朱翔も黄怜の成長ぶりに、磨虎と同じ意味で驚いていた。
「わっ! だっ誰だ?」
 黄怜は誰かに抱きつかれた。
「黄怜っ! 誰か分かんなかったけど、笑い声は変わってないのだなっハハハハ」
「玄弥っ」
「黄怜久し振りだな、元気だったか?」
「うん、久し振りだな。玄弥も背丈がだいぶ伸びたな」
 玄弥の抹額は家紋の刺繍入りに変わっていた。
 黄怜も玄弥を抱きしめ、軽く背中を叩いた後離れて尋ねる。
「玄弥、葵は?」
「あっ葵ちゃんはっ、そっ蒼万さんと一緒にいるよ」
 玄弥が指を差し、全員がその方向を向く。
 ……。
 玄弥以外の全員が固まる。
 蒼万は誰よりも背丈が伸びていて、顔立ちも目鼻立ちが通り、周りには女子達が群がっていた。まさに、容貌魁偉とは彼のことだ。
「あいつ、何食ったのだ?」
 柊虎は兄磨虎を無視して朱翔に言う。
「あそこの輪の中にいるの、お前の妹ではないのか?」
「はぁー、あいつは男の顔しか見てないからな」
「蒼万さんは、あっ葵ちゃんの兄上で男前ですから」
「本当だ、かっこいい…」
 四人がばっと黄怜を見る。
「あっ、おっ同じ男としてっ羨ましいって意味だよっ、わっ私はこんなだからっアハハハハ」
 黄怜は笑って誤魔化す。
 何故か蒼万を見た時に胸がしめ付けられ、周りの女子達がとても羨ましく感じた。
 玄弥が黄怜の肩を組んで言う。
「黄怜は性格が男前だぞ、気にするなハハハハ」
「ありがとう玄弥、お前もなかなかの男前だぞアハハハハ」
 玄弥の素直さに黄怜は救われた。黄怜は少し背伸びをして、玄弥の肩を組み返して笑う。
 その様子を見て磨虎と朱翔は、二人共似た者同士だと気にも留めなかったが、柊虎だけはそうは思えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

【完結】禁断の忠誠

海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。 蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。 病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。 そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。 幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。 ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。 その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。 宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。 互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。 己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。 宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか

BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。 ……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、 気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。 「僕は、あなたを守ると決めたのです」 いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。 けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――? 身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。 “王子”である俺は、彼に恋をした。 だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。 これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、 彼だけを見つめ続けた騎士の、 世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

白銀の城の俺と僕

片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*

処理中です...