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Wanna bee 中編
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朝目覚めると、腕の中に温かい感触があった。またカホが潜り込んできたか?
もぞもぞし始めたから寝かしつける時みたいに背中をぽんぽんと叩く。それでも動いてたから、髪を梳いていく。早く寝ろ。ん?あれ、こんな癖っ毛だったっけ。
目を開けると、祐次が真っ赤な顔をしていた。あ、そうだった。泊まったんだった。
「反則です・・・」
「なにが?」
「不意打ちです・・・」
祐次は顔を隠すようにうつ伏せになる。何言ってんだコイツ。
「あ、ダメです。手、離さないでください」
起き上がって勝手に洗面所に向かう俺に、ヒヨコみてえについてくる。ウザい奴。
朝飯を食べたら、駅まで一緒に歩いた。
俺はバイトで、祐次は仕事。なんとか就職先が決まったようだ。スーツがまだ馴染んでいないけど。
「また連絡しますね。ハジメさんもいつでも連絡くださいね」
祐次はちょっと寂しそうに、一足先に電車に乗っていった。
なんだか疲れた。誰かとずっといると気が抜けない。やっぱり俺にはその場限りの関係の方が向いているのかも知れない。見飽きたユウジとカホの顔が少しばかり懐かしくなった。
電車に揺られながら、馬鹿みたいに明るいスパイスガールズのデビュー曲を聴く。
ーーーーIf you wanna be my lover,
《私の恋人になりたいなら》
you have got to give.
《あなたは捧げなくちゃ》
Taking is too easy ,
《貰うだけなら簡単よ》
ーーーーSlam your body down and wind it all around
《身体を張って頑張って》
ーーーーI wanna really really really wanna zig-a-zig ah
《貴方がソレをしたいならね》
なんだか頭が痛くなってきた。すぐにTracを変えてしまった。
ライブだけじゃなくて、カラオケとか映画とかにも誘われた。
ヤツは顔にすぐ感情が出るし、歌も上手い方じゃない。でも漫画や小説なんかに詳しくて、音楽の話も少しできた。お行儀の良さと頑固さが鼻に付くことがあったが、不思議とウマが合う。
これで、セックスできたら言うことないんだけど。
そう、あれから祐次とはセックスしていない。アプリやハッテン場ではそもそもヤルのが前提だったから、そうでない相手にはどうやってセックスに持ち込めばいいのか考えたことすらない。
ストレートに
「ホテル行こ」
と誘ってもみたけど
「ダメです」
の一点張りだった。
ノンケの男が女を口説くのに苦労する訳だ。
気づいたら1ヶ月経っていた。
ユウジにヤツの話をしても反応が薄くなってきて、ちょっとつまらなくなってきた。むしろ、アプリを辞めてホッとしているみたいだ。
それから少しして、またライブに誘われた。知り合いにバンドをやっているヤツがいるらしい。
今回はちょっと有名なインディーズのバンドで割と楽しみにしていた。
MCの女が前座のバンドを紹介する。
バンド名を聞いた瞬間、ヤバイと思った。
このバンドそこそこ人気あるし、まさか前座で来るとは盲点だった。
ドラムとキーボードとアンプの並ぶステージに女達を従えて真ん中に立ったのは、P!nkみてえな金髪のショートカットの女。
つけまつげのバッサバッサついた目と目が合った。
気がした。
いや、絶対気づかれた。こっちを見て一瞬目を見開いてた。でも瞬きして、アーティストの顔になってからマイクに向かった。
「こんばんは。ボーカルのアリサです」
歓声が上がる。熱気が噴き出す。
演奏なんて頭に入ってこなくて、背中に冷や汗が伝った。
メインのバンドの演奏が始まると、アリサは速攻で俺のところに来た。
「珍しいじゃん!どうしたの」
まだ高揚感が残っているのか、頬は紅潮しライトが興奮気味の目に反射していた。
ああ、これからのことを思うと気が滅入る。
アリサのライブを見に行ったことは何回かあった。演奏も歌も悪くなかった。でも毎回終わった後打ち上げに来いとしつこく誘われて、行ったら行ったでアリサの知り合いやバンドのメンバーに絡まれた。バンドをやってた時の話とか今は何をやっているのかとか根掘り葉掘り聞かれてヘトヘトになっていた経験がある。それからはもうアリサの出ているライブに足を運ばなくなった。
「え、知り合いだったんですか?」
祐次が言うと、あっという間にアリサの顔から温度がなくなっていった。
「バイト先が一緒なんだよ。アリサ、コイツは祐次。今日はコイツに誘われて来た」
「ユウジ?」
アリサは目を吊り上げる。そして、祐次を上から下まで見て
「悪趣味。この変態」
と俺にだけ聞こえるように言った。
「君、カレシ?それとも友達?」
祐次はえっと、その、とビクビクしているだけだった。
「大丈夫。私コイツがゲイだって知ってる」
俺を親指で指した。
「偉大なアーティストに何人ゲイやバイがいると思ってんの」
アリサはようやく気さくな笑みを浮かべた。
祐次は少しホッとした顔つきになる。
「えっと、ハイ。ハジメさんとは、お付き合いさせて頂いてます」
「ハ?ちょっとハジメ、聞いてないんだけど」
自分でそんな話を振っといて、アリサはジロリと俺を睨みつけた。祐次はまたビクビクし始める。
「なんでアリサにいちいち言わなきゃなんねえんだよ」
「大体アンタユウジさんがいるでしょ?本気じゃなかったってこと?」
「お前何言ってんだよ」
アリサの顔が泣きそうになって、猫みたいに毛を逆立て叫んだ。
「だって、ユウジさんのこと本気だと思ってたから、私」
「彼氏、いたんですか・・・」
凍えているような声だった。祐次の顔を振り返った。死にかけの魚みたいに目が濁って、口をパクパクさせている。
「それなのに、僕とセックスしてたんですか」
アリサを含めて、周りの奴らが凍りついた。
まずい気がしてきた。この女また余計なこと言いやがって。なんで一々俺の周りを引っ掻き回さなきゃ気が済まないんだ。
「おいアリサ」
「カレシ、追っかけなくていいの?」
張り倒してやろうかと思ったけど我慢した。
観客の間を漂う祐次を追いかけるのに必死で、アリサに文句を言う暇はなかった。
もぞもぞし始めたから寝かしつける時みたいに背中をぽんぽんと叩く。それでも動いてたから、髪を梳いていく。早く寝ろ。ん?あれ、こんな癖っ毛だったっけ。
目を開けると、祐次が真っ赤な顔をしていた。あ、そうだった。泊まったんだった。
「反則です・・・」
「なにが?」
「不意打ちです・・・」
祐次は顔を隠すようにうつ伏せになる。何言ってんだコイツ。
「あ、ダメです。手、離さないでください」
起き上がって勝手に洗面所に向かう俺に、ヒヨコみてえについてくる。ウザい奴。
朝飯を食べたら、駅まで一緒に歩いた。
俺はバイトで、祐次は仕事。なんとか就職先が決まったようだ。スーツがまだ馴染んでいないけど。
「また連絡しますね。ハジメさんもいつでも連絡くださいね」
祐次はちょっと寂しそうに、一足先に電車に乗っていった。
なんだか疲れた。誰かとずっといると気が抜けない。やっぱり俺にはその場限りの関係の方が向いているのかも知れない。見飽きたユウジとカホの顔が少しばかり懐かしくなった。
電車に揺られながら、馬鹿みたいに明るいスパイスガールズのデビュー曲を聴く。
ーーーーIf you wanna be my lover,
《私の恋人になりたいなら》
you have got to give.
《あなたは捧げなくちゃ》
Taking is too easy ,
《貰うだけなら簡単よ》
ーーーーSlam your body down and wind it all around
《身体を張って頑張って》
ーーーーI wanna really really really wanna zig-a-zig ah
《貴方がソレをしたいならね》
なんだか頭が痛くなってきた。すぐにTracを変えてしまった。
ライブだけじゃなくて、カラオケとか映画とかにも誘われた。
ヤツは顔にすぐ感情が出るし、歌も上手い方じゃない。でも漫画や小説なんかに詳しくて、音楽の話も少しできた。お行儀の良さと頑固さが鼻に付くことがあったが、不思議とウマが合う。
これで、セックスできたら言うことないんだけど。
そう、あれから祐次とはセックスしていない。アプリやハッテン場ではそもそもヤルのが前提だったから、そうでない相手にはどうやってセックスに持ち込めばいいのか考えたことすらない。
ストレートに
「ホテル行こ」
と誘ってもみたけど
「ダメです」
の一点張りだった。
ノンケの男が女を口説くのに苦労する訳だ。
気づいたら1ヶ月経っていた。
ユウジにヤツの話をしても反応が薄くなってきて、ちょっとつまらなくなってきた。むしろ、アプリを辞めてホッとしているみたいだ。
それから少しして、またライブに誘われた。知り合いにバンドをやっているヤツがいるらしい。
今回はちょっと有名なインディーズのバンドで割と楽しみにしていた。
MCの女が前座のバンドを紹介する。
バンド名を聞いた瞬間、ヤバイと思った。
このバンドそこそこ人気あるし、まさか前座で来るとは盲点だった。
ドラムとキーボードとアンプの並ぶステージに女達を従えて真ん中に立ったのは、P!nkみてえな金髪のショートカットの女。
つけまつげのバッサバッサついた目と目が合った。
気がした。
いや、絶対気づかれた。こっちを見て一瞬目を見開いてた。でも瞬きして、アーティストの顔になってからマイクに向かった。
「こんばんは。ボーカルのアリサです」
歓声が上がる。熱気が噴き出す。
演奏なんて頭に入ってこなくて、背中に冷や汗が伝った。
メインのバンドの演奏が始まると、アリサは速攻で俺のところに来た。
「珍しいじゃん!どうしたの」
まだ高揚感が残っているのか、頬は紅潮しライトが興奮気味の目に反射していた。
ああ、これからのことを思うと気が滅入る。
アリサのライブを見に行ったことは何回かあった。演奏も歌も悪くなかった。でも毎回終わった後打ち上げに来いとしつこく誘われて、行ったら行ったでアリサの知り合いやバンドのメンバーに絡まれた。バンドをやってた時の話とか今は何をやっているのかとか根掘り葉掘り聞かれてヘトヘトになっていた経験がある。それからはもうアリサの出ているライブに足を運ばなくなった。
「え、知り合いだったんですか?」
祐次が言うと、あっという間にアリサの顔から温度がなくなっていった。
「バイト先が一緒なんだよ。アリサ、コイツは祐次。今日はコイツに誘われて来た」
「ユウジ?」
アリサは目を吊り上げる。そして、祐次を上から下まで見て
「悪趣味。この変態」
と俺にだけ聞こえるように言った。
「君、カレシ?それとも友達?」
祐次はえっと、その、とビクビクしているだけだった。
「大丈夫。私コイツがゲイだって知ってる」
俺を親指で指した。
「偉大なアーティストに何人ゲイやバイがいると思ってんの」
アリサはようやく気さくな笑みを浮かべた。
祐次は少しホッとした顔つきになる。
「えっと、ハイ。ハジメさんとは、お付き合いさせて頂いてます」
「ハ?ちょっとハジメ、聞いてないんだけど」
自分でそんな話を振っといて、アリサはジロリと俺を睨みつけた。祐次はまたビクビクし始める。
「なんでアリサにいちいち言わなきゃなんねえんだよ」
「大体アンタユウジさんがいるでしょ?本気じゃなかったってこと?」
「お前何言ってんだよ」
アリサの顔が泣きそうになって、猫みたいに毛を逆立て叫んだ。
「だって、ユウジさんのこと本気だと思ってたから、私」
「彼氏、いたんですか・・・」
凍えているような声だった。祐次の顔を振り返った。死にかけの魚みたいに目が濁って、口をパクパクさせている。
「それなのに、僕とセックスしてたんですか」
アリサを含めて、周りの奴らが凍りついた。
まずい気がしてきた。この女また余計なこと言いやがって。なんで一々俺の周りを引っ掻き回さなきゃ気が済まないんだ。
「おいアリサ」
「カレシ、追っかけなくていいの?」
張り倒してやろうかと思ったけど我慢した。
観客の間を漂う祐次を追いかけるのに必死で、アリサに文句を言う暇はなかった。
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