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第二章 竜胆
あなたの悲しみに寄り添う
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「くっ苦しい…はぁ…はぁ」
蒼万はぱっと目を開け寝床から起き上がり、魘されている志瑞也に近付く。
「父上…母上… ごめんなさい…ううっ…」
志瑞也は大粒の涙を流し、苦しそうに胸を掴んで蹲っていた。蒼万は長い指で涙を拭い、熱くなった頬に手をあて、神力を使い耳元で囁く。
「大丈夫だ、泣くな」
志瑞也の涙が引き呼吸が整ってきたのを確認し、寝床に戻ろうと頬から手を離した。
「行かないでっ… 置いて行かないで…」
蒼万は手をがしっと掴まれる。
「…ばぁちゃん」
蒼万は眉間に皺を寄せる。
志瑞也の目からまた一粒と涙が流れると、蒼万は「ふっ」鼻で笑い涙をそっと拭う。握られた手を払わず、優しく頭をなでる。
「大丈夫だ、置いて行かない」
志瑞也の表情がふっと柔らぎ、落ち着いた寝息に変わった。
翌朝、志瑞也は清々しい気分で目が覚める。昨晩は魘されず、久々にぐっすり眠れたのだ。
「今日は体調が良さそうだな」
部屋の真ん中の椅子に蒼万が腰掛けていた。
「そっ、蒼万? おっおはよう、起きていたんだな…」
夜中に目が覚めて以来、志瑞也は再び寝ることができずそのまま起きていた。自分よりも、先に蒼万が起きているのは初めてだった。
「午後、青龍と〝遊び〟をしてみるか?」
そう言って、蒼万は片眉を上げる。
「────!」
志瑞也は朝から無言の悲鳴を上げた。
五神家の男子や女子には神獣が付いていて、その特性に応じた神力があるが、志瑞也は覚えられなかった。蒼万に「頭で理解できないのであれば、まずは身体で感じろ」と言われ、一度庭園で勾玉を外し青龍を出したことがある。だがどうしても、最初に見た青龍の変容を思い出してしまう。悲鳴を上げ怖がると勾玉が反応し、青龍を消してしまい実技にならなかったのだ。
その後、蒼万が勾玉について色々調べた結果。一つ、龍水室で青龍を消した事。二つ、勾玉を着けていても妖怪二匹が見えている。三つ、神力は攻撃に効力を発揮する。四つ、霊力は守りに効力を発揮する。これを踏まえて、黄怜の勾玉は神獣を抑える力はあるが、守るだけで対象を攻撃する効力はない。恐らく勾玉は、霊力を多く込めて創られた可能性が高い。つまり、志瑞也が感情を整えれば、着けた状態でも神獣が見えると蒼万は考えた。
結界の外で襲われた際、青龍の力が必要になる。だが、今の状態では、蒼万が腕輪を外しても青龍を出せない。勾玉を着けていても怖がらないよう〝遊び〟という名の実技を考案したのだ。〝遊び〟は実に単純で、蒼万が神力で勾玉の霊力を抑え青龍を出す。だがこの実技は、蒼万にとって〝遊び〟であって、志瑞也にとっては〝恐怖〟でしかない。
昼餉後、膳を持って部屋を出る。
「志瑞也様、そのようなことは、侍女達に任せればよいのです」
蒼万殿を取り仕切る侍女、沙羅が声をかけてきた。
「俺、毎日していたから癖で…」
「志瑞也様は、大切な客人とお伺いしております。このようなことをされては、私達が蒼万様に叱られてしまいます」
「そっそっか、ごめんなさい…」
「謝るようなことは何も… お顔色が優れませんが、いかがなさいましたか?」
「色々慣れなくって…」
沙羅が少し憐れむような目で志瑞也を見た。
侍女達には蒼万の祖母朱子の遠縁で、暫く預かるとだけ伝えられている。傍系の者だが、神力が低く毎日雑用をし、遊び相手も妖怪や霊だけで、不憫な思いをして育ってきたと思われている。
「蒼万様はとても厳格な方ですが、宗主の蒼明様や父君の蒼凰様に似て、とても聡明で正直な方です。一度決められたことは、必ずやり遂げられる方です。何かお困りでしたら、いつでもお申し付け下さい」
遠回しに、午後の〝遊び〟のことを言ってるのか、侍女達は一度庭園で、志瑞也が青龍を怖がる様子を見て「クスクス」と笑っていたのだ。
「沙羅さん、ありがとうございます」
志瑞也は膳を沙羅に渡し部屋に戻った。鞄からキャラメルを三つ取り出し、モモ爺達の分二つを懐に入れ一つを口に含む。溶けて無くなるまでのほんの少しの間だけ、一枝の存在を近くに感じていられる。
「よし、ばぁちゃん、頑張ってくるよ!」
午後の〝遊び〟に庭園へと向かった。
蒼万はぱっと目を開け寝床から起き上がり、魘されている志瑞也に近付く。
「父上…母上… ごめんなさい…ううっ…」
志瑞也は大粒の涙を流し、苦しそうに胸を掴んで蹲っていた。蒼万は長い指で涙を拭い、熱くなった頬に手をあて、神力を使い耳元で囁く。
「大丈夫だ、泣くな」
志瑞也の涙が引き呼吸が整ってきたのを確認し、寝床に戻ろうと頬から手を離した。
「行かないでっ… 置いて行かないで…」
蒼万は手をがしっと掴まれる。
「…ばぁちゃん」
蒼万は眉間に皺を寄せる。
志瑞也の目からまた一粒と涙が流れると、蒼万は「ふっ」鼻で笑い涙をそっと拭う。握られた手を払わず、優しく頭をなでる。
「大丈夫だ、置いて行かない」
志瑞也の表情がふっと柔らぎ、落ち着いた寝息に変わった。
翌朝、志瑞也は清々しい気分で目が覚める。昨晩は魘されず、久々にぐっすり眠れたのだ。
「今日は体調が良さそうだな」
部屋の真ん中の椅子に蒼万が腰掛けていた。
「そっ、蒼万? おっおはよう、起きていたんだな…」
夜中に目が覚めて以来、志瑞也は再び寝ることができずそのまま起きていた。自分よりも、先に蒼万が起きているのは初めてだった。
「午後、青龍と〝遊び〟をしてみるか?」
そう言って、蒼万は片眉を上げる。
「────!」
志瑞也は朝から無言の悲鳴を上げた。
五神家の男子や女子には神獣が付いていて、その特性に応じた神力があるが、志瑞也は覚えられなかった。蒼万に「頭で理解できないのであれば、まずは身体で感じろ」と言われ、一度庭園で勾玉を外し青龍を出したことがある。だがどうしても、最初に見た青龍の変容を思い出してしまう。悲鳴を上げ怖がると勾玉が反応し、青龍を消してしまい実技にならなかったのだ。
その後、蒼万が勾玉について色々調べた結果。一つ、龍水室で青龍を消した事。二つ、勾玉を着けていても妖怪二匹が見えている。三つ、神力は攻撃に効力を発揮する。四つ、霊力は守りに効力を発揮する。これを踏まえて、黄怜の勾玉は神獣を抑える力はあるが、守るだけで対象を攻撃する効力はない。恐らく勾玉は、霊力を多く込めて創られた可能性が高い。つまり、志瑞也が感情を整えれば、着けた状態でも神獣が見えると蒼万は考えた。
結界の外で襲われた際、青龍の力が必要になる。だが、今の状態では、蒼万が腕輪を外しても青龍を出せない。勾玉を着けていても怖がらないよう〝遊び〟という名の実技を考案したのだ。〝遊び〟は実に単純で、蒼万が神力で勾玉の霊力を抑え青龍を出す。だがこの実技は、蒼万にとって〝遊び〟であって、志瑞也にとっては〝恐怖〟でしかない。
昼餉後、膳を持って部屋を出る。
「志瑞也様、そのようなことは、侍女達に任せればよいのです」
蒼万殿を取り仕切る侍女、沙羅が声をかけてきた。
「俺、毎日していたから癖で…」
「志瑞也様は、大切な客人とお伺いしております。このようなことをされては、私達が蒼万様に叱られてしまいます」
「そっそっか、ごめんなさい…」
「謝るようなことは何も… お顔色が優れませんが、いかがなさいましたか?」
「色々慣れなくって…」
沙羅が少し憐れむような目で志瑞也を見た。
侍女達には蒼万の祖母朱子の遠縁で、暫く預かるとだけ伝えられている。傍系の者だが、神力が低く毎日雑用をし、遊び相手も妖怪や霊だけで、不憫な思いをして育ってきたと思われている。
「蒼万様はとても厳格な方ですが、宗主の蒼明様や父君の蒼凰様に似て、とても聡明で正直な方です。一度決められたことは、必ずやり遂げられる方です。何かお困りでしたら、いつでもお申し付け下さい」
遠回しに、午後の〝遊び〟のことを言ってるのか、侍女達は一度庭園で、志瑞也が青龍を怖がる様子を見て「クスクス」と笑っていたのだ。
「沙羅さん、ありがとうございます」
志瑞也は膳を沙羅に渡し部屋に戻った。鞄からキャラメルを三つ取り出し、モモ爺達の分二つを懐に入れ一つを口に含む。溶けて無くなるまでのほんの少しの間だけ、一枝の存在を近くに感じていられる。
「よし、ばぁちゃん、頑張ってくるよ!」
午後の〝遊び〟に庭園へと向かった。
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