神崎くんは床上手

ハナラビ

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千葉2

千葉2-2

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 ガタン、と玄関から音がして目が覚めた。ずいぶん長く夢を見てた気がする。気分は最悪で、とにかく恐ろしかった。寝起きの頭は混乱していて、今がどういう状況なのか上手く思い起こせない。鳥肌が立ってる。寒気もする。オレ、先輩に捨てられたんだっけ……
 
「……千葉?」
「あ……せ、先輩……?」
「もしかして寝てた?」
「は、ハイ……寝ちゃってたっす……」
「そういやお前、先週まで早番だったもんな。まだ体がそっちのリズムなんじゃねーの」
「そ……そう、なのかも……? よく分かんないっす……」
「自分の体のことだろーが」
 
 先輩は呆れたように笑って、オレが寝こけてたソファまで近付いてきた。このあたりでようやく夢じゃないことを思い出せて、でもまだ怖くて、オレはずいぶんと情けない顔をしてたらしい。

「すげー顔」
「え……そ、そっすか?」
「怖い夢でも見た?」
「…………」
「なんだよ……おい、なんとか言え」
 
 言い当てられたのが切なくて、ソファに腰掛ける先輩に思わず抱き着く。なんだか泣きそうだった。てか、ちょっと泣いた。ずず、と鼻を啜ると、先輩の手も諦めたように後ろに回った。
 
「うぅ~先輩……」
「ん?」
「だ、大好きっす……」
「…………」
 
 先輩はオレが好きって言っても、いつも返事をくれない。代わりに背中をぽんぽんと撫でられて、でも、オレはもうそれで良かった。拒絶されないなら、たとえゲイビに出させる為であったとしても、別になんだっていい。
 
「先輩……すいません、今日はご飯……作ってないっす……」
「ま、それはいーけど……つーかお前、風呂も入ってねえの?」
「はい……帰って、買ってきたやつしまって、そのまま……すぐ寝ちゃったっす……」
「ふーん」
 
 ちょっと体を離して先輩を見ると、そのまま先輩がキスしてくれた。
 
「……一緒に入るか」
「えっ」
「なんだよ。嫌ならいーよ、別に」
「や、ヤじゃないっす!! い、一緒に入りたいです!!!」
「スゲー食い気味じゃん」
「へへ……オレ、風呂洗ってきますね!」
「……じゃあ俺がなんか簡単に飯作るわ」

 先輩が呟いた言葉でたちまち元気になってしまう。オレは笑顔でもう一度先輩に抱きついた。
 
「わっ、やったー! 先輩のご飯、大好きっす!!」
「……分かったから離れろ」
「ハイ! すいません!」
「ったく……ああ、ついでに上着掛けといて」
「了解っす!」
 
 うう。幸せだ。本当に、あの頃からは考えられないくらい、幸せ。
 オレは元気良くソファから立ち上がって先輩の上着をしまうと、風呂場へ向かった。元気が出てきたら腹も空いてきた気がする。先輩、何作ってくれるんだろう。簡単にって言ってたから、パスタとかかな。先輩の作ってくれるパスタ、オレのと違って本当に美味いんだよなぁ。先輩が作り置きしてるソースのレシピ、今度聞いてみようかな。
 
 
 ◆
 
 
 先輩と再会したきっかけは、向こうから連絡が来たからだ。オレは一度引き継ぎに失敗してLINEのアカウントも変えてるから、連絡先にはほとんど友達がいない。野球部の繋がりは、偶然街で元チームメイトに会ったことで復活したけど、それ以外は本当に家族とバイト先くらいしかなかった。まあ、元々友達と呼べる人は少なかったし、その友達と遊ぶようなこともほとんどなかったから、別に不便は感じてなかった。
 そこに、神崎先輩からいきなり連絡がきた。
 一体どこからどうやってアカウントを知ったのか分からない。でも間違いなく神崎先輩からで、警戒するオレに有無を言わさず約束を取り付け、一緒にご飯へ行くことになった。確か肉だったな。そうだ、すげー高い焼き肉屋で、先輩がどういうつもりなのか分かんなくてめちゃめちゃ怖かったっけ。肉は美味かったけど。
 それからしばらく、先輩がたまにオレのバイト先に来るようになって……ガソリン入れてくだけの日もあれば、オレが上がるのを待ってそのまま飯に行ったりとか、そんな日が続いた。
 ちょうどその頃にオレの家が火事になったのはマジで偶然で……大して私物はなかったけど、唯一持って行ってた高校時代のグローブとかも含めて、全部焼けてしまった。流石にあの火事は先輩の仕込ではないらしい。何回か確かめて「俺はそんな直接的に犯罪になるようなことはしねえよ」って否定されたけど……まあ……そうだよな。結局放火じゃなく他の部屋の火の不始末だったって話だし。
 そこで先輩がうちに来るかって言ってくれたんだ。不仲な訳じゃないけど、実家には帰りたくなかったから、オレは有り難くその申し出を受けることにした。ずっと使ってるエナメルバッグ一つ持って、先輩の家へ転がり込んだんだ。
 そうして一緒に住むことになって、また……え、エッチもしちゃって……そんで、騙されてゲイビに出させられて……今思えば、とんでもない話だ。でもオレは性懲りもなく先輩のことが好きになった。
 大丈夫。まだ捨てられてはいない。
 てっきり用済みになったらまた捨てられるのかと思って……初めての撮影中に騙されてたんだって分かったとき、山下さんに抱かれながらオレはすっかり絶望的な気持ちになっていた。でも、その日以降も先輩は優しいままだった。いや、普通に怒鳴られるし叩かれるし足蹴にされるけど……さっきみたいにすげー優しいときがあって、その割合が最近また多くなってきたなーって思う。
 だから、今は幸せ。あの日絶望してたオレに教えてあげたいよ。
 
 
 ◆
 
 
 先輩が作ってくれた美味すぎるボロネーゼを食べ終わると、宣言通り一緒に風呂も入ってくれた。嬉しすぎる……
 
「……んッうあっ♡先輩っ♡だ、だめっすよ……!」
「ダメじゃねぇだろ、千葉……もうこっちは期待しまくってんじゃねーか」
「そ、それは……っ先輩に触られると……オレ、勝手にこうなっちゃうんすよぉ……♡」
 
 風呂場の壁に手を付いて、後ろから先輩に体を触られてる。それだけでオレのチンコはもうすっかり硬くなってて……冷たい壁に触れそうになるから、ついケツを後ろへ突き出すような格好になってしまう。そうすると、先輩の指が簡単にその辺りを弄りまくれるわけで……
 
「ひっぅ♡あ、あっ♡」
「中、もう柔らけーぞ」
「……うぅ……♡も、もう……欲しいっす……♡先輩……♡」
「……力抜け」
「あっ♡ああッ♡♡」
 
 いつもよりちょっと摩擦が大きくて、ほんのすこし怖い感じがした。でも、揺さぶられてるうちにすぐ気にならなくなって……先輩の動きに翻弄されるまま、オレは時刻も忘れて喘ぎっぱなしになる。先輩の手が背後から乳首を弄って、そこの刺激がビリビリとチンコを伝っていくから、それだけでオレは堪らず射精してしまっていた。触ってもいないのにびくびく跳ねて、精子が風呂場の壁に飛んでいく。
 
「……っ千葉……」
「あッ♡う♡んん……っ♡♡」
 
 ぎゅ~っと自分のケツが先輩を締め付けてるのが分かる。それでまた軽くイった。頭が痺れるくらい気持ちいい。先輩がすぐ後ろでちょっとだけ苦しそうに息を吐いて、オレを抱き締めて、腹筋を撫でた。そこから先輩はゆっくり体を起こすと、こっちの腰を力強く掴んでくる。それだけで今からどんな刺激が与えられるのか分かって、期待で頭がいっぱいになってしまう……
 
「んんっ♡あ、ああっ♡♡」
 
 激しく腰を打ち付けられ、吐き出してひと息ついていたオレのチンコが衝撃に何度も揺れた。そこからまたなにか、よく分からない気持ち良さが駆け抜けていったけど、何を出したのか確かめてる余裕はない。先輩は自分本位に動いているように見えて、実はオレの中の気持ちいいとこを狙い打っているので、オレはもう、崩れ落ちないように踏ん張るだけで精一杯だった。
 はあ、気持ちいい。先輩とエッチしてるときが、一番気持ちいい。
 やがて動きを止めた先輩が中に吐き出して、後ろからまたぎゅっと抱き締められる。項に分厚い唇を押し当てられてぞくぞくした。
 
「あ、ぅ……ッ♡♡」
「はぁ……」
 
 先輩が抜け出ていく。すぐに振り返って、キスを強請りにいった。オレは先輩とするキスが好きだけど、先輩もキス自体かなり好きみたいで、最近は特に家の中でしょっちゅうしてる気がする。先輩が風呂場の壁に腕をついて、オレの頭を撫でた。
 
「……そろそろ上がって寝るか」
「ん……ハイ。先輩、あの……も、もしよかったら、最後に前からもぎゅーって、してくれませんか」
「んー?」
「ん……ッ♡ちが……っこれはちゅーっすよぉ!」
 
 先輩がニヤニヤ笑って体を流し、風呂から出ていく。オレも風呂場を綺麗にして、排水口が詰まらないように浴槽から大量にお湯を流しつつ……それからケツを洗って風呂から出た。
 も~先輩っ! 風呂でヤると後が大変なんすからねっ!







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