鉱石の国の黒白竜

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婚礼の儀④

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案の定、翌日のコランは熱は出さなかったもののたびたびくしゃみをして鼻を啜っていた。イアランや侍従たちに今日だけでも休養を取るよう渾々と言い聞かされ、できる範囲でいいからとイアランに婚礼の儀の準備を任せた。
 イアランはそれまで南の離宮で働いてきただけあって、季節ごとに手に入る食糧の種類や搬入先、部屋の内装の整え方など細かい部分まで侍従たちと知識を共有しており、驚くほど早く披露宴の打ち合わせが進んだ。
 コランは披露宴の準備をイアランに任せることにし、招待客や儀式の段取りに頭を悩ませることになった。
 イアランはようやくコランの役に立てると生き生きとしている。コランはクロムに鑑定の仕事を任されるようになった時のことを思い出し、目を細めるのだった。

 夏になった。夏は竜人たちも獣も植物も、生けるものすべてが一年でもっとも活気づく季節だ。祝い事にも相応しい。
 その日は快晴で、二人の王子の結婚に国中が沸いていた。今回の婚礼の儀では城の前の広場で宣誓と指輪交換を行い、その後南の離宮に移動して宴会を行うことになっている。
 各地に住む王族が広場に集まっている様子は壮観であった。北方に住む一族は筋骨隆々で男女ともに体格がいい。鋲を打った革の鎧、毛皮や角のついた帽子を纏う。西に住むものは体格は様々だが、みな豪奢な刺繍で埋め尽くされた布地を身体に巻きつけている。南の地方から来た者たちは色鮮やかな鱗を見せつけるように肌を見せる面積が大きい服を、東から来たものはカソックのような首元から足先まで覆う衣装を着ていた。イアランの一族は遠すぎて出席することが出来なかったが、人間の商人や旅人の出入りが許された。
 やがて二人の王子とその伴侶が現れる。クロムは革で作られ金の飾り紐が飾られた重厚なジャケットを羽織り、ベリルは淡いブルーのドレス姿だ。胸元がV字に切り開かれ、長い袖は蝶の羽を思わせる。頭には花冠で留められた薄いベールを被っていた。
 コランとイアランは白い詰襟の騎士服で現れた。身体にぴたりと沿う服はコランの華奢な体型が際立つも、堂々とした立ち姿を凛々しく見せる。イアランの衣装はコランのそれとは少し違い、服に袖はなく鱗の入れ墨が見えるようにしてある。また、燕の尾のように丈が長く、動くたびに翻り優雅な印象を与えた。イアランもベールを被せられている。
 彼らは魔除けにオートミールと塩を口にしてから祭壇の前に立つ。そして伴侶と手を繋ぎ、その手を色とりどりの紐で巻きつけ結んだ。末永くお互いを結びつける印だ。
 誓いの言葉を唱えた後、指輪交換がなされた。
 クロムとベリルはファイアオパールとエメラルド、コランとイアランはルビーとサファイアの指輪をお互いの指に嵌める。
「お互いの目の色にしたんだ」
   コランはこっそり囁いた。
「これを僕の目だと思ってくれ。いつでもイアランを見守っているよ」
 イアランの胸の内をすうっと風が撫でたような心地がした。遠くない未来、コランがいなくなってしまうような気がした。実際、コランは身体が丈夫な方ではない。
「約束してください。おれより先に死なないでください」
 コランは目を見開き、そして笑みを浮かべる。
「ああ、誓うよ。だからそんなに寂しそうな顔はしないでおくれ」
 コランはイアランの頬にそっと手を添える。ああ、今自分は寂しいと思ったのかとイアランは気づく。コランといると日々新しい感情が生まれ、コランが名前をつけていく。
「僕は死ぬまでイアランの傍にいるよ。それまで愛してくれる?」
 イアランは胸がいっぱいになる。声を震わせながら「はい」と微笑んだ。
 と、クロムから小突かれる。クロムはこれ見よがしにベリルのベールをあげた。進行を促されていると気づき、コランもイアランのベールを取る。
  口づけを交わせば、割れんばかりの拍手と鐘の音が響き渡った。
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