天地天命【本編完結・外伝作成中】

アマリリス

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第七章 百日草

可愛い弟

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 三人は黄怜殿に入った後、玄華は玄枝に会いに再び白龍殿へと向かった。黄一と黄怜は、黄理と黄虎が来るのを待っていた。
「兄上遅くなりましたっ 黄怜も大きくなったなあ、顔は…兄上に似ておりませんなハハハハ」
 そう言って、黄理は悪戯に笑う。
「お前っアハハ 待っておったぞっ」
 黄一も笑いながら黄理の肩を叩く。
 黄理は辺りを見渡した。
「黄怜殿は庭園が広くて遊び易いですな」
「しかし黄怜はまだ療養中だから、ここは今は使わないがな」
 黄一は苦笑いする。
「叔父上お久し振りです」
 黄怜は黄理に会釈する。
 黄虎は黄理の後ろに隠れて黄怜を見ていた。
「黄虎お前の従兄の黄怜だ、挨拶しなさい。黄虎は今年四つで黄怜の一つ下だ、面倒を見てくれないか?」
「はい叔父上!」
 黄虎は少しだけ前に出て来て、もじもじしながら呟く。
「こっ…黄虎です」
「私は黄怜だ、黄虎一緒に遊ぼう」
「はい、あっ…兄上」
「兄上?」
 別の誰かを呼んでいる感覚に、黄怜は不快に感じ片眉を上げる。
「その呼び方は嫌だっ、私は黄怜だっ」
「で…でも…」
「一つしか違わないのであれば、黄怜でいい!」
「わ…わかりました」
「違う! わかったって言うんだっ」
 黄虎は恐る恐る黄理を見上げる。
 黄理が笑いながら頷いたのを見て、黄怜に笑顔で言う。
「わっ、わかった」
 黄一が懐から飴を二つ取り出した。
「黄怜、黄虎とこれを食べなさい」
「わあっ 父上っありがとうございますっ」
 黄怜はぴょんぴょん飛び跳ねて喜び、飴を受け取り黄虎に手を差し出す。
「黄虎おいで」
「うん、わかった黄怜!」
 二人は手を繋ぎ微笑みながら庭園へ走る。
「怪我をするでないぞ黄怜」
「わかりました父上!」
 黄一と黄理は、駆けて行く二人を微笑ましく見つめた。
「あの性格は義姉上譲りですか?ハハハハ」
「離れて暮らしているから、私よりも玄華に似るのだろう。相変わらず黄虎の顔はお前の幼い頃にそっくりだが、人見知りは美虎に似たのか?アハハハ」
「ハハハ困ったものです。黄怜の甘い物好きは兄上ですな、あの喜び方は兄上の幼い頃を思い出しましたよハハハハ」
「まったくだアハハハ」
 黄理が微笑んで言う。
「講習会に黄怜が参加できて安心しました」
「私や父上の時と同様に祖父上が黄怜の年齢に合わせて開催しているのだ、参加させないわけにはいかないよ…」
 黄一は黄理を見て溜息混じりに言った。
 黄理は頷いた後尋ねる。
「祖父上にも困ったものですが、それだけ黄怜を自慢したいのでしょう。黄怜の身体の具合はどうですか?」
「あっ…あぁまだ暫くは療養が必要だな」
「では講習会が終われば、また心宿へ戻られるのですか?」
「そうなるな…」
 黄一は苦笑いする。
「兄上もあまり無理なさらないで下さい、この間も倒られたではないですか」
「玄華には…言わないでくれ」
「わかっております…」
 そう言って、二人は我が子を眺める。
「黄虎はあの性格です。黄怜が一緒なら、三ヶ月私達と離れても寂しくないでしょう」
「それは黄怜も同じだ、黄虎がいてくれて良かったよ、私にお前がいるようにな」
 自分達の幼い頃を思い出しながら二人は微笑む。

 黄怜と黄虎は庭園で追いかけっこをしていた。
「黄怜待ってーっ」
「黄虎足下気をつけろっアハハ」
「あッ! わ、私の飴っ…ふぇっ…うぇぇん…」
 黄虎は転んだ拍子に飴を落として泣き出した。
「黄虎っ、だから言ったじゃないかぁ… ほら、大丈夫だから泣くなよ」
 黄怜は駆け寄り、しゃがんで黄虎の涙を袖で拭う。
「だけど飴は私も食べてしまったから、もうないんだ…ごめんよ」
「ううっ…うぇぇん…うううっ…」
 泣きやまない黄虎の頬に黄怜は口づけする。
「……」
 黄虎は驚いて泣き止んだ。
「これは泣きやむ〝おまじない〟だ」
 そう言って、黄怜が微笑むと黄虎も微笑んだ。
 黄虎は立ち上がって尋ねる。
「黄怜は何故ここにいないのだ?」
 黄怜も立ち上がり、黄虎の衣の汚れを払いながら言う。
「私は父上に似て身体が弱いんだ」
「ではいつからここで暮らせるのだ?」
「それは…まだ分からない」
「私は黄怜がいると楽しいなぁ(黄怜ともっと一緒に遊びたいなぁ)」
 黄虎が寂しそうにうつむき、黄怜は黄虎の頭をなでて言う。
「黄虎、今日は私と一緒にここに泊まろう!」
 黄虎は黄怜の手を握り目を輝かせる。
「いっいいのか?(泊まりたい!)」
「父上に聞いてこよう!」
「うん、へへっ(嬉しい)」
 二人は手を繋いで黄一と黄理の元に走った。

 黄虎と自殿で泊まりたいと話すと、二人は驚くも楽しそうな子供達を見て、仕方なく千玄も付添うならと許可した。
 夜黄怜の自室で二人は沢山話をしてはしゃぎ廻り、騒ぎすぎて戸に激突し、別室から駆け付けた千玄に雷を落とされた。黄怜は千玄によく叱られていたが、免疫のない黄虎は泣きだしてしまう。黄虎の頬におまじないすると、泣きやんで笑い合った。疲れた後は、寝床で共に手を繋いで寝むりにつく。初めて感じる両親以外の温もりに、黄怜は心が満たされた。黄怜にとって忘れられない、可愛い弟との最初の出逢いだった。
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