上 下
45 / 164
第四章 七変化

狂酔

しおりを挟む
 蒼万は朱雀殿の外で、志瑞也が声をかけた侍女を探し呼び止める。
「そこの者っ、客室は何処だ!」
「はっ、はい蒼万様っこちらでございます!」
 侍女は蒼万の顔付きに怯えながら急ぎ案内する。
「こちらになります」
「志瑞也っ」
 パンッ!
 戸を開けたが部屋には誰もいず、蒼万はぎりっと奥歯を噛みしめる。
「宴の前に客室へ案内した者は何処だ‼︎」
「はっはいぃ、とっ隣の従者用の……」
 聞き終わらない内に、侍女の指の動きを見るなり走り出す。

 灯りのついた一室の戸の前で、柊虎が手を伸ばしているのが見えた。
「触るな!」
「蒼万っ…」
 柊虎を押し退け部屋に入り、蒼万が志瑞也を抱きしめた。柊虎は行き場を失ったその手を、ゆっくりと下ろした。
「そっ…蒼万⁉︎ なっ何するんだっ離せっ」
 志瑞也は暴れて突っぱねるが、腕の力が強すぎて動けない。それどころか後頭部を掴まれ、蒼万の首元に強く引き寄せられた。
「離せよっここは俺の部屋だっ 出て行けよ蒼万っ、頼むから独りにしてくれ!」
 志瑞也はもがき喚き散らす。
「駄目だっ」
「蒼万離してやれっ、志瑞也が苦しそうだっ」
「黙れ!」
「ゔッ…」
 柊虎は蒼万から感じたことのない圧力に体が凍りつく。
 蒼万が耳元で囁やく。
「志瑞也、……」

「……うっ…  ううっ…  うあぁぁぁぁー」

 志瑞也は抵抗するのをやめ泣き叫び、蒼万は後頭部を掴んだ手を緩め、優しく頭をなでた。
 柊虎はその一連の出来事をただ見ていることしかできず、静かに戸を閉め去って行った。
「志瑞也よく耐えたな」
「うううっ…村の人達が亡くなったのは… 俺のせいだ… ううっ…ごめんなさい… ごめんなさい…」
「違う」
「皆誰も悪くないのに… ひっく…おっ…俺はどうすれ… ひっく…いいんだ…」
「お前は悪くない」
「ううっ…おっ…教えてくれ…    ううっ… ひっく…」
「大丈夫だ」
「蒼… ひっく…万………」
 蒼万の腕にぐっと重みが乗しかかり、志瑞也はそのまま胸に凭れながら寝てしまった。蒼万は右手で肩を抱き固定し、もう一方の腕を膝裏に回し志瑞也を横に持ち上げ、寝床に運び靴を脱がせて寝かせる。志瑞也は寝ながらも、涙を溢し泣いていた。
 蒼万は志瑞也の額に手を当てる。気を遣わせないよう、熱があることを隠していたのか…あの微笑は、作り笑いだったのか。不可抗力とはいえ、自分のせいで他人を傷つけることが、どれ程自身を追い詰めるか蒼万はよく知っている。蒼万は桶に水を汲みに行き、寝ている志瑞也の寝床に腰掛けた。手拭いで顔や首、手足を丁寧に拭う。まつ毛の隙間からは、涙がまだ滲み出ている。
 頬に触れながら耳元で囁やく。
「もう泣くな」
 涙が少しずつ止まり、ひくついた呼吸が整ってきた。頬から手を離そうとすると掴まれ、またいつもの流れだと思い言う。
「ふっ、私はお前の祖母ではないぞ」
「行かないで… 蒼万…」
 蒼万は目を見開く。
「蒼万…」
 今頃酔いが回ったのか急に目眩がし、蒼万は掴まれた手に引き寄せられ、やわらかな唇に口づけする。初めは軽く優しく擦りつけ、次に下唇を吸い上唇を舐め、繰り返し何度も、何度も、甘く唇を重ね擦りつけた。それに応えるかのように唇が開き、蒼万は志瑞也の顔に両手を添え、舌を入れ吸いつく。舌と舌が絡み合い、蒼万は熱く興奮し堪らず貪りついた。
「くちゅっ… んんんっ… ちゅっ…」
 志瑞也の呼吸が荒くなり、少し熱を帯びた顔や首が更に火照りだす。蒼万は口内から溢れる甘い酒に酔い、志瑞也の左手首を掴んで寝床に押しつけた。乱れた衿元から現れた首筋が、蒼万を誘い導く。
「あ…っ、んっ…」
 志瑞也が内股を閉じ両膝を軽く立てた。部屋には鼻にかかった甘い声だけが響き、それが返って蒼万の欲情を煽り、何に酔っているのか分からなくなっていた。
「んっ… はぁ、あっ…」
 蒼万の下にいる甘い酒は、唇や首筋を吸う度に内股に力を入れ腰を捩らせる。次第に、志瑞也の下半身が膨らみだす。蒼万は掴んでいた手首を離し、衣の上から胸、腹、腰、太腿へと辿り、閉ざした内股の間に手を捩じ込み膝を開かせた。弾力のある太腿を手の平で感じながらなで、体重をかけないよう覆い被さり首筋に顔を沈めた。「んっ、あっ…」内股の付け根からゆっくりと上に進み、膨らんでいる物をぎゅっと握る。「はあっ…」びくんと軽く仰け反り、蒼万ははっと我に返り志瑞也から無理矢理引き剥がした。
「はぁ…はぁ…」
 熱混じりの甘い吐息が蒼万を狂わせる。目は血走りもっと貪りつきたい欲情が込み上げ、志瑞也を食い入るように見た。
「んっ…蒼…万…」
 既に全身から熱を帯び、疼いた下半身を更に膨らませ、苦しそうに身体を捩らせている。首筋には付いたばかりの鬱血痕うっけつこんがあり、唇は少し赤く腫れ、軽く開いた口の中では舌が物欲しそうに動き、志瑞也は目も向けれないほど、妖艶ようえんな姿になっていた。
 蒼万は興奮している自分の顔に手をあて、視界を塞ぎ呼吸を整える。暫くして冷静さを取り戻し、志瑞也に近寄り耳元で囁やく。
「収まれ」
 志瑞也の身体から徐々に熱が引いていき、心地よい寝息に変わった。

 蒼万は自分がした行動が信じられず、酔いを醒まそうと部屋を出る。外はまだ誰も客室に来ている様子はなく、離れた朱雀殿から宴の光と賑やかな声が聞こえる。夜風に当たりながら、握った感触が残る手を見つめた。
 カサッ
 背後に気配を感じその手を下ろす。
「お前に寝込みを襲う趣味があったとわな」
 振り返ると、柊虎が眉間に皺を寄せ立っていた。
 蒼万は皮肉混じりに言う。
「…盗み聞きか?」
「違うっ、お前に話があって戻って来たのだ!」
「…何だ」
「何が黄怜を守っているだっ、お前は自分の都合のいいように黄怜を弄んでいるだけだ!」
「私は志瑞也を守っている」
「だとしても、彼の中には黄怜がいるのだぞ⁉︎」
「だとしても今は志瑞也だ」
 このやり取りでは埒があかない、柊虎は〝一つ抜けている〟事に思考を繋げる。
「…お前まさか、黄怜が女と知っていたのか?」
「やはりお前は知っていたのだな」
「ならばっ、おっお前は黄怜を慕っていたのか⁉︎」
 蒼万は顔をしかめた。
「…何を言っている」
「しらを切るなっ、お前は黄怜を慕っていて彼を身代わりにしているだけだ!」
「黙れ‼︎」
「ゔッ…」
 二度目の凍りつく衝撃が走るも霊力で防いで耐え、柊虎はやはりと思い問う。
「蒼万、お前のそれは、神力…か?」
「……」
「蒼万答えろっ」
「…ついて来い」
 蒼万は自室に柊虎を連れて行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

僕の調教監禁生活。

まぐろ
BL
ごく普通の中学生、鈴谷悠佳(すずやはるか)。 ある日、見ず知らずのお兄さんに誘拐されてしまう! ※♡喘ぎ注意です 若干気持ち悪い描写(痛々しい?)あるかもです。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

宰相様は抱き枕がほしい【完結】

うなきのこ
BL
イグニバイル国に仕える宰相のハイドラ•アルペンジオ。 国王や王子たちからの無茶振りを全てそつなく熟す手腕を持つ宰相ハイドラは、今までの無理が祟り倒れるがそれを支えたのはーー 抱き枕(癒し)が欲しい宰相様のお話 ※R指定 設定ざっくりですので、なんとなくの関係性だけで読めると思います。 小説はほぼ初めてですので拙い文章ですが、どうかお手柔らかに

処理中です...