鉱石の国の黒白竜

SF

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第六話

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 コランは小柄な体を反らして一歩も引かず、イアランは主人の前に歩み出る。
「お前が僕たちをここまで連れてきたのだろう」
「・・・・・・箱入りのお坊ちゃんだと聞いたんだがなあ」
 近衛兵は兜を取った。短く刈り込んだ茶髪に金色の目が特徴的な若者の顔が現れる。
「ファンブニルの一族か。そちらこそ、よくもまあ恥ずかしげもなく顔を出せたものだなあ」
 ファンブニルの一族は、竜に姿を変えるが竜人ではなく竜になる呪いをかけられた人間だ。
 その昔、神々から黄金を強請り身内でも骨肉の争いをした末、黄金にかけられた呪いにより竜に姿を変えるようになったという。金の目は黄金に目が眩んだ証で、現在でも盗賊や賞金稼ぎで荒稼ぎする悪しき一族だと伝えられている。
「荷物は全てくれてやる。さっさとね」
「お気遣いどうも。しかし用があるのはそっちの色男だ」
 若者はイアランを指さす。
「アンタ、随分戦で活躍したそうじゃねえか。いい値が付いてたぜ。アンタが俺についてこれば王子様には手を出さない」
 どうだ?と若者はニヤリとする。コランは、ネズミの目的はイアランに掛けられた賞金だったのかと理解した。人間なら竜人を相手にするより容易いと思ったのだろう。
 イアランの表情は読めなかった。感情が抜け落ちた顔に、コランは不吉を感じとる。イアランは黙って若者に近づいていった。
 そして、腕を掴んで投げ飛ばした。地面に叩きつけられた若者は、すぐさま身体を転がし蹴りを繰り出す。イアランはやすやすと足を掴み、軋むほど力を込める。若者が苦痛に顔を歪めても、イアランは眉一つ動かさない。
 普段の穏やかなイアランからは想像もできなかった、冷徹な兵士としての顔にコランは身震いする。
「くそっ、賞金の額が見合ってねえじゃねえか。割りに合わなさすぎる!」
 若者はイアランに押されているようだった。とうとうイアランから飛び退き逃亡にかかる。
 イアランは逃す気などなかった。戦場では皆殺せと言われた通りにしてきた。修羅場での感覚が呼び起こされ、研ぎ澄まされていく。
「やめろ、イアラン」
 背中から上着を引っ張られ、イアランは引き戻された。戦場の記憶から主人の元へと。
 瞬間、前方から何かが飛んできた。空中で爆散したかと思えば白い煙が二人の間に充満した。煙幕を掻き分け、イアランはすぐさま蹲るコランの姿を見つける。煙が薄れていく中、コランの顔が苦悶に歪むのがはっきり見えてくる。なぜかイアランはなんともない。
 イアランはすぐさまコランを背負い、城壁に向かって駆けていった。煙幕の向こうに霞む人影には気づかずに。


 城内は騒然としていた。
 長衣を纏った医師や魔術師、麻の下履きを履いた使用人たちの脚が廊下で交錯し入り乱れる。
「発情期だと?!馬鹿な、早すぎる」
 コランを診た医師の見解を聞き、クロムは吠えた。 
「装備を奪われた近衛兵や従者も同じ状態にあります。動けなくするために媚薬が使われたのでしょう」
 竜人の発情期は苛烈だ。数十年に一度しか来ないが、激しい性行為が何日も続く。番がいない竜人は、親や家令が決めた相手と閨を共にし、荒れ狂う欲望を鎮めることになっている。
 コランにはまだその相手が決められていなった。五十年から百年ほどかけて身体が大人になってから発情期が来るのに対し、二十歳のコランが発情期を迎えるのは早熟すぎる。身体を酷使する行為に、コランの脆弱な肉体が耐えられるかも分からない。ゆえに、コランは発情期を迎えるまで生きられるかどうかと言われてきた。
「コラン様は死ぬのですか」
 イアランはぽつりと呟く。医師は眉を顰めるが、クロムはイアランが複雑で遠回しな言い方が出来ぬことを知っていた。
「イアラン、お前、コランのことが好きか」
「・・・・・・はい」
     他に言葉が浮かばなかったイアランは、ただそう答える。クロムは苦虫を噛み潰したような顔で腕を組み、イアランをじっと見つめる。
 そして重々しく口を開いた。
「なら、コランの為に死ねるか?」
  
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