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第六章 寒芍薬
静かな夜
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六人と亡骸一体は、夜にやっと宿屋に辿り着く。領主はただの妖魔退治ではなかったのかと、険しい顔で玄華を見る。玄華は目で「今は何も聞かないで下さい」そう訴えた。領主は当然玄華のことを知っている。何も聞かず、三人分の新しい衣と風呂の用意をした。
蒼万は「私が志瑞也を洗います」と言い、浴室に行き互いの汚れた衣を脱ぎ捨て、胸に抱え一緒に湯船に浸かる。同じ夜でも、昨夜とは違う志瑞也を見つめながら、顔に付いた乾いた血を丁寧に落とし、髪を洗い体全体を流した。綺麗になった顔に唇を重ねても、まるで死人の様に、何の反応もなくぐったりしている。蒼万は志瑞也を抱きしめ、眉間に皺を寄せ頭をなでた。浴室には言葉のない水音だけが、静かに響いていた。
志瑞也に衣を着させて寝床に運び、蒼万は側に座り頬に触れ耳元で囁く。
「戻って来い、志瑞也…」
今直ぐにでも飛び起きて、笑顔で名を呼ぶのではないか…。
コンコン
「蒼万、着替えは済みましたか?」
「はい」
玄華が中に入ってきた。
「蒼万、着替えさせてくれてありがとう。お願いがあるのですが…」
蒼万は立ち上がり、玄華と向かい合う。
「何か」
「玄一の亡骸を、火葬してもらえませんか? 妖魔に殺された者は、浄化しなければなりません。お願いできますか?」
「承知いたしました」
「ここは私が…」
蒼万はただ頷いて外に出て行く。
玄華は志瑞也の側に座り顔をなでる。
「黄怜、会いたかったわ… 私の子…黄怜…」
蒼万は戸の外で聞きながら、奥歯を食いしばり拳を握りしめた。
外では柊虎と玄七と千玄が、玄一の火葬の準備を終え蒼万を待っていた。
千玄が話しかける。
「蒼万様お久し振りです、この度は黄怜様をっ」
「うるさいっ!」
「……」
「蒼万っ、落ち着けっ」
柊虎が蒼万の肩を掴んだ。
「離せっ」
蒼万が柊虎を睨む。
「…蒼万?」
「私に触るなっ!」
「ゔッ…」
蒼万が柊虎の手を振り払って怒鳴り、三人は凍りつく。腕輪を外し、飛び出した青龍が玄一の亡骸に火を放つ。その青い炎には、行き場のない憤りが込められていた。何も言わず青龍を戻し、何処かへ立ち去った。
千玄が柊虎に尋ねる。
「蒼万様は、いかがされたのですか?」
「後から私が様子を見に行くよ、案ずるな」
「蒼万様の神獣を初めて拝見いたしました」
「私も知ったのは最近だ」
「やはり、凄い神力をお持ちだったのですね」
柊虎は頷く。
玄一の亡骸は骨一つ残さず灰になった。
柊虎が尋ねる。
「玄七、これからどうするのだ?」
「明日、私は先に中央宮へ戻り、玄華様と千玄は北宮へ参ります。その間柊虎様と蒼万様には、黄怜様をここで御守りいただきたいのですが」
「わかった」
「柊虎様は朱翔様と文のやり取りをしていたようですが、雲雀の羽根をお待ちでしょうか?」
「持ってはいるが、何に使うのだ?」
「それを燃やせば、雲雀が飛んできます」
「そんなこともできるのか…」
玄七が頷きながら言う。
「ここなら二刻もあれば着くと思われるので、先に玄枝様に報告し、対策を考えていただかねばなりません」
「わかった」
三人は宿屋に入る。
四人で囲炉裏を囲って座り、柊虎が羽根を燃やした。
玄華が尋ねる。
「柊虎、蒼万は…どうしたのですか? 先程外から、声が聞こえましたが…」
「あいつも少し混乱しているだけですから、気になさらないで下さい」
「そう…あの、聞いても良いかしら?」
「はい」
「黄怜の右腕の傷痕は…」
「…蒼万殿に居た時に、妖魔に襲われたと伺っております」
「そう…」
柊虎が尋ねる。
「玄華様、玄武洞や神獣はどうされるのですか?」
「神聖な玄武洞を山ごとあれだけ崩せば、観玄様に報告しなければならないわ、それにあの子達はもう、私達の神獣ではありません… 言うことを聞かなければ、暫くは洞内に置いておくしかないわ…」
「全てお話になるのですか?」
「事が大きくなっていますので、仕方ありません…」
「……」
四人は他に何か話さなけばと思いながら「パチパチ」と鳴る囲炉裏を見つめた。
二刻後雲雀が到着し、柊虎は文に今後の行動と、今日起きた出来事を全て書き記して託した。室内には寝床が四つしかなく「私は後から床で休みますので、どうぞお使い下さい」と言って、柊虎は外に出て蒼万を探しに行った。
蒼万は「私が志瑞也を洗います」と言い、浴室に行き互いの汚れた衣を脱ぎ捨て、胸に抱え一緒に湯船に浸かる。同じ夜でも、昨夜とは違う志瑞也を見つめながら、顔に付いた乾いた血を丁寧に落とし、髪を洗い体全体を流した。綺麗になった顔に唇を重ねても、まるで死人の様に、何の反応もなくぐったりしている。蒼万は志瑞也を抱きしめ、眉間に皺を寄せ頭をなでた。浴室には言葉のない水音だけが、静かに響いていた。
志瑞也に衣を着させて寝床に運び、蒼万は側に座り頬に触れ耳元で囁く。
「戻って来い、志瑞也…」
今直ぐにでも飛び起きて、笑顔で名を呼ぶのではないか…。
コンコン
「蒼万、着替えは済みましたか?」
「はい」
玄華が中に入ってきた。
「蒼万、着替えさせてくれてありがとう。お願いがあるのですが…」
蒼万は立ち上がり、玄華と向かい合う。
「何か」
「玄一の亡骸を、火葬してもらえませんか? 妖魔に殺された者は、浄化しなければなりません。お願いできますか?」
「承知いたしました」
「ここは私が…」
蒼万はただ頷いて外に出て行く。
玄華は志瑞也の側に座り顔をなでる。
「黄怜、会いたかったわ… 私の子…黄怜…」
蒼万は戸の外で聞きながら、奥歯を食いしばり拳を握りしめた。
外では柊虎と玄七と千玄が、玄一の火葬の準備を終え蒼万を待っていた。
千玄が話しかける。
「蒼万様お久し振りです、この度は黄怜様をっ」
「うるさいっ!」
「……」
「蒼万っ、落ち着けっ」
柊虎が蒼万の肩を掴んだ。
「離せっ」
蒼万が柊虎を睨む。
「…蒼万?」
「私に触るなっ!」
「ゔッ…」
蒼万が柊虎の手を振り払って怒鳴り、三人は凍りつく。腕輪を外し、飛び出した青龍が玄一の亡骸に火を放つ。その青い炎には、行き場のない憤りが込められていた。何も言わず青龍を戻し、何処かへ立ち去った。
千玄が柊虎に尋ねる。
「蒼万様は、いかがされたのですか?」
「後から私が様子を見に行くよ、案ずるな」
「蒼万様の神獣を初めて拝見いたしました」
「私も知ったのは最近だ」
「やはり、凄い神力をお持ちだったのですね」
柊虎は頷く。
玄一の亡骸は骨一つ残さず灰になった。
柊虎が尋ねる。
「玄七、これからどうするのだ?」
「明日、私は先に中央宮へ戻り、玄華様と千玄は北宮へ参ります。その間柊虎様と蒼万様には、黄怜様をここで御守りいただきたいのですが」
「わかった」
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「持ってはいるが、何に使うのだ?」
「それを燃やせば、雲雀が飛んできます」
「そんなこともできるのか…」
玄七が頷きながら言う。
「ここなら二刻もあれば着くと思われるので、先に玄枝様に報告し、対策を考えていただかねばなりません」
「わかった」
三人は宿屋に入る。
四人で囲炉裏を囲って座り、柊虎が羽根を燃やした。
玄華が尋ねる。
「柊虎、蒼万は…どうしたのですか? 先程外から、声が聞こえましたが…」
「あいつも少し混乱しているだけですから、気になさらないで下さい」
「そう…あの、聞いても良いかしら?」
「はい」
「黄怜の右腕の傷痕は…」
「…蒼万殿に居た時に、妖魔に襲われたと伺っております」
「そう…」
柊虎が尋ねる。
「玄華様、玄武洞や神獣はどうされるのですか?」
「神聖な玄武洞を山ごとあれだけ崩せば、観玄様に報告しなければならないわ、それにあの子達はもう、私達の神獣ではありません… 言うことを聞かなければ、暫くは洞内に置いておくしかないわ…」
「全てお話になるのですか?」
「事が大きくなっていますので、仕方ありません…」
「……」
四人は他に何か話さなけばと思いながら「パチパチ」と鳴る囲炉裏を見つめた。
二刻後雲雀が到着し、柊虎は文に今後の行動と、今日起きた出来事を全て書き記して託した。室内には寝床が四つしかなく「私は後から床で休みますので、どうぞお使い下さい」と言って、柊虎は外に出て蒼万を探しに行った。
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