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間話 黒と紅②
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注意事項
クロ視点の話。
暴力、流血、無理矢理の表現がございます。
俺の父親は反社会組織の人間で、俺はその愛人の子だった。愛人は何人もいて、更に正妻との子は女ばかりだったらしい。自分の子を跡取りにして権力や財力を手に入れようとする愛人たちの苛烈な争いに、俺は放り込まれることになる。
物心ついた時から勉強や武道を叩き込まれ、うまくいかなければ母親にどれだけお前に投資していると思っているんだとなじられた。
父親がどんな人間かは周りの人間はそれとなく知っていて、ガキの頃からいじめっ子の格好の餌食だった。空手をやっていたけど道場の外で技を使うのは当然禁じられている。それをいじめっ子達は知っていて「殴ってみろ」ってよく煽られてた。
その頃はまだ自分がダメなヤツなんだと思い込んでいて大人しくしていた。でも、常に腹の中では何かが燻ってて、これは何だろうと思っていたのを覚えている。
状況が一変したのは俺が高校生の時だ。
父親と正妻の間に息子が生まれた。跡取りを巡る争いに終止符が打たれる。事あるごとに干渉し、なじり、時には手を上げてきた母親は抜け殻のようになってしまった。俺が塾や高校に行かなくなっても何も言わなくなった。
今までの時間はなんだったんだ?
日々の糧も知識も体の動かし方も全部他人に詰め込まれたもので、急に自分を形作っていたものが崩れ去り消えてしまいそうな恐怖に駆られた。
身体を動かしている時だけが無心になれて、道場にだけは頻繁に顔を出していた。けど、そこの人間たちが俺をどんな目で見ていたかなんて想像すらしていなかった。
父親の後ろ盾を無くした俺を、寄ってたかってサンドバッグにしただけでは飽き足らずレイプされそうになった。そんな状況なのに、型を使ってはいけないというルールに縛られて、半裸になりながらも適当に荷物を引っ掴んで逃げ出すのが精一杯だった。着替えた服はサイズが合わず靴もブカブカで走りにくい。歓楽街まで逃げてきたけど遂にヤツらに捕まった。飛んでくる手や足を地面に伏せて耐える。丸めた身体の内から、またふつふつと何か湧き上がってくる。
でも、しばらくしてそれらが突然止んだ。前髪を引っ張られて顔を上げれば、眼前には三白眼の強面の男の顔があった。
誰だコイツ?
そう思っていたら、男は俺の首根っこを掴んで目の前の建物の中に入っていく。これはひょっとして、助けられたんだろうか。
そんな風に思った自分を殴りたくなる。
その男に、俺は犯されることになったのだから。こっちの怪我も痛みもお構い無しで、男の欲望のまま貫かれた。ハンマーに打たれたような痛みが全身に響いて、終わった後男がタバコを吸っている時も身動き一つ出来なかった。
シャワーを浴びてこいって言われて、頭から熱湯を被っていると、これからのことに耐える気力とか好きだったものとか楽しかった瞬間なんかがすべて流れ落ちていくようだった。
もう全部終わりにしよう。
あの男が俺の荷物を漁ってたがもうどうでも良かった。階段の場所だけ聞いて上へ登っていく。
屋上へ出ても空は真っ黒に塗り潰されていて、もうどこにも行けないような気がした。眼下ではネオンがキラキラと光って、路地を鮮やかな色に染めている。こっちの方がいいなって思って、ふらりと足が向く。
「おい待て!何やってんだ!」
聞き覚えのある声が、足を縫いとめた。あの男だ。
「・・・意外」
ぽつりと思わず呟いていた。追いかけてきたのか?なんで?
「いいから来いよ!ぶっ殺すぞ!」
これから飛び降りようとする人間に何を言っているんだろう。可笑しくて少し笑えた。
男は大股で近づいてくる。ああ、もしかしたら本気で
「・・・殺してくれるんですか?」
頬に衝撃が走って目に火花が散る。知らないうちに尻餅をついていて、来た時と同じように引きずられながら、殴られたんだと悟った。
でも放り込まれたところはさっきと違う部屋だ。
パイプ椅子や組み立て式の机が雑然と並んでいる。男はパイプ椅子を軋ませ座った。
「死なせてやるよ」
男の言葉に顔を上げた。相変わらずおっかない顔だ。
「でもやるのはオレじゃねえ。ヤベェヤツらとカチ合ったらテメエがオレの盾になって死ね。それまではオレのイヌだ。
オレがやれっつったことは死ぬ気でやれ」
無茶苦茶だ。でも今までいた場所には死んでも戻りたくない。それに、もうどうでもいい。早く死ねるなら。
俺は男の言葉に頷いた。
でもそんな機会は早々やってこなかった。酔っ払いや暴れる客の中に放り込まれても殴られて痛い目に合うだけで終わったし、雑用を山のように押し付けられて休む間もなかった。1番嫌だったのは、あの男に犯される時間だ。どんなに抵抗しても無駄だった。疲労感と倦怠感に拍車がかかり、その日は死にそうになりながら仕事をした。
ある時、また諍いに巻き込まれた。店の前でゴロツキどもに袋叩きに合う。あの時と同じように。
男はただニヤニヤと俺を眺めている。あの時は、俺をただ慰み者にするつもりだったんだ。アイツは本当に、俺のことを消耗品にしか見ていないんだ。
俺は何をやっていたんだろう。なんであんなヤツの下にいたんだ。なんで、あの時道場のヤツらにやり返さなかったんだ。なんで、誰かの言うままに生きてきたんだ。昔も今も。
俺には、たった一つ武器があったじゃないか。
見に覚えのある感覚が湧き上がる。腹の中で何かが燻る。身体が熱くなってくる。ああ、これは
憎しみだ。
ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!
俺はテメエらの欲望をぶつける道具なんかじゃない!
マグマのように煮え滾る感情が迫り上がってきて、爆発するように叫んだ。
本当に、なんで今まで思い続けてきたんだ?道場の外では型を使ってはいけないなんて。
起き上がると、やつらの拳が飛んできたが気にせず息を吸って集中する。構えを取り、目の前のヤツに中段の蹴りを喰らわせてやった。
相手は目を白黒させている。ざまあみろ。
でも結局数には敵わず、拳も脚も空回りするばかりでボコボコにされた。
男は「やるじゃねえか」ってニヤリとして、ボロボロになった俺を犯した。好きにすればいい。今に見ていろ。
仕事を早く片付けられるようにタスク管理をし始め、時間が出来ると型の練習をした。ケンカに放り込まれれば技を出して実践し、時にはわざとくらって相手の動きを覚えていく。ケンカとなると変則的な動きが多くて捌き切れなくなる。
あの男にも歯向かってみたけれど、まだ全然歯が立たなかった。
あの男は今でも俺を好き放題に使っている。無茶な仕事を振ったり気の向くままにベッドに引っ張りこんだり。でも、それも今では憎しみの炎を燃やす焚きつけでしかない。
鎖でつながれようとどれだけ犯されようと構わない。あの男の下にいるのは、今は俺の意思なのだから。
表面上はあの男の忠実な犬を演じているが、いつか喉笛に食らいついて息の根を止めてやる。
ーーーーーだから、こんなところで死ぬのは許さない。
中国に逃亡したキャストの債権回収と新たなキャストの確保にわざわざ中国に来てみれば、こっちのワルどもに目をつけられ、あの男ーベニヒコは今銃弾で穴だらけになっている。致命傷は負っていないが血が止まらない。車も潰された。
銃で引導を渡してやろうとも思ったが銃槍は空だった。
クソッタレ!
俺は肩を撃ち抜かれたが足はかすった程度でなんとか動く。トラックの集積所まで行って運転手を捕まえ、脅して闇医者のところまで車を走らせた。その後は、もちろん始末しておいたが。
「クソッ・・・あのガキ・・・グルだったのか。舐めやがって・・・」
ベニヒコは恨み言を吐きながら目を血走らせていた。当分死にそうにない。
「・・・次に会ったらただじゃおかねえ」
珍しく、この男と意見が合致した。
end
クロ視点の話。
暴力、流血、無理矢理の表現がございます。
俺の父親は反社会組織の人間で、俺はその愛人の子だった。愛人は何人もいて、更に正妻との子は女ばかりだったらしい。自分の子を跡取りにして権力や財力を手に入れようとする愛人たちの苛烈な争いに、俺は放り込まれることになる。
物心ついた時から勉強や武道を叩き込まれ、うまくいかなければ母親にどれだけお前に投資していると思っているんだとなじられた。
父親がどんな人間かは周りの人間はそれとなく知っていて、ガキの頃からいじめっ子の格好の餌食だった。空手をやっていたけど道場の外で技を使うのは当然禁じられている。それをいじめっ子達は知っていて「殴ってみろ」ってよく煽られてた。
その頃はまだ自分がダメなヤツなんだと思い込んでいて大人しくしていた。でも、常に腹の中では何かが燻ってて、これは何だろうと思っていたのを覚えている。
状況が一変したのは俺が高校生の時だ。
父親と正妻の間に息子が生まれた。跡取りを巡る争いに終止符が打たれる。事あるごとに干渉し、なじり、時には手を上げてきた母親は抜け殻のようになってしまった。俺が塾や高校に行かなくなっても何も言わなくなった。
今までの時間はなんだったんだ?
日々の糧も知識も体の動かし方も全部他人に詰め込まれたもので、急に自分を形作っていたものが崩れ去り消えてしまいそうな恐怖に駆られた。
身体を動かしている時だけが無心になれて、道場にだけは頻繁に顔を出していた。けど、そこの人間たちが俺をどんな目で見ていたかなんて想像すらしていなかった。
父親の後ろ盾を無くした俺を、寄ってたかってサンドバッグにしただけでは飽き足らずレイプされそうになった。そんな状況なのに、型を使ってはいけないというルールに縛られて、半裸になりながらも適当に荷物を引っ掴んで逃げ出すのが精一杯だった。着替えた服はサイズが合わず靴もブカブカで走りにくい。歓楽街まで逃げてきたけど遂にヤツらに捕まった。飛んでくる手や足を地面に伏せて耐える。丸めた身体の内から、またふつふつと何か湧き上がってくる。
でも、しばらくしてそれらが突然止んだ。前髪を引っ張られて顔を上げれば、眼前には三白眼の強面の男の顔があった。
誰だコイツ?
そう思っていたら、男は俺の首根っこを掴んで目の前の建物の中に入っていく。これはひょっとして、助けられたんだろうか。
そんな風に思った自分を殴りたくなる。
その男に、俺は犯されることになったのだから。こっちの怪我も痛みもお構い無しで、男の欲望のまま貫かれた。ハンマーに打たれたような痛みが全身に響いて、終わった後男がタバコを吸っている時も身動き一つ出来なかった。
シャワーを浴びてこいって言われて、頭から熱湯を被っていると、これからのことに耐える気力とか好きだったものとか楽しかった瞬間なんかがすべて流れ落ちていくようだった。
もう全部終わりにしよう。
あの男が俺の荷物を漁ってたがもうどうでも良かった。階段の場所だけ聞いて上へ登っていく。
屋上へ出ても空は真っ黒に塗り潰されていて、もうどこにも行けないような気がした。眼下ではネオンがキラキラと光って、路地を鮮やかな色に染めている。こっちの方がいいなって思って、ふらりと足が向く。
「おい待て!何やってんだ!」
聞き覚えのある声が、足を縫いとめた。あの男だ。
「・・・意外」
ぽつりと思わず呟いていた。追いかけてきたのか?なんで?
「いいから来いよ!ぶっ殺すぞ!」
これから飛び降りようとする人間に何を言っているんだろう。可笑しくて少し笑えた。
男は大股で近づいてくる。ああ、もしかしたら本気で
「・・・殺してくれるんですか?」
頬に衝撃が走って目に火花が散る。知らないうちに尻餅をついていて、来た時と同じように引きずられながら、殴られたんだと悟った。
でも放り込まれたところはさっきと違う部屋だ。
パイプ椅子や組み立て式の机が雑然と並んでいる。男はパイプ椅子を軋ませ座った。
「死なせてやるよ」
男の言葉に顔を上げた。相変わらずおっかない顔だ。
「でもやるのはオレじゃねえ。ヤベェヤツらとカチ合ったらテメエがオレの盾になって死ね。それまではオレのイヌだ。
オレがやれっつったことは死ぬ気でやれ」
無茶苦茶だ。でも今までいた場所には死んでも戻りたくない。それに、もうどうでもいい。早く死ねるなら。
俺は男の言葉に頷いた。
でもそんな機会は早々やってこなかった。酔っ払いや暴れる客の中に放り込まれても殴られて痛い目に合うだけで終わったし、雑用を山のように押し付けられて休む間もなかった。1番嫌だったのは、あの男に犯される時間だ。どんなに抵抗しても無駄だった。疲労感と倦怠感に拍車がかかり、その日は死にそうになりながら仕事をした。
ある時、また諍いに巻き込まれた。店の前でゴロツキどもに袋叩きに合う。あの時と同じように。
男はただニヤニヤと俺を眺めている。あの時は、俺をただ慰み者にするつもりだったんだ。アイツは本当に、俺のことを消耗品にしか見ていないんだ。
俺は何をやっていたんだろう。なんであんなヤツの下にいたんだ。なんで、あの時道場のヤツらにやり返さなかったんだ。なんで、誰かの言うままに生きてきたんだ。昔も今も。
俺には、たった一つ武器があったじゃないか。
見に覚えのある感覚が湧き上がる。腹の中で何かが燻る。身体が熱くなってくる。ああ、これは
憎しみだ。
ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!
俺はテメエらの欲望をぶつける道具なんかじゃない!
マグマのように煮え滾る感情が迫り上がってきて、爆発するように叫んだ。
本当に、なんで今まで思い続けてきたんだ?道場の外では型を使ってはいけないなんて。
起き上がると、やつらの拳が飛んできたが気にせず息を吸って集中する。構えを取り、目の前のヤツに中段の蹴りを喰らわせてやった。
相手は目を白黒させている。ざまあみろ。
でも結局数には敵わず、拳も脚も空回りするばかりでボコボコにされた。
男は「やるじゃねえか」ってニヤリとして、ボロボロになった俺を犯した。好きにすればいい。今に見ていろ。
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あの男にも歯向かってみたけれど、まだ全然歯が立たなかった。
あの男は今でも俺を好き放題に使っている。無茶な仕事を振ったり気の向くままにベッドに引っ張りこんだり。でも、それも今では憎しみの炎を燃やす焚きつけでしかない。
鎖でつながれようとどれだけ犯されようと構わない。あの男の下にいるのは、今は俺の意思なのだから。
表面上はあの男の忠実な犬を演じているが、いつか喉笛に食らいついて息の根を止めてやる。
ーーーーーだから、こんなところで死ぬのは許さない。
中国に逃亡したキャストの債権回収と新たなキャストの確保にわざわざ中国に来てみれば、こっちのワルどもに目をつけられ、あの男ーベニヒコは今銃弾で穴だらけになっている。致命傷は負っていないが血が止まらない。車も潰された。
銃で引導を渡してやろうとも思ったが銃槍は空だった。
クソッタレ!
俺は肩を撃ち抜かれたが足はかすった程度でなんとか動く。トラックの集積所まで行って運転手を捕まえ、脅して闇医者のところまで車を走らせた。その後は、もちろん始末しておいたが。
「クソッ・・・あのガキ・・・グルだったのか。舐めやがって・・・」
ベニヒコは恨み言を吐きながら目を血走らせていた。当分死にそうにない。
「・・・次に会ったらただじゃおかねえ」
珍しく、この男と意見が合致した。
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