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Interlude② P.Y.T /Michael Jackson
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『ーーーーさあおいでかわい子ちゃん』
P.Y.T /Michael Jackson
ーーーーーーーーー
「俺ギターやってたんだよ」
次に春野に会った時、ヤツはそう言った。こうも共通点が多いと気色悪い。
腹の中がざわつく感じがして、焼肉を食う手が止まった。春野は赤身肉をトングでひっくり返す。
「兄貴がバンドやっててさ、ハマってしばらくやってたけど、もう触ってないかな」
「ふうん」
皿に入れられた肉をもそもそと頬張る。安さを売りにしている店の割には美味い。ちゃんと噛み切れるし脂っぽくない。
「俺はキーボードやってた」
「ん?」
「バンドで、助っ人で、キーボード弾いてた」
飲み込んだ肉が喉に詰まるような気がして水を流し込む。こんなこと、アプリで会ったヤツには話した事ないのに。
「マジで?今もやってんの」
春野が身を乗り出した。
「バンドが解散して今はやってないけど、たまにピアノ弾いてる」
「へえ、でもなんか楽器やってそうな感じする」
「そう?」
春野は手を掴んできた。
「手ェキレイだし、手首細いし」
春野の指先が、袖の中に潜って手首を伝う。エロい手つきに背中がぞくっとした。
俺と目が合うと、ニコリと人懐こい笑顔を見せた。でも、手はテーブルの上で重ねられたままだ。
「ね、この後どうする?」
春野はゆったりと目を細める。
いや、その気なのはわかっている。俺もそのつもりで来たんだし。でも、
「・・・カラオケでも行く?」
なんて、俺が言われたら心の中で舌打ちするようなことをほざいてた。
「いいよ」
春野はそんな事は微塵も考えてません、って善人面して笑った。
カラオケの個室に入ると、なんか心臓がバクバクし始めた。デンモクで適当にメジャーな歌を選んでこれまた適当に歌う。
ユウジは腹から声が出てりゃなんとかなるって言ってたのを思い出す。春野は普通に上手かった。素直に「上手いじゃん」って感想が言えるくらい。でも、ユウジの方がーーー
そんなことを考えながらデンモクを眺めてたら、春野が俺の隣に来ていた。
手を伸ばして、俺の後頭部に手を当てて顔を近づけてくる。ユウジの顔が、視界に広がっていく。
思わず顎を引いてしまって、額がぶつかった。
「意外とガード固いね」
春野は可笑しそうに口の端を上げる。表情は穏やかなのに、髪を撫でながら抱きしめてきて、段々肉食獣に間合いを詰められきているみてえだ。
「キスしよ」
顎の先端を持ち上げられる。いや、したいし、なんならホテル行ってセックスしたい。でも、ユウジに似た顔を見ていると、なんか胸がもやもやする。セックスしちゃいけない気がするんだ。
「ここで?」
どんだけカマトトぶってんだと自分に呆れる。
「大丈夫」
入り口に背を向けて、俺を隠すみたいに座り直す。
春野は顔を近づけるけど、また顎を引いて躱してしまった。
「もしかして初めてだったりする?」
「いや、そんなことないけど」
むしろヤりまくってきたんだけど。
「じゃあなんで?」
「さあ・・・なんでだろ」
本当に分からない。今までセックスを拒んだことなんて無いのに。
「ふうん。じゃあ今日はキスだけね。それならいい?」
思ったより忍耐強いヤツだな。まあ内心ヤりたくてしょうがないんだろうけど。
顔を上げると、春野はそっと唇を乗せてきた。貪るのを我慢しているみたいに、唇を食んでは離すのを繰り返している。
「口開けてよ」
切なげな声が耳をくすぐる。ユウジが俺を欲しがっているみたいに聞こえて肌が粟立った。
口を開けて、ぬるっとした感触を感じると春野の舌を吸って捕らえた。春野はちょっとびっくりしたみたいに肩を上げたけど、舌が深く侵入してきた。俺の舌に絡みついて、滑らかな側面やざらついた表面とか色んな場所を擦り合った。
そのうち体重をかけて押し倒される。糸を引きながら口を離せば、春野は俺の耳や首筋や胸をキスで辿った。
「いいの?」
キスでのぼせた頭に悪戯っぽい声が響く。
「普通に襲ってるんだけど」
春野の目の奥がギラリと光る。
「ダメ」
「焦らすねえ」
春野は目元を緩めて肉食獣のような目の光を消した。
「わかったよ、また今度ね」
また唇を貪られる。何度も食んだり吸われたりしながら、服の下から手が入ってくる。胸の先を弄られれば嫌でもペニスが勃ってくる。そこを掌全体で撫でられて、ビクリと身体が震えた。
「セックスするまで自分でいじっちゃダメだよ、わかった?」
「ん」
返事はしたものの、そんなもん守る気なんてさらさらなかった。帰ったら速攻でするだろうな、絶対。
「あーもう、俺相当我慢してんだけど。分かる?」
春野のも勃っていて、のし掛かったまま俺のに擦り付けてくる。
「今日は我慢する。でも次会った時は覚悟しといて」
重なった胸から心臓の鼓動が伝わるくらい身体が密着している。暖房はそれほど効いてないけど熱い。春野の身体から抜け出そうとすると、
「もうちょっと」
と抱き竦められる。
もちろんそれからは歌どころじゃなくなって、イチャついて終わった。
帰ったら、ユウジの顔がまともに見られなかった。春野のキスする時の顔が浮かんで。やっぱりもう会わない方がいいのかも知れない。これでセックスなんてしたらどうなっちまうんだ。
P.Y.T /Michael Jackson
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「俺ギターやってたんだよ」
次に春野に会った時、ヤツはそう言った。こうも共通点が多いと気色悪い。
腹の中がざわつく感じがして、焼肉を食う手が止まった。春野は赤身肉をトングでひっくり返す。
「兄貴がバンドやっててさ、ハマってしばらくやってたけど、もう触ってないかな」
「ふうん」
皿に入れられた肉をもそもそと頬張る。安さを売りにしている店の割には美味い。ちゃんと噛み切れるし脂っぽくない。
「俺はキーボードやってた」
「ん?」
「バンドで、助っ人で、キーボード弾いてた」
飲み込んだ肉が喉に詰まるような気がして水を流し込む。こんなこと、アプリで会ったヤツには話した事ないのに。
「マジで?今もやってんの」
春野が身を乗り出した。
「バンドが解散して今はやってないけど、たまにピアノ弾いてる」
「へえ、でもなんか楽器やってそうな感じする」
「そう?」
春野は手を掴んできた。
「手ェキレイだし、手首細いし」
春野の指先が、袖の中に潜って手首を伝う。エロい手つきに背中がぞくっとした。
俺と目が合うと、ニコリと人懐こい笑顔を見せた。でも、手はテーブルの上で重ねられたままだ。
「ね、この後どうする?」
春野はゆったりと目を細める。
いや、その気なのはわかっている。俺もそのつもりで来たんだし。でも、
「・・・カラオケでも行く?」
なんて、俺が言われたら心の中で舌打ちするようなことをほざいてた。
「いいよ」
春野はそんな事は微塵も考えてません、って善人面して笑った。
カラオケの個室に入ると、なんか心臓がバクバクし始めた。デンモクで適当にメジャーな歌を選んでこれまた適当に歌う。
ユウジは腹から声が出てりゃなんとかなるって言ってたのを思い出す。春野は普通に上手かった。素直に「上手いじゃん」って感想が言えるくらい。でも、ユウジの方がーーー
そんなことを考えながらデンモクを眺めてたら、春野が俺の隣に来ていた。
手を伸ばして、俺の後頭部に手を当てて顔を近づけてくる。ユウジの顔が、視界に広がっていく。
思わず顎を引いてしまって、額がぶつかった。
「意外とガード固いね」
春野は可笑しそうに口の端を上げる。表情は穏やかなのに、髪を撫でながら抱きしめてきて、段々肉食獣に間合いを詰められきているみてえだ。
「キスしよ」
顎の先端を持ち上げられる。いや、したいし、なんならホテル行ってセックスしたい。でも、ユウジに似た顔を見ていると、なんか胸がもやもやする。セックスしちゃいけない気がするんだ。
「ここで?」
どんだけカマトトぶってんだと自分に呆れる。
「大丈夫」
入り口に背を向けて、俺を隠すみたいに座り直す。
春野は顔を近づけるけど、また顎を引いて躱してしまった。
「もしかして初めてだったりする?」
「いや、そんなことないけど」
むしろヤりまくってきたんだけど。
「じゃあなんで?」
「さあ・・・なんでだろ」
本当に分からない。今までセックスを拒んだことなんて無いのに。
「ふうん。じゃあ今日はキスだけね。それならいい?」
思ったより忍耐強いヤツだな。まあ内心ヤりたくてしょうがないんだろうけど。
顔を上げると、春野はそっと唇を乗せてきた。貪るのを我慢しているみたいに、唇を食んでは離すのを繰り返している。
「口開けてよ」
切なげな声が耳をくすぐる。ユウジが俺を欲しがっているみたいに聞こえて肌が粟立った。
口を開けて、ぬるっとした感触を感じると春野の舌を吸って捕らえた。春野はちょっとびっくりしたみたいに肩を上げたけど、舌が深く侵入してきた。俺の舌に絡みついて、滑らかな側面やざらついた表面とか色んな場所を擦り合った。
そのうち体重をかけて押し倒される。糸を引きながら口を離せば、春野は俺の耳や首筋や胸をキスで辿った。
「いいの?」
キスでのぼせた頭に悪戯っぽい声が響く。
「普通に襲ってるんだけど」
春野の目の奥がギラリと光る。
「ダメ」
「焦らすねえ」
春野は目元を緩めて肉食獣のような目の光を消した。
「わかったよ、また今度ね」
また唇を貪られる。何度も食んだり吸われたりしながら、服の下から手が入ってくる。胸の先を弄られれば嫌でもペニスが勃ってくる。そこを掌全体で撫でられて、ビクリと身体が震えた。
「セックスするまで自分でいじっちゃダメだよ、わかった?」
「ん」
返事はしたものの、そんなもん守る気なんてさらさらなかった。帰ったら速攻でするだろうな、絶対。
「あーもう、俺相当我慢してんだけど。分かる?」
春野のも勃っていて、のし掛かったまま俺のに擦り付けてくる。
「今日は我慢する。でも次会った時は覚悟しといて」
重なった胸から心臓の鼓動が伝わるくらい身体が密着している。暖房はそれほど効いてないけど熱い。春野の身体から抜け出そうとすると、
「もうちょっと」
と抱き竦められる。
もちろんそれからは歌どころじゃなくなって、イチャついて終わった。
帰ったら、ユウジの顔がまともに見られなかった。春野のキスする時の顔が浮かんで。やっぱりもう会わない方がいいのかも知れない。これでセックスなんてしたらどうなっちまうんだ。
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