天地天命【本編完結・外伝作成中】

アマリリス

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第二章 竜胆

恋とは苦しいものだ

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 志瑞也は体調も回復し、ここに来てからの目まぐるしい日々にも慣れ、いつもの時間に目が覚めた。部屋の反対の寝床には誰もいない。
 三、二、一、
「志瑞也起きたか、いつも通りだな」
(…いつも通りじゃない)
「お、おはよう蒼万…」
「どうした、具合でも悪いか?」
 そっと志瑞也の頬に蒼万の手が触れる。
「だ、大丈夫だよ」
「そうか、今日南宮に出立つする前に青龍殿へ参る、一刻後に迎えに来る」
「…わかった」
 蒼万は志瑞也の寝床から起き上がり、準備をして部屋を出る。
 ここに来てから〝いつも通り〟ではないこと、それは蒼万の言動だ。以前は沙羅の言う通り、黙って夜寝床で付き添っていたのかもしれない。だが、妖魔に襲われて以来、いつの間にか寝床に入り込み、隠しもせず堂々と朝まで一緒に寝ているのだ。志瑞也はそれに気付かず全く起きない。そんな自分に呆れつつも「それは小さい頃から変わらないんだからっ、仕方がないじゃないか!」掛布団を剥ぎ取り下半身に言い聞かせる。お陰で毎日が快眠だが、色んな意味で身体は正直だった。蒼万への気持ちが膨らむと同時に、蒼万の気持ちも気になり始める。
 そう、それはもう〝恋〟である。
 志瑞也は蒼万を好きだと気付いてしまったのだ。一度気付いてしまったら、気付かなかった頃にはもう戻れない。葵と話した時に、気付いてない振りはやめようと決心した。だが、この感情は予定外だった。蒼万のことを考えると、胸の奥が締めつけられる。よもや男相手に、少女の初恋の様な感情を抱くとは。
 頭を抱えながら顔を横に振る。
(俺は可愛い子が好みなんだ! 何処をどう見たって、蒼万に可愛らしさなんてないじゃないかっ あ、あった…)
 手の平を拳で「トン」と叩く。
 龍水室!
 確かに、謝る蒼万の顔を可愛いと思ってしまった。思い返しても、やはり可愛い。「ふふっ」思わず笑みを溢す。
(だとしても男相手だぞ! しっかしろ俺!)
 頬を「ペチン」と叩く。
 これを一日何度も繰り返し、辿り着いた答えは同じだった。あの時は葵が羨ましいと思っていたが、相手の気持ちが分からない今、自分だけの想いはこんなにも苦しい。
 南宮領域へは妖魔退治だと聞き、もしかしたら今回の妖魔は、黄怜の霊魂が関係している可能性があると伝えられ、襲われた時を思い出し右腕に痛みが走った。「怖いならここで待っていてもよい」蒼万の気遣いに返した言葉は「それは俺の事でもあるんだろ? 向き合いたいから、一緒に行っていいか?」それも本音だが、蒼万の側を離れたくなかった。
 蒼万に夢で見た黄怜の記憶を一通り話すと、蒼明や朱子にその事を話してほしいと言われ、志瑞也は今日、直接話さなければならない。記憶を見たのが襲われた衝撃からなのか、知る事から逃げるのをやめたからなのかは分からないが、記憶はあれ以来夢で見ていない。今分かるのは、自分の中で何かが変わり始めていることだけだ。志瑞也は溜息を吐いて、寝床から起き上がり準備を始めた。

 一刻後、蒼万が迎えに来た。
 蒼万殿から出たのは初めてだが、周りの景色を見る余裕のないまま、重い足取りで青龍殿へと向かったのだった。
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