神崎くんは床上手

ハナラビ

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山下1

山下1-2

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 撮影が始まると、千葉くんは素人なりに頑張っているように感じた。おれから見ればずいぶん拙い演技だったけど、千葉くんは体格が良いし、マネージャー役のココネはかなり小柄だったから、覆い被さっているだけでそれなりに画になった。そんな部室へおれたちがドカドカと入っていくと、千葉くんは心底びっくりした様子で、でもどこかまだぽかんとしていた。その顔を掴んで床に押し倒す。

「っう!? あ、あの…………んむぐっ」
 
 分担してあった通りに一人が猿轡を嵌める。戸惑ったまま余計なセリフを言われるとまずいからだ。それから両手首もまとめて拘束した。ココネにはその間に捌けてもらう。彼女の出番はここで終わりだ。
 予め清掃はしてあったが、冷たい床に倒された千葉くんは、困惑するままおれを見上げてきた。その表情を収めようとカメラが寄ってくる。おれは撮影するための間を空けてから、戸惑う千葉くんの耳元にそっと囁いてやった。
 
「騙されたんだよ、お前は」
「……ぅ、ウッ」
「マネとヤれると思ったか?」
「ウゥーッ」
 
 千葉くんが暴れる。大人しければさっさと外しても良かったが、これじゃまだ轡は取ってやれないな。キスが好きって事だったけど……まあ、それが使えなくても色々とやりようはある。神崎さんがしっかり仕込んでるみたいだから。
 本当はこういう企画モノなら、まず導入部分を先にちゃんと撮る。今回で言うなら……千葉くんが先輩に唆されるシーンだったり、マネージャーに性欲を拗らせてる描写だったり。でも千葉くんは演技に関してズブの素人だというから、今回は撮らなかった。だから設定として存在していることも、多少は捻じ曲げてもいいわけで。
 
「……先輩が見てるぞ」
 
 おれはそう囁いた。びくりとして、千葉くんは撮影陣の方へ視線を彷徨わせる。カメラの横で千葉くんを鑑賞する神崎さんを見つけて、たちまち瞳を潤ませると……千葉くんは泣き出してしまった。
 
「ウッ……ゥゥ……」
「ハハ、何お前、本当はマネージャーじゃなくて先輩が好きだったのかよ」
「ウ~……」
「じゃあその先輩に、お前の感じてるとこ見せてやろうぜ?」
 
 手早くユニフォームのボタンを外し、アンダーを捲くり上げてやると、千葉くんが途端に恥ずかしそうに身を捩った。顔が真っ赤になっている。
 
「っう、ウッ♡♡」
 
 泣いて恥ずかしがっている割に、乳首をひと撫でしてやると千葉くんは気持ち良さそうに呻いた。瞬く間に硬くなってぴんと勃ち上がった場所を、更におれの指で転がしてやれば……千葉くんはもうすっかり堪らない様子で、身体から力が抜けていった。
 そう、これだよ。形のいい眉根が寄って、フゥフゥと息を吐いて、ぽろぽろと涙を流して。あーあ。そんな顔、きっと神崎さん以外に見せたことなかっただろうに。
 
「ん、ぅ……♡」
 
 尻を撫でると再びすこし恥ずかしそうに身動ぐ。それがどう見ても腰を揺らめかせ、誘っているようにしか見えない。ユニフォームの上からそろそろと孔をつつく。もどかしげな様子。
 
「……先輩に抱かれたいんだ?」
「ぅ……♡」
 
 こくん、と頷く。もうまともな判断はできなくなってるみたいだ。カメラのことさえ忘れてんじゃないだろうな。でも素の反応だから、画としては面白い。さすが、神崎さんが連れてきただけはある。
 
「先輩の前に、まずはおれらの相手しろよ」
「ウ……ッぅう……」
 
 千葉くんは悲しげに呻くと、それでも観念したように脱がされてくれる。まあちょっとコンセプトとは違ってきた気もするけど、おれのアドリブにもカットはかからないし、このままでいいんだろう。全部脱がせてしまうか悩んで……結局片足だけ抜いておくことにした。せっかく野球部っていう企画だし、衣装も不思議と千葉くんに似合ってるから。
 カメラの外でローションを少量垂らして、神崎さんに仕込まれたというアナルを丁寧に構ってやる。指一本くらいなら難なく飲み込むし、なかなかに感度もいい。
 
「う、う……ッ♡♡」
 
 更にこの顔だ。手首はともかく、轡はそろそろ良いだろう。外したほうが撮れ高がある。もう観念したみたいだし。
 それなり頑張って抵抗してしまったのか、赤くなった口の端が痛々しい。しかしこれで、レイプモノとしての最低限の体裁は保てそうだ。

「ど、して……こんな……」
 
 千葉くんは悲しげにつぶやいた。可哀想に、こんな状況でもまだ神崎さんを信じたいのか。
 なにか理由が欲しいならと、おれは設定を逸脱しない範囲でセリフを捻り出す。
 
「先輩がさ、クソ生意気なエースピッチャーを犯せって言うんだよ」
「あ……ッそんな……そんな……こと……」
 
 千葉くんは目を見開いて、いっぱいに涙を溜めて、それから震える声を絞り出した。
 
「やっ、ごめんなさい……ッごめんなさい、許して……」
「…………」
 
 一瞬他の男優と目を合わせたが、向こうは露骨に困り顔をしている。何が千葉くんを動揺させたのか分からないけど、展開的に好都合ではあった。
 
「オレ……ッごめんなさい……先輩……ッまだ……っオレのこ……ぅ、ん……ッんん」
 
 何かまずいことを言いそうな気がして、慌てて千葉くんの唇を塞いだ。でも、千葉くんが好きそうなキスはしてあげられなかった。荒々しく唇に吸い付き、舌を捩じ込みながら考える。
 ……どう見ても……これは演技には見えない。まさか、本当に似たようなことが過去にあったとでも言うのだろうか?
 唇を離し、手早くゴムを着けて、千葉くんが何か言う前に挿入した。キツかったけど、それなりに慣らした甲斐あってちゃんと飲み込んでくれる。
 
「あ……ッう、あぁ…………」
 
 千葉くんはまた啜り泣き始め……でもそれも、抽送を繰り返してやる度に、泣き声に混じる甘い部分が増えていく。へぇ、やっぱちゃんと中で感じるんだ。神崎さんにしっかり仕込まれてるらしい。
 
「う……ぁッ♡ん……く、ぅ……っ」
 
 おれが視線で合図すると、両脇にいた男優二人が千葉くんの乳首を苛める。それでまた一段と千葉くんは乱れ、頭を振って逃れようと藻掻いた。
 
「あ、あぁッ♡や、だめ……ッ♡ひっあっ」
「乳首弱いんだ?」
「……っよ、わくないッ♡」
「おいお前ら、吸ってやれよ」
「あぁ……っ♡♡ウッ♡ぁ…………♡♡」
 
 乳首に男優の一人が吸い付いた途端、触れてもいなかった千葉くんのペニスから白濁が飛んだ。鳩尾の辺りまで飛ばして、ビクビクと震えている。……すごいな。
 体位を変えても良かったけど、おれの絡みが終わるまではこのままで行くことに決め、腰を振った。
 正常位でガンガン突き上げてやると、千葉くんはしっかり中イキもしていた。ぎゅうぎゅうと締め付けてくる熱い内側は、鍛えてるだけあって良い心地だった。収縮する割れた腹筋がエロい。
 ……これは人気出ちゃうだろうな、千葉くん……
 
 引き抜いてゴムを外し、千葉くんの顔に持っていくと……なんと大人しく吸い付いてくる。こちらは顔にかけてやろうかと思っての行動だったわけだけど、千葉くんは眉根を寄せながら吸い出し、必死に嚥下を試みている。
 ……まさかこれも、神崎さんに仕込まれた動作だっていうのか。結局飲み込めずに吐き出してしまったけど、それはそれでエロかった。
 
「次はこっちな」
 
 手首の縄を解き、別の男優にバックで突き挿れられた千葉くんの上半身を、おれが抱き支えてやる。縋り付いて来る千葉くんの乳首に手を伸ばすと、耳元に切ない声が届いた。
 
「あ♡あ……っ♡♡や、だめ……また、イくっ♡♡」
 
 精液が床にびちゃびちゃと飛んで、千葉くんの身体から力が抜けていく。
 
「はぁ……っ♡」
 
 うっとりと余韻に浸り、体をヒクつかせる千葉くんは本当にエッチで、おれもまた勃ってきた。今日は店も休みだし、もうこのあとは撮影の予定だってないから、配分は考えなくていい。
 それからも何度か体位と挿入役を変えて撮影は続いた。最後に放心する千葉くんに男優みんなでぶっかけて、そこでカットがかかる。
 
「千葉くん~良かったわよッ♡久々にアタシも熱くなっちゃった!」
「…………う……」
「監督、すみません。撤収お願いします」
「ンもう……分かったわ。千葉くんは神ちゃんにお任せするわね♡ハイみんな~ッキリキリ片付けるわよっ!」
「あー……山下は残って、千葉運ぶの手伝ってくれ」
「……分かりました」
 
 他の人間が出ていく間に、おれも脱ぎ散らかしていた下着を穿いて……二人が動くのを待った。人が出ていく間、神崎さんは床に仰向けに倒れている千葉くんを、しゃがんでジッと見つめていた。千葉くんが体をそちらへ向けつつ、恐る恐るといった感じで尋ねる。
 
「せ……先輩……オレのこと……まだ、うらんでますか」
「バカ、そんなわけねーだろ」
「で、でも……じゃあ、なんで……?」
「……ちーば。頑張ったな。えらいぞ」
 
 疑問を封殺するように、神崎さんが千葉くんの頭を撫でる。そこでおれは、千葉くんがまだ神崎さんに恋したままなのを知った。その手に擦り寄るように身動ぐから、神崎さんが撫でる部分を頬に変えてやる。すると千葉くんはその手に縋り付き、またぽろぽろと涙を流しながら呟く。
 
「せんぱい……オレ……終わったらもう、用済みですか……?」
「……いや。そんなことねえよ」
「よかった……じゃ、じゃあ……まだ、一緒にいても……いいんすか……?」
「ああ」
 
 おれはすっかり絶望的な気持ちになって立ち竦み、二人を見下ろしていた。一体どうすれば千葉くんの目を醒まさせることができるのだろうか?
 おれも神崎さんにはお世話になっているし、返しきれない恩があるとはいえ……正直言って、この人はこんなに純粋な恋心を向けるには、あまりにも不適切な人物だろうに。
 
「神崎さん、そろそろ」
 
 とりあえず場の空気を切ってやろうと思って発した言葉だったが、神崎さんは黙って頷いた。
 
「千葉、立てるか?」
「た、たぶん……うう……どろどろだ……あっ床に……すいません」
「いーから。気にすんな」

 千葉くんが起き上がると、腹に溜まった精液が床に零れ落ちた。どうせ後でスタッフが清掃するだろう。
 
「この棟にシャワールームあったよな」
「はい。連れていきますか?」
「先に他の奴らがいないか見てきてくれ」
「……分かりました」
 
 おれは用意されていたバスローブを羽織って部室から出た。他の男優たちは手早く浴びることに慣れているので、この五分もしない間に出ていったようだった。それを神崎さんに伝えて、千葉くんを運ぶ。シャワーブースが四つほど並んでおり、入口から一番近くへ千葉くんを連れて入った。バスローブを脱いだおれが一緒に浴びてもいいと思ったけど、神崎さんが服が濡れるのも構わずお湯を出してしまう。
 
「っか、神崎さん! 濡れますよ」
「あっ!? せ、先輩……!」
「いーから。山下、支えてろよ」
「は、はい」
「先輩……っ、ん……」
 
 千葉くんは震える体に力を入れて、なんとか踏ん張っている。おれも必死にそれを支えた。神崎さんの手が、優しく汚れを撫ぜていく。
 
「せん、先輩……ぁっ」
「ふ、元気だな千葉。あんなにイったのに足んなかったのか?」
「ちが……っ! その、せ、先輩に触られると、オレ……ッ」

 千葉くんは真っ赤になって俯く。そのずっと下にあるペニスが硬度を増して上向いていた。いやほんと、若いな。
 
「……後でしてやるから、我慢しろ」
「は、はい……っ」
 
 あーあ。どうするんだ、こんなの。千葉くんはすっかり嬉しそうで、照れたような笑顔まで見せている。
 ……いいか? お前は今このクソみたいな先輩に騙されて、知らねえ男三人に代わる代わる犯され……挙句の果てにこれからそのビデオが売られるんだぞ……?
 
 バスローブに包んだ千葉くんを先に控室へ運び、タオルで髪を拭くように伝えて、オレは神崎さんの着替えを取りに行った。相変わらず神崎さんが何考えてんのかは全然分からないけど、何着かの着替えが車に積んであった。その袋を持ってシャワールームに戻る。
 
「山下。なんか言いたいことあるなら言え。今のうちだぞ」
 
 神崎さんは脱いだ服を絞って、タオルで体と頭を拭いている。
 おれは何をどう言うべきかかなり迷った。
 
「……神崎さんって、千葉くんをどうしたいんですか」
「ふは、あんな演技したくせにそれ聞くのかよ」
「…………」
「ま、いーよ。……別にどうもしねえ。あいつが離れて行けば、それで終わりだろうな」
 
 おれは露骨に顔を顰めて見せた。すると神崎さんは、へえ、と面白そうにおれの表情を眺める。
 
「……珍しいな。あいつが気に入ったのか?」
「そういうわけじゃないです」
「フーン……」
 
 神崎さんは洒落た柄の入った黒いTシャツに腕を通し、頭から被って着ると……不意に笑って、おれのLINEにメッセージを送ってきた。
 
「パスは……そうだな。TIBAでいいか。誰にも教えんなよ」
「……なんですか? これ」
「今からだと……三十分後ってとこか。興味あったら見とけ」
「ちょ、ちょっと……」
「じゃ、おつかれ。今日良かったぞ。また頼むわ」
 
 神崎さんは一方的に捲し立てると、困惑するおれを残して帰ってしまった。
 
「あッ山ちゃ~ん! いたいたぁ! 今日お店無かったわよね? これから送ってってあげるわよ。乗ってくでしょ?」
「あ、はい……いつもすみません。ありがとうございます」
「いいのよ~今日も完璧だったから♡」
 
 おれは神崎さんの様子に内心首を傾げながらも、手早く片付けて校舎を後にした。
 
 
 ◆
 
 
 送られてきたURLを開いて、それがアダルト配信サイトだと気付くと、おれは思わずスマホを取り落しそうになった。確かによく見てみればこのURLは……そういうことか。パスワード付きになっているから、とりあえず教わった通りにTIBAと入れる。
 視聴者は一人。おれだけだ。
 行為はもう始まっていた。

『ぅ……先輩』
『千葉……騙して悪かった』
『……こ、怖かったっす…………あの、でも……もう、いいんです……』
 
 一体どこにカメラを置いているのか、薄暗くて映像も音声も荒かったが……どうやらベッドの上で抱き合っているらしい二人が見えた。
 千葉くんの言葉に耳を疑う。まさか、あんなことをされて……もういいだって? 
 
『先輩……オレ……上手くできてましたか? 先輩の役に……立てましたか……?』
『ああ。できてたよ。ありがとな』
『へへ……』
 
 千葉くんが嬉しそうに神崎さんに擦り寄る。
 
『先輩、あの……撮影の前に言ってたことは、ほんとっすか? あれも嘘?』
『ほんとだよ。何でもしてやる』
『じゃ、じゃあ……か、彼女にするみたいに、してください……』

 おれはここで頭を抱えてしまった。そんなの覚えたら、いよいよ戻れないだろう。いや、もしくはもう経験があるのか。どっちみち、これが千葉くんの片想いであることを決定付ける一言でもあった。少なくとも二人は、そういう関係ではないのだ。
 
『ん……ッんぁ……♡』
『まだ敏感だな』
『あ♡先輩……♡』
『プロに抱かれてどうだった? 気持ち良さそうだったけど』
『せ、先輩のことばっかり、考えてました……』
『ふ、そうか』
 
 ここで、おれの中にふつふつと沸き上がるものがあった。煮え立つようなこの感情は……人生でずっと考えないようにしてきた、そうだ、怒りだ……
 でも同時に、遣る瀬無さというか、諦めのような気持ちも襲ってきた。神崎さんがこれを見せた理由が分かったような気がした。
 千葉くんはたぶん、この先……神崎さんが向かう地獄に、這ってでも付いていくんだろう。それを止めたいなんて、野暮にもほどがあったのだ。
 
『ちーば。可愛いな』
『先輩……っすき、好きです……♡』
 
 多分おれはまた、神崎さんに呼ばれて千葉くんを抱く機会があるだろう。内心でこの神崎さんと比べられながら、それでも萎えさせないように奮い立たせて抱くんだ。そしてそれができるかできないかで言われたら、たぶん、おれにはできてしまう。
 下腹に燻る熱が、千葉くんのことも、神崎さんのことも、はっきりと覚えている。
 
『千葉……ッ』
『あっあぁ……っ♡♡』
 
 でも今、画面の向こうにいる神崎さんに、一年前に問うたことをもう一度聞いてみたい。
 
 ――神崎さんは、誰かに感情を揺さぶられたりしないんですか。
 

 
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