14 / 16
婚礼の儀④
しおりを挟む
案の定、翌日のコランは熱は出さなかったもののたびたびくしゃみをして鼻を啜っていた。イアランや侍従たちに今日だけでも休養を取るよう渾々と言い聞かされ、できる範囲でいいからとイアランに婚礼の儀の準備を任せた。
イアランはそれまで南の離宮で働いてきただけあって、季節ごとに手に入る食糧の種類や搬入先、部屋の内装の整え方など細かい部分まで侍従たちと知識を共有しており、驚くほど早く披露宴の打ち合わせが進んだ。
コランは披露宴の準備をイアランに任せることにし、招待客や儀式の段取りに頭を悩ませることになった。
イアランはようやくコランの役に立てると生き生きとしている。コランはクロムに鑑定の仕事を任されるようになった時のことを思い出し、目を細めるのだった。
夏になった。夏は竜人たちも獣も植物も、生けるものすべてが一年でもっとも活気づく季節だ。祝い事にも相応しい。
その日は快晴で、二人の王子の結婚に国中が沸いていた。今回の婚礼の儀では城の前の広場で宣誓と指輪交換を行い、その後南の離宮に移動して宴会を行うことになっている。
各地に住む王族が広場に集まっている様子は壮観であった。北方に住む一族は筋骨隆々で男女ともに体格がいい。鋲を打った革の鎧、毛皮や角のついた帽子を纏う。西に住むものは体格は様々だが、みな豪奢な刺繍で埋め尽くされた布地を身体に巻きつけている。南の地方から来た者たちは色鮮やかな鱗を見せつけるように肌を見せる面積が大きい服を、東から来たものはカソックのような首元から足先まで覆う衣装を着ていた。イアランの一族は遠すぎて出席することが出来なかったが、人間の商人や旅人の出入りが許された。
やがて二人の王子とその伴侶が現れる。クロムは革で作られ金の飾り紐が飾られた重厚なジャケットを羽織り、ベリルは淡いブルーのドレス姿だ。胸元がV字に切り開かれ、長い袖は蝶の羽を思わせる。頭には花冠で留められた薄いベールを被っていた。
コランとイアランは白い詰襟の騎士服で現れた。身体にぴたりと沿う服はコランの華奢な体型が際立つも、堂々とした立ち姿を凛々しく見せる。イアランの衣装はコランのそれとは少し違い、服に袖はなく鱗の入れ墨が見えるようにしてある。また、燕の尾のように丈が長く、動くたびに翻り優雅な印象を与えた。イアランもベールを被せられている。
彼らは魔除けにオートミールと塩を口にしてから祭壇の前に立つ。そして伴侶と手を繋ぎ、その手を色とりどりの紐で巻きつけ結んだ。末永くお互いを結びつける印だ。
誓いの言葉を唱えた後、指輪交換がなされた。
クロムとベリルはファイアオパールとエメラルド、コランとイアランはルビーとサファイアの指輪をお互いの指に嵌める。
「お互いの目の色にしたんだ」
コランはこっそり囁いた。
「これを僕の目だと思ってくれ。いつでもイアランを見守っているよ」
イアランの胸の内をすうっと風が撫でたような心地がした。遠くない未来、コランがいなくなってしまうような気がした。実際、コランは身体が丈夫な方ではない。
「約束してください。おれより先に死なないでください」
コランは目を見開き、そして笑みを浮かべる。
「ああ、誓うよ。だからそんなに寂しそうな顔はしないでおくれ」
コランはイアランの頬にそっと手を添える。ああ、今自分は寂しいと思ったのかとイアランは気づく。コランといると日々新しい感情が生まれ、コランが名前をつけていく。
「僕は死ぬまでイアランの傍にいるよ。それまで愛してくれる?」
イアランは胸がいっぱいになる。声を震わせながら「はい」と微笑んだ。
と、クロムから小突かれる。クロムはこれ見よがしにベリルのベールをあげた。進行を促されていると気づき、コランもイアランのベールを取る。
口づけを交わせば、割れんばかりの拍手と鐘の音が響き渡った。
イアランはそれまで南の離宮で働いてきただけあって、季節ごとに手に入る食糧の種類や搬入先、部屋の内装の整え方など細かい部分まで侍従たちと知識を共有しており、驚くほど早く披露宴の打ち合わせが進んだ。
コランは披露宴の準備をイアランに任せることにし、招待客や儀式の段取りに頭を悩ませることになった。
イアランはようやくコランの役に立てると生き生きとしている。コランはクロムに鑑定の仕事を任されるようになった時のことを思い出し、目を細めるのだった。
夏になった。夏は竜人たちも獣も植物も、生けるものすべてが一年でもっとも活気づく季節だ。祝い事にも相応しい。
その日は快晴で、二人の王子の結婚に国中が沸いていた。今回の婚礼の儀では城の前の広場で宣誓と指輪交換を行い、その後南の離宮に移動して宴会を行うことになっている。
各地に住む王族が広場に集まっている様子は壮観であった。北方に住む一族は筋骨隆々で男女ともに体格がいい。鋲を打った革の鎧、毛皮や角のついた帽子を纏う。西に住むものは体格は様々だが、みな豪奢な刺繍で埋め尽くされた布地を身体に巻きつけている。南の地方から来た者たちは色鮮やかな鱗を見せつけるように肌を見せる面積が大きい服を、東から来たものはカソックのような首元から足先まで覆う衣装を着ていた。イアランの一族は遠すぎて出席することが出来なかったが、人間の商人や旅人の出入りが許された。
やがて二人の王子とその伴侶が現れる。クロムは革で作られ金の飾り紐が飾られた重厚なジャケットを羽織り、ベリルは淡いブルーのドレス姿だ。胸元がV字に切り開かれ、長い袖は蝶の羽を思わせる。頭には花冠で留められた薄いベールを被っていた。
コランとイアランは白い詰襟の騎士服で現れた。身体にぴたりと沿う服はコランの華奢な体型が際立つも、堂々とした立ち姿を凛々しく見せる。イアランの衣装はコランのそれとは少し違い、服に袖はなく鱗の入れ墨が見えるようにしてある。また、燕の尾のように丈が長く、動くたびに翻り優雅な印象を与えた。イアランもベールを被せられている。
彼らは魔除けにオートミールと塩を口にしてから祭壇の前に立つ。そして伴侶と手を繋ぎ、その手を色とりどりの紐で巻きつけ結んだ。末永くお互いを結びつける印だ。
誓いの言葉を唱えた後、指輪交換がなされた。
クロムとベリルはファイアオパールとエメラルド、コランとイアランはルビーとサファイアの指輪をお互いの指に嵌める。
「お互いの目の色にしたんだ」
コランはこっそり囁いた。
「これを僕の目だと思ってくれ。いつでもイアランを見守っているよ」
イアランの胸の内をすうっと風が撫でたような心地がした。遠くない未来、コランがいなくなってしまうような気がした。実際、コランは身体が丈夫な方ではない。
「約束してください。おれより先に死なないでください」
コランは目を見開き、そして笑みを浮かべる。
「ああ、誓うよ。だからそんなに寂しそうな顔はしないでおくれ」
コランはイアランの頬にそっと手を添える。ああ、今自分は寂しいと思ったのかとイアランは気づく。コランといると日々新しい感情が生まれ、コランが名前をつけていく。
「僕は死ぬまでイアランの傍にいるよ。それまで愛してくれる?」
イアランは胸がいっぱいになる。声を震わせながら「はい」と微笑んだ。
と、クロムから小突かれる。クロムはこれ見よがしにベリルのベールをあげた。進行を促されていると気づき、コランもイアランのベールを取る。
口づけを交わせば、割れんばかりの拍手と鐘の音が響き渡った。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜
有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)
甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。
ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。
しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。
佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて……
※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>
23時のプール
貴船きよの
BL
輸入家具会社に勤める市守和哉は、叔父が留守にする間、高級マンションの部屋に住む話を持ちかけられていた。
初めは気が進まない和哉だったが、そのマンションにプールがついていることを知り、叔父の話を承諾する。
叔父の部屋に越してからというもの、毎週のようにプールで泳いでいた和哉は、そこで、蓮見涼介という年下の男と出会う。
彼の泳ぎに惹かれた和哉は、彼自身にも関心を抱く。
二人は、プールで毎週会うようになる。

アズ同盟
未瑠
BL
事故のため入学が遅れた榊漣が見たのは、透き通る美貌の水瀬和珠だった。
一目惚れした漣はさっそくアタックを開始するが、アズに惚れているのは漣だけではなかった。
アズの側にいるためにはアズ同盟に入らないといけないと連れて行かれたカラオケBOXには、アズが居て
……いや、お前は誰だ?
やはりアズに一目惚れした同級生の藤原朔に、幼馴染の水野奨まで留学から帰ってきて、アズの周りはスパダリの大渋滞。一方アズは自分への好意へは無頓着で、それにはある理由が……。
アズ同盟を結んだ彼らの恋の行方は?
one night
雲乃みい
BL
失恋したばかりの千裕はある夜、バーで爽やかな青年実業家の智紀と出会う。
お互い失恋したばかりということを知り、ふたりで飲むことになるが。
ーー傷の舐め合いでもする?
爽やかSでバイな社会人がノンケ大学生を誘惑?
一夜だけのはずだった、なのにーーー。
次男は愛される
那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男
佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。
素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡
無断転載は厳禁です。
【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】
12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。
近況ボードをご覧下さい。

禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる