さらば横浜チャイナタウン

SF

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番外編 溺愛

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スイが帰ってくるのはいつも突然だ。
スマホはあるけどいつ帰るとか連絡もないし電話を掛けても出ないことが多い。
今日も、朝一でスーパーに買い出しに行って帰ってきたら鍵が開いていた。
物取りにやられたかとも疑ったけど、「おかえり」ってスイがドアを開けたからほっとした。
ドアを閉めながらスイは俺を抱き寄せる。
帰ってきたらいつもこうだ。ずっと俺にまとわりついてベタベタしてくる。最近は特にひどい。今だって冷蔵庫に食料を詰める俺の背中に張り付いている。抱きついている暇があったら手伝え。
まとわりついてくる時は正直鬱陶しいけど、その分居なくなったらやけに寂し、いや、しばらく落ち着かない。
冷蔵庫を閉めるとスイは「一緒にシャワー浴びよう」ってニコニコしている。気温が上がってきて少し汗ばんではきているけど、無駄遣いはしたくなかったから

「ヤダ」

ってソファに腰を下ろした。絶対ヤる流れになるし。
スイは眉を下げて、俺の隣に座る。肩に手が伸びてきたから払ってやった。

「ねえ、お願いレン。触りたい」

スイの指先がサラサラとポニーテールの先をもて遊ぶ。無視してたら頬を撫でられて、スイの整った顔が近づいてくる。
でも、その途中で止まった。困ったようなスイの顔が目の前いっぱいに広がる。

「・・・レン、僕のこと好き?」

そう言って、スイはやたら綺麗な目を潤ませる。捨てられた子犬みたいなってこんな顔なんだろな。
まあ、不機嫌な表情をずっと作っていたし、ベタベタと鬱陶しいから振り払うように接していたし。でも

「嫌いだったらとっくに叩き出してるよ」

そっぽを向いたまま言えば、スイは眉を下げたまま、ちょっと口角を上げて唇の端に口付けてきた。掌を輪郭に添えて、額とか米神とか頬とか目蓋に唇を寄せてくる。身体も寄せてきて2人分の身体がソファになだれ込んだ。
スェードの生地とスイの身体に挟まれて蒸し暑い。キスの合間にそう言えば、スイはTシャツを脱がせてきた。
どのみちこうなるのか。やっぱシャワー行けばよかったかな。
諦めてベッドに移れば、すぐ押し倒されて全部剥かれた。脚の間にスイの下半身が押しつけらる。熱い塊の存在を感じた。

「待てって。さすがに」
「挿れないから」

スイは俺の脚で竿を挟んで、腰を動かし始める。気持ちが追いつかないうちに身体の芯が熱くなってきて、肌に触られただけでそこに電流が走った。勃ち上がった胸の先を摘まれて声が上がる。調子に乗ったスイは「気持ちいい?」なんて言いながら捏ね続ける。
いや、いいかよくないかって言ったら気持ちいいんだけど、今日はなんかがっついてんなとかセックスだけしにきてんのかなとか余計なことが頭の中に渦巻いている。
でも口から出てくるのはあられもない声だけだ。
そのうちスイが顔を歪ませて、何度か大きく腰を叩きつける。腹に熱い液体がかかって、すぐ温度をなくし冷えていく。

「気持ちよかったね」

って微笑みながらスイの顔が近づく。は?俺イッてないんだけど。カッとなって

「このヘタクソ!!」

ってスイの顔をビンタしてやった。
目を見開いて呆然とするスイを他所に、乱暴に精液を拭き取るとTシャツを着た。

「ごめんね。時間がなかったし、我慢できなかったから」
「雑なセックスしやがって。性欲処理なら他所でやれ」
「嫌だ。レンがいい」
「黙れ嘘つき」
「僕がレンに嘘ついたことある?」
「そんなの」

いや、あったっけ?そりゃ隠し事は山程あるだろうし、意味深な言い回しもするし。
でも、考えてみれば俺の前で他のやつに嘘八百を並べても、俺には一度だってーーーーー

「愛してるよ、レン」

スイは俺を抱きしめる。いつもこんな小っ恥ずかしいことをしやがるし言いやがる。で、俺には嘘を言ったことないってことは、つまり、さっきの言葉も、今まで言われた言葉も全部ーーー
急に心臓が強く脈打ち始めて、顔が熱くなってくる。

「まだ怒ってる?」

スイの息が耳をくすぐる。顔が見られなくて、スイの肩に額を乗せたまま「俺まだイッてないんだけど」って呟けば、スイはほっと息を吐いた。

「いっぱい気持ちよくしてあげるね」

って微笑むスイの顔に少し妖しさが漂っていたのは気のせいだろうか。
嫌な予感は的中して、俺が泣こうが喚こうがベッドから出してもらえなかった。

いつの間にか寝ていたらしい。部屋の中は真っ暗で、昼過ぎからの記憶が曖昧だ。スイはいない。時間がないって言ってたなそういえば。
重くなった腰や背中を引きずってベッドを這い、スマホで時間を見れば深夜だった。
立ちくらみに翻弄されながらキッチンに向かい、冷蔵庫からコーラを取り出す。散々喘がされて喉がカラカラだ。それに、糖分を取らずにシャワーを浴びたら貧血で気分が悪くなって大変な目に合ったことがある。でも汗を流すくらいでいいか。下着は付けてたし汚れてないからちゃんと後始末はしていったんだと思う。
コーラを飲みながら部屋を見渡す。
1LDKの部屋はそう広くないけれど、スイがいないとがらんとして見えた。離れている時間の方が少ないくらい抱き合ったってのに、もうスイの肌の感触が消えかけている。
こんなガキに振り回されて、本当にイライラする。

汗だけ流しに洗面所に入ったら、鏡を見てギョッとした。キスマークや歯形が身体中につけられていたからだ。ヤツの執着の度合いを表わすように、深い色に染まっている。

「あーあ・・・」

後ろを振り向けば背中にも腿の裏にも赤い痕が残っていた。髪をあげれば頸にも。とんだ置き土産だ。どんだけ執念深いんだよアイツ。
ちょっと呆れながらも、安心しているような自分にまた苛ついた。


end
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