全てを識る指先

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第7章

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「本当に?辛くありませんか」

セシリオの目線はフラヴィオの花芯に向いていた。花咲く寸前の蕾のように震えている。セシリオのシャツの染みは広がり冷えていた。

「だって・・・」

自らの肉体に群がる男や女たちを浅ましい奴らだと腹の中でせせら笑っていたが、セシリオには求めて欲しかった。だがプライドの高さから、セシリオには口が裂けても言えない。
セシリオの爪の先が、かすかに前立腺を刺激する。フラヴィオの背中が弓形になる。セシリオの指が抽送を始めれば、バイオリンのように高い声が上がった。調子の狂った旋律ソプラノがフラヴィオの口から流れ続ける。

「・・・お前は、僕の何が欲しいの?」

喘ぎの合間に絞り出す。セシリオの手はただ対象を写しとるだけで、愛撫とは程遠い。しかしフラヴィオの中は熱く熟れきっていた。吐き出される息も熱を帯びている。指だけでは足りないとばかりに締め付け抽送の動きを細い腰が追う。

「すべて私に見せてください。貴方の乱れる様も、達する瞬間も、欲に翻弄される様も」

セシリオはフラヴィオの髪を梳いた。形を確かめる手つきではなく、宥めるような優しさを宿したものだ。
背筋を羽で撫でられるようなぞくぞくした感覚が腰骨から駆け上がる。セシリオの上着を握り縋り付いた。

「あっ・・・もうっ・・・セシリオ!ああっ!」

フラヴィオは全身を震わせ、花芯から白濁が迸った。がくりと垂れ下げた頭の中を快楽の余韻が支配する。
そこに新たな刺激が加えられる。セシリオの指はなおもフラヴィオの体内を搔き回していた。

「セシリオッ・・・さっき、」
「まだ、全部見せていないでしょう?」
「もう、ないよ・・・だから、あっ」

達したばかりの敏感な身体はすぐに昇り詰めていく。フラヴィオの視界に星が瞬き始めた。ソプラノがまた工房に響いて反響する。

「あるはずだ。貴方の美しさと淫らの奥にあるものが。例えば、あの秋の夜ーーーー」

フラヴィオの勿忘草の目が見開かれる。

「貴方がまだ何も知らぬ天使だった頃のこと」 

毛布の下の肌が粟立つ。自分を組み伏せる月明かりを背にした黒い影、好きだと告げられた時の混乱、傍若無人な手の感触がありありと蘇る。

「やめろ!・・・っ不愉快だ」

セシリオの頬に添えられた手を振り払う。

「彼を、まだ憎んでいるのですか」
「もうどうでもいい、アイツも僕を食い散らかしていった奴らの1人でしかない」
「そうやって、ご自分を守ってこられたのですか」

その言葉はフラヴィオの胸に突き刺さった。じわじわと恐怖に似た感情が染み出していく。

「本当は辛かったのでしょう」

セシリオの顔は憐みをたたえ、優しくフラヴィオの頬を撫でる。しかし、それこそが、あわれみや憐憫の情を向けられることこそが、フラヴィオが最も忌避してきたことだ。
癇癪玉に火がつく。

「僕をそんな顔で見るな!僕から誘ってやったんだ!僕は惨めな人間なんかじゃない!」
「そうです。何も知らぬ貴方を弄んだ者が悪いのです。幼い貴方に邪な欲望をぶつけるとは。まるで獣だ」
「違う!もう黙れ、何も知らないくせに!」
「ええ、リコはとても誠実で優しい人間だったはずだ。そうでしょう?」

フラヴィオは息を飲む。あの使用人の名が、セシリオの口から飛び出すとは思わなかった。
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