さらば横浜チャイナタウン 番外編集

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悪癖 後編

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※クロ視点
注・噛みつき、首絞め

ーーーーーーーーーーーー
ホテルの部屋に入るや否や、ベッドに放り出された。あの男ーベニヒコが俺の上に乗っかれば煙草と硝煙の匂いが降ってくる。
剃り込みの入ったツーブロックから垂れ下がる髪や鋭い眼光の三白眼、痩せた身体を曲げ息を乱す様は飢えた狼を思い起こさせる。
ベニヒコは俺のシャツのボタンを緩めデコルテに彫ったタトゥーを舌でなぞる。首に嵌められた首輪はそのままだ。手は好き勝手にシャツの下を這い回り、服を引きちぎれそうで毎度自分でボタンを外す羽目になる。
正中線やへそや腹につけたピアスが露わになり、つけっぱなしの照明を反射した。ベニヒコはニップルピアスに歯をかけ引っ張る。開けた孔が広がりそうなほど強く伸ばされ痛みに肩が跳ねた。
ベニヒコはいつも俺のことなんか気にかけちゃいない。せいぜい車か自動翻訳機かオナホみたいな便利な道具といったところか。セックスの時も好き勝手に嬲ってくる。
それでも大人しくしているのは、俺が従順な"イヌ"を演じているからだ。俺の人生を狂わせたヤツらーヤクザの親父や母親や俺をサンドバッグにしてきたヤツらや、イヌに堕としたベニヒコに復讐する為に。

「クロ、脱げ」

ベニヒコは言いながら大胸筋に噛みつく。言う通りにしなければ食い破るまで歯が食い込んでいくだろう。
憂鬱な気分でベルトに手をかけ下着ごと下ろせばペニスを握られた。ベニヒコはニヤリとする。節くれだった長い指がそこを上下に扱き始めた。生理現象で勃ちあがり始める。声が出そうになるのを息を止めて耐えた。無理矢理突っ込まれるよりイかされる方が屈辱的だ。ベニヒコは絶対分かってヤッてやがる。与える快感すら、ベニヒコにとっては俺をいたぶる道具なのだ。
そろそろ後ろを自分で慣らしておかないとヤバい。コイツはそんなことお構いなしで串刺しにしてくる。
孔に手を伸ばせば、ペニスから手が離れベニヒコの指がそこを埋めた。カウパーに塗れた長い指がナカでうねり背中が仰反る。

「・・・っふ・・・ぅ」

声が漏れ咄嗟に口を手で覆う。
ベニヒコは底意地の悪い笑みを見せた。
ーーーーーー死ね!
殺意を込めた視線をぶっ刺してやれば、ますます口角を上げた。舌舐めずりをしてまた身体に喰らい付いてくる。
数日は消えっこないような歯形を残しながら、血管が浮かび凶悪にそそり勃ったモノが差し込まれていく。激しく腰を振る合間にもまだ歯形が増える。まるで獣だ。
身体がぶつかり合う度に下半身に衝撃と痛みとかすかな痺れが走った。だんだん腹の中が疼いてくる。わざとイイとこに当ててんな。身を捩るが広げられた足はがっちり押さえられている。逃す気はないらしい。
腹筋に力を込めてなんとか上体を起こすもすぐ突き飛ばされて喉に噛み付かれる。食い殺されるんじゃないかってほど力を込められて一瞬息が止まった。その間にも攻め立てられ何も考えられない。全身が震えた。シーツを握り込みながら何度か身体が跳ねる。
ベニヒコは歯を食いしばり唸る。顔を上げればいやらしく口角を上げていた。

「とんだメス犬だな」

長い指が腹筋の溝をつたって粘ついた液体を掬った。働きの鈍くなった頭でもイかされたと分かり、屈辱で頭に血が昇る。
振り払おうとすれば両手首を磔にされた。

「まだだ」

まだヤる気かよ。こうなったら精魂尽き果てるまで貪られるだけだ。身体から力を抜けば

「オイオイ、根性のねえヤツだな」

首に手をかけられた。ゆっくりと気道を塞がれていく。視界がチカチカして手を引き剥がすことしか頭になくなり手首を掴む。
少し力が緩み大きく息を吸ったところでまた抽送が始まった。片方の手はまだ首を絞めるのをやめていない。
ベニヒコはニヤニヤしながら俺がもがくのを見下ろす。もっと抵抗してみせろと。
俺がこのケダモノから解放されたのは深夜になってからだった。

セックスが終わってからもしばらく動く気になれず、シャワーを浴びる気になったのは更に数分後のことだ。
ベニヒコは気が済むまで俺のナカに放った後、さっさと汗を流しに行った。あまつさえ蹲る俺を邪魔だと蹴り出しベッドを陣取る。
腹が立ったが早く後始末をしないと痛い目を見る。少しふらつきながらバスルームに向かった。
戻って来てみれば、ベニヒコは背を向け寝入っている。
今なら、いけるんじゃないか?
床に脱ぎ捨てられたベニヒコのジャケットをめくれば、ホルスターに入ったマカロフが顔を出す。サイレンサーを取り付け、足音を消しベッドに近づき銃口を突きつければ

ベニヒコは喉を鳴らして嗤った。
三白眼がギョロリとこちらを向く。

「どうした、ヤれよ」

口角が上がり犬歯が見えた。
面白くない。もっと恐怖や痛みに顔を引きつらせ解放してくれと叫ぶくらい追い詰めてやらないと気が済まない。
ああ、俺とベニヒコは案外似たモノ同士かもな。クソッタレなことに。
銃槍を確認すれば空だった。余裕なはずだ。いや、読まれていたのか?

「充分"遊んで"やっただろ」

ベニヒコはしっしと手を振り俺を追いやる。 

「俺ももう御免ですよ」

あん?とガンを飛ばすベニヒコを無視してソファに寝転ぶ。
"飼い犬に手を噛まれる"だけで済むと思うなよ。いつか喉笛に喰らい付いて、息の根を止めてやる。

end
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