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第十話
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賞金稼ぎの若者は声を張り上げる。
「おい、コイツに手ェ出されたくなかったら出てこい!」
今度は白い人影が現れた。その全身には隙間なく包帯が巻かれている。そしてその者の顔は、コランの待ち人で間違いなかった。
「イアラン!その身体は・・・・・・!」
「心配いりません。コラン様をはなせ」
イアランは腰に下げた剣の柄を握る。それもコランが見たことないものだ。イアランは剣を鞘から抜き、
ーーーー若者に向かって投げた。
矢のように飛んできたそれを避けるため若者は体勢を崩す。イアランはその一瞬の間をついて距離を詰め、外套を扇のように翻らせながら若者を地面に叩きつけ取り押さえる。
容赦なく敵を痛めつけるイアランの姿がコランの脳裏に蘇り、背筋が冷たくなった。止めようとした矢先に、若者が懐から何か取り出した。回転式の拳銃の銃口が、イアランの額に向けられる。コランから血の気が引くが、腕の長さが足りず届かない。
若者の指が引き金にかかり
「その辺にしておけ」
銃は、突如現れた何者かによって蹴り飛ばされた。蹴り飛ばした人物は、若者とよく似た顔立ちと目の色を持っていた。若者とコラン達が初めて鉢合わせたときから見張っていた人物だ。
その人物は若者を見下ろし言った。
「引き上げるぞウォック」
「何しに来たケツァール!」
ケツァールと呼ばれた人物はため息を吐きつつ賞金稼ぎの若者ーーウォックを睨め付ける。
「弟がバカをやってたら止めるのが兄の仕事だ。だから私達はいつまでも盗人の一族と呼ばれるのだ」
「おお、少しは話が通じそうなヤツがいるじゃねえか」
振り返ればクロムが近衛を従え立っていた。コランは侍従がクロムを呼ぶと言っていたことを思い出す。
ケツァールは鎧を身につけたクロムの前で跪いた。
「この度は愚弟が狼藉をはたらき失礼しました。我が一族が、責任を持って処罰いたします」
「わかった。ただちにこの地から去れ。二度目はない」
ケツァールは少し驚いたように、目線だけチラリと向ける。
「アンタらは数十年前から悪さをしていないし、バカな弟を持つと苦労するよな。見逃してやるからきっちりワルどもを押さえておけ」
ケツァールは深々と頭を下げ、ウォックの首根っこを掴んで森の奥に消えていく。やがて森から二頭の竜が飛び立っていった。
「それにしても、随分男前になって帰ってきたもんだな」
クロムは包帯だらけのイアランを見やる。
「そうだ、こんなひどい怪我・・・・・・!すぐ医師を呼ぼう」
「大丈夫です。怪我ではありません」
イアランは包帯を解く。全身が露わになると、その場にいたものは皆息を呑んだ。
「成人の儀を受けてきました。おれの故郷では、全身に刺青を彫るのです」
イアランの全身に彫られたのは、黒い鱗を模した刺青であった。肩から背中までびっしりと覆われており、まるで黒い竜人のようだ。
「あなたの姿に、少しは近づけたでしょうか」
コランは、イアランがこの国で生きていくことを決めたのだと悟った。その証がこの全身に刻んだ刺青だ。
「馬鹿だなお前は。そんなことをしなくても・・・・・・大変だったろうに」
「はい。時間がかかってしまいました」
やはりまだ少し会話は噛み合わないが、お互いの想いだけは通い合っている。
コランはイアランの手を取り、帰ろうと微笑む。イアランの口角がぎこちなく上がっていき、目尻が柔らかく下がった。
イアランの笑った顔を初めて見たコランは、喜びに笑みを深めた。
ーーーー一年前に買った奴隷に逃げられた王子が番を見つけたらしい。
そんな噂の元になっている二人は、この夏婚礼の儀を行うという。
終
「おい、コイツに手ェ出されたくなかったら出てこい!」
今度は白い人影が現れた。その全身には隙間なく包帯が巻かれている。そしてその者の顔は、コランの待ち人で間違いなかった。
「イアラン!その身体は・・・・・・!」
「心配いりません。コラン様をはなせ」
イアランは腰に下げた剣の柄を握る。それもコランが見たことないものだ。イアランは剣を鞘から抜き、
ーーーー若者に向かって投げた。
矢のように飛んできたそれを避けるため若者は体勢を崩す。イアランはその一瞬の間をついて距離を詰め、外套を扇のように翻らせながら若者を地面に叩きつけ取り押さえる。
容赦なく敵を痛めつけるイアランの姿がコランの脳裏に蘇り、背筋が冷たくなった。止めようとした矢先に、若者が懐から何か取り出した。回転式の拳銃の銃口が、イアランの額に向けられる。コランから血の気が引くが、腕の長さが足りず届かない。
若者の指が引き金にかかり
「その辺にしておけ」
銃は、突如現れた何者かによって蹴り飛ばされた。蹴り飛ばした人物は、若者とよく似た顔立ちと目の色を持っていた。若者とコラン達が初めて鉢合わせたときから見張っていた人物だ。
その人物は若者を見下ろし言った。
「引き上げるぞウォック」
「何しに来たケツァール!」
ケツァールと呼ばれた人物はため息を吐きつつ賞金稼ぎの若者ーーウォックを睨め付ける。
「弟がバカをやってたら止めるのが兄の仕事だ。だから私達はいつまでも盗人の一族と呼ばれるのだ」
「おお、少しは話が通じそうなヤツがいるじゃねえか」
振り返ればクロムが近衛を従え立っていた。コランは侍従がクロムを呼ぶと言っていたことを思い出す。
ケツァールは鎧を身につけたクロムの前で跪いた。
「この度は愚弟が狼藉をはたらき失礼しました。我が一族が、責任を持って処罰いたします」
「わかった。ただちにこの地から去れ。二度目はない」
ケツァールは少し驚いたように、目線だけチラリと向ける。
「アンタらは数十年前から悪さをしていないし、バカな弟を持つと苦労するよな。見逃してやるからきっちりワルどもを押さえておけ」
ケツァールは深々と頭を下げ、ウォックの首根っこを掴んで森の奥に消えていく。やがて森から二頭の竜が飛び立っていった。
「それにしても、随分男前になって帰ってきたもんだな」
クロムは包帯だらけのイアランを見やる。
「そうだ、こんなひどい怪我・・・・・・!すぐ医師を呼ぼう」
「大丈夫です。怪我ではありません」
イアランは包帯を解く。全身が露わになると、その場にいたものは皆息を呑んだ。
「成人の儀を受けてきました。おれの故郷では、全身に刺青を彫るのです」
イアランの全身に彫られたのは、黒い鱗を模した刺青であった。肩から背中までびっしりと覆われており、まるで黒い竜人のようだ。
「あなたの姿に、少しは近づけたでしょうか」
コランは、イアランがこの国で生きていくことを決めたのだと悟った。その証がこの全身に刻んだ刺青だ。
「馬鹿だなお前は。そんなことをしなくても・・・・・・大変だったろうに」
「はい。時間がかかってしまいました」
やはりまだ少し会話は噛み合わないが、お互いの想いだけは通い合っている。
コランはイアランの手を取り、帰ろうと微笑む。イアランの口角がぎこちなく上がっていき、目尻が柔らかく下がった。
イアランの笑った顔を初めて見たコランは、喜びに笑みを深めた。
ーーーー一年前に買った奴隷に逃げられた王子が番を見つけたらしい。
そんな噂の元になっている二人は、この夏婚礼の儀を行うという。
終
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