WALKMAN 3rd

SF

文字の大きさ
上 下
9 / 13

Interlude③ Rock with you/Michael Jackson

しおりを挟む
『ーーーー君とxxxxがしたい』
Rock with you/Michael Jackson


ーーーーーーーーー
よりによって捕まった相手は春野しかいなかった。
でもダイレクトメールが届くと、もうどうにでもなれとそれに応えていた。
春野から指定された待ち合わせ場所はラブホ街から近い駅で、どんだけヤりたいんだよ、と自分のことは棚に上げて思った。

春野と合流するとすぐホテルに向かった。ビジネスホテルに近いシンプルな内装だ。ホテルの部屋に入ると、鼓動が早くなって、背中がゾクゾクしてきた。逃げるように風呂場に入る。
戻ってきた時にはもう春野は下着だけになっていて、ベッドで寝転びながらスマホを触っていた。
俺に気づくと、

「おいで」

とベッドから起き上がる。スプリングを軋ませてベッドに膝をつくや否や、腕の中に捕らえられた。
春野の顔を見れば、俺の頭を撫でながら優しい笑みを浮かべている。ユウジが、カホや姉ちゃんに向けていたような。
それが今俺だけに向けられていると思うと、胸の奥から何かこみ上げてきた。嬉しさなのか、罪悪感なのか分からない。顔を見られなくなって俯いた。
春野は黙って俺の顔を包み込んで、正面を向かせる。目の前に微笑むユウジの顔が迫る。
そういう対象でしかなかったってことか?ってユウジの声がリフレインして、それ以上春野に近づけなくなった。
春野はふと顔を離して、眉間に少しだけしわを寄せる。

「そんなに似てる?知り合いに」

俺が口を開きかけると

「それってもしかして本命?」

ズバリ聞いてきた。俺は迷ったけど、顎を引いて肯定した。

「顔、上げて」

春野の方を見れば、キスされた。ノックするように何度か唇を食まれて、口をあければ自然と舌が入ってくる。目を閉じてしばらく貪り合った。

「俺たぶん似てないよ、悪いヤツだよ」

だってやめる気はないから、とニヤリと笑う。そんな表情までやっぱり似てて、でももうスイッチが入ってしまって、春野にされるがまま押し倒された。
春野は丁寧に触れてくる。首筋や鎖骨を辿る唇も、腰や背中をさする指先も柔らかな感触だ。どこか強張っていた身体も、肌が擦れ合う度ベッドに沈んでいった。

「ここ、いじってないよね?」

俺のブツをさする。本当は普通にオナニーしてたけど頷いた。

「確かめてみようか」

下着を剥がされて、ペニスを口に入れられた。
ユウジの顔が俺のを咥えている絵面はそれはもう破壊力抜群で、見ているだけで勃った。
頭を前後に振って全体を擦られるのも、亀頭を吸われながら先を舌先で刺激されるのもすごく気持ち良かったけど、興奮や背徳感の方が優っていた。精液を春野の口の中に放つと、ヤツはティッシュで口を拭いた後、

「嘘つき」

とニヤリとした。

「普通にオナニーしてたでしょ」

ニヤニヤしながら亀頭の先を指先でくすぐる。
「まあ俺もしてたけどね。君のこと考えながら」

ずっと抱きたかった、って抱きしめてくる。それから、俺の耳元で囁く。

「好きだよ」

思わず目を見開いた。でもこんなのは、大抵気分を盛り上げる為の戯言だ。今まで最中に言われたことがなかった訳じゃない。
だけど今日耳元で響くのはユウジの声でーーー

「うわっどうしたの」

そりゃそうだよな。俺だってビックリしてる。
目から勝手にボロボロ涙が溢れてきたんだから。
俺はアホか。春野はユウジじゃないのに。
ただ顔と声と表情が似てるってだけなのに。
こんなの、俺がユウジのことめちゃくちゃ好きみてえじゃねえか。

「悪い、顔洗ってくる」

身体を背けながら起き上がろうとすると、手首を掴んでシーツに磔にされた。これじゃ濡れた顔を拭くことすらできやしない。

「ダメだよ。やめる気はないから」

真剣な顔つきで見つめられる。泣き顔を見られるのが気恥ずかしくて、耐えきれずに顔を横に向ければ、つう、と滴が頬を伝った。春野はふっと表情を和らげて、かわいいなあ、と俺の目の端を親指で拭う。
春野の目元が緩んで、色素の薄い瞳が潤む。薄い唇は弧を描いて、甘い言葉が落とされる。

「好きだよ」  

優しく微笑むその顔はユウジそのもので、胸が締め付けられる。その痛みに自分の顔がくしゃりと歪むのが分かった。
春野はまた手や唇や舌で俺の身体に触れ始める。
神経が剥き出しになったみたいに触られたとこが痺れて、馬鹿みたいに喘いだ。
泣きそうになるほど春野は優しく触れてくる。でも、胸の痛みは引かなかった。

「・・・ユウジ・・・ッ」

言ってしまって、すっと昂りが引いていくのを感じた。さすがにルール違反だ。
春野を見ると、フッと口の端を上げ薄く笑っただけだった。

「ダイスケね、俺の名前」

耳元に吹き込まれて、そのまま耳朶を食みながら舐められる。指先はゆっくり後ろの孔に埋められていって背中が跳ねた。
イイところを探り当てられると、頭の中で火花みたいにパチパチと理性が弾けていく。またユウジの名前を呼んでしまった。

「ダイスケ」

発音を聞かせるように一文字ずつ区切って言いながら、春野が俺のナカに入ってくる。
もうその時点でわけが分からなくなってて、喘ぐだけだった。
セックスするのが恐いなんて思ったのは初めてだ。
仕舞い込んでたユウジへの気持ちが全部溢れかえってしまいそうで。その後にはなんにも残らない気がして。全部暴かれて丸裸にされて遠く置き去りにされてしまいそうな、そんな気がした。
なんで、俺は好きでもなんでもないヤツとセックスしてんだろう。そんな考えが浮かんだけど、深追いするのは危険だと察知してすぐに頭の隅に追いやった。
春野が腰を動かしながら

「下の名前、教えて」

と聞く。今聞くのかよ。圧迫感も違和感も落ち着いて、ちょっと冷静さが戻ってきたから名前を教えた。

「ハジメ、好きだよ」

瞬間、身体が震えた。
突き上げられる度に頭の中が真っ白になって、あっという間にイッてしまった。
それでも春野は動くのをやめない。余韻が醒めると下半身が重くなって、孔がひりついてくる。

「も、やめ・・・」
「もうちょっと頑張って」

春野は俺の腕を持ち上げて、自分の首に絡ませた。自然と力が入って、春野にしがみ付く。

「ん、出すよ」

春野は俺を挟み込むように肘をつく。何度か腰を叩きつけてナカを抉ると、腰から背中にかけて走る震えが伝わってきた。それがおさまると、俺の身体の上に身体を乗せて大きく息を吐く。
それから顔を上げて、ニヤリと笑った。

「すごかったよ、気持ちよかった」

散々乱されたことを思い出してきて、顔が熱くなってくる。セックスの最中にこんな余裕がなくなったのは久しぶりだ。

「シャワー浴びよっか」

薄々わかってたけど、風呂場でも盛ってしまった。
明るい場所ではユウジと似た顔が鮮明になる。挿れはしなかったものの、正面から向き合ってお互いのものを扱き合うのは、マジでユウジとシてるみたいで落ち着かない。

「こっち見て」

俯いたままでいると、顎を掴んでキスされた。
しばらく舌も手も足も相手の身体に絡ませて、気持ちいいことだけに意識を集中させる。
背中が床についてヒヤリとした。ハッと気付いた時には片足を持ち上げられていた。
容赦なく貫かれて揺さぶられるうちに理性が振り落とされていく。完全にトんでいたと思う。
気付いたら風呂場の床にぐったりと寝そべっていて、立とうとしたけど足に力が入らなかった。
マジで?抱き潰されるのなんて初めてなんだけど。

「ごめん、やり過ぎちゃったね」

春野は苦笑しながら手を差し出してきた。立ち上がったはいいけど2人してフラフラで、しばらく湯船に浸かってボーッとしてた。
凝り固まっていた疲労が湯に溶け出して、身体に広がっていく。だめだ、眠くなってきた。先にあがったはいいものの身体が重い。ベッドに倒れたらすぐ寝落ちしそうだ。
後から春野が上がってきて、服を着てホテル代を精算する。部屋から出る前に、アプリじゃない方の連絡先を交換した。
まだ一緒にいたいような、今すぐ帰りたいような、変な気分だった。

家に帰ると、さっきまでセックスしてた相手と同じ顔したヤツがおかえりって言ってくる。
身体は怠いし、眠くて頭は鈍くなっているし、ユウジと春野の顔が頭の中をグルグルしてますます変な感じがした。

「今日はもう寝る」

それだけ言って、ユウジがなんか言ってたのも無視して布団に倒れ込む。混乱する思考をシャットダウンするみたいにすぐ目蓋が落ちた。
そのまま、俺は朝まで目を覚さなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

彼はオタサーの姫

穂祥 舞
BL
東京の芸術大学の大学院声楽専攻科に合格した片山三喜雄は、初めて故郷の北海道から出て、東京に引っ越して来た。 高校生の頃からつき合いのある塚山天音を筆頭に、ちょっと癖のある音楽家の卵たちとの学生生活が始まる……。 魅力的な声を持つバリトン歌手と、彼の周りの音楽男子大学院生たちの、たまに距離感がおかしいあれこれを描いた連作短編(中編もあり)。音楽もてんこ盛りです。 ☆表紙はtwnkiさま https://coconala.com/users/4287942 にお願いしました! BLというよりは、ブロマンスに近いです(ラブシーン皆無です)。登場人物のほとんどが自覚としては異性愛者なので、女性との関係を匂わせる描写があります。 大学・大学院は実在します(舞台が2013年のため、一部過去の学部名を使っています)が、物語はフィクションであり、各学校と登場人物は何ら関係ございません。また、筆者は音楽系の大学・大学院卒ではありませんので、事実とかけ離れた表現もあると思います。 高校生の三喜雄の物語『あいみるのときはなかろう』もよろしければどうぞ。もちろん、お読みでなくても楽しんでいただけます。

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

処理中です...