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第2章 運命は巡る

第14話 迫りくる敵

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 出雲が思いに耽っていると、レナは出雲の顔をしたから覗き込んだ。

「何か考えているの? お茶のこと?」

 突然下から覗き込まれた出雲はレナの顔を見て驚くも、村のことを考えていたと素直に答えた。

「みんな良い人達ばかりに見えるからさ、どうしてこんな場所に隠れ住んでいるんだろうって思ってね」
「それはね……魔人族が疎まれているからだよ。魔族でも人族でもない魔人族……どっちの種族にも混ざれないから、こうやって隠れ住んで自給自足で静かに暮らしているの」
「そうだったんだね。俺は初めて君達を見た時、魔族と勘違いをして敵意を向けちゃったけど、こうして話すと俺達と何も変わらない人達なんだなと実感をするよ」

 その言葉の最後に、出雲はごめんとレナに頭を下げて謝る。突然謝られたレナは戸惑ってしまっていた。

「きゅ、急に謝る必要はないよ! そう思ってくれるだけでも嬉しいからね!」
「ありがとう! この村に来たのは運命だったのかもね」

 運命という言葉を聞いたレナは、運命の悪戯かもねと明るい笑顔を浮かべていた。

「悪戯か……良い悪戯なら歓迎をするよ」

 レナと話していると、突然出雲の前に抹茶ケーキが置かれた。
 置かれた抹茶ケーキに驚いていると、マスターが魔人族を理解してくれると信じてと笑顔で出雲に話しかける。

「これから魔人族のことを知ってくれ。そして、君が懸け橋になってくれるとありがたい」
「マスター……わかりました! 俺が魔人族の良さを配達するよ!」

 出雲とマスターの会話を聞いていたレナは、配達ってと頭にハテナマークを浮かべて呟いていた。

「あぁ、そっか。俺のしていたことを教えてなかったね。俺は配達人っていう手紙から武器まで幅広いモノを届ける仕事をしていたんだよ」
「凄いじゃない! モノを届ける仕事って凄いわ! 縁の下から支えているのね!」

 縁の下から支えていると言われた出雲は、初めて言われたなと小さく微笑んでいた。

「あ、笑ってる! 嬉しかったんだ! そうなんでしょ!」
「そんなんじゃないよ! ただ、初めてそんなことを言われたから驚いただけだよ」

 そう出雲が返答をした瞬間、魔物襲来と誰かが叫んでいる声が聞こえた。
 出雲が何が起きたのとレナに話しかけると、時折魔物が襲ってくるのよとため息をついて落胆をしているようである。

「こんな時に魔物が来るなんて! 最悪!」
「行くのかい?」

マスターがレナに話しかける。

「行くわ! この村で戦える人は少ないから、私やノア達がやらないとダメだから!」
「ノア達って、診療所にいた人か」
「そうよ。レオとノアはこの村にある護衛部隊に入っているの。護衛部隊は、この村と村人に襲い掛かるありとあらゆる脅威から守る仕事をしているわ」

 だから俺が診療所で治療を受けている時に2人がいたのかと出雲が呟くと、レナが待っててと言いながら大急ぎで店を後にした。

「レナも戦うの!? ちょっと!」

 出雲が叫んだその声は、店を既に出て行っているレナには届かなかった。

「あの子が1番この村のために戦っているんだよ。護衛部隊には所属をしていないが、村長の娘という理由だけで傷を負うことも恐れずに戦っているんだ」
「そうだったんだ……俺も何かしたいけど、何が出来るんだ……」

 カウンターの席で俯いて悩んでいる出雲に、マスターが行かないんですかと優しい口調で声をかけた。

「俺が行っても何も出来ないよ……」
「あなたは配達人なのでしょう? なら勝利も届ける仕事の1つでしょう」

 勝利も届ける仕事と聞いた出雲は、確かに俺はどんなモノでも届ける配達人だとマスターに言った。

「なら行きなさい。戦闘場所は北門でしょう。お代はあとでレナさんに請求しておきますね」
「ありがとうございます!」

 出雲はマスターにお礼を言うと、急いで店を後にした。
 外に出ると魔人族の人達が慌てている姿が見える。喫茶店に来る時に見た人の多さよりも多く、これほどの人数がこの村にいたのかと驚いていた。

「レナは! レナはどこですか!」

 自身にぶつかりながら避難をする魔人族の人達に話しかけるも、誰一人その声に応じる人はいなかった。

「お前が来たから魔物が攻めてきたんだ! 今まであんな量の魔物は攻めて来なかったぞ!」
「だから人族なんて救うなと言ったんだ!」

 様々な憎悪の声が出雲に投げつけられる中、1人の男性が話しかけてきた。

「お前はレナ様のもとに行くのか?」
「あなたは……?」

 出雲に話しかけてきたのは、体中に切り傷が目立つ筋骨隆々の40代に見える短髪で白髪交じりの男性であった。

「俺はレナ様の武器を作っている鍛冶屋さ。こいつをレナ様とあの兄弟に届けてくれないか? 多数の魔物が攻めて来ているから持っている武器じゃ対応しきれないと思うからよ」
「わかりました!」

 出雲は鍛冶屋の男性から2本の剣と1本の刀を受け取った。
 その武器を持ち出雲が駆け出すと、男性があいつは武器を持たなくていいのかと小さく呟いていた。

「北門はどっちだ!? 場所も聞いておけばよかった!」

 迷いながら村中を駆け巡ると、巨大な広場に出た。中央に設置してある大きな噴水が目立ち、多数の商店が構えてあるのが見える。
 その広場にて、自身を治療してくれた医師と看護師達が怪我人の手当てをしている姿が見える。

「先生! 北門ってわかりますか!?」

 治療中の医師に話しかけた出雲は、邪魔だと言っている目を向けられた。しかしなおも北門はどこですかと聞くと、医師があっちだと広場にある商店の間にある道を指差した。

「ありがとうございます! レナに武器を届けてきます!」
「相変わらず戦っているんですね……」

 悲しい顔をしつつも、医師は治療を続けていた。出雲は教えてもらった道を進んでいくと、鉄の扉が視線の先に見えてくる。
 その扉の中心部には北門と書かれており、この先でレナ達が戦っているのだと出雲は荒れた息を整えながら呟く。

「この先でレナ達が……魔物が多数攻めて来ていると聞いたけど、無事なのか?」

 レナ達が無事か心配をするも、考えても仕方がないと門の先に進む。門の先は草木が生い茂る森に繋がっており、魔物の姿は見えなかった。
 周囲を見渡した出雲はどこで戦っているんだと森の中を進んでいくと、開けた場所に出た。そこは草原であり、綺麗な青空が見える空気が綺麗だと感じる場所であった。

「草原が近くにあったんだ。後ろはまさしく森って感じだ」

 前を向いて草原を歩くと、遠くから爆発音が聞こえた。
 途端に目を見開いた出雲は持っている武器を改めて力強く持つと、爆発音があった場所に駆け出した。

「結構遠いな! どれだけ爆発音が大きいんだ!」

 息を荒くして草原を走っていると、前方から誰かが吹き飛んできた。
 出雲は辛うじて横に避けることに成功をすると、近くに落下したのは魔人族の若い男性であると見て理解をすることが出来た。

「だ、大丈夫ですか!? 腹部から血が出てます!」

 出雲が話しかけた若い魔人族の男性は、レナ様を助けてと消え入りそうな声で言うと事切れてしまった。

「くそ! なんで!」

 どうしてこんな簡単に人は死んでしまうのかと、出雲は地面を何度も叩いていた。だが、死ぬ間際に若い魔人族の男性に言われたレナ様を助けてくれという言葉を果たそうと、草原の奥を見据えて駆け出した。

「怒号や魔法の爆発音が近くなってきた! もう少しで到着だ!」

 全力で走り続けると、草原の奥地で戦っているレナの姿が出雲の目に入る。
 レナは先ほどまで着ていた服装とは違い、大和国に古来より伝わっている和装を着ていた。しかし普通の和装とは違い戦闘用にカスタマイズされているようで、動きやすい青色と白色の色合いが綺麗な和装となっているようだ。

「レナ! 武器を持って来たよ! 2人の男はどこ!?」

 鋭い爪を持ち、両腕が硬い鱗で覆われている身の丈を5メートル持つウクムと呼ばれている熊の魔物である。そのウクムが20体に魔狼の1種類である黒い鋭い体毛を持つブラックウルフが30体、村を襲撃しようとしていた。

「こいつらはどうして村を襲うんだ!?」
「知らないのも無理はないわね。私達の村の側には魔族の支配下である竜族がいるのよ。竜族って聞いたことない?」
「竜族? 聞いたことはないけど、東山岳町を守る戦いの時に1人いた気がするな」

 レナは出雲が1人と言うと、小さな声で竜族も人として扱うのねと呟く。
 だがその言葉は出雲には聞こえておらず、何か言ったのとレナに聞き返した。

「何でもないわ。あそこを見て」

 レナが言う場所を見ると、そこにはレオとノアと多数の護衛部隊の若い男性達が複数体のウクムやブラックウルフと戦っている姿が見えた。
 さらに魔法を用いて村に迫るのを阻止したり、真向から戦いを挑んで切り伏せたりしている姿も見える。
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