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第七章 百日草
いつまでも変わらない心
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黄一の死後、夫を亡くした者は大殿にはいれず、玄華は銀白龍殿から玄龍殿へ移り、黄理と美虎が赤龍殿から銀白龍殿へと移った。黄理が第三宗主となり、黄羊は早々に黄怜殿の隣に黄虎殿を建てた。
中央宮での暮らしにも慣れた四年後、黄怜は十二になり、二回目の神家合同講習会が開催された。今回は九つから成人前の十七迄と決まっている。期間は七日間だが、講習会というよりお祭りのようなものだ。五日間の間に座学・実技の試験を行い、座学は上位者を貼り出し、実技は上位者を選抜する。残り二日間は神族や民を招いて、実技で選抜された者達が余興として披露する、天命懇神義となっている。〝天の命により民を尊い者とし、神族は民に忠義を尽くす〟日頃、宮に訪れる機会のない民にとっては楽しみでしかない。
天命懇神義は黄龍家の安泰を意味し、五神家の調和を表している。争いの絶えない時代の後、民への忠義と安心のため執り行われ始めた。民の純粋な信仰心は神族の力の源、民無くして神族は生きられないのだ。神族への接待よりも、民へのお持て成しの準備が中心となり、本家も分家も総動員で駆け付け、いつになく宮全体が騒がしかった。
「黄怜っ、黄虎っ」
「柊虎っ、磨虎っ、久し振りだな…この子は?」
柊虎の側に白虎模様の衣に、長い前髪を中央から二つに分け、後ろ髪をおさげに結んだ女子がいた。
「私達の妹の虎春だ」
「虎春と申します、以後お見知り置きを」
虎春が軽く頭を下げる。
目尻にかけてまつ毛が長く、笑うとまつ毛がくるんと動く。
「かっ…可愛い」
黄虎が呟く。
「私は黄怜だ、こっちがっ」
「わっ私は黄虎だっ! こっ虎春はここは初めてだろ? 私が案内するよっ」
「……」
黄怜は黄虎の積極さに驚く。
「柊虎兄上、黄虎と行ってきても宜しいですか?」
柊虎は頷きながら言う。
「黄虎、虎春を頼む」
「わっわかった、こっ虎春行こう!」
「はい」
黄虎が虎春に手を差し伸べると、虎春は手を取り、二人は少し恥ずかしそうに歩いて行く。
柊虎が二人の後姿を見て言う。
「黄虎の奴、しばらく会わない間に色気付いたなハハハハ」
磨虎が柊虎の右肩に肘を置いて言う。
「ってか虎春の奴っ、何で私ではなくてお前だけに言うのだ?」
「……」
柊虎が呆れた顔で磨虎を見る。
「アハハハハ、二人共相変わらずだな」
黄怜は大声で笑う。
十五になる二人の帯には家紋の刺繍が入り、背丈も高く黄怜を見下ろしていた。
磨虎が言う。
「黄怜お前っ、縮んだか?ハハハハ」
「まだ十二だっ、これから伸びるよっ」
「それに…」
「どうした?」
磨虎が黄怜を上から下まで眺めて言う。
「お前…男にしとくには勿体無いぐらい美人だぞっ、その顔じゃあ女は目劣りしそうで寄って来ないぞっ、なあ柊虎っハハハ」
「……」
「私は母上に似たから…仕方ないよ」
黄怜は苦笑いした。そこまで褒められるとは思っていなかったが、それなりのことを言われるのは予想していた。成長するにつれ、五つの時よりも身体付きが男子と違うのは分かっていた。誤魔化しきれなくなる時が来ることに、黄怜自身が一番不安を抱えていた。
磨虎が柊虎に言う。
「おいっ、さっきからお前っ、黙ったままでどうした?」
「柊虎どうしたんだ?」
黄怜は下から柊虎の顔を覗き込む。
「なっ何でもないっ」
柊虎は少し後退る。
「ぷっ、お前も色々と色気付いているからなハハハハ」
磨虎が笑いながら柊虎の右腕を小突く。
「そうなのか柊虎?」
「ちっ違うっ 黄怜っそれは兄上の方だっ」
「そうなのか磨虎?」
「おまっ、絶対言うなよっ」
磨虎が焦りだす。
「何を言うなだって? 私には教えてくれるんだろ? 二人共久し振りだなハハハ」
双子の後ろから間に割って入り顔をだす。
「朱翔っ!」三人は同時に言った。
柊虎が磨虎を見ながら怪しげに微笑んで言う。
「朱翔、お前の姉上は今回来ないのか?」
「姉上? 何でだ?」
「柊虎黙れっ」
「姉上は年齢が対象じゃないから参加はしないが、最終日には観に来るって言っていたぞ、何でそんなこと聞くんだ?」
柊虎が片眉を上げて言う。
「ふっ、だそうですよ兄上」
磨虎が朱翔に詰め寄る。
「朱里が来るのかっ? 本当か朱翔っ、嘘だったら許さんぞっ」
朱翔は磨虎から少し離れて言う。
「柊虎…こいつ、大丈夫か?」
「いいや、色気付いただけだ」
「柊虎黙れっ!」
「アハハハハ、皆変わってなくて安心した」
「おっお前黄怜か? だっ、誰かと思った…」
「朱翔、元気だったか?」
「おっおう…」
朱翔も黄怜の成長ぶりに、磨虎と同じ意味で驚いていた。
「わっ! だっ誰だ?」
黄怜は誰かに抱きつかれた。
「黄怜っ! 誰か分かんなかったけど、笑い声は変わってないのだなっハハハハ」
「玄弥っ」
「黄怜久し振りだな、元気だったか?」
「うん、久し振りだな。玄弥も背丈がだいぶ伸びたな」
玄弥の抹額は家紋の刺繍入りに変わっていた。
黄怜も玄弥を抱きしめ、軽く背中を叩いた後離れて尋ねる。
「玄弥、葵は?」
「あっ葵ちゃんはっ、そっ蒼万さんと一緒にいるよ」
玄弥が指を差し、全員がその方向を向く。
……。
玄弥以外の全員が固まる。
蒼万は誰よりも背丈が伸びていて、顔立ちも目鼻立ちが通り、周りには女子達が群がっていた。まさに、容貌魁偉とは彼のことだ。
「あいつ、何食ったのだ?」
柊虎は兄磨虎を無視して朱翔に言う。
「あそこの輪の中にいるの、お前の妹ではないのか?」
「はぁー、あいつは男の顔しか見てないからな」
「蒼万さんは、あっ葵ちゃんの兄上で男前ですから」
「本当だ、かっこいい…」
四人がばっと黄怜を見る。
「あっ、おっ同じ男としてっ羨ましいって意味だよっ、わっ私はこんなだからっアハハハハ」
黄怜は笑って誤魔化す。
何故か蒼万を見た時に胸がしめ付けられ、周りの女子達がとても羨ましく感じた。
玄弥が黄怜の肩を組んで言う。
「黄怜は性格が男前だぞ、気にするなハハハハ」
「ありがとう玄弥、お前もなかなかの男前だぞアハハハハ」
玄弥の素直さに黄怜は救われた。黄怜は少し背伸びをして、玄弥の肩を組み返して笑う。
その様子を見て磨虎と朱翔は、二人共似た者同士だと気にも留めなかったが、柊虎だけはそうは思えなかった。
中央宮での暮らしにも慣れた四年後、黄怜は十二になり、二回目の神家合同講習会が開催された。今回は九つから成人前の十七迄と決まっている。期間は七日間だが、講習会というよりお祭りのようなものだ。五日間の間に座学・実技の試験を行い、座学は上位者を貼り出し、実技は上位者を選抜する。残り二日間は神族や民を招いて、実技で選抜された者達が余興として披露する、天命懇神義となっている。〝天の命により民を尊い者とし、神族は民に忠義を尽くす〟日頃、宮に訪れる機会のない民にとっては楽しみでしかない。
天命懇神義は黄龍家の安泰を意味し、五神家の調和を表している。争いの絶えない時代の後、民への忠義と安心のため執り行われ始めた。民の純粋な信仰心は神族の力の源、民無くして神族は生きられないのだ。神族への接待よりも、民へのお持て成しの準備が中心となり、本家も分家も総動員で駆け付け、いつになく宮全体が騒がしかった。
「黄怜っ、黄虎っ」
「柊虎っ、磨虎っ、久し振りだな…この子は?」
柊虎の側に白虎模様の衣に、長い前髪を中央から二つに分け、後ろ髪をおさげに結んだ女子がいた。
「私達の妹の虎春だ」
「虎春と申します、以後お見知り置きを」
虎春が軽く頭を下げる。
目尻にかけてまつ毛が長く、笑うとまつ毛がくるんと動く。
「かっ…可愛い」
黄虎が呟く。
「私は黄怜だ、こっちがっ」
「わっ私は黄虎だっ! こっ虎春はここは初めてだろ? 私が案内するよっ」
「……」
黄怜は黄虎の積極さに驚く。
「柊虎兄上、黄虎と行ってきても宜しいですか?」
柊虎は頷きながら言う。
「黄虎、虎春を頼む」
「わっわかった、こっ虎春行こう!」
「はい」
黄虎が虎春に手を差し伸べると、虎春は手を取り、二人は少し恥ずかしそうに歩いて行く。
柊虎が二人の後姿を見て言う。
「黄虎の奴、しばらく会わない間に色気付いたなハハハハ」
磨虎が柊虎の右肩に肘を置いて言う。
「ってか虎春の奴っ、何で私ではなくてお前だけに言うのだ?」
「……」
柊虎が呆れた顔で磨虎を見る。
「アハハハハ、二人共相変わらずだな」
黄怜は大声で笑う。
十五になる二人の帯には家紋の刺繍が入り、背丈も高く黄怜を見下ろしていた。
磨虎が言う。
「黄怜お前っ、縮んだか?ハハハハ」
「まだ十二だっ、これから伸びるよっ」
「それに…」
「どうした?」
磨虎が黄怜を上から下まで眺めて言う。
「お前…男にしとくには勿体無いぐらい美人だぞっ、その顔じゃあ女は目劣りしそうで寄って来ないぞっ、なあ柊虎っハハハ」
「……」
「私は母上に似たから…仕方ないよ」
黄怜は苦笑いした。そこまで褒められるとは思っていなかったが、それなりのことを言われるのは予想していた。成長するにつれ、五つの時よりも身体付きが男子と違うのは分かっていた。誤魔化しきれなくなる時が来ることに、黄怜自身が一番不安を抱えていた。
磨虎が柊虎に言う。
「おいっ、さっきからお前っ、黙ったままでどうした?」
「柊虎どうしたんだ?」
黄怜は下から柊虎の顔を覗き込む。
「なっ何でもないっ」
柊虎は少し後退る。
「ぷっ、お前も色々と色気付いているからなハハハハ」
磨虎が笑いながら柊虎の右腕を小突く。
「そうなのか柊虎?」
「ちっ違うっ 黄怜っそれは兄上の方だっ」
「そうなのか磨虎?」
「おまっ、絶対言うなよっ」
磨虎が焦りだす。
「何を言うなだって? 私には教えてくれるんだろ? 二人共久し振りだなハハハ」
双子の後ろから間に割って入り顔をだす。
「朱翔っ!」三人は同時に言った。
柊虎が磨虎を見ながら怪しげに微笑んで言う。
「朱翔、お前の姉上は今回来ないのか?」
「姉上? 何でだ?」
「柊虎黙れっ」
「姉上は年齢が対象じゃないから参加はしないが、最終日には観に来るって言っていたぞ、何でそんなこと聞くんだ?」
柊虎が片眉を上げて言う。
「ふっ、だそうですよ兄上」
磨虎が朱翔に詰め寄る。
「朱里が来るのかっ? 本当か朱翔っ、嘘だったら許さんぞっ」
朱翔は磨虎から少し離れて言う。
「柊虎…こいつ、大丈夫か?」
「いいや、色気付いただけだ」
「柊虎黙れっ!」
「アハハハハ、皆変わってなくて安心した」
「おっお前黄怜か? だっ、誰かと思った…」
「朱翔、元気だったか?」
「おっおう…」
朱翔も黄怜の成長ぶりに、磨虎と同じ意味で驚いていた。
「わっ! だっ誰だ?」
黄怜は誰かに抱きつかれた。
「黄怜っ! 誰か分かんなかったけど、笑い声は変わってないのだなっハハハハ」
「玄弥っ」
「黄怜久し振りだな、元気だったか?」
「うん、久し振りだな。玄弥も背丈がだいぶ伸びたな」
玄弥の抹額は家紋の刺繍入りに変わっていた。
黄怜も玄弥を抱きしめ、軽く背中を叩いた後離れて尋ねる。
「玄弥、葵は?」
「あっ葵ちゃんはっ、そっ蒼万さんと一緒にいるよ」
玄弥が指を差し、全員がその方向を向く。
……。
玄弥以外の全員が固まる。
蒼万は誰よりも背丈が伸びていて、顔立ちも目鼻立ちが通り、周りには女子達が群がっていた。まさに、容貌魁偉とは彼のことだ。
「あいつ、何食ったのだ?」
柊虎は兄磨虎を無視して朱翔に言う。
「あそこの輪の中にいるの、お前の妹ではないのか?」
「はぁー、あいつは男の顔しか見てないからな」
「蒼万さんは、あっ葵ちゃんの兄上で男前ですから」
「本当だ、かっこいい…」
四人がばっと黄怜を見る。
「あっ、おっ同じ男としてっ羨ましいって意味だよっ、わっ私はこんなだからっアハハハハ」
黄怜は笑って誤魔化す。
何故か蒼万を見た時に胸がしめ付けられ、周りの女子達がとても羨ましく感じた。
玄弥が黄怜の肩を組んで言う。
「黄怜は性格が男前だぞ、気にするなハハハハ」
「ありがとう玄弥、お前もなかなかの男前だぞアハハハハ」
玄弥の素直さに黄怜は救われた。黄怜は少し背伸びをして、玄弥の肩を組み返して笑う。
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