鉱石の国の黒白竜

SF

文字の大きさ
上 下
2 / 16

第二話

しおりを挟む
 「お前に人間の面倒が見られるのか?俺たちよりずっと脆いし話す言葉も違うんだぞ」
 クロムが最後まで言い終わらないうちに、コランは奴隷と奴隷商人の元に駆けていってしまった。
 奴隷に繋がれた鎖を手にしてクロムのもとに戻ったコランはすこぶる機嫌がよかった。
「見てくれクロム、僕の"目"に狂いは」
「ああ待て待て!まだそいつに触るんじゃない!ったく、先に南の離宮に連れて行くぞ」
 クロムはこっそり城壁の門番に金を握らせ、外に出た。城壁の外は鬱蒼とした森で、商人や旅人が乗ってくる馬車の轍が固まって出来た道が伸びている。
 クロムは深く息を吸い、魔力を体に巡らせる。瞬きする間に巨大な赤い竜が現れた。
 牙の並ぶ細長く突き出た口の先に一瞬魔法陣が光り、そして言葉が竜の身体に宿った。竜の姿のままでは言葉を発することができないためだ。
「ほう、悲鳴ひとつあげないとはな」
 クロムの目は奴隷に向いていた。相手が竜人とわかっていても、実際に竜になった姿を目にすると慄いてしまう人間は少なくなかった。奴隷の分厚い唇は、未だ閉ざされたままだ。
「肝の座ったやつだ。ますます気に入った」
 コランはクロムの背に飛び乗り、奴隷に手を伸ばす。
「ほらおいで」
 おずおずと伸ばされた褐色の手は節が目立ち、まめだらけの手のひらは分厚かった。
「すごい、戦士の手だ」
   昔取った杵柄なのか、奴隷の身のこなしは軽い。コランの力を借りずひょいと竜の背に跨る。クロムが猛烈な勢いで風を裂いて空を飛んでもびくともしない。
 あっという間に南の離宮に到着した後は、奴隷を侍従に引き渡し風呂に放り込んだ。不衛生な格好であったのも確かだが、コランは未だに身体が丈夫な方ではなく感染症を防ぐ為でもある。
 セオドラ王国に奴隷制はあるが形骸化している。基本的に使用人と同じ扱いで賃金や休暇も与えられ、十年仕えれば市民権を申請できる。かつてあった戦で、捕虜となったが国に帰れぬ者を奴隷にするという名目で引き取った名残りである。職にあぶれた者が悪さをすることを防ぐ意味もあった。
 コランは奴隷が身繕いされている間、仕事部屋に篭った。黒檀の机の上には小さな布袋がたくさんならび、産地の名前がついている。
 コランの住む南方ではオパールやアクアマリンが採れる。カッティングしたそれらの鑑定をし、品質の精査や値段をつけるのが彼の仕事だ。クロムとそろそろあの坑道は閉めるべきだの、品質はいいがカッティングが甘いなど語るうち侍従に呼ばれる。
 離宮から見える海が夕日に焼かれるころ、コランたちの前にあの奴隷が再び姿を現した。
 見違えるようであった。クロムと同じくらい上背がある立派な若者がそこにいた。
 豊かに波打つ黒髪は後ろで一括りにされ、袖のないチュニックから伸びる腕や脚は筋肉に覆われていた。顔は彫りが深く、きりりとした眉が精悍な印象を与える。
 そして大きな目の色は、鮮烈なサファイアブルーであった。
 コランは駆け寄って、ぴょんと飛び上がり、褐色の太い首に腕を巻きつけその目を覗き込む。
「見ろクロム、あの海の色とも違う、神秘の青だ」
「それだけでソイツを買ったのかよ」
 クロムは呆れたが、たしかに見事な深い青色で、ソイツの目がサファイアだったらひと財産築けていただろうな、などと思った。
「名はどうする?」
 この国では主人が奴隷に新しい名を付けることで主従関係が結ばれる。
「やはりサファイアに関する名前がいい。そうだな、お前はーー」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

【第1部完結】佐藤は汐見と〜7年越しの片想い拗らせリーマンラブ〜

有島
BL
◆社会人+ドシリアス+ヒューマンドラマなアラサー社会人同士のリアル現代ドラマ風BL(MensLove)  甘いハーフのような顔で社内1のナンバーワン営業の美形、佐藤甘冶(さとうかんじ/31)と、純国産和風塩顔の開発部に所属する汐見潮(しおみうしお/33)は同じ会社の異なる部署に在籍している。  ある時をきっかけに【佐藤=砂糖】と【汐見=塩】のコンビ名を頂き、仲の良い同僚として、親友として交流しているが、社内一の独身美形モテ男・佐藤は汐見に長く片想いをしていた。  しかし、その汐見が一昨年、結婚してしまう。  佐藤は断ち切れない想いを胸に秘めたまま、ただの同僚として汐見と一緒にいられる道を選んだが、その矢先、汐見の妻に絡んだとある事件が起きて…… ※諸々は『表紙+注意書き』をご覧ください<(_ _)>

23時のプール

貴船きよの
BL
輸入家具会社に勤める市守和哉は、叔父が留守にする間、高級マンションの部屋に住む話を持ちかけられていた。 初めは気が進まない和哉だったが、そのマンションにプールがついていることを知り、叔父の話を承諾する。 叔父の部屋に越してからというもの、毎週のようにプールで泳いでいた和哉は、そこで、蓮見涼介という年下の男と出会う。 彼の泳ぎに惹かれた和哉は、彼自身にも関心を抱く。 二人は、プールで毎週会うようになる。

one night

雲乃みい
BL
失恋したばかりの千裕はある夜、バーで爽やかな青年実業家の智紀と出会う。 お互い失恋したばかりということを知り、ふたりで飲むことになるが。 ーー傷の舐め合いでもする? 爽やかSでバイな社会人がノンケ大学生を誘惑? 一夜だけのはずだった、なのにーーー。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

神子は再召喚される

田舎
BL
??×神子(召喚者)。 平凡な学生だった有田満は突然異世界に召喚されてしまう。そこでは軟禁に近い地獄のような生活を送り苦痛を強いられる日々だった。 そして平和になり元の世界に戻ったというのに―――― …。 受けはかなり可哀そうです。

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】 12月末にこちらの作品は非公開といたします。ご了承くださいませ。 近況ボードをご覧下さい。

運命の相手 〜 確率は100 if story 〜

春夏
BL
【完結しました】 『確率は100』の if story です。本編完結済です。本編は現代日本で知り合った2人が異世界でイチャラブする話ですが、こちらは2人が異世界に行かなかったら…の話です。Rには※つけます。5章以降。「確率」とは違う2人の関係をお楽しみいただけたら嬉しいです。

処理中です...