WALKMAN 3rd

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Trac01 Basket Case/Green Day

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『ーーーー俺の泣き言を聞く暇があるか?』
Basket  Case/Green Day

※暴力表現注意
ーーーーーーーーー
茶色く逆立った短い髪、シャープな輪郭の中にはソバカスが散って、切れ長の目は刃物のようにギラついている。
ホテルに行って下着だけで風呂場から出てきた瞬間、腹に蹴りを入れられて夕飯を床ぶち撒けそうになって、見上げた顔がそれだった。

「何?こういうのが好きなの?」

込み上げる酸っぱいものを、唾と一緒に押し戻しながら言った。
そいつは、山田っていったっけ、髪と同じ色の眉をひそめた。

「やるなら最初に言っとけよ」
 
立ち上がるとまた殴られた。

「逃げんな」

少し上擦った声で言われた。

「殴らなくても逃げねえよ。セックスするなら相手してやるっつーの」

あ、顔に跡つけるのはナシで、と言ったら、山田はまた俺を殴って、うるせえよ、と床に叩きつける。
山田はズボンを下ろして

「しゃぶれよ」

とヤツのモノを顔に突きつけてくる。
今日はこんな感じか。本当は無理矢理とかあんま好きじゃないんだけど。

「いいからしゃぶれよ!」

怒鳴るなよ。だから言えばやってやるって。
俺がウンザリした顔を向ければビンタされた。だから顔はナシだっつってんだろうが。
仕方なく、俺は舌を伸ばした。   

なんでこんな事になったのかっていうと、1時間くらい前のことだ。

ーーーーーーーーー

「え、無理矢理っぽいのが好きなの?」
「すいません、こんな事頼んで」

ホテルに向かって歩く途中、山田は髪と同じ色の眉を下げて言った。

「いやなら断ってくれていいっス」

スカジャンを着た身体を小さくする。

「普通にヤればいいじゃん」
「・・・そういう事しないと、ヤれなくて」
「ウリセンでやれよ」
「そこまで金無いんス。会社、クビになりそうだし」

ウリセンはゲイ専用の風俗みたいなもんで、嬢よりは安いけど相場は本番ナシでも15000から20000と決して安くはない。
「じゃセックスしてるヒマねえんじゃねえの」

「そういう時だから、余計にシたくて。
もう我慢できなくなっちゃって」

まあわからんでも無い。
山田の肩も声も震えている。泣くのを我慢しているみたいに。

「俺が嫌だって言ったらどうする?」
「・・・帰ります」
「どうすっかなぁ」

ホテルにはもう着いてしまった。
山田は捨てられた子犬と言う表現がぴったりな顔をしていた。むしろこっちが虐めたくなる。
というか、もうどうでもいいからセックスがしたくてしょうがない。

「わかった。行こ」
「えっ本当に?殴ったり蹴ったりとか、大丈夫ですか?」
「あー・・・」

俺は頭をかいた。
そういうのはやった事がない。最中に首絞められたり歯型つけられたりした事はあるけど。それに、ユウジに無傷で帰ってこいって言われてる。

「じゃあ、顔とかに跡つけるのはナシで」

まあバレなきゃいいだろ。
俺たちはホテルに入っていった。

そして今、口の中は生臭い匂いと血の味がする。精液を飲み込むのは正直吐きそうだった。

「水飲んでいい?」

そう聞いたら、山田はズボンを上げると俺の髪を引っ張って歩いて行った。風呂場に突っ込まれ頭からシャワーをジャンジャンかけられた。
ちょっと待て、パンツはいたままなんだけど。
山田も服を着たままのくせに御構いナシだ。

「飲めよ」

胸をつま先で蹴られる。気持ち悪さに負けて、顔を上げて少し口を開いて中を洗い流した。
でも山田は顎を掴んで、更に口を開かせてきた。苦しいよりも鼻に水が入ってきて痛い。
むせると喉に水が流れ込んで、呼吸ができなくて一瞬マジで死ぬんじゃないかと思った。
鼻からも口からも液体を垂れ流しながら、山田が拳で全身に跡をつけるのを必死に腕で塞いだ。

「おい、やめだ、やりす」

水が出たままのシャワーヘッドで頭をぶっ叩かれて目の前がチカチカした。
いやマジで?
ここまでやるとは思ってなかった。約束通り顔には手を出してこないから、殺す気はないらしい。
山田が手を挙げただけでビクッと身体が反応すると、ヤツはどこか安心したようにニヤリとした。
下着を剥ぎ取ると足を開かせてアナルにシャワーを当ててきた。指をグイグイ入れてくる。

「痛い。ローション使えよ。あっただろうが」

無視して指を増やされた。入り口が裂けそうで歯をくいしばる。
山田も全身びしょ濡れになって、野良犬のように目をギラつかせている。でも、服は着たままだ。

「オイ、やめろっつってんだろ!」

怒鳴って顎に蹴りを入れてやった。
クッソ外した。
山田は細い目を目一杯見開いて、物凄く驚いた顔をしていた。手を掴んで孔から指を引っこ抜く。起き上がると、山田はびくりと震えた。
 
「俺やっぱ帰るわ」

なんか萎えちまった。
今日はハズレだ。今度からこういうのは断ろう。普通にめちゃくちゃ痛いだけだ。
ヤツは腕を顔の前で交差させて震えている。

「なんだよ、お前、なんで、」

山田はブツブツ言ってて、片方の手をぐっしょり濡れた上着のポケットに入れる。
折り畳み式のナイフが、パチンと顔を出した。
待てまてまてまて。それはシャレにならないし聞いてもいない。
床に組み伏せられて、背中で飛沫が跳ねた。情けないことに声が出てこない。

「おい、待」

やっと声が出たのは、ヤツがナイフを振り下ろしてからだった。

澄んだGの音とガキン、という音が重なって聞こえた。右の腹の横がジンジンする。
血が一筋伝っていくのが分かった。恐る恐る見てみると、掠っただけみたいで皮一枚分切れて細く赤い筋がついていた。
今頃冷や汗が全身から吹き出て、力が抜けていった。

「う、あ、あああ」

山田の声だ。ヤツはその場でうずくまって、嗚咽を殺して泣いていた。
泣きたいのはこっちだっての。
とりあえずシャワーで体をサッと流して、先に風呂場から出た。丸まるヤツの背中から覗いていたのは、俺なんかよりももっと深い切り傷の跡だった。

部屋に戻ってパンツをドライヤーで乾かしていると、山田がホテルの部屋着で風呂場から出てきた。服ビッショビショだったからな。ヤツの鼻も目元も真っ赤だ。

「・・・すいませんでした」

山田は鼻をすすった。

「ナイフはナシだろ」
「すみません・・・本当にそこまでするつもりはなかったんです」
「じゃあそんなもん持ってくるな」
「人には使いませんよ」

山田は腕を上げた。毛が剃られた脇や二の腕の下には、びっしり傷が刻まれていた。
リスカってやつか?いや場所が違うか。
そろそろ乾いたかな。まだ湿っぽいけど履けない事はない。立ち上がって履こうとすると、山田はビクッと後ずさった。

「なんだよ、人を散々ボコっといて」

腕とか青痣すごいんだけど。まだ長袖の季節でよかった。山田はまたすいません、と小さな声で呟いた。

「あの、こんなこと言うのなんだけど、通報しないでください・・・」

「は?」

「傷害でマエがあるから、バレたらもう終わりなんです。会社にもそれがバレそうで・・・」

マジで?前科あるのコイツ。
ヤッベェ、マジで下手したら殺されてたかも。
唇が乾いて、無性に水が飲みたくなる。冷蔵庫に向かうと、山田はまたビクッとして俺から離れた。そのくせ視線は外さない。こっちを伺う野生動物みたいに、一定の距離を保っている。

「俺にはテメエみたいなシュミはねえよ」

イラっとして吐き捨てた。
小さな冷蔵庫を開ける。中は自動販売機みたいになっている。小銭を入れ、倒されたペットボトルが入った扉からミネラルウォーターを取り出す。
キャップを開けると同時に、山田が言った。

「殴るのは、好きなんかじゃない」
「はあ?」
「そうしないと、セックスできないから。
こ、怖くて」

なんかイライラしてきた。
相手をボコっといて、それで相手からなんかされるのは嫌だとか。

「気に入らねえな」

やっぱ帰ろ。胸糞悪い。

「鈴木さんは、なんであんな事出来たんですか?」

山田は、少しだけ俺に近づいた。

「あんな殴られて、犯されそうになってんのに、なんで体が動くんスか、声がでるんですか」
「そういう風にヤルって言ってたし。あとムカついたから」

山田は目と口を震わせ、俺もアンタみたいだったらよかったのに、と唇を噛んだ。俺はただの変態だっつーの。

「何があったか知らねえけど、殴られて悦ぶようなヤツ探せよ。俺はもうごめんだ」

山田はまたすげえビックリしていた。

「いるんスかね」
「お前世の中にどんだけ変態がいると思ってんだ」
「相手をボコって、動けなくしてからしかセックスできなくても?」
「それがテメエのセックスなんだろ。俺にはついていけないけど」
「そっか。俺、ずっと俺だけ頭おかしいんだって思ってた。そっか・・・」

その発想はなかった、と力なく笑いながら、山田は目に涙をいっぱい溜めていた。それからゴシゴシと目をこすって、

「鈴木さんて変態なんスね」

と、どこかさっぱりした顔つきで言いやがった。

「お前に言われたくねえよ」

山田は力なく笑った。


結局ホテル代は無駄になった。セックスはしなかったからだ。ホテルから出ると山田は言った。

「メシでも食いにいきませんか。奢りますよ。その、迷惑かけたんで」
「いいよ。金ねぇんだろ」

俺も無いし。

「・・・すいません」
「お前はセックスの方なんとかしておけ」
「カウンセリングには通ってますよ」

金がある時だけ、と目を伏せる。

「やっぱりちゃんとしたセックスしたいスよ」
「じゃそれまでドMを探しとくんだな」

そっちも難しそうスね、と笑う。

「どっちにしろ、金稼がないと。仕事頑張ります」

勝手にしろ。テメエだけ妙にスッキリした顔しやがって。山田はもう一度俺に謝って、それから帰っていった。

相手がいなくなると、無性にセックスがしたくなってきた。諦めて家に帰るか、それとも、いや、確か近くにあったよな。
久々に、ハッテン場にでもいってみるか。

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