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婚礼の儀②
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イアランは採寸に丸一日かかるなんて知らなかったし、服を一枚作るのに何人もの職人の手が入ることにも仰天した。服は戦場で死体から剥いだり仲間に譲ってもらったりするものだった。
招待客の多さにも戦慄した。二人の王子が同時に結婚するとなると、親族だけでも膨大な人数になる。国を挙げての式になるだろうと聞かされ、イアランは目眩がしそうだった。
日々コランは忙しそうにしているが、イアランは何をしたらいいのか分からない。コランに聞いても手伝って欲しいことがあれば伝えるからと言われ、侍従たちの仕事を手伝おうとしてもコランの許嫁にやらせるわけにいかないと断られてしまう。必要とされていない気がして毎日身の置き場に悩んだ。
さすがのコランも忙殺されイアランを気遣う余裕がなくなってくる。
「少しは休め」
ととうとう打ち合わせに来たクロムに一喝された。
ベリルは早くも客間で居住まいを崩し寝そべっている。
丁度午後の軽食の時間で、干した果物や素朴な焼き菓子と茶が並ぶ。ベリルはそれらを頬張りながら
「ちょっと痩せた?」
とコランの頬をつつく。クロムは茶を啜りながらコランに小言を浴びせていた。
「花婿がぶっ倒れたらシャレにならねえだろうが。どうせ番も放ったらかしなんだろ」
その通りで、コランは黙り込む。
「ねえねえイアラン、なんで人間なのに鱗があるの?」
「これは刺青です」
「刺青ってなあに?」
ベリルはイアランの膝にちょこんと座り、花婿たちの話に耳を傾けながら気ままに喋っている。
「肌を針で刺して、染料で色をつけるのです」
「えぇ、痛そう」
ベリルは褐色の腕を労わるように撫でる。
「もう痛くないです」
「そっかぁ、綺麗だなぁって思ったんだけどなあ」
顔立ちはきついが、ベリルの醸し出す雰囲気はふわふわと綿花のように柔らかい。会って間もないのに、ベリルと話すことに心地よさを感じていた。
きっと王の良き拠り所となるのだろうとイアランは思った。自分は気が効く方でも愛想がいい方でもないし、出来ることといえば力仕事や戦闘だがそうそうそんな機会はないしないに越したことはない。
コランの役に立てることは、何があるだろうか。
と考え始めたところで、ベリルがうつらうつら船を漕ぎ始めた。頭につられて身体が傾く前にイアランは抱き止める。
「オイ、ベリル。いくらなんでもだらしないぞ」
「だってイアランがあったかくて気持ちいいから」
ベリルは目を擦る。
「人間ってあったかいんだねえ」
「寒いなら服を着ろって言ってんだろうが」
「やっ。ボク服キライ。カサカサして鱗がムズムズするもん」
「だからって肌を見せすぎなんだよ、気が気じゃねえんだよ色んな意味で」
今日もベリルは下半身に紐のついた下着をつけて、上半身には首飾り、かろうじて乳首が隠れるほどの面積の胸当て、肌が透けて見えるほど薄いマントを身につけているのみだ。寝そべって膝をゆらゆらさせるたび下着の中身が見えそうになる。
「それにいつまでソイツとベタベタしてんだよ、こっちに来い」
「ヤキモチ?」
「コランがな」
イアランがコランを見れば、そっと目を逸らしていた。ベリルは胡座をかいたクロムに腰掛け、もぞもぞ尻を動かしたかと思えば「交尾する?」と振り返って言う。
「するかバカっ!」
「だってちょっとおっきく」
「お前はもう少し恥じらいを持て!」
「部屋なら貸すぞ」
「お前も乗るな、それよりイアランを構ってやれ」
コランとイアランはお互い顔を見合わせるばかりだった。最近は床をともにしていないどころかろくに触れ合ってもいない。
招待客の多さにも戦慄した。二人の王子が同時に結婚するとなると、親族だけでも膨大な人数になる。国を挙げての式になるだろうと聞かされ、イアランは目眩がしそうだった。
日々コランは忙しそうにしているが、イアランは何をしたらいいのか分からない。コランに聞いても手伝って欲しいことがあれば伝えるからと言われ、侍従たちの仕事を手伝おうとしてもコランの許嫁にやらせるわけにいかないと断られてしまう。必要とされていない気がして毎日身の置き場に悩んだ。
さすがのコランも忙殺されイアランを気遣う余裕がなくなってくる。
「少しは休め」
ととうとう打ち合わせに来たクロムに一喝された。
ベリルは早くも客間で居住まいを崩し寝そべっている。
丁度午後の軽食の時間で、干した果物や素朴な焼き菓子と茶が並ぶ。ベリルはそれらを頬張りながら
「ちょっと痩せた?」
とコランの頬をつつく。クロムは茶を啜りながらコランに小言を浴びせていた。
「花婿がぶっ倒れたらシャレにならねえだろうが。どうせ番も放ったらかしなんだろ」
その通りで、コランは黙り込む。
「ねえねえイアラン、なんで人間なのに鱗があるの?」
「これは刺青です」
「刺青ってなあに?」
ベリルはイアランの膝にちょこんと座り、花婿たちの話に耳を傾けながら気ままに喋っている。
「肌を針で刺して、染料で色をつけるのです」
「えぇ、痛そう」
ベリルは褐色の腕を労わるように撫でる。
「もう痛くないです」
「そっかぁ、綺麗だなぁって思ったんだけどなあ」
顔立ちはきついが、ベリルの醸し出す雰囲気はふわふわと綿花のように柔らかい。会って間もないのに、ベリルと話すことに心地よさを感じていた。
きっと王の良き拠り所となるのだろうとイアランは思った。自分は気が効く方でも愛想がいい方でもないし、出来ることといえば力仕事や戦闘だがそうそうそんな機会はないしないに越したことはない。
コランの役に立てることは、何があるだろうか。
と考え始めたところで、ベリルがうつらうつら船を漕ぎ始めた。頭につられて身体が傾く前にイアランは抱き止める。
「オイ、ベリル。いくらなんでもだらしないぞ」
「だってイアランがあったかくて気持ちいいから」
ベリルは目を擦る。
「人間ってあったかいんだねえ」
「寒いなら服を着ろって言ってんだろうが」
「やっ。ボク服キライ。カサカサして鱗がムズムズするもん」
「だからって肌を見せすぎなんだよ、気が気じゃねえんだよ色んな意味で」
今日もベリルは下半身に紐のついた下着をつけて、上半身には首飾り、かろうじて乳首が隠れるほどの面積の胸当て、肌が透けて見えるほど薄いマントを身につけているのみだ。寝そべって膝をゆらゆらさせるたび下着の中身が見えそうになる。
「それにいつまでソイツとベタベタしてんだよ、こっちに来い」
「ヤキモチ?」
「コランがな」
イアランがコランを見れば、そっと目を逸らしていた。ベリルは胡座をかいたクロムに腰掛け、もぞもぞ尻を動かしたかと思えば「交尾する?」と振り返って言う。
「するかバカっ!」
「だってちょっとおっきく」
「お前はもう少し恥じらいを持て!」
「部屋なら貸すぞ」
「お前も乗るな、それよりイアランを構ってやれ」
コランとイアランはお互い顔を見合わせるばかりだった。最近は床をともにしていないどころかろくに触れ合ってもいない。
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