和菓子屋たぬきつね

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《第1期》 ‐餡の香りと夏の暮れ、彼岸に咲いた約束の花。‐

12話 『六十八枚目の羽根』

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 12話 『六十八枚目の羽根』

 

 料亭で朝食を軽く済ませると、旅行二日目、さっそく観光地巡り兼、食べ歩き計画が開始された。
 まず宿を出るなりすぐ岩国城を目指して錦帯橋を渡った。最初に岩国城を選んだのは、昼になってから行くとなるとやはり陽が昇りすぎていて、さすがに八月前の今、山の頂は炎天下が過ぎると判断してのことだった。暮れてしまえば多少涼しくもなるだろうがその頃にはもう城からの景色などろくに見えはすまい。それにまだ八月前とはいえ、暦の上では秋に入ろうとしている。秋空や山の天気は変わりやすい。よって岩国城への観光は午前中の、なるだけ早い時間が選ばれた。旅行決定から決行までの一週間、ひづりは姉たちとよく話し合い、充分な計画を立てていたのだ。
 宿を出て錦帯橋を渡った後、そのまま一直線に北西へ向かうと左右に岩国博物館や公園があり、また昔から岩国に多く生息し、神様としてもあがめられているという白蛇の館という博物館もあったが、とにかく最初はその中心にあるロープウェー乗り場を目指した。麓からのロープウェーは一直線に岩国城の中腹まで向かうようになっており、そこで一度降りてから、山道を登って岩国城へと至る道筋になっている、ということだった。
 事前の話し合いの際、乗り物、ということで新幹線と同じく和鼓たぬこが怖がるのでは、と懸念されたが、しかし天井花イナリと和鼓たぬこ当人いわく、《魔界》に居た当時は彼女も《ヒガンバナ》のような翼を持っており、自前で空を飛ぶ事自体は出来ていたという。なのでひどく速度が出ないのであれば高いところ自体は全然平気なはず、とのことだった。実際、和鼓たぬこは初めてのロープウェーに乗り込むなり天井花イナリとひづりの手を握って最初こそ不安がってはいたが、ゆるりゆるりと登っていき、次第に彼方の景色まで楽しめるようになるとにわかに顔を明るくして窓にくっついた。
 やがて辿り着いたロープウェー山頂駅で降り、手洗いなどを済ませた一行はそのまま岩国城を目指した。道中はほぼ青い木々に囲まれていて周囲の展望を見渡す事は出来なかったが、数分ほど歩いて目的地へと到着するとそれなりに開けた空と、木々の合間からは地平線の山々や城下町が白んで見えた。
「すみませーん! 写真お願いしても良いですか~?」
 持ち前のコミュニケーション能力で以って近くに居た旅行客であろうカップルにちよこはほぼ押し付けるようにしてカメラを起動させたスマートフォンを渡すと、城を背後にしてひづりたちを掻き集めた。昨晩のことがあったからか、ちよこはひづりの隣を死守した。
 今日もよく晴れていた。昨日と違い雲がまばらに浮かんでいるが、それでも綺麗な浅縹色が空の六割ほどを包み込んでおり、それがまた頂上ともあって、そうそう味わえない開放感をひづりに与えていた。
 城の中に入れるのは九時からで、それを見越して早めに出たが時間はぴったりだった。太陽はまだ昇りきっておらず、また道中の背の高い木々が陽光を遮ってくれていたので快適に登って来られた。
 入城するとまず一行は一気に最上階まで登った。時刻は九時十二分。まだ人がほとんど居ない最上階で四方八方の窓を独占し、その景観を眺めるのは確実に気分が良いだろう、と思ってのことだった。階段を登る途中、岩国城と由縁ある品なのだろう、たくさんの刀剣や岩国の観光名所などを映した写真が無数に展示されているのが見えたが、とにかくそれらは後回しとなった。
「すごい! すごいですわよひづりちゃん!」
 最上階に到着するなり、千登勢がにわかに窓へ駆け寄ってひづりを振り返った。道中と階段で早くも若干バテ始めていたちよこの手を引いてやっていたひづりだったが、自身も実にわくわくとした気持ちが胸にあり、階段を登り終えると姉をサトオに押し付けて窓辺の叔母の元へと駆け寄った。
「わぁ……」
 窓はどうやら東側の物のようだった。足元からすぐのところに流れているのが錦川で、そのやや左側に見えるのが宿泊している旅館だ。はっきりと見える。いや、そんな身近なところよりもだ。
「海が見える……!」
 明確な場所は分からないが、バスに乗って宿へと走った市街の道も、そして新幹線を降りた岩国駅も超え、そのまだ向こうの海岸の彼方まで見渡すことが出来るその景観は、ひづりが当初思い描いていたそれをはるかに超えていた。
 ずっとずっと遠くの水平線は白み、頭上から降り注ぐ午前の太陽は海へ至る錦川の波間をキラキラと煌めかせ、これから営みが始まろうとしている岩国の街を祝福する様に眩く照らしていた。
 絶景。窓から見えるそれはまさにそう表現するに値するものだった。
「ほう。中々良い眺めではないか。ここへ城を建てた者のことは知らぬが、こと景観に関しては美醜の分かる人間だったのは確かであろうな」
 隣に並び、天井花イナリが言った。
 ……。ひづりは見てしまい、思わず黙り込んだ。優雅に語った天井花イナリだったが、窓枠の位置はそこそこ高く、彼女は爪先立ちでぎりぎり窓の外が見える状態になっていた。
 凄まじい速度でひづりの眼が周囲に子供用のお立ち台を探した。しかしそれよりも早く、彼女の足元に小さな《魔方陣》が二つ現れた。
 片方からは白い狐の面が、もう片方からは《ヒガンバナ》の片手が顕現していた。彼の片手は、天井花イナリを持ち上げるようにゆっくりと上昇していた。
「天井花イナリ様。よろしければ、わたくしめの手をどうぞ台としてご利用になってくださいませ」
 《魔方陣》より伸びた彼の手はそのまま三十センチほど上昇し、そうして天井花イナリの視線は大体千登勢と同じくらいの位置まで来て停止した。一応周囲に二組ほどすでに他の観光客は居たが、《ヒガンバナ》は常に《認識阻害魔術》で一般人の眼からは隠してある。天井花イナリの背後にひづりが立っていれば特に問題は無かった。
「いや、褒めてつかわす、気の利く臣下じゃ。後で褒美の一つも取らす。しかしそのままではお主がこの景観を見られまい。わしは充分堪能した。あとは千登勢と共に好きに眺めておれ」
 そう言ってひょい、と天井花イナリは《ヒガンバナ》の掌から降りて袖を組むと、脇に立っていた和鼓たぬこと共に反対側の窓の方へと優雅な足取りで向かった。
 見送るようにしばらく《ヒガンバナ》の手と白面は地面にあったが、にわかにひっこんで、今度は一つだけ千登勢の顔の少し横に《魔方陣》が現れ、再びそこから白面が現れた。
「これは……確かにとても美しい眺めに御座いますね、千登勢さま」
「ええ、来られてよかったですわ。それにやっぱり、あなたの王様は素敵な方ですわね。わたくしが、あなたにも天井花さんと同じ物を見て貰いたいと思ったこと、おもんばかってくださったのよ」
「おお、なんと……。ああ……我が王、我が王よ……」
 空中に浮かぶ白面が震えるのを見て、千登勢はそれをすりすりと撫でた。《ヒガンバナ》の気持ちがやはり何となく分かってしまうひづりは、もう一度東の窓に視線を伸ばした。
「にゃはー! た、高いな! 中々の高さではないかとーげんざか! か、担げ! 背が足りん! 抱えてもっと高いところから見せよ!」
 道中、ほとんど凍原坂の背で眠っていた《フラウ》は、城内の独特の空気か、はたまた気圧の変化でも感じ取ったのか眼を覚ましたようで、にわかにはしゃぎ始めた。
「はいどうぞ。洒落にならないから暴れないでおくれよ」
 《フラウ》の両腋に手を挿し、凍原坂は彼女の視線を自分と同じ辺りまで持ち上げてやった。
「にゃはあー! 広いな! 遠いな! 眩いな! あれは海か!? 良い景色ではないか~! ほれ《火庫》! 貴様も見よ! 絶景ぞ!!」
 ロープウェーからずっと凍原坂と手を繋いで歩いていた《火庫》ははしゃぐ《黒猫》に言われ、そして《父親》の顔を見上げた。
「ああ……でもそんな、はしたないわ……」
「そんなこと言わずに。……ほーら、どうだい?」
 《フラウ》と同じ要領で《火庫》は凍原坂によって窓枠のだいぶ高いところまで持ち上げられた。
「まぁ……まぁ……」
 彼女は可愛らしく感嘆の声を漏らしていたが、しかし横に立っていたひづりは見ていた。体を支えるべく腋に挿し込まれた凍原坂のその大きな手に視線を落としたまま、彼女は恍惚とした表情を浮かべて頬を染めていたのだ。……あの《白猫》、本当に凍原坂さんにしか興味ないんだな。
「……ああ、こちらの景色も、とても綺麗ですね」
 天井花イナリと和鼓たぬこが見ていた西側の窓にひづりは立ち寄ると、にわかにまた胸が空いた様な気分になり、思わず感想を漏らした。錦川は岩国城がある山を時計回りに囲んでおり、こちら側の窓からもその流れが足元に窺えた。川向こうには同じく町並みがあり、しかし一転、そこから向こうはひたすらに山の峰が続いていた。山と川と海。どうやらこの岩国城はそのすべての真ん中に立っている城であるようだった。
「うむ。峰が連なって白んでく彼方は空気の綺麗な証じゃ。《魔界》には無い景観……どこを見ても趣き深い……。ふむ、しかし……改めて思うたが……」
 おもむろに天井花イナリは視線を外し振り返ると、窓枠に手を乗せたまま凍原坂たちの方をじっと見つめた。
「……あやつにしても、わしにしても、まっこと、《縮んだ》のう」
 その視線は特に《フラウ》に向けられているようだった。
「生まれたての《下級悪魔》でもまだたっぱはあろうものを。《ヒガンバナ》はそれでもわしを王と言うてはくれたが、はたして他の者共はどうじゃろうかのう……」
 ぽつり、と天井花イナリは呟いたが、そこには不安よりも「さぞ驚く事であろうなぁ。ふふふ」といういたずら心の様なものが多分に混ざっているようにひづりには聞こえた。
 今まで気になりつつも不躾かと思って訊ねずにいたが、ふとこれは良い機会かと捉え、ひづりは聞いてみる事にした。
「天井花さんと《フラウロス》さんって、母のせいで今の姿になる前……元は、どれくらい身長があったんですか?」
 それは実に、働き始めた最初の頃から抱いていた疑問ではあった。しかし『縮んだ』という話だけは聞いていたが、そもそも元の背丈が分からないので、その『縮んだ』ことに対して彼女がどう思っているのか、ひづりは量りかねていたのだ。繊細な問題かもしれない、と捉えていたからだ。
「む……? そうさの……。これに大体、七十センチくらいかの?」
 自身の頭頂部を触りつつ、彼女は隣の和鼓たぬこに訊ねた。
「う……うーん……。そう、かな……? 凍原坂さんが百八十センチ、くらいだから……うん、あの人よりたぶん、三十センチくらい……?」
 ……はい? 和鼓たぬこの発言にひづりは思わず向かいの窓に居る凍原坂を見て、それからまた隣の天井花イナリを振り返った。
 それって要するに、二百十センチくらい、ってことですか……?
「二メートル超えてたんですか天井花さん!?」
 ぼんやりと予想しなかったではないが、想像以上で思わずひづりは少々声を張ってしまった。何せ、今の身長が身長だからだ。
「何じゃ。そう驚く事もなかろう。《ヒガンバナ》にしても、背丈自体はそれくらいあるではないか」
「あ、ああ、いや、それは、確かにそうですが……」
 二メートル十センチ。二メートル十センチ。昨日、天井花イナリが『縮んだ身なれど』と言っていたのを思い出す。そしてその百四十センチにして驚きのCカップ……。
「……もしかして、今の姿になる前の、縮んでしまう前の天井花さんって、めちゃくちゃスタイル良かったんですか……?」
 ひづりが独り言のように訊ねると、彼女は片眉を上げて「何を当たり前の事を」という顔をした。
「当然であろう。《悪魔》の王であるぞ。……まぁ、今の姿ではむなしい虚勢かもしれぬがな」
 彼女は自嘲気味の笑顔を浮かべながら壁にもたれた。
 ひづりは夢想した。二メートルを超える天井花イナリのその姿を。顔は小さく、整った顔立ちの鼻は高く、眼もぱっちりとしたまま白い睫毛は長く、その髪は微かな風でさえ受けて揺れ、胸も増量されて強調され、その洗練された美しい身のこなし、仕草、品の有る物言い。……ああ。たしかにそれは《王様》だ……、とひづりは惚れ入るように納得した。
「しかし、縮んだ時には、まぁ実に面倒な事と思うたわ。視線の高さも違えば、腕も足も短いと来た。…………ああ、万里子のやつの顔を思い出した。この話題はここらでもう止めじゃ」
 にわかに機嫌を悪くしたらしく、天井花イナリは眉根を寄せた。
 ひづりは再び《フラウ》と《火庫》に視線を戻した。彼女達も、かつてはそれくらいあったのだろう。確か《火庫》はかつて《火車》だった頃、凍原坂は「二メートルはあった」と語っていたから、そっちはまず確実だろう。なら《フラウ》も、《フラウロス》だった頃は天井花イナリと同じく二メートルを超える巨体だったのだろう。……こちらはちょっと、想像がつかないが。
 そこまで考えたところで不意にひづりはまた――ただこちらはタイミングを逃して聞き逃し続けていた故ではあるが、とにかく一件、問いたい事があったのを思い出した。少々場違いかとは思いつつも思い切って訊ねてみることにした。
「あの。話は変わるんですけど、今までざっくりと聞いてきて、何となく把握したつもりで来ましたけど……《魔性》と《神性》って、実際、一体何なんですか? せっかくなので、詳しく教えていただけませんか?」
 もう一ヶ月の付き合いではある。しかし、最初にこの天井花イナリという《悪魔》は、召喚時、官舎万里子によって行われた細工によって体内にあったその本来の《魔性》が《神性》へと置き換わって《ウカノミタマの使い》となり、以来、稲荷寿司を栄養に生きるようになった、と説明され、それから信じがたいことにそれらが事実である現実を何度も突きつけられて、それで以って体感として理解はしていたが、理屈としての詳しい説明は一度も受けていなかったのだ。
 すると天井花イナリは「ああ? そういえば、話しておらんかったかのう?」と思い出したように小首を傾げた。
「ふむ……理解出来るよう説明するのは、少々難しいやもしれぬな。わしらは《魔界》の生き物で、ひづり、お主は《人間界》の生き物であるからの。……ただ、他でもないお主の頼みとあらば、わしもその頼みを無下になどせん」
 一転、機嫌を良くした様子で彼女はひづりを振り返った。綺麗でかわいらしい笑顔が、宝石の眼差しを湛えて真っ直ぐに見上げて来る。ひづりはいつもの事ながらこれにドキッとしてしまう。
 天井花イナリは厳かに袖を組むと語り始めた。
「《魔性》とはの、実際的な《実力》であり、《権威》の証明であり、そして《生態》のありようを担う……そうさな、《成分》と言えば良いじゃろうか」
「《成分》、ですか?」
「然り。《魔性》を収めた生物の器、すなわち《魔族》は、その《魔性》が強ければ強いほど、《人間界》の動物で言うところの筋力や知能といった《実力》が比例して備わる。ただ《魔性》は、《魔族》が生まれ落ちて肉体が成長し、しばらくするとその《量》が決定する。そこからはもう増える事はない。たぬこが話したのであろう? 《魔族》の《角》の話よ。《魔性》とはの、その頭蓋骨と、そこから連なっておる《角》の大きさで決まるのじゃ」
 ああ、その話は確かに。以前新宿へ二人で出掛けた時に和鼓さんが話してくれていた。
「次に《権威》じゃ。要は、《魔性》が強ければやはり《魔界》ではそれ相応の席に座る事が許される……というより、定められ、求められる。わしの場合は王の座、《ソロモン王の七二柱の悪魔》の一柱に相応しいだけの《角》を持っておったから、幼少より王たる者になるべく教育を受けた。今は召喚時の変化の影響でこの狐耳に《置換》されてしまってはおるが、本来ならここにもう一本、二股の《角》が生えておるのじゃぞ?」
 そう言って天井花イナリは自身の頭から生えている狐耳を雑にぺしぺしと叩いた。いわく、一応神経は繋がっているが、頬を覆う現在も見えている朱色の角の内側に隠されている本物の耳の方にこそ今も正しく聴覚があり、狐耳の方には聴覚も痛覚もほとんどないのだという。
「そして最後に、《生態》じゃの。先に語った《実力》と《権威》に関しては、実は《天界》の連中……《天使》共の《神性》と同じなのじゃ。《神性》の量がそのまま《実力》となり、《神性》が強ければ《天界》で《権威》を持てる。ただこの《生態》のみが大きく、《魔性》と《神性》を別のものとして隔てる要素となっておる」
 難しい話になりそうだという予感に、ひづりも改めて話に身を入れる。
「まず《魔性》じゃ。《魔族》は皆等しく、大小問わず《魔性》を持つ。そして《魔性》を体内に持つ生物、《魔族》は、必ず人間の魂を食わねば生きていけぬのだ。単純に言えば食料であるが、仮に摂取を怠るとどうなるかと言えば、体内の《魔性》を押さえ込めず、器である肉体の方が崩壊し、《魔性》は《魔界》の地に還り、新たな《魔族》を生む養分となる……。つまり個体としてその肉体を維持するには、体内の《魔性》が満足するだけの、定期的で一定量の人間の魂が必要である、というのが、《魔性》を持つ器、《魔族》の《生態》なのじゃ。ちなみに先ほども言うたように、大量に人間の魂を食べたとしても、その者の《魔性》が強化されたりはせぬ。ただ摂取した魂は体内で蓄積され、その分延命できる、というだけじゃ」
 要は、摂取しただけ体内に蓄積できる、という点以外は、ほとんど《人間界》の動物の食事と同じなのか、とひづりは理解した。
「では次に《神性》じゃ。察しておるやもしれぬが、これは人間の信仰によって維持されておる。また奴らは《角》などは持たぬが、生まれついて《神性》の所持量は決まっておるらしい。しかし、奴らは憎らしい事に、人間からの信仰の量によってその《神性》が強化される。ここが《魔性》との大きな違いじゃ」
「……それって……《神性》の方が、《天使》の方が、《悪魔》より有利……ですね?」
 気づいた事をひづりは思わず口にした。
 天井花イナリが振り返る。眼が合い、ドキリとする。不用意な発言だったろうか、とひづりは少々焦った。
「いや、その通りなのじゃ。言うたであろう。憎らしい事に、と」
 しかし彼女は正面を向いて毒づいただけであった。ひづりはほっと胸を撫で下ろした。
「これも話しておらんかったかもしれぬが、《天界》に行くと《魔族》の《魔性》は弱体化する。同時に、《魔界》へ来た《天使》の《神性》も同じく弱体化する。その理由に関してはわしも知らぬが、どちらも《天界》と《魔界》から生まれた存在じゃからか、生まれた場所である《天界》や《魔界》を離れ過ぎると、《人間界》の動物で言うところの、水が合わない、というような具合になってしまうようなのじゃ。じゃから《悪魔》と《天使》は主に中立地帯である《人間界》で争う事が多かったのじゃが……言うた通り、《天界》の方がその点かなり有利であった。人間が《天界》を信仰する、人間が《天界》を信仰する建物を建てる。そうした土地はすべてほぼ《天使》の独壇場となり、場所として優位な戦場となっておった。《天使》の《神性》は上がり、その場所でのみではあるが、どの《天使》であってもその《実力》は確実に上がる」
 気に食わない、という風に天井花イナリは終始語ったが、しかし最後に、ふ、と笑って見せた。
「ただ、そこだけは不公平と言う他ないが、しかし彼の大戦では結局《魔族》側の方が有利に終わったそうじゃ。何せ、当時すでに《七二柱の悪魔》は《ソロモン》と出会い、変化を得ていたからのう」
「変化、ですか……?」
 ひづりが問うと、天井花イナリは遠く記憶を想うような眼差しを窓の外に流して答えた。
「……三千年前じゃ。《ミハエル》という《天使》から《十の智慧の指輪》を受け取った《ソロモン》は、わしら《七十二柱の悪魔》を使役する術を得た。自由に《魔界》から《悪魔》を《人間界》へと呼びつけて、命令し、言う事を聞かせられる、そういう強力な力を持った《指輪》をあやつは得た。故に、《七十二の悪魔》皆が、《ソロモン》の前に顔を出す羽目になった。じゃが――」
 一瞬、少しだけ瞼を伏せた彼女の眼が優しい色に染まったのをひづりは見た。
「《ソロモン》に呼び出された《悪魔》の多くが、大小の差こそあったが、驚く事に、あやつのことを好んだのじゃ。そしてわしら《悪魔》は、智慧の王、《ソロモン》から様々なことを学んだ。また《ソロモン》はわしらを使役する《十の智慧の指輪》を《天界》から賄賂として貰っておきながら大戦の直前に死に、当然イスラエル国内は割れ、人間は《天界》の側につく者、逃げる者、と散り散りになり、《神》の祝福によって作られ《人間界》へと贈られた《ソロモン》以外扱えぬその《賄賂》は、結局何の役にも立たずに終わり、逆に《ソロモン》から智慧を受けた《悪魔》側の優位を、《天界》と《人間界》の軍勢はその《十の智慧の指輪》をのちに加工して作った《隔絶の門》という名の強力な《神性》を持つ《楔》を大地に打ち込むことで《魔界》と《人間界》とを完全に遮断し、《魔界》からの増援を断ち、《人間界》に残された《悪魔》達をどうにか殲滅する、という手でしか覆す事が出来んかったと聞いておる。……ふふ、聞くも語るも、無様に過ぎる話であろう。ずる賢いようで、間抜けなのじゃ、《天界》の連中はの」
 まさに痛快である、という風に天井花イナリは笑って見せたが、にわかに気づいた様子で謝罪した。
「……ああ、すまぬな、話が少々脱線してしもうたの」
「いえ、勉強になりました」
「そうか? お主のためになったなら良いが」
 おそらく、今彼女が語ったのは、歴史の本をいくら読んでも知り得ることのない紀元前の歴史だった。今後役に立つかどうかは分からないが、理解はしていきたい。知っていきたい。この《悪魔(ひと)》のことを。ひづりの中でその気持ちは変わらないから。
「ひづり~? 私たち、下の階に行くよ~?」
 最上階に登るなり夫のサトオと東西南北の窓で記念のツーショットを撮ってはしゃいでいたちよこはもう満足したらしく、早々にサトオと共に階段の手すりを握っていた。
「先に行って来なよ。私、もう少し天井花さんたちと見てるから」
 階段を下りていく姉を見送ると、ひづりは再び《フラウ》と《火庫》を見た。
 実は、今の天井花イナリの話を聞いてひづりは更に気になる事が出来てしまっていた。また窓の外の青空をぼんやりと眺めている天井花イナリにちらりと視線を向ける。
 …………ええい、もういっそ今日は質問攻めにしてしてしまおう! とひづりは覚悟を決めた。
「……あの、もう一つ訊きたいことがあるんですが」
 おもむろに視線だけで振り返った天井花イナリは、ひづりの顔を見つめるとにわかにまたその眼を細め、笑い声を上げた。
「ふはは。今日はずいぶんと質問攻めじゃの、ひづり? 小うるさいのは好かぬが、よいよい、此度はお主にとってもわしらにとっても気の良い旅じゃ。その程度の事に気は遣うな。……ん? ……いや、むしろこれまでお主はわしに対し、《魔族》に関する事を《質問しなさ過ぎ》であったのか? ……ふむ、そう考えるならば、ある意味を以っては不敬であるのか? ……ああ、全く以って冷たいことではないか、ひづり。王に興味を持たぬとは……」
 不思議な事に、妙に演技がかった態度で天井花イナリは嘆いた様子を見せた。初めて見る反応にひづりは少々戸惑ったが、冗談を言うくらいには機嫌が良いのだけは分かった。可、と受け取って良いのだろう、と捉えることにした。
「あっはは……すみません。実は今まで結構、聞きたいこと溜め込んでいました。……王様、本日はわたくしのような下々の者に、寛大なる質問の席を設けてくださった事、感謝致します」
 正直に、そして彼女の冗談に合わせてひづりはかしこまってみせた。天井花イナリはにわかにその顔に王の威厳を漂わせるとまた機嫌が良さそうに眼を細めてうつむき、ふふふふ、と笑った。
「構わぬ。言うてみよ」
 ちょっと嬉しくなって、ひづりはそっと質問を差し出した。
「はい。以前から少し気になっていたのですが、日本の《妖怪》って、どっちなんでしょうか。《魔性》ですか? 《神性》ですか?」
 すると天井花イナリはにわかに眉根を寄せ、考え込むような顔になった。その様子に、おや? とひづりも小さく首を傾げた。
「……ふむ、そうきたか。《妖怪》……《妖怪》のう。その話か……。うむ……それについてはわしは見識を持たぬ。何ぶん、わしらの住んでおった土地とこの日本という国はあまりに離れておるし、またこの国の成り立ちを見てきた訳でもないからの。じゃからはっきりとは言えんのじゃが……ただ言えるのは、《妖怪》には、《魔性》を持つ者も、《神性》を持つ者も居るらしい、ということくらいじゃ。そして《神性》であれ《魔性》であれ、《人間界》のそこら中に居る。よく小さいのが転がっておるのを見かけるが、どうも普通の人間には見えておらぬようじゃがの。そしてそこには、わしら《悪魔》と《天使》のような、各々が持つ《魔性》と《神性》によって、住処やその存在を強く隔てたり争ったりはしておらぬように見える。《魔性》と《神性》、それだけで長きに亘って争い続けておるわしらには不思議でならぬ。故に、お主が望むような答えはおそらくわしの中には無い」
 確かに、そう言われてみると日本人の自分が海外の《悪魔》である彼女に訊ねること自体おかしい事だったか、とひづりは思い至った。
 そうなのだ。日本の《妖怪》と言うと、ただただ悪い事をする悪者として伝わる《妖怪》も居れば、「山の神様がお怒りになるから人身御供を用意せよ」なんて昔話もある。そもそもが、強い力を持つ者に対して勝手に「神様」とか名前をつけてしまうのが日本という国に住む人間の性質なのだ。曖昧になってしまっているのも、天井花イナリが戸惑うのも当然かもしれない。質問が悪かったようだとひづりは反省した。
「……ああ、ちなみにあやつの元になった《火車(ひぐるま)》とかいう妖怪。おそらくは《神性》の方じゃぞ」
 不意に天井花イナリはその視線を凍原坂の片手に寄り添っている《火庫》に向けて言った。
「え。そうなんですか? 悪さをしてたって聞きましたけど――」
 そこまで言った所でひづりはふと思い出した事があった。
「そういえば……あれ以降にいらっしゃった際に、凍原坂さんから聞いたことがあったんですが……母は《フラウロス》さんを召喚して、凍原坂さんに迷惑を掛けていた《火車》と《契約》で融合させた時に、《契約内容》で《二匹》の性格面を改竄するのと同時に、各々が持っていた《属性》を融合させて一つの肉体に収めることで弱体化させた……だから《二匹》の体も縮んで、力も弱くなったんだ、って話してたそうなんです。けど凍原坂さんも《フラウ》ちゃんたち自身もそれがどういうことかいまいち理解出来なかったらしくて……私もさっぱりなんですが、それ、天井花さんにはどういうことか分かりますか?」
 先ほど天井花イナリから聞かせてもらった《神性》と《魔性》の話によって、それらを《成分》として考えることが出来るなら、今のひづりにも理解が全く及ばないということもなかったのだが、是非とも《悪魔》本人に確かめてみたいと思ったのだ。
 すると、天井花イナリはひづりの予想以上に興味深げな顔で《フラウ》と《火庫》を睨むように見つめた。
「ほお。そういうことであったか。となると、やはり《ソロモン》が言っておった事は正しかったのかもしれんのう」
 おそらくその知人に向ける口ぶりで語る者はそうそう居ないであろう人物名を天井花イナリは依然さらりと口にしつつ、しかしほんの少しばかり、ひづりがようやく気づく程度に、彼女は興奮した様子で語った。
「あやつとそれなりに言葉を交わした頃じゃった。……当時、口ぶりから、おそらくは推察程度のものであったのであろうが……。あやつはこんな事を話しておったのじゃ」

『《悪魔》は地球より出でた者。だから地表、《人間界》の下に《魔界》があり、そこで暮らしている。《天使》は宇宙より出でた者。だから天より現れ、地表の《人間界》に降り立つ。では地表の我々は何なのだろうか? もしや《天使》と《悪魔》の混血の果てこそが我々人間の正体なのではないか。生まれつき《神性》も《魔性》も持たぬのに、授かれば《神性》を、学べば《魔性》を持つことが可能なのは、どちらの血も持つからなのではないのか。そしてその双方を極めた人間がかつてどの時代にも居なかったというこの事実は、《神性》と《魔性》は一つの肉体に長らく共存する事が出来ない……互いに打ち消し合い、やがて消滅へと向かうものだからなのではないか。混血し、果てしない時を過ごした事で、人間は《魔性》も《神性》も失ったのではないのだろうか』

 天井花イナリが語ったその《ソロモン王》の推察だというそれは、どうもキリスト教や悪魔崇拝方面……いや、《ソロモン王》だからユダヤ教……なのか……? ……の話のようだったが、そちら方面の学に堪能でない上に、あまりに遠い世界の話が過ぎて、ひづりは少々気後れして反応が返せなかった。そのため。
「……伝承どおりの、賢い人、だったんですねえ」
 などと関心した振りをするのが限界だった。
「遠き国の事、更に異なる文化ゆえ、実感が湧かぬか。ふふ、それもまぁ仕方あるまい。当時でさえ、あやつのああいった考えや推察は、周りの臣下共に、今のお主と同じような顔をさせておったしの。ふふふ」
 あ、やっぱりそうなんです? とひづりはちょっと安心した。
「じゃが、《ソロモン》の推察、人間の起源などがどういったものであれ、とにかく《魔性》と《神性》が融合した結果に生じる個体の変化というものを、すでにお主は見ておろう? 《フラウ》じゃ。あやつ、元はわしと同じ程の《魔性》を有しておったはずじゃが、おそらく今のあやつの中の《魔性》の《実力》は、今のわしの《神性》の半分以下も無いぞ」
「あ、え? そうなんですか?」
 少々驚いたが、しかし意外だとは思わなかった。ひづりは実際、初めて《フラウ》が店に来た際、彼女が天井花イナリに片手でひっぱたかれ、その一撃であっけなく失神していたのを見ていた。その後に来店した際もくってかかる事が何度かあったが、その度に彼女は片手間ほどにもないあしらいを天井花イナリから受けて床を転がり気絶していた。
「ただ、《火庫》じゃの。あやつは凍原坂と一緒に居られれば何をするにしても満足なようじゃから面倒にはなっておらぬが、もし《フラウ》と《火庫》が同時に、上手く息を合わせるのであれば、その《実力》は多少、元の《フラウロス》の七割か八割くらいにはなるのではないかの。あやつらが弱体化しておるのはおそらく《火庫》の元、《火車》がそもそも大した《神性》を持たぬ《妖怪》だったからじゃろう。ぶつかり合って磨り減ると言っても、急にそこまで大きく削り取られる訳ではないはずじゃからの。《ソロモン》の推察が仮に正しいとするなら、人間が《魔性》と《神性》を失うのには数千年が必要だったであろう。そうでなければ、《魔性》と《神性》の双方を持つ《堕天使》などあっという間に弱体してしまうはずじゃ。…………ああ、じゃから《堕天使》の《悪魔》の連中は寿命が短いのか……?」
 不意に腑に落ちたように独り言を漏らした天井花イナリの横顔をひづりは隣で黙ってじっと見つめた。
 《ソロモン王の七二柱の悪魔》の中には、純然たる《悪魔》と、元は《天使》だったのが堕天して《堕天使》となり、そうして《悪魔》になった者が居る、ということはひづりも本で調べて知っていた。ただその《堕天使》の寿命が短い、という、たった今天井花イナリがぽつりと零した新情報は、やはり本には載っていない内容だった。歴史に記されていない、かなり重要そうな情報がぽろぽろと出てくる。
「ひづりちゃん。天井花さんも和鼓さんも、そろそろ階下を見に行ってみませんか?」
 千登勢がかたわらへ来て提案した。今は引っ込んでいるのか、周囲に《ヒガンバナ》の白狐の面は無い。
 天井花イナリがちらりと視線を上げてひづりの顔を見た。「もう良いかの?」という眼差しだった。それに頷いて返すと、ひづりは凍原坂にも声を掛けて階下の展示物を見て回ることにした。
 ……《魔性》、《神性》、《妖怪》、《堕天使》、そして《ソロモン王》の推察。階段に向かいながら、ひづりは今更ではあるが、やはり自分はもう《普通ではない世界》に体の半分くらいまで入り込んでしまっているのだな、と改めて実感し、急に頭の熱が冷めていくのを感じた。
 初めから恐怖心が無かった訳ではないし、今でもふと我に返ると背筋が冷えるような気持ちになることがある。特に、《悪魔》の王であったという天井花イナリの仕草や言葉の端々からはそれらをより強く感じ取ることがある。
 これから向かう下の階には、登りの時にもちらりと見えたが、無数の刀剣が展示されている。
 刀。剣。天井花イナリの、あの禍々しい剣……。
 先ほどの天井花イナリの話は非常に興味深かった。好奇心に負けた。けれど、知り過ぎる事はまた危ない事なのだ、ということも忘れてはならないのだ、とひづりは思い出していた。
 先ほどまでは美しい景色に浮かれ、それゆえか、今までずっとせずに来た質問などつい繰り出してしまった。そんな浮ついていた自身の心を自覚したところで、先ほどちらりと見たばかりのそれら――鋼鉄による死の輝きを放つ刀剣の群れが、よりひづりに現実を突きつけてくるように脳裏に思い出された。
 自分は人間で、天井花イナリは《悪魔》だ。今の彼女が《神性》を持つ、人を幸せにするという稲荷神社の《ウカノミタマの使い》であるとしても、その精神性まで変わっていない事はこの一ヶ月でよく分かっていた。依然として彼女の魂は《悪魔の王》のそれなのだ。
 どれだけ行っても《垣根》はある。それを自分は忘れてはいけない。
「……あ、あの、ひづりさん」
 階段をすでに降り始めていたところ、にわかに、前を降りていた和鼓たぬこが立ち止まって振り返った。
 考え事をしながら一番後ろを降りていたひづりは咄嗟に我に返るも少々反応が遅れてしまった。
「あ、は、はい? どうしました?」
 同じく立ち止まって訊ねると、彼女は一度、その前に居て、声に気づくなり立ち止まって振り返った天井花イナリと顔を合わせた後、もう一度ひづりに視線を戻して、言った。
「も、もう少しだけ、上で景色を見ませんか? ふ、二人で……」
 呆気に取られつつも、ひづりの視線はすぐ彼女の向こうにいる天井花イナリへと自然に動いた。
「行って参れ。わしらは先に下で展示物を見ておる。ひづり。たぬこの頼み、聞いてやってくれ」
 言われ、ひづりは再び和鼓たぬこに視線を戻すと、両名に頷いて見せた。


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