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《第4期》 ‐鏡面の花、水面の月、どうか、どうか、いつまでも。‐
『花束の盾』 6/6
しおりを挟む駅前までロミアを見送った後、「今日の出来事について改めて話す必要がある」と言う天井花イナリに連れられてひづりは再び山梨にある紅葉の仕事部屋へと戻って来ていた。時計はもう二十一時を回っていたので、ひとまずひづりは父にもう少しだけ遅くなるとだけ伝えて切った。
「あれ、まだどこかへ《転移》するんですか?」
電話を終えるなり天井花イナリが俄かにまた《転移魔術の魔法陣》を描き始めたのでひづりは訊ねた。
天井花イナリは首を横に振った。
「これは《ヒガンバナ》が普段隠れておるのと同じ《転移魔術の蔵》じゃ。移動用ではない。少々込み入った事になって来たからの、今後は《アウナス》や《イオフィエル》らに聴かれる訳にはいかん重要な話はこの中でする」
「あぁ、そういう事ですか」
紫色に輝く《魔法陣》の真ん中にぽっかりと開いた大穴へまず天井花イナリが入り、そこへひづりも続いた。中は真っ暗でほぼ何も見えなかったが、そこそこ強い土の臭いだけは入ってすぐに嗅覚を刺激した。
少しすると入って来た大穴は小さくなり《魔法陣》の輝きも消えて辺りは全くの暗闇になった。ひづりが不安になって思わず天井花イナリの名を呼んだところ、彼女はすぐにマッチで火を点け、それから壁に用意していたらしい松明に一つずつ明かりを灯していった。
松明の火が十個ほどになった頃、ひづりの目もずいぶん慣れ、その空間の大まかな姿が把握出来るようになった。
「わぁ……」
そこは数えきれない程の横穴が穿たれた洞窟だった。広さは大体学校の教室と同じくらいに思えたが、音の反響具合や松明が照らしきれていない事から考えるに、天井はかなり高いところまであるようだった。
「《ソロモンの指輪》や万里子の遺産を何処にしまっておるか等はいずれ話すが、今日はもう遅いからの、諸々の確認と当面の話をしておく」
天井花イナリはそこら中に転がっている宝飾品や古い宝箱らしき物の陰から何やら白っぽいふわふわした物を引っ張り出して来るとそれをひづりと自分の足元に置き、座った。促されてひづりも座ってみると、それはどうやら暖かい羊毛の塊だと分かった。
「まず《イオフィエル》が語った事じゃが、地球の創世の話と、わしが持つ《指輪》の話、あれらは事実じゃ。しかし、《天界》内部の事情、特に大戦以降の話は、ほぼ全て今のわしらには確認しようの無いものばかりであった。故に、今後一つ一つの真偽が分かるまでは、あれらは最初から聞かんかったものと思うておれ」
「はい。私も話を聞いててそう捉えるべきだろうなって思ってました」
ロミアの文化祭云々の話くらいならともかく、その前に《イオフィエル》が語った内容はどれも正しい情報であった場合と嘘であった場合の差があまりに大き過ぎた。《封聖の鳥篭》の件一つとっても、《イオフィエル》は今後はもう《アウナス一派》の手に渡る事は無い、なんて言っていたが、それを信じて行動しもし嘘だった場合、タイミング次第でこちらは壊滅的な被害を受ける恐れがある。《イオフィエル》の言葉がこちらを騙すためのものである可能性を捨てきれない以上、今後の方針を決める上であれらは参考にする訳にはいかない。
……ただ。
「ただ、私はどちらかと言うと、《イオフィエル》が言った事より、《言わなかった事》の方が少し気になってます」
ふむ? と天井花イナリは微かに眉を上げた。
全くの勘違いかもしれないが言うなら今だろうと思い、ひづりは打ち明けた。
「ロミアさんや《イオフィエル》の前で言うべきじゃないかもと思ってあの時は言わなかったんですが……先月くらいから続いてる天井花さんや和鼓さんの不調って、もしかして《イオフィエル》や《アウナス》が何かしてる……って可能性、ありませんか……?」
ひづりが気になっていたのは他でもないそれだった。ロミアは《アウナス一派》に捕まって《和菓子屋たぬきつね》のスパイをしていて、《イオフィエル》はそんな彼女から《和菓子屋たぬきつね》の内情を聞いたと言う。なら、天井花イナリの《千里眼》の不調や、ここしばらく続いている和鼓たぬこの体調不良についても当然聞いているはずなのだ。でありながら、《イオフィエル》は今日それについて一度も触れなかった。本当に天井花イナリに《アウナス》を討って欲しいなら、原因不明のまま続いている天井花イナリの不調について幾らか気にしたって良いだろうに。
「たとえば、たとえばですけど、《悪魔にだけ効く呪い》……みたいなものを、《アウナス》と《イオフィエル》が《和菓子屋たぬきつね》に掛けていて、それで天井花さんが衰弱するのを待っている……なんて事は無いんでしょうか?」
「…………」
天井花イナリは羊毛の中に埋もれたまましばらく黙っていた。
やがて彼女は言った。
「実のところ、《千里眼》は筑波山の一件以来、一切使えんようになっておる」
「っ!? そうなんですか……?」
思っていた以上に症状が悪化していたと知り、ひづりは言葉に詰まった。
「ああ。すまぬな。もう少し早く話すつもりであったのじゃが」
「いえ……」
しかしひづりも本当は少しだけ「そうなんじゃないか」という気がしていた。天井花イナリは今日二度この紅葉の仕事部屋へ《転移》を行ったが、そのたびに必ずひづりに紅葉へ電話を掛けさせ、仕事部屋の中に誰も居ない事を確認させていた。問題無く《千里眼》が使えているのなら、仕事部屋の中に紅葉がもし居ても連絡などする必要なく、ただ紅葉の座標と重ならないよう《転移》をすれば良いだけだった。しかし天井花イナリは今日その二度の《転移》を行ったどちらのタイミングでも確認の連絡を要していた。
「じゃが、それはそれとして、わしらの症状が奴らによるもの、というのは些か考え難い」
天井花イナリは難しそうな顔をしつつも真っ直ぐな声でそう言った。
「わしの《剣》、《人の争いを調停する力》、そして《未来と現在と過去を見る力》は、いずれも《ボティス》に付随する《権能》であって、《魔術》ではない。わしの知る《悪魔》に《魔術封じ》を使う者はおるが、あれはその名の通り《魔術》にしか効かぬし、効果も二時間程度でいつも消えておった。直近で最も《天使》と《悪魔》が激しくぶつかりあった大戦に於いても《権能封じ》なるものの情報は耳に入って来んかった故、それを今になって《天使》どもが開発に成功し、わしやたぬこに対し斯様に一か月ほども効果を発揮しておる、とは、どうもな」
「そう……ですか……。もし原因が《イオフィエル》たちにあるなら、今後ロミアさんを介して何か解決方法を聞き出せたりするかも……なんて思ったんですが」
ひづりがロミアと文化祭の件で賛成票を入れたのはそうした打算もあってだった。
「ふむ。まぁ、《封聖の鳥篭》の件もある。わしの思う以上に《神器》とやらはその数が多いらしいからのう。確率は低かろうが、それでも奴らが原因である可能性はお主の言う通りゼロではない。その気遣いは心地よい」
穏やかな声音で言われ、ひづりはちょっと気恥ずかしくなった。
「それよりも、じゃ。わしの事よりもっと重要な話がある。ひづり。お主の、あの《紫陽花の様な防衛魔法陣術式》についてじゃ」
「あ、あぁっ。はい」
そういえば店に着いた時彼女はそれについて何か話そうとして、しかし《イオフィエル》たちのせいで聞きそびれていたんだった、とひづりは思い出した。
「これこそまこともっと早くに伝えるべきであった。故に単刀直入に言う。ひづり、あれはもう使うてはならん」
彼女のその苦々しい表情と差し迫った様子にひづりは困惑した。
「え、ど、どういう事ですか?」
「厳密に言えば、あの時お主が体の外へ飛び出させ、今日も同じようにやって見せた、《魔術血管の発芽》とでも言うべきあの行為じゃ。《主天使》どもの襲撃の後、わしは《フラウロス》に何度も《過去視》を使わせ、エドガー・メレルズやその祖先について調べさせた」
「エドガー……って、確か母さんのお爺さん、ですよね? 良いとこの《魔術師》だったけど《フラウロス王》に会ったのが原因で《魔術師》を辞めちゃったっていう……」
「ああ。それで分かった事じゃが、皆が皆という訳ではないようであったが、それでもどうやらエドガーを含めお主の祖先には《魔術血管の発芽》が可能な《魔術師》がごく稀にではあるが度々発生しておったようじゃ。メレルズが名家とされておったのもそれが理由の一つであったらしい」
「そう……なんですか」
自分や母にあれが出来たのは血筋によるものだったのか、とひづりは納得したが、天井花イナリの表情は暗いままだった。彼女は続けた。
「しかし同時に、メレルズ家や《魔術伝承開発協会》からはその《魔術血管の発芽》の濫用を禁じられてもいた。わしにも原理は分からぬが、《発芽》を繰り返した《魔術師》は次第に頭から小さな《角》が生えたり肌が紫色に変化する、といった、まるで《魔女》と同じような肉体の変化が出始めておった」
「……え。ちょっと待ってください、それってつまり……」
天井花イナリはひづりの眼をじっと見つめた。
「お主の体も既に《魔族化》が始まっておる、という事じゃ」
ひづりは己の体を見下ろした。
「わ、わかりません。全然そんな感じはしないです」
「わしも今日まで懐疑的であった。というより、思い違いであって欲しいと思うておった。それゆえ《フラウロス》の《過去視》による確認にも時間を使うてしもうたが……しかし今日、あのロミアという《魔女》の体を見て確信したのじゃ」
「ロミアさん……?」
天井花イナリはひづりのカーディガンを顎で指した。
「お主、あれから一枚上に羽織る様になったであろう。毎日、そのように」
「え? はい、そうですけど……」
「寒いのであろう」
「それは……まぁ、もう十月ですし……」
この間夜不寝リコと同じようなやりとりをしたなとひづりは思い出した。
「違う。今日の東京の気温は先週と同じじゃ。それにこの《蔵》の中も調節してある故、先週のお主ならば寒気なぞ感じんかったはずなのじゃ」
「え……」
天井花イナリは目を伏せ、眉間に皺を寄せた。
「下がっておるのじゃ、お主の体温は、あれから。あのロミアという《魔女》、今の時期の日本にしてはやけに厚着をしておったであろう。《先代のボティス》も一度だけ《ボティス国の悪魔》を使っておった《魔女》と会った事があったそうじゃが、ロミアと同じく、そやつもかなりの寒がりであったと。低温に弱いわしら《蛇の悪魔》をその身に取り込んだ影響なのであろう。そしてそれに似た症状が、《主天使》の襲撃で《魔術血管の発芽》を使ってからというもの、お主の身にも起き始めた」
天井花イナリは這う様にして近づき、ひづりの両手をそっと掴んだ。
「お主、あの瞬間まで《魔術血管の発芽》なぞ……あのようなやり方、一度もしておらんかったであろう? あの時、何があった? お主は何に気づいて、《魔術血管》をあの様に使えるようになったのじゃ?」
彼女の緊迫した表情にひづりも息を呑んだ。
「あ、あの時は──」
《主天使》によって《檻》に捕らえられ、両腕を切断され、追い込まれていたあの月曜日の事をひづりは思い起こした。
「母さんみたいに《防衛魔法陣術式》を一度にもっとたくさん出せたら、って思って……。それから……そうです、地面に落ちてたイモカタバミを見て、昔母さんが花について話してくれた事があったのを思い出して……」
「万里子が……話しておった事……?」
「はい。花は根や茎が大事なんだ、とか、いつか花を育ててみて欲しい……みたいな、母さんにしてはまともな事言ってたので、それで憶えてたんです。そのあと、何でか急に自分の《魔術血管》が見えるようになって。それから、《魔術血管》を……なんて言ったら良いんでしょう、伸ばさなきゃいけないような、そんな気持ちになって。練習でイモカタバミに掛けていた《滋養付与型治癒魔術》、あれのやり方が、イモカタバミの根とか葉脈に《魔力》を流し込んでいくあれが、なんだか《魔術血管》の感触に似ていて……それであまり考えずにやってみたら、そのまま出来てしまって……。《魔術血管》を体の外に出したら、《魔術》を発動する時、《血管》の先端一つ一つに複製したみたいに同じ《魔法陣》をあんな風に同時に沢山出せるようになったんです」
上手く言語化できない部分が多かったが、嘘偽りなくひづりはあの時自分の中で起きた事の全てを伝えた。
「…………そうであったか」
すると天井花イナリは額を押さえ、苦悶の表情を浮かべた。
「万里子はあれを《花束の盾》と呼び、何度もわしの《剣》を受け止めるのに使っておった。恐らく《過去視》が使える《グラシャ・ラボラス》からメレルズ家の特徴や《魔術血管の発芽》について聞き、身につけたのであろう。あやつは人生の目的と寿命が明確であった。家族のためにわしを《天井花イナリ》として捕まえておくためなら、己の体が《魔族化》していく事にも躊躇いは無かったのであろう。……しかしまるで分からぬ」
彼女はひづりの手のひらを見つめたまま、此処に居ないかつての《契約者》に対し声を荒らげた。
「何故それをひづりに教えた? 実の娘を《悪魔》に変えるなぞ、あやつの願いとは真逆であったはず。それをどうしてこの様な形で……。うかつであった。こんな事になるならばひづりに《滋養付与》を教えるのでは無かった。よもやあれが《メレルズの魔術師》の《魔術血管の発芽》を促す事になるなぞ……」
思い詰めた様子の彼女にひづりは慌てて言葉を探した。
「だ、大丈夫ですよ天井花さん! こんなこと誰にも分りませんでしたよ! それに、天井花さんが《滋養付与》を教えてくれたから、私たち先月凍原坂さんや《フラウ》さんの力になれたんじゃないですか! あと……そうです! 見てください、私まだ全然大丈夫ですよ! 寒いって言っても本当に上着一枚くらいの差ですし……ほら、ロミアさんみたいな《角》だって生えてませんし…………あは……。……恥じ入るなら、私こそです。強い《魔術》を手に入れたつもりになって、良い気になってたんですから……」
ひづりは小さくなって肩を竦めた。あの《花束の盾》の様な強力な《魔術》を、何の勉強も努力も無く、またリスクも無くいきなり使えるようになるなど、そんな便利な話があるはずなかったのだ。
「それに、母さんの事で天井花さんが気に病まなきゃいけないなんてこと、絶対ありませんよ。だって母さんたぶん、あんまり難しい事考えてなかったんだと思いますから」
ひづりが言うと天井花イナリは徐に顔を上げた。ひづりはちょっと笑って見せた。
「天井花さんの事もそうじゃないですか。『話の通じる強い悪魔と契約していれば家族の未来は安泰だ』なんて思いついて、それから二十二年間も天井花さんを騙す方法を考えて、実際にこうして私達に天井花さんの《契約印》を遺したじゃないですか。それと同じで、きっと『強い悪魔と暮らすなら、身を護るための強力な魔術が必要だ』って、そんな風に思ったんじゃないでしょうか。それであの《花束の盾》のヒントを私に教えたんだと思います。たぶんですけど、母さんの事ですから、本当にそれだけなんじゃないか、って私思うんです。考え無しで、周りを振り回すんです、あの人は」
母は単純で、同時に実践的な人だった。生きてる間にやっておかなきゃいけないと思った事はとりあえずやっておく。そういう人だった。
天井花イナリは眉根に皺を寄せた後、乱暴にため息を吐いた。
「……やはりあやつとわしは気が合わぬ。分かった。お主がそう言うならそうだったのであろう。じゃが考え無しの阿呆が遺した危うい物をそのまま使う訳にはいかん」
彼女はまたその朱の瞳でじっとひづりの眼を見つめ、念を押す様に言った。
「ひづり、《グラシャ・ラボラス》が万里子に何を望んでおったのかは知らぬが、母親と同じ道を歩む事をお主の父も姉も、わしもたぬこも、誰一人望んではおらん。わしはお主が人の身を捨て《悪魔》になるなぞ認めん。それに《イオフィエル》の事も気になる。奴は《天界》の内部で事が動いたから今日わしらに会いに来たと言うておったが、しかしタイミングで言うならば、お主が《魔術血管の発芽》を使い《魔族化》が始まったから、とも考えられる。万里子を知っておったであろう奴らじゃ、お主の体がいずれこうなる事も当然読んでおったはず。わしが万里子との《契約》で《神性》に縛られた事があのとき《封聖の鳥篭》なるものに後れをとる結果に繋がった様に、今後お主が《発芽》を使い続け取り返しのつかん程にその身を《魔族化》させる事が《イオフィエル》や《アウナス》にとってわしらを突き崩すための何らかの条件達成に繋がっておる可能性も捨てきれん。故に、《魔術血管の発芽》も、《花束の盾》も、そして念のため《滋養付与型治癒魔術》も今後は使わせん。以降もし一度でもお主がわしらのためにあれを使うたなら、《ソロモンの指輪》はたぬこに預け、わしは自刃する」
「っ!?」
ぎゅう、と俄かにひづりの心臓が締め付けられた。
「わしが死ねば《契約》が切れ、たぬこは《魔界》に戻る。《指輪》を次の《ボティス》に預けさせた後は、たぬこにも毒を飲ませる。わしとたぬこが死ねばお主と《ボティス》の《縁》は断たれ、再召喚は叶わんようになる。《イオフィエル》と《アウナス》がお主らに関わる理由も無くなる」
「ま、待ってください! そんなこと……!!」
ひづりは眩暈がするようだったが、しかし天井花イナリは何一つ譲る気の無さそうな調子で続けた。
「こればかりは何とあっても聞き入れぬ。《発芽》と《花束の盾》は以降お主の命に直接関わる時以外何があっても使うてはならん。わしや《フラウロス》を差し出してお主ら家族が助かるならば迷わずそちらを選べ。良いな?」
「…………」
両手が震えていた。ロミアの処遇について決断した時は動いた口が今は動かなかった。胸が、指先が、どこまでも冷たく凍えきっていた。
「ひづり、頼む。わしとたぬこのために、もう使わぬと約束してくれ」
天井花イナリの声は儚かった。
ひづりは涙の滲む目をぎゅっとつぶり、そして開いた。
「……はい」
天井花イナリの《転移》で南新宿の我が家まで送り届けられるとひづりはすぐに眠る支度をした。父は何があったのか訊きたそうにしていたが次女の疲れた様子を見ると「明日聞くね」とだけ言ってそっとしておいてくれた。
ベッドに横たわり常夜灯の明かりを見つめながらひづりはぼんやりロミアと文化祭の事を思った。
『──《ラミラミフォーチュン》と綾里高校文化祭の撮影に関する打ち合わせは来週の月曜日から本格的に行うみたいです。その時あたしも学校に行きますので、それまでに《ボティス王》が画面に映る口実について考えておいていただければ──』
駅での別れ際、彼女はそう言っていた。綾里高校文化祭と《ラミラミフォーチュン》のタイアップに関する話がひづりたち一般の生徒へ通知されるのは恐らくその時、ホームルームなどで担任教師らから説明されるのだろう。
それからひづりは天井花イナリと姉の事を思った。自分が《花束の盾》を使えず、そして天井花イナリも《千里眼》が使えないと知れば、きっとちよこは考えを改め、また天井花イナリを排除する方向で動き始めるに違いない。いつまでも隠し通せるものではないだろうが、それでも今日あの《転移魔術の蔵》で天井花さんと交わした会話の内容はしばらく姉さんには話せないな、とひづりは思った。
「……うまくいくと……良いんだけど……」
《イオフィエル》の考えは読めないままではあるが、それでもやはり方々への抑止力として自分たちは最優先で《ナベリウス王》との接触を果たさなくてはならない。ひづりはロミアを信じ選んだ判断が間違いではない事を改めて願いながら目を閉じた。
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