WALKMAN Xmas特別編

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番外編 Underneath the Tree/ケリー・クラークソン B面

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注意・祐次とアリサがメインで主人公不在なので、第三者視点で書きました。 いつもと違うテイストになっております。




ーーーーーーーーーーーーー

八木祐次の携帯電話に纐纈有沙からのLINEが届いたのはクリスマスの夜だった。
フローリングのダイニングは祐次以外おらず、また訪ねてくる人物もいない。誘う予定だった相手には先約があった為だ。
仕事を終え、スーツを脱ぎ、風呂に入り、コンビニで買ったレトルト食品を冷凍保存していた白米とともにつついている時、ピロンと気の抜けた音がスマホから鳴り画面が光った。
祐次は箸を置きスマホを手に取る。

「え、アリサさんから?・・・えっ?」

メッセージの送り主は、まさに誘おうとしていた相手をかっさらっていった者からだった。そして信じがたいことが書いてあった気がするが、すぐ消えてしまった。
LINEのアイコンをタップしメッセージを確認する。
やはり見間違いではなかった。
ただ一言、

『フラれた』

とだけ書いてあった。
祐次はすかさずどういうことか、と聞こうとしたが、流石に無神経だと思い直し、まずは

『大丈夫ですか?』

と送信した。
すぐにクマのキャラクターが怒り心頭という表情をしたスタンプが貼られ

『ホントあいつ最悪。あとは好きにして』

と付け加えられた。
あいつ、とはもしや。
好きにしていい、とは。

それは、告白しても良いという意味だろうか。
彼に。

実は、祐次は彼に一度告白している。
しかし相手にされず、せめて試しにと泣きついたが、こちらがいくら熱をあげても彼の冷めた態度に変わりはなく、虚しさや不安や焦燥感が募るばかりだった。更に一緒にライブに行った時、パフォーマンスを終えたアリサの発言から彼には同棲相手がいると発覚してしまった。
同棲相手ではなく義理の兄だったが。
勘違いを正してくれたのもまたアリサだ。ライブに来ていたバンドのツテを伝ってわざわざ連絡を取ってきた。
最初に来たダイレクトメッセージを見た時は誰だか分からず冷やかしかと思ったが、

『ハジメのことなんだけど』

と彼の名前が入った文に目を引かれ、読んでいるうちに自分が誤解していたことに気づいた。
その後彼とも和解し、友人関係になったことを礼とともにメッセージで伝えれば

『良かったね。よければ連絡先しない?また2人でライブ来てよ』

と返ってきた。
これにはアリサが祐次の反応を伺ったり、連絡を取り合うことで祐次と彼の関係がどう変化するのか探る狙いもあったのだかーーー
人の良い祐次はただ快諾した。
それから頻繁にアリサの出るライブの日程が送られてくるようになった。そこから好きなアーティストや音楽の話などをするようになったが、彼と会ったか、彼と一緒に来たらどうかなどたまに聞かれ、連絡先を交換したのは牽制の意味合いがあったのだとようやく気づいた。
大抵は、最近会っていない、と返していた。
実際に彼から連絡が来る事はなかったし、ライブや飲みに誘っても予定があるだの姪っ子を預けられただの断られることが多かった。
最後に会ったのはつい最近だったが。
バーでアリサが歌を、彼がピアノ演奏のアルバイトをすると聞いて初日に飛んで行った。
バーテンダー姿にも心臓を撃ち抜かれたが、普段口が悪く無愛想な彼が美しくピアノを奏でるのを見て雷に打たれたような衝撃を受けた。
ますます惚れ直したのは言うまでもない。

さて、お互いに探りを入れつつも友好関係を結んで行ったアリサと祐次だが、ついにアリサがクリスマスに彼をデートに誘った事で関係が大きく変わった。

アリサが彼に告白して袖にされたのである。

『俺がノンケでもお前は無理って言われた。ホント無神経。祐次君あんなののどこがいいの』

LINEで会話を繰り返すうちヒートアップしたアリサからついに電話がかかってきた。酔っているのか少し舌がもつれ気味で愚痴の洪水が溢れてくる。
どこがよかったのかなんて、それを告白した自分が言うか、という言葉をグッと押さえつつ、

「そうですねえ」

と苦笑いで濁した。
祐次は女性との交際経験もあるので、このような時はなるべく黙って相槌を打つのが吉だと身をもって知っていた。
それに、彼に好意を持ったきっかけはシラフでは言い難い。
彼とはゲイアプリというゲイ専門のマッチングアプリを通して出会った。
彼は性に奔放な人間だ。マッチングアプリを使って相手を探し、一夜限りの関係を平気で繰り返す。
だが自分も人のことは言えない。アプリを通して彼と関係を持った上にそれなりに遊んでいたからだ。
彼と他の人間を比べるようになっていくまでは。
アプリで出会った相手に会うたび考えてしまう。
彼の方が整った顔だった、肌を合わせるのが心地良かった、彼の方が優しかった
今日は彼と会えればよかったのにーーー

恋だと気づくまでさして時間は掛からなかった。

そして、想い人がいると分かっていても、まだそれを手放せないでいる。

『それに、僕とハジメさんは今は友達ですから』
『そんな事言って、ハジメのことまだ狙ってんでしょ。さっさと持っていってよ』

今日資源ごみの日だから出しておいてよ、とでもいうような口調に、女の子は切り替えが早いなあと呆れるやら感心するやら。
微かな下心まで見透かされ恐れ入る。
しかし

『僕、なんならハジメさんとはずっと友達でもいいです』
『なんで?友達じゃいられなくなるかもって?
だったら明日にでもバイト先で顔合わす私はどうすればいいのよ』
『えぇっと、そうじゃなくて・・・。
ハジメさん、ゲイの友達は僕しかいないって言ってたんです』

アリサは黙った。祐次の言葉の意味を考えているようだった。

『ハジメさんって、遊び人じゃないですか。
僕、ハジメさんにとってたった一人の人間になりたいんです』

恋人同士になっても、身体の関係に飽きたり気持ちが冷めたりすればそれで終わりだ。
ネットやSNS以外でオープンに語れる同性愛者の友人は貴重なのだ。身体だけの恋人よりも。
特別な存在だ。
しばらく沈黙は続いた。

『・・・私だって、なりたかったよ』

涙が滲む声だった。
愚痴も悪口も全部強がりだったのだと気づいた。
そして困ってしまった。泣いている女の子を慰めるのは苦手だ。その時によって地雷が変わる。

『祐次君ずるい』

鼻を啜る音が微かに聞こえた。

『でも、アリサさんは歌があるじゃないですか。僕、音楽は全然なので、一緒に演奏できるのは羨ましいです』
『ユウジさんと演奏してる時の方がずっと楽しそうだった』

祐次の胸がチクリと痛む。ユウジは彼の想い人だ。よりにもよって自分と同じ名前の。

『アイツは音楽しか興味ないから、私、すっごい練習したのに。ハジメも上手くなったって言ってたのに。やっぱり、ユウジさんには敵わなかった』

黒いもやが身体の中に渦巻いているようだった。ユウジは、やはり、自分よりも特別な存在なのだと。

『もうさ、さっさと告ってフラれろって思うよね』

涙声ながらも、最後の言葉にふふっと笑い声が重なる。吊られて笑みが漏れる。やっぱり女の子の方が強いなあ、と。

『そうですね、でないと告白しても意味がないですし』
『もう祐次君いっその事落としちゃいなよ。ユウジさんの事でヤキモキしてるの見るとすっごいイライラするの。鈍感な癖にわかりやすすぎなの』
『でも、そういうところもいいんですよね、ギャップというか』
『そうそれ!』
『顔が結構かわいい系なのも反則ですよね』
『それ!ああもうホントムカつく!なんであんなの好きになったりしたんだろ!』

可愛さ余って憎さ百倍、という言葉が頭に浮かんだ。そのまま伝えるとそれ!とすかさず相槌が入る。しばらく悪口なのか惚気なのか分からないやりとりをし、

『あーあ、なんかちょっとスッキリした。ごめんね遅くまで』
『はい、ちょっと眠いです』
『祐次君、意外とハッキリ言う方だよね』
『そうですか?』
『うん。聞いてくれてありがとね。おやすみ』

通話は切られた。とうに日付は超えて深夜に差し掛かる。嵐のようだったなとレトルトの袋や割り箸を蓋付のゴミ箱に押し込める。
電気を消してベッドに潜り込めば、急に部屋は静まりかえりどこか落ち着かない。
アリサとの会話が嫌でもリフレインする。
音楽でも聞こうかとスマホに手を伸ばしかけてやめた。いつもウォークマンを持ち歩きイヤホンで音楽を聴いていた彼を思い出す。

今は、彼の友人のままでいい。
彼の友人は、今のところ自分だけなのだから。

end


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