さらば横浜チャイナタウン

SF

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番外編 紫煙は宵に消ゆ

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夜、アパートの部屋のドアを開ければレンは姿が見えなくて、タバコの匂いが微かに漂ってきた。
寝室を覗けば、レンが窓を開けて紙巻きたばこを咥えている。
レンは口からタバコを離して「おかえり」と振り向いた。言葉と一緒に吐き出される紫煙が色っぽい。レンの横に並んで、同じように窓枠に肘を掛ける。

「タバコ、珍しいね」
「ん、なんとなく。久しぶりに吸いたくなった」
「美味しいの?」
「よくわかんね。吸う?」

レンは箱を差し出す。

「未成年はタバコ吸っちゃダメなんだよ」
「お前今更・・・」

レンは呆れ顔で箱を引っ込めた。と思ったら、一本取り出して渡してきた。思わず受け取る。
それからレンはタバコを咥えたまま顔を近づけて、先端を僕が持っているタバコの先端に当てた。レンの伏せられた長い睫毛や少し開いた紅い唇が扇情的でドキリとする。
フィルターに唇を当てて煙を吸い込み吐き出せば、レンは「サマになってんじゃん」と目を丸くした。でも口の中に苦い味が残った。

「美味しくない」
「ハハッ、やっぱガキだな」

レンはカラカラとどこか嬉しそうに笑う。僕を子ども扱いして楽しむレンの悪い癖だ。
かわいいけどちょっとモヤモヤして、こっちも意地悪したくなる。
口直しにレンの顎を指で掬って、唇を啄んだ。タバコの匂いがしたけど、柔らかい感触は甘やかだ。もっと欲しくなって、何度も繰り返す。

「・・・っの馬鹿!」

レンは僕を振り解いて、あちちって言いながら短くなったタバコの火を消す。不機嫌そうにもう1本取り出して火をつけるけど、口に咥えてすぐ「・・・不味い」って携帯灰皿に押し込んでいた。それからこっちをちらっと見るけど、ふいと顔を背けて窓の外に目を向ける。

「レン、キスしていい?」

レンの口の端がほんの少しだけ上がる。
でもわざと顔を顰めて「しょうがねえな」って僕に向き直る。キスしたいなら素直に言えばいいのに。そこも愛おしくてたまらないのだけれど。
自分から少し背伸びする、天邪鬼で年上の恋人の腰に手を回す。

タバコの煙はもう霧散して、甘い空気が部屋を満たした。

end
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