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第七話
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部屋の奥に、暖色の光に照らされた寝台があった。白い布が張られ、そこからかすかなうめき声が聞こえる。
寝台に横たわっているのはコランだ。小柄な体に有り余るほどの欲望に翻弄され、シーツを乱しながらのたうち回る。荒い呼吸に合わせて、白い顔は紅色に上気する。股座には華奢な体には不釣り合いな大きさの肉棒が、下履きを突き破らんばかりにいきり立っている。
ふいに寝台の上に影が落ちた。影の持ち主に目に留めると、くるな、と呻いた。その者はコランに従うどころか寝台に乗り上げた。そして息を荒げるコランの顔を覗き込む。
「イアラン・・・・・・」
「あなたを慰めるお許しをいただきました」
イアランは腰に巻きつけた薄衣以外、何も身につけていなかった。それを解いて敷布の上に尻をつく。褐色の脚を開き、塗り込められた香油の輝きで縁取られた肉輪を晒す。
「どうぞこちらへ。存分にお使いください」
イアランの青い目は、本当にサファイアになってしまったかのように温度を感じない。なのに薬でも使われたのか、イアランの中心は張り詰めていた。
コランの目の前あるのは、イアランの形をしたただの肉の器だ。
イアランを物のように扱う身内やイアラン自身に対し、コランの身体に怒りが迸った。
「誰の命で来た!クロムか?!」
「私の身体が一番都合がいいです。並の人間より強くて竜人より弱い。あなたを壊さない」
イアランがここにいるのは自分の意思だと分かった。しかし、それはただ命じられたからだ。
コランは俯き、いやだ、と小さな声で呟いた。
「僕はこんな風にお前と結ばれたかったわけじゃない!」
本能に流されるまま抱いてしまいたくなかったし、イアランには命令ではなく自ら自分を求めて欲しかった。
コランはイアランを押し倒す。逞しい身体に浅ましく腰を擦り付けてしまう自分が呪わしい。馬乗りになったまま顔を両手で挟み込み、サファイアの目に語りかける。
「言ってくれイアラン。お前が望むことを。嫌なら今すぐ出て行け」
イアランは瞬きを繰り返す。それから眉を少しだけ顰めた。
「・・・・・・わかりません。望むことは、ありません」
僅かな戸惑いが表情に薄く乗る。本当に分からなかった。望むことなど聞かれたことすらなかった。期待するのもとうの昔にやめていた。けれどもコランといるときは、その気持ちが心の底からじわりと染み出してくる気がするのだ。だがきっとそれに身を任せれば、もう元の自分には戻れない。
裸の身体は冷え切って、イアランの顔から力が抜け、感情が抜け落ちていく。引き留めるようにコランは手を伸ばし、イアランの頭を包み込むように抱きしめる。
コランの鱗はヒヤリと冷たかったが、やがてその下の皮膚から体温がゆっくりと染み出てくる。折れそうなほど細いのに、コランの腕の中は暖かかった。
「お願いだ、言って、イアラン」
イアランの全身が粟立った。寒さのせいではない。本当に欲しかったものを自覚してしまった。
物心ついてから誰かに抱き締められたのは、これが初めてだ。誰からも守られないまま大人になり、ますますぬくもりを与えてくれる者は減った。
けれども、コランは惜しみなく褒めて甘やかしてくれた。感情の機微を読み取り、自分でも聞き逃してしまうくらい小さな心の声を言葉にしてくれた。そのまま心地よさに溺れてしまいたい欲求が湧き上がるが、コランは自分より年下であるし見た目はまだ十代前半の少年だ。自分が庇護するべき存在で、寄りかかることは許されない。
なのに、イアランはコランの腕の中で肩を震わせていた。縋るようにコランのシャツを掴む。こぼれ落ちそうなほど水を湛えたサファイアブルーの目は海のようだ。
「おれ、は・・・・・・あなたに、愛されたい・・・・・・っ」
イアランの青い眼から海が溢れた。
寝台に横たわっているのはコランだ。小柄な体に有り余るほどの欲望に翻弄され、シーツを乱しながらのたうち回る。荒い呼吸に合わせて、白い顔は紅色に上気する。股座には華奢な体には不釣り合いな大きさの肉棒が、下履きを突き破らんばかりにいきり立っている。
ふいに寝台の上に影が落ちた。影の持ち主に目に留めると、くるな、と呻いた。その者はコランに従うどころか寝台に乗り上げた。そして息を荒げるコランの顔を覗き込む。
「イアラン・・・・・・」
「あなたを慰めるお許しをいただきました」
イアランは腰に巻きつけた薄衣以外、何も身につけていなかった。それを解いて敷布の上に尻をつく。褐色の脚を開き、塗り込められた香油の輝きで縁取られた肉輪を晒す。
「どうぞこちらへ。存分にお使いください」
イアランの青い目は、本当にサファイアになってしまったかのように温度を感じない。なのに薬でも使われたのか、イアランの中心は張り詰めていた。
コランの目の前あるのは、イアランの形をしたただの肉の器だ。
イアランを物のように扱う身内やイアラン自身に対し、コランの身体に怒りが迸った。
「誰の命で来た!クロムか?!」
「私の身体が一番都合がいいです。並の人間より強くて竜人より弱い。あなたを壊さない」
イアランがここにいるのは自分の意思だと分かった。しかし、それはただ命じられたからだ。
コランは俯き、いやだ、と小さな声で呟いた。
「僕はこんな風にお前と結ばれたかったわけじゃない!」
本能に流されるまま抱いてしまいたくなかったし、イアランには命令ではなく自ら自分を求めて欲しかった。
コランはイアランを押し倒す。逞しい身体に浅ましく腰を擦り付けてしまう自分が呪わしい。馬乗りになったまま顔を両手で挟み込み、サファイアの目に語りかける。
「言ってくれイアラン。お前が望むことを。嫌なら今すぐ出て行け」
イアランは瞬きを繰り返す。それから眉を少しだけ顰めた。
「・・・・・・わかりません。望むことは、ありません」
僅かな戸惑いが表情に薄く乗る。本当に分からなかった。望むことなど聞かれたことすらなかった。期待するのもとうの昔にやめていた。けれどもコランといるときは、その気持ちが心の底からじわりと染み出してくる気がするのだ。だがきっとそれに身を任せれば、もう元の自分には戻れない。
裸の身体は冷え切って、イアランの顔から力が抜け、感情が抜け落ちていく。引き留めるようにコランは手を伸ばし、イアランの頭を包み込むように抱きしめる。
コランの鱗はヒヤリと冷たかったが、やがてその下の皮膚から体温がゆっくりと染み出てくる。折れそうなほど細いのに、コランの腕の中は暖かかった。
「お願いだ、言って、イアラン」
イアランの全身が粟立った。寒さのせいではない。本当に欲しかったものを自覚してしまった。
物心ついてから誰かに抱き締められたのは、これが初めてだ。誰からも守られないまま大人になり、ますますぬくもりを与えてくれる者は減った。
けれども、コランは惜しみなく褒めて甘やかしてくれた。感情の機微を読み取り、自分でも聞き逃してしまうくらい小さな心の声を言葉にしてくれた。そのまま心地よさに溺れてしまいたい欲求が湧き上がるが、コランは自分より年下であるし見た目はまだ十代前半の少年だ。自分が庇護するべき存在で、寄りかかることは許されない。
なのに、イアランはコランの腕の中で肩を震わせていた。縋るようにコランのシャツを掴む。こぼれ落ちそうなほど水を湛えたサファイアブルーの目は海のようだ。
「おれ、は・・・・・・あなたに、愛されたい・・・・・・っ」
イアランの青い眼から海が溢れた。
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