28 / 164
第二章 竜胆
恋とは苦しいものだ
しおりを挟む
志瑞也は体調も回復し、ここに来てからの目まぐるしい日々にも慣れ、いつもの時間に目が覚めた。部屋の反対の寝床には誰もいない。
三、二、一、
「志瑞也起きたか、いつも通りだな」
(…いつも通りじゃない)
「お、おはよう蒼万…」
「どうした、具合でも悪いか?」
そっと志瑞也の頬に蒼万の手が触れる。
「だ、大丈夫だよ」
「そうか、今日南宮に出立つする前に青龍殿へ参る、一刻後に迎えに来る」
「…わかった」
蒼万は志瑞也の寝床から起き上がり、準備をして部屋を出る。
ここに来てから〝いつも通り〟ではないこと、それは蒼万の言動だ。以前は沙羅の言う通り、黙って夜寝床で付き添っていたのかもしれない。だが、妖魔に襲われて以来、いつの間にか寝床に入り込み、隠しもせず堂々と朝まで一緒に寝ているのだ。志瑞也はそれに気付かず全く起きない。そんな自分に呆れつつも「それは小さい頃から変わらないんだからっ、仕方がないじゃないか!」掛布団を剥ぎ取り下半身に言い聞かせる。お陰で毎日が快眠だが、色んな意味で身体は正直だった。蒼万への気持ちが膨らむと同時に、蒼万の気持ちも気になり始める。
そう、それはもう〝恋〟である。
志瑞也は蒼万を好きだと気付いてしまったのだ。一度気付いてしまったら、気付かなかった頃にはもう戻れない。葵と話した時に、気付いてない振りはやめようと決心した。だが、この感情は予定外だった。蒼万のことを考えると、胸の奥が締めつけられる。よもや男相手に、少女の初恋の様な感情を抱くとは。
頭を抱えながら顔を横に振る。
(俺は可愛い子が好みなんだ! 何処をどう見たって、蒼万に可愛らしさなんてないじゃないかっ あ、あった…)
手の平を拳で「トン」と叩く。
龍水室!
確かに、謝る蒼万の顔を可愛いと思ってしまった。思い返しても、やはり可愛い。「ふふっ」思わず笑みを溢す。
(だとしても男相手だぞ! しっかしろ俺!)
頬を「ペチン」と叩く。
これを一日何度も繰り返し、辿り着いた答えは同じだった。あの時は葵が羨ましいと思っていたが、相手の気持ちが分からない今、自分だけの想いはこんなにも苦しい。
南宮領域へは妖魔退治だと聞き、もしかしたら今回の妖魔は、黄怜の霊魂が関係している可能性があると伝えられ、襲われた時を思い出し右腕に痛みが走った。「怖いならここで待っていてもよい」蒼万の気遣いに返した言葉は「それは俺の事でもあるんだろ? 向き合いたいから、一緒に行っていいか?」それも本音だが、蒼万の側を離れたくなかった。
蒼万に夢で見た黄怜の記憶を一通り話すと、蒼明や朱子にその事を話してほしいと言われ、志瑞也は今日、直接話さなければならない。記憶を見たのが襲われた衝撃からなのか、知る事から逃げるのをやめたからなのかは分からないが、記憶はあれ以来夢で見ていない。今分かるのは、自分の中で何かが変わり始めていることだけだ。志瑞也は溜息を吐いて、寝床から起き上がり準備を始めた。
一刻後、蒼万が迎えに来た。
蒼万殿から出たのは初めてだが、周りの景色を見る余裕のないまま、重い足取りで青龍殿へと向かったのだった。
三、二、一、
「志瑞也起きたか、いつも通りだな」
(…いつも通りじゃない)
「お、おはよう蒼万…」
「どうした、具合でも悪いか?」
そっと志瑞也の頬に蒼万の手が触れる。
「だ、大丈夫だよ」
「そうか、今日南宮に出立つする前に青龍殿へ参る、一刻後に迎えに来る」
「…わかった」
蒼万は志瑞也の寝床から起き上がり、準備をして部屋を出る。
ここに来てから〝いつも通り〟ではないこと、それは蒼万の言動だ。以前は沙羅の言う通り、黙って夜寝床で付き添っていたのかもしれない。だが、妖魔に襲われて以来、いつの間にか寝床に入り込み、隠しもせず堂々と朝まで一緒に寝ているのだ。志瑞也はそれに気付かず全く起きない。そんな自分に呆れつつも「それは小さい頃から変わらないんだからっ、仕方がないじゃないか!」掛布団を剥ぎ取り下半身に言い聞かせる。お陰で毎日が快眠だが、色んな意味で身体は正直だった。蒼万への気持ちが膨らむと同時に、蒼万の気持ちも気になり始める。
そう、それはもう〝恋〟である。
志瑞也は蒼万を好きだと気付いてしまったのだ。一度気付いてしまったら、気付かなかった頃にはもう戻れない。葵と話した時に、気付いてない振りはやめようと決心した。だが、この感情は予定外だった。蒼万のことを考えると、胸の奥が締めつけられる。よもや男相手に、少女の初恋の様な感情を抱くとは。
頭を抱えながら顔を横に振る。
(俺は可愛い子が好みなんだ! 何処をどう見たって、蒼万に可愛らしさなんてないじゃないかっ あ、あった…)
手の平を拳で「トン」と叩く。
龍水室!
確かに、謝る蒼万の顔を可愛いと思ってしまった。思い返しても、やはり可愛い。「ふふっ」思わず笑みを溢す。
(だとしても男相手だぞ! しっかしろ俺!)
頬を「ペチン」と叩く。
これを一日何度も繰り返し、辿り着いた答えは同じだった。あの時は葵が羨ましいと思っていたが、相手の気持ちが分からない今、自分だけの想いはこんなにも苦しい。
南宮領域へは妖魔退治だと聞き、もしかしたら今回の妖魔は、黄怜の霊魂が関係している可能性があると伝えられ、襲われた時を思い出し右腕に痛みが走った。「怖いならここで待っていてもよい」蒼万の気遣いに返した言葉は「それは俺の事でもあるんだろ? 向き合いたいから、一緒に行っていいか?」それも本音だが、蒼万の側を離れたくなかった。
蒼万に夢で見た黄怜の記憶を一通り話すと、蒼明や朱子にその事を話してほしいと言われ、志瑞也は今日、直接話さなければならない。記憶を見たのが襲われた衝撃からなのか、知る事から逃げるのをやめたからなのかは分からないが、記憶はあれ以来夢で見ていない。今分かるのは、自分の中で何かが変わり始めていることだけだ。志瑞也は溜息を吐いて、寝床から起き上がり準備を始めた。
一刻後、蒼万が迎えに来た。
蒼万殿から出たのは初めてだが、周りの景色を見る余裕のないまま、重い足取りで青龍殿へと向かったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない
砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。
自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。
ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。
とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。
恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。
ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。
落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!?
最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。
12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生
何故よりにもよって恋愛ゲームの親友ルートに突入するのか
風
BL
平凡な学生だったはずの俺が転生したのは、恋愛ゲーム世界の“王子”という役割。
……けれど、攻略対象の女の子たちは次々に幸せを見つけて旅立ち、
気づけば残されたのは――幼馴染みであり、忠誠を誓った騎士アレスだけだった。
「僕は、あなたを守ると決めたのです」
いつも優しく、忠実で、完璧すぎるその親友。
けれど次第に、その視線が“友人”のそれではないことに気づき始め――?
身分差? 常識? そんなものは、もうどうでもいい。
“王子”である俺は、彼に恋をした。
だからこそ、全部受け止める。たとえ、世界がどう言おうとも。
これは転生者としての使命を終え、“ただの一人の少年”として生きると決めた王子と、
彼だけを見つめ続けた騎士の、
世界でいちばん優しくて、少しだけ不器用な、じれじれ純愛ファンタジー。
【完結】禁断の忠誠
海野雫
BL
王太子暗殺を阻止したのは、ひとりの宦官だった――。
蒼嶺国――龍の血を継ぐ王家が治めるこの国は、今まさに権力の渦中にあった。
病に伏す国王、その隙を狙う宰相派の野心。玉座をめぐる見えぬ刃は、王太子・景耀の命を狙っていた。
そんな宮廷に、一人の宦官・凌雪が送り込まれる。
幼い頃に売られ、冷たい石造りの宮殿で静かに生きてきた彼は、ひっそりとその才覚を磨き続けてきた。
ある夜、王太子を狙った毒杯の罠をいち早く見破り、自ら命を賭してそれを阻止する。
その行動をきっかけに、二人の運命の歯車が大きく動き始める――。
宰相派の陰謀、王家に渦巻く疑念と忠誠、そして宮廷の奥深くに潜む暗殺の影。
互いを信じきれないまま始まった二人の主従関係は、やがて禁じられた想いと忠誠のはざまで揺れ動いていく。
己を捨てて殿下を守ろうとする凌雪と、玉座を背負う者として冷徹であろうとする景耀。
宮廷を覆う陰謀の嵐の中で、二人が交わした契約は――果たして主従のものか、それとも……。
ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜
キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」
(いえ、ただの生存戦略です!!)
【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】
生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。
ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。
のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。
「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。
「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。
「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」
なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!?
勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。
捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!?
「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」
ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます!
元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!
後宮に咲く美しき寵后
不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。
フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。
そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。
縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。
ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。
情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。
狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。
縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。
白銀の城の俺と僕
片海 鏡
BL
絶海の孤島。水の医神エンディリアムを祀る医療神殿ルエンカーナ。島全体が白銀の建物の集合体《神殿》によって形作られ、彼らの高度かつ不可思議な医療技術による治療を願う者達が日々海を渡ってやって来る。白銀の髪と紺色の目を持って生まれた子供は聖徒として神殿に召し上げられる。オメガの青年エンティーは不遇を受けながらも懸命に神殿で働いていた。ある出来事をきっかけに島を統治する皇族のαの青年シャングアと共に日々を過ごし始める。 *独自の設定ありのオメガバースです。恋愛ありきのエンティーとシャングアの成長物語です。下の話(セクハラ的なもの)は話しますが、性行為の様なものは一切ありません。マイペースな更新です。*
あなたの隣で初めての恋を知る
彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。
その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。
そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。
一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。
初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。
表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる