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第一章 稲禾
物事に偶然はない
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翌日、蒼万は昨日と同刻に、黄怜の勾玉を懐に入れ龍水室へ向かった。すれ違う侍女達が、いつもより微笑んでるのは気のせいか、深く考えず段取りを頭で整理する。龍水室に入り術で結界を張り、腕輪を外し青龍を出した。青龍は一度嗅いだ匂いは忘れないが、念の為、再度懐から勾玉を取り出し鼻に近付ける。
知っているのに何故、と言わんばかりの目つきで唸る。
「しっかり嗅げ」
「グルルゥフガフガ」
青龍は室内を飛び廻った後水中に潜ろうとする。
「待て、私も行く」
「グルルルル」
青龍は不思議そうに首を傾げるが、蒼万は拗ねられては面倒だと、あえて「頼りない」とは言わなかった。髪飾りを取り腕輪と一緒に石台に置き、脱いだ衣と靴を一箇所に束ね、衣の中に隠すように勾玉を入れた。
蒼万は昨日よりも優しい口調で、ゆっくりと青龍に言う。
「私は門の前で待っているから、昨日と同様に黄怜の霊魂の肉体を、門の前に連れて来るのだ、時間は限られている。よいな?」
「グルルゥ」
「上手くできたら……あの四角い物体をやろう」
「グワッグワッ」
蒼万は心で「ふっ単純だな」と笑い、青龍と一緒に湯船の中に入った。腰まで浸かり、瞼を閉じ呼吸を整える。意識を集中して瞼を開け、両手を水に浸け神力を流し込む。水の色が紺色に変わると、蒼万は青龍に掴まり一緒に奥へと潜る。薄暗い水中で、蒼万と青龍の金色の瞳だけが光輝いていた。
しばらく突き進むと「ドンッ」と透明な壁に当たり、蒼万が壁に神力を流し込み門を開く。門が五尺ほど開くと目で「頼んだぞ」と頷いて合図を送り、青龍は門を通り抜け肉体を探しに向かう。
龍族は元々水に強く、四半時〔約三十分〕は水中に潜っていられるが、それは普通の状態であればだ。神力を使いながらだと流石にもって八半刻〔約十五分〕。だが、蒼万は霊力を使い体を一時的に仮死状態にし、神力の放出を固定させ、体力の消耗を抑えることができるのだ。二つの力を掛け合わせることで、通常と同じ時間潜っていられる。しかしこの術は、力の均衡を保つのに細かい集中力が必要とされるのだ。
八半刻後、門の縁に波紋が表れる。
……?
徐々に青龍が近付いて来ると、両手で肉体を掴んではいるが、尻尾には二匹の妖怪が咬み付き、片方の髭には、霊らしき者が絡まっているではないか。水中でも揺れが伝わる程、青龍は大きく暴れていた。
蒼万は苛つきながらも、カッと目を開き体を仮死状態から戻し、瞬時に門に神力を流し込む。暴れる青龍を引き込むには、予定よりも倍以上大きく開けなければならない。門は大量の神力により一気にニ丈〔六メートル〕も開き、青龍は急いで門を通り抜けた。青龍達が全て通り抜けたことを確認し、神力を流すのをやめると、回転する刃物のように門は一瞬で閉じる。
蒼万は暴れる青龍の手から肉体を引き剥し抱え、急ぎ神力で水面まで突き進む。ザバッと水面から飛び出し、肉体を横に寝かせた。肉体の顔色は血の気が引き青白く、体はぐったりしている。肉体の胸に耳を当てるが、既に鼓動が止まっていた。蒼万は肉体の鼻を摘み顎を固定し、口を開けて二度肺に空気を送り込み、心臓に霊力を流し込んだ。
………
だが、肉体は全く反応しない。
蒼万は眉間に皺を寄せ唇を噛み締める。
「くそッ」
肉体の着ているものを引き裂き、もう一度肺に息を送り込み、直接胸に触れ一気に霊力を流し込む。
「戻れっ!」
…………ドックン……ドクン…ドクン…
肉体が肺を大きく膨らませ、肌がぶわっと薄紅色に染まり唇が紅くなる。
「ゴホッ、ゴホゴホゴホッ」
肉体が体を横に捻り、水を吐きながら咽せだす。
「もう…大丈夫だ」
蒼万はそっと背中を摩った。
知っているのに何故、と言わんばかりの目つきで唸る。
「しっかり嗅げ」
「グルルゥフガフガ」
青龍は室内を飛び廻った後水中に潜ろうとする。
「待て、私も行く」
「グルルルル」
青龍は不思議そうに首を傾げるが、蒼万は拗ねられては面倒だと、あえて「頼りない」とは言わなかった。髪飾りを取り腕輪と一緒に石台に置き、脱いだ衣と靴を一箇所に束ね、衣の中に隠すように勾玉を入れた。
蒼万は昨日よりも優しい口調で、ゆっくりと青龍に言う。
「私は門の前で待っているから、昨日と同様に黄怜の霊魂の肉体を、門の前に連れて来るのだ、時間は限られている。よいな?」
「グルルゥ」
「上手くできたら……あの四角い物体をやろう」
「グワッグワッ」
蒼万は心で「ふっ単純だな」と笑い、青龍と一緒に湯船の中に入った。腰まで浸かり、瞼を閉じ呼吸を整える。意識を集中して瞼を開け、両手を水に浸け神力を流し込む。水の色が紺色に変わると、蒼万は青龍に掴まり一緒に奥へと潜る。薄暗い水中で、蒼万と青龍の金色の瞳だけが光輝いていた。
しばらく突き進むと「ドンッ」と透明な壁に当たり、蒼万が壁に神力を流し込み門を開く。門が五尺ほど開くと目で「頼んだぞ」と頷いて合図を送り、青龍は門を通り抜け肉体を探しに向かう。
龍族は元々水に強く、四半時〔約三十分〕は水中に潜っていられるが、それは普通の状態であればだ。神力を使いながらだと流石にもって八半刻〔約十五分〕。だが、蒼万は霊力を使い体を一時的に仮死状態にし、神力の放出を固定させ、体力の消耗を抑えることができるのだ。二つの力を掛け合わせることで、通常と同じ時間潜っていられる。しかしこの術は、力の均衡を保つのに細かい集中力が必要とされるのだ。
八半刻後、門の縁に波紋が表れる。
……?
徐々に青龍が近付いて来ると、両手で肉体を掴んではいるが、尻尾には二匹の妖怪が咬み付き、片方の髭には、霊らしき者が絡まっているではないか。水中でも揺れが伝わる程、青龍は大きく暴れていた。
蒼万は苛つきながらも、カッと目を開き体を仮死状態から戻し、瞬時に門に神力を流し込む。暴れる青龍を引き込むには、予定よりも倍以上大きく開けなければならない。門は大量の神力により一気にニ丈〔六メートル〕も開き、青龍は急いで門を通り抜けた。青龍達が全て通り抜けたことを確認し、神力を流すのをやめると、回転する刃物のように門は一瞬で閉じる。
蒼万は暴れる青龍の手から肉体を引き剥し抱え、急ぎ神力で水面まで突き進む。ザバッと水面から飛び出し、肉体を横に寝かせた。肉体の顔色は血の気が引き青白く、体はぐったりしている。肉体の胸に耳を当てるが、既に鼓動が止まっていた。蒼万は肉体の鼻を摘み顎を固定し、口を開けて二度肺に空気を送り込み、心臓に霊力を流し込んだ。
………
だが、肉体は全く反応しない。
蒼万は眉間に皺を寄せ唇を噛み締める。
「くそッ」
肉体の着ているものを引き裂き、もう一度肺に息を送り込み、直接胸に触れ一気に霊力を流し込む。
「戻れっ!」
…………ドックン……ドクン…ドクン…
肉体が肺を大きく膨らませ、肌がぶわっと薄紅色に染まり唇が紅くなる。
「ゴホッ、ゴホゴホゴホッ」
肉体が体を横に捻り、水を吐きながら咽せだす。
「もう…大丈夫だ」
蒼万はそっと背中を摩った。
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