魔法の世界で新たな人生を～捨てられた人生のやり直し～

第87話 マリアの存在

机に突っ伏している出雲を見て、永臣が君が出雲君かと話しかける。出雲は誰ですかと聞き返すと、美桜と雫が皇家の御当主ですよと言う。

「御当主？ それってもしかして、皇家で一番偉いってこと？」

出雲が美桜と雫の顔を見て言うと、二人は何度も同じように頷いていた。そして、出雲はすみませんでしたと立って永臣に頭を下げた。

「知らなかったんだから仕方ないよ。 改めて言うと、私が皇家の当主である皇永臣だ。 そこの篁マリアさんの隣にいるのが、私の息子である皇明臣だ」

永臣は息子を紹介すると、よろしく頼むと言った。美桜はこれで一安心かなと思うと、食堂の入り口に未だに立っていた沙羅と愛羅に座ってと話しかけた。

「え！？ 座っていいの！？」

沙羅と愛羅が貴族だらけのこの場所に場違いじゃと言っていると、美桜が貴族とか関係ないわと言う。

「貴族も一般人もただの人間。 それ以上もそれ以下もないわ」

美桜がそう二人に言うと、雫もそうですよと同意をした。その言葉を聞いた沙羅と愛羅は、失礼しますと言って椅子に座った。沙羅と愛羅が椅子に座るのを見たメイドの女性は、何か飲みますかと二人に聞いた。

「あ、私は緑茶を」

沙羅が緑茶と言う。

「私はあずき茶をお願いします」

愛羅はあずき茶と言った。

「かしこまりました」

メイドの女性は注文を聞くと、奥にある台所に置いてある巨大な冷蔵庫に歩いて行った。冷蔵庫でメイドの女性がお茶を入れていると、出雲が俺の努力は何だったんだと机に突っ伏していた。

「でも、助けに来てくれたのは嬉しかったわ。 ありがとう」

美桜が笑顔で出雲に言うと、出雲は美桜のためだったからと言った。それを聞いた美桜は出雲が来てくれて良かったわと出雲に言う。

「そう言ってもらえると嬉しいけど、蓮も琴音も椿も一緒に来てくれなかったよ……」

出雲が美桜に愚痴を言うと、美桜が私が連絡をしてたからと言った。出雲は嘘でしょと驚いていると、美桜は出雲にも言おうとしたんだけどと頬を掻いて言う。

「そうだったんだ……もっと話を聞いていれば良かった……」

そう言う出雲に、美桜は猪突猛進的な部分はいいけどもう少し考えましょうと頭を撫でながら言う。

「あ、緊張が解けたらお腹が空いてきた……」

そう言った瞬間に、出雲のお腹がもの凄い音で鳴り出した。出雲のお腹の音を聞いた食堂にいる永臣以外の全員が爆笑してしまう。

「ちょっと出雲、その大きなお腹の音はどうしたのよ」

美桜が聞くと、朝から何も食べていないんだと出雲が言った。

「あ、私は昨晩から美桜様の命で動いていたのでご飯の支度を何もしておりませんでした！」

雫が出雲にごめんなさいと言う。出雲はそれを聞いて、仕方ないから大丈夫ですよと笑顔で雫に言った。雫はありがとうございますと言うと、明日は好きな料理を作りますねと出雲に返答をした。好きな料理を作ると出雲は聞いて、雫にハンバーグが食べたいと言った。雫はハンバーグと聞いて、肉はどれにしようかとすぐに悩み始めた。

「い、今から悩まなくてもいいのに」

出雲が唸っている雫に言うと、悩みますよと返した。

「美桜様のお口にも入るんですから、最高級の肉とタレを使って作らないと作らないと！」

雫が意気込んでいると、美桜がほどほどにねと宥めていた。永臣や明臣はその美桜達の話を聞いていて、幸せそうだなと見ていた。

「明臣、私達には側にいる女性の存在が必要だったのだろうな」

明臣はそうですねと言って、遠い眼をしていた。明臣の母親は、明臣を生んですぐに死んでしまっていた。そのため、永臣が男で一つで育てていた。明臣は母親の愛情などを知らずに育っていたが、マリアと会ったことでマリアの母性や愛情を知り、徐々に惹かれていたのである。

「お前はマリアさんを必ず幸せにして、二人で幸せに生きていくんだぞ」

永臣が明臣に言うと、明臣はちゃんと守り続けますと再度言う。

「でも、美桜ちゃんが無事でよかったね。 出雲君はずっと心配していたからね」

沙羅が出雲に話しかけると、愛羅もそうだねと言って同意をしていた。出雲は皇家に来るまでに沙羅に土下座をしたり、蓮や琴音に椿に頭を下げて協力してほしいと何度も言っていた。

沙羅と愛羅はその姿を知っていたので、今の出雲の楽しそうな姿を見ていたので、良かったねと笑顔で沙羅と愛羅は笑っている出雲を見ていた。