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第10話 恐怖の夕食

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雫は美桜を守ると言った出雲が、本当に守るために訓練を始めたことに感謝して特別に料理を振舞おうとした。そして、出雲が訓練を始めてから食材を買い出しに行ったりしていた。

出雲が何が好きだか分からなかったので、とりあえず定番のカレーを作ることにした。雫は料理は得意な方ではないが、カレーなら厨房にいる使用人に聞いて作れるだろうと考えた。

「よし! 終わりました! では、サラダも盛り付けたので食べてください!」

雫は胸を張って自信満々な表情で出雲にサラダとカレーを渡した。そのサラダはポテトサラダであり、一から作ったのだそうである。カレーは中辛で出雲は大丈夫だろうと決めていた。

「美味しそう! いただきます!」

そう言うと出雲はスプーンでカレーを一口食べようとすると、そのルーの色を見た使用人の女性が、口を大きく開けて駄目ですと大声で叫んだ。

その声の方向を向いて出雲は出されたカレーを一口食べると、すぐに顔を真っ赤にして口から火を噴きそうな程に吠えた。

「辛い! 辛い! 辛い! 辛すぎる!」

出雲はそう言いながら後方に倒れこんでしまった。床に倒れた出雲は唇を真っ赤に腫らしてピクピクと小刻みに身体が動いていた。

「キャアアアアアアア! 出雲が倒れて痙攣してる! 何があったの!?」

美桜が出雲に駆け寄って出雲の身体を揺らす。 出雲は美桜の声に反応はせず、痙攣を続けていた。

「そう言えば何か言ってたね? 駄目だって。 あれはもしかして……」

美桜が叫んだ使用人の女性に話しかけると、使用人の女性があれは雫様の特性激辛カレーですと言った。雫はたまに天然な形でうっかりをしてしまうので、美桜はそこが可愛いと思いつつも被害を受けないようにしていた。今回は出雲がそのうっかり雫の被害を受けて倒れてしまったのだ。

こちらが本来の出雲様が食べられるはずだったカレーですとグリーンカレーをお皿に盛り付けて持ってきていた。一方で出雲の目の前に置かれていたカレーはとてつもなく真っ赤に染まっていた。

出雲はカレーというものをほぼ食べたことがなかったので、こういうものなのだろうと思い食べてしまった。出雲は一口で全身から汗が吹き出し、身体が震え、一気に天地がひっくり返ってしまった。

「うぅ……なんかいきなり世界がひっくり返ったような……」

出雲は美桜からもらった水をコップ一杯全部飲み干して起き上がった。

「大丈夫? いきなり倒れたから心配したよ!」

美桜が出雲に抱き着くと、雫がごめんなさいと頭を下げて謝った。出雲は何で謝ってるんだろうと思うと、使用人の女性が出雲様が食されたのは雫様の激辛カレーですと教えてくれた。

「そ、そうだったんですね……雫さんは激辛好きなんですね……」

出雲はそう言いながらまだ辛さが口の中と喉に残っているので、美桜から水を大量にもらって飲み始める。雫は尚も頭を下げて謝っていると、その綺麗な艶のある髪が出雲の顔に触れた。出雲は良い匂いがすると思い、その頬に触れた髪から優しい感じがした。

「そんなに謝らなくて大丈夫ですよ。 雫さんの意外な一面が見れてよかったです」

出雲のその言葉を聞いて、雫は頬を膨らませて元気になってよかったですと言って自分の席に座った。

「さて、晩御飯を再開しましょう。 使用人の人たちも一緒に食べましょう!」

美桜がそう言うと、皆晩御飯を持ってきて席に座った。出雲はちゃんと自分用に作ってくれたカレーを一口食べると、凄い美味しいと言った。それを聞いた雫は笑顔になってありがとうございますと言う。

「それに、こんなに大勢でご飯を食べるのって久しぶりでこんなに美味しいんだね」

出雲がそう言いながら食べ続けると、使用人を含めた全員が泣きそうな顔をし始めた。

「な、なんで泣きそうになってるんですか! 今は美桜と出会えてここにいさせてもらって幸せですよ!」

出雲がそう言うと、美桜と雫が幸せでよかったと泣いていた。出雲は泣かないでと言って机の上にあったティッシュボックスを二人に渡した。

「ありがとう出雲。 優しいね」

美桜がそう言い、雫もありがとうと言った。出雲は食べようと言って場を和ませる。そして、全員が談笑をしながら夕食を食べていると、出雲に美桜が質問をした。

「出雲は魔法を自在に扱えるようになったらどうしたい?」

突然の質問に出雲は戸惑うも、出雲は笑顔で口を開く。

「決まってるよ。 俺と同じ境遇の人を救ったり、困っている人を救う!」

その言葉を聞いて、美桜はほっとしたような顔をして優しいよやっぱりと言う。

「そして、美桜を守り続けるよ」

出雲のその言葉を聞いてありがとうと顔を伏せて言う。その美桜の頬は何やらほんのり紅く染まっているようだが、出雲からは見えなかった。
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