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第五話
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万霊節の日が来た。早朝、表門で迎えの竜人が恭しくこうべを垂れていた。南の離宮は温暖だが王都は寒い。ウールや毛皮を何枚も重ね着し、コランとイアランは竜に姿を変えた侍従の背に乗った。
そして空に舞い上がった。イアランは驚くべき体幹で微動だにしない。吹き荒ぶ風から守るように、小柄なコランを巨躯で覆う。
一行は緑豊かな南の農地や丘を越え、常緑樹に包まれた山々の上を飛ぶ。太陽が空の真上に登る頃には、城壁と城の屋根の白い先端が遠くに見えてきた。
「おかしい」
コランは呟く。
「進路がずれている」
紅玉の眼は太陽の位置を確認する。僅かに東に逸れているのを、聡い目は見逃さなかった。
「罠だ。飛ぶぞイアラン」
魔法陣を描いた紙を口に咥え、コランはイアランの両腕を掴む。竜の背の上で後転するように転がり落ち、やがて空中に投げ出された。
イアランは手足がどこにも触れていないのはこんなにも恐ろしいのかと思った。地上に面した背中は常に風に押されているような感覚だ。身動ぎ一つで簡単に身体の角度が変わり空中で錐揉みになる。ぐんぐん地上に近づいていく。樹海の葉の一枚一枚が鮮明に見えてくる。
流石に死を覚悟したイアランの身体が宙に浮いた。落下の速度が急激に落ちる。イアランと同じくらいの大きさの白い竜が、しっかりと彼を掴んでいた。肩に鉤爪が食い込むが肉を破ってはいない。白い竜は翼を羽ばたかせ、ゆっくり地上に降りていった。
「ありがとうございます」
イアランは人の型になったコランに膝をつく。
「気にするな。しかし少し休んでいこう。竜の姿になったのは久しぶりなんだ」
コランは木の幹に背をつけ、ため息を吐きながら座り込む。イアランは皮袋でできた水筒を渡した。コランは受け取り喉を潤す。
「クロム様の言った通りです」
「ああ、迎えの者に化けてくるとはな」
コランは頭上を仰ぎ見る。太陽は枝葉に遮られ、陽光は通すものの方角までは分からない。
「まあ、すぐ近くだ。歩いて行こう」
「待って」
イアランはコランの前に出てしゃがむ。コランは顔を顰めた。
「赤ん坊じゃあるまいし。一人で歩ける」
「山道は疲れます。あなたが思っているよりも」
「わかった、疲れが出たらすぐ休む」
コランはため息を落とす。しかしイアランは納得したようで布袋に入った荷物を担いだ。
二人は空から見た城の位置を頼りに歩き始める。半刻ほどでコランはイアランの言ったことを痛感し始めた。道が整備された城下や平地が多い南の土地とは違い、常に木の根や土や岩の段差が行手を阻む。斜面に対して身体のバランスを取り続けることにも神経を使う。身体が熱くなり汗が滲んだ。
そろそろ休もうかと提案しようとすると、ちょうど城の近衛隊がやってきた。セオドラ王国の紋章のついた兜を被り帷子を身につけている。
「止まれ」
コランの紅い眼の中に火花が散る。
「お前近衛ではないな?僕の"目"は誤魔化されないぞ」
そして空に舞い上がった。イアランは驚くべき体幹で微動だにしない。吹き荒ぶ風から守るように、小柄なコランを巨躯で覆う。
一行は緑豊かな南の農地や丘を越え、常緑樹に包まれた山々の上を飛ぶ。太陽が空の真上に登る頃には、城壁と城の屋根の白い先端が遠くに見えてきた。
「おかしい」
コランは呟く。
「進路がずれている」
紅玉の眼は太陽の位置を確認する。僅かに東に逸れているのを、聡い目は見逃さなかった。
「罠だ。飛ぶぞイアラン」
魔法陣を描いた紙を口に咥え、コランはイアランの両腕を掴む。竜の背の上で後転するように転がり落ち、やがて空中に投げ出された。
イアランは手足がどこにも触れていないのはこんなにも恐ろしいのかと思った。地上に面した背中は常に風に押されているような感覚だ。身動ぎ一つで簡単に身体の角度が変わり空中で錐揉みになる。ぐんぐん地上に近づいていく。樹海の葉の一枚一枚が鮮明に見えてくる。
流石に死を覚悟したイアランの身体が宙に浮いた。落下の速度が急激に落ちる。イアランと同じくらいの大きさの白い竜が、しっかりと彼を掴んでいた。肩に鉤爪が食い込むが肉を破ってはいない。白い竜は翼を羽ばたかせ、ゆっくり地上に降りていった。
「ありがとうございます」
イアランは人の型になったコランに膝をつく。
「気にするな。しかし少し休んでいこう。竜の姿になったのは久しぶりなんだ」
コランは木の幹に背をつけ、ため息を吐きながら座り込む。イアランは皮袋でできた水筒を渡した。コランは受け取り喉を潤す。
「クロム様の言った通りです」
「ああ、迎えの者に化けてくるとはな」
コランは頭上を仰ぎ見る。太陽は枝葉に遮られ、陽光は通すものの方角までは分からない。
「まあ、すぐ近くだ。歩いて行こう」
「待って」
イアランはコランの前に出てしゃがむ。コランは顔を顰めた。
「赤ん坊じゃあるまいし。一人で歩ける」
「山道は疲れます。あなたが思っているよりも」
「わかった、疲れが出たらすぐ休む」
コランはため息を落とす。しかしイアランは納得したようで布袋に入った荷物を担いだ。
二人は空から見た城の位置を頼りに歩き始める。半刻ほどでコランはイアランの言ったことを痛感し始めた。道が整備された城下や平地が多い南の土地とは違い、常に木の根や土や岩の段差が行手を阻む。斜面に対して身体のバランスを取り続けることにも神経を使う。身体が熱くなり汗が滲んだ。
そろそろ休もうかと提案しようとすると、ちょうど城の近衛隊がやってきた。セオドラ王国の紋章のついた兜を被り帷子を身につけている。
「止まれ」
コランの紅い眼の中に火花が散る。
「お前近衛ではないな?僕の"目"は誤魔化されないぞ」
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