鉱石の国の黒白竜

SF

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婚礼の儀⑥

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「おいベリル、ドレスはどうした」
 クロムが血相を変える。ベリルは胸当てと紐付きの下着しか着ていない。
「邪魔だから脱いじゃった」
「馬鹿!早く着ろ」
「城に置いてきちゃったよ」
「じゃあ取りに行けよ」
「やっ。一番じゃなくなっちゃうもん」
 焦りや苛立ちや憎らしさやツンと唇を突き出すベリルの愛らしさに叫び出しそうになって二の句がつげなくなったクロムに代わり、コランが着替えを用意した。婚礼衣装より劣るが宝飾品を持ち出し精一杯着飾らせる。
 やがて親族たちがやってきた。
 勝者となったベリルは酒びんを受け取り主賓である国王に渡す。それからクロムやコランたちにも渡り参列者に順繰りにふるわまれた。
「競争の意味はあるのですか」
「まあ、祝い事だしな。角が立ってもいけないだろう?」
 コランは伝統に従い、振る舞われた酒びんの中身を振り捨てながら言う。
 美しく整えられた夏の庭で、音楽が奏でられ食事が振る舞われる。身体の大小も肌の色も違う竜人たちが酒を飲み交わし、機嫌よく鼻歌を歌い始める者もいる。その向こう側では夕焼けの海が凪いでいた。黄昏時の光に包まれた庭は、コランが話してくれた太古の神話の中の世界にいるようだった。
「夢を見ているようです」
 騒がしくも神秘的な光景もそうだが、違う種族で奴隷だった自分が、愛する者を得て祝福されていることが信じられない気分だ。
「全部お前の手で掴んだものだよ。僕の命の恩人で、さらにその身を刻んで仲間になろうとしてくれたのだから」
   コランはイアランの腕の刺青を撫でる。
「全員とはいかないだろうが、皆お前を認めてくれているよ」
 イアランは、泣くのを堪えるような笑みをうかべているような表情を作った。まだぎこちないが、イアランが素直に感情を表情に乗せるようになり、コランは嬉しくなる。
 鮮烈なサファイアブルーの目がコランを見つめる。出会った瞬間にコランの心を捕らえた神秘の青。鉱物のように温度をもたなかったそれは、今は、太陽を照り返す海のような暖かさを湛えている。
 吸い寄せられるように口付ける二人を、お互いの目の色を写した指輪が見つめていた。

 end
 
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